私はいっぱいになった壺の中身をインキュバスに渡すために彼を呼び出したのよ。そうしたらインキュバスは悪魔の格好のまま現れたのよ。
「あら、そんな格好でここまで来たの?」
「別に構わないだろう。人目に触れる訳じゃ無いし」
「でも、私だって人間界に居る時や来る時は人間の格好をしてるのに、そんなデビルマンのなり損ないみたいな格好じゃ時期外れのコスプレイヤーだと思われるわよ」
「デビルマンは裏切り者だ。あんな奴と一緒にされては困る」
「じゃ次からは人の格好で来てね。ちゃんと服も着るのよ」
「判ったよ。でも今回はいっぱいになるのが早かったな。驚いたよ」
「でしょう。やっぱり健太くんは『黄金のふぐり』の持ち主だったみたいよ。だって三回でこの量で、しかもまだまだ出来たぽかったのよ」
「え、一日三回でこの量なのか?」
「そうよ。凄いでしょう」
「確かに……これはたまげたなぁ」
 私は嬉しくて、今から考えると余計な事を言ってしまったかも知れなかった。
「健太くんったら恋人になって下さい。って言うのよ」
「ほうそれで?」
「勿論本当の事は言えないから、『いいわ』って承諾したわ」
「俺らの恋人とは奴隷になる事なんだがな」
「そんな事言えないじゃない。でも約束はしたのよ」
「約束だけか? 血の契約は?」
「それはこれからだけど。もう決まったも同然よ」
「そうか『黄金のふぐり』はサキュバス麗華のものか」
 サキュバス麗華とは私の日本名ね。本名は日本語では発音出来ないので、通称として名乗ってるの。ちなみにこのインキュバスは、インキュバス聖(とおる)と言うのよ。おかしいでしょう。だって悪魔なのに聖なんてねえ。それと悪魔界ではインキュバスとサキュバスの合計が100とすると、サキュバスの方が数が多いのよ。六割がサキュバスで三割がインキュバスなの。残りの一割がその場でどちらにも成れるハイブリットなの。まあ彼らは上級なんだけどね。
「健太くんが『黄金のふぐり』だと言う事は絶対に秘密なんだからね」
「判ったよ。言わないよ。他のサキュバスに知られたく無いんだろう?」
「当たり前じゃない。苦労してやっと見つけたのよ」
 そうなの。健太くんは前から目をつけていたのよ。高校を卒業するまで待って、調査を開始したんだから。あんまり若い子だと最近は悪魔界の法にも触れるからね。容姿、才能、体躯も含めて彼の因子を世間に広めたいと思ったのよ。その健太くんがまさか「黄金のふぐり」の持ち主だったなんで、まるで宝くじに当選したようなものなのよ。だから健太くんは誰にも渡さないわ。健太くんは、私、サキュバス麗華のものよ。すぐにでも血の契約をしなくちゃ。
 「血の契約」とはお互いの血を交わすか、お互いの血を舐める。あるいはどちらかの血を舐める事で成立するのよ、私が考えているのは、私が健太くんの台所で料理を造って少し血を出して、それを健太くんの舐めて貰うことなの。そうすれは、それで契約完了で永遠に健太くんはわたしのモノなのよ。逆に健太くんが指でも切って血を出して私が舐めても成立するけどね。健太くんが喜ぶような、うんとエッチな格好をして誘うわ。楽しみだわ。そしてまた沢山エッチするのよ。そうすれば成績でも私がトップになることが出来る。出世の道が開かれるというものよ。楽しみだわ。
「じゃあ、頑張れよ」
 そう言ってインキュバスは悪魔界へと帰って行ったわ。私は健太くんと「血の契約」を結ぶ時、彼の台所で作る料理の材料を買う為に、近所のショッピングモールに行く事にしたの。
 ここは駅の反対側にあり健太くんの通う大学の傍なのね。ここで健太くんと出会ったら彼は何と言うかしら。
『佐久さん。どうしたんですか? 買い物ですか。じゃ僕とお茶しませんか?』
 なんて言ってくれるかしら? 勿論喜んで一緒にお茶するわ
 そんな期待も込めて少しオシャレして買い物に出かけたの。
 モールの中の大きなスーパーで買い物をして、他のお店を歩いていた時だった。健太くんの声が耳に届いたの。その方角を見ると何と健太くんが同じ大学の女学生と一緒に歩いていたのよ。私は思わず柱の陰に隠れたのよ。よく考えると堂々としていれば良かったのだけど、その一緒に歩いていた奴が問題だったのよ。
 だって一緒に歩いていた奴はサキュバス美玲と言って、女子大生に化けて若い大学生を次々と喰い物にしてるサキュバスなのよ。二人は只一緒に歩いているだけだったけど、健太くんに目を付けたのに違いないわ。まさか、インキュバスの奴、悪魔界に戻って私が秘密だと言った事を漏らしたのね。違いないわ。良く言うけど「他の奴には秘密だからな」とか「お前だけに言うけどな」とか言って言い触らしたのに違い無いんだから。
 知られて目を付けられたなら仕方ないわ。こうなったら美玲には渡さないんだから。私は偶然を装って二人の前に現れたのよ
「あら健太くん。お買い物?」
 私に声を掛けられた健太くんは驚きながらも喜んで
「ああ、佐久さん。こっちまで買い物に来るんですね」
「まあたまにはね。健太くんに美味しいものでも作ろうかと思ってね。そちらはお友達?」
「ああ、友達というより同じゼミの人です」
「山縣さんと同じゼミの美玲アンダーソンです」
 確かに美玲はハーフぽい感じだからこんな名前を名乗るのも判るわ
「こちらは僕の部屋の隣の人で佐久さんです」
 健太くんはそう紹介してくれたけど、正直言うとこの時「恋人」と言って欲しかったわ。でも美玲は判っていて、微笑みながらも私を睨んでいたわ。私も睨み返す。美玲の視線は
「絶対健太くんをあなたから奪ってあげるから」
 と語っていたわ。私も負けじと
「絶対アンタなんかに渡さないんだから、もう健太くんと私は特別な関係なんだからね」
 と言い返したのよ。こうして健太くんを巡っての争奪戦が始まったのよ。みんな、私を応援してね。してくれた子にはわたしが夢で行ってあげるからね。