私は健太くんと美玲の邪魔をしただけ、だと考えていたのだけど、私が思ってもいなかった展開になったの。その日も、私は健太くんと愛し合っていたの。健太くんは騎乗位が好きなのね。だからその日も、私が健太くんの上になっていたの。健太くんは下から私の乳房を揉みあげるのよ。これが好きなんだって。私と健太くんは契約者同士だからお互いが何を求めているのかが判るのよ。だから健太くんが私の事をバックでしたいと思ったらすぐに体位を変えるの。本当はインキュバスは実際の行為をしなくても良いのだけど。どうせなら愛し合いたいでしょ。健太くんのは立派だから、私の奥に当たる感触がたまらなく良いの。夢ならこんな快感は得られないでしょう。私は健太くんと契約して本当に良かったと思っているのよ。
その日も沢山行為をしてから部屋に帰って来てシャワーを浴びて浴室から出て来たら、炬燵にインキュバスが居るのよ。
「あらどうしたの。壺は今日が新しいから未だいっぱいになっていないわよ」
昨日の行為で壺がいっぱいになったから、未だなの。でもインキュバスは
「今日はそれで来たんじゃ無いんだ。お前、悪魔庁では大変な事になってるぞ」
「大変なこと? なあに?」
私は全く思い当たる事が無いので逆に訪ねてみた。するとインキュバスは
「お前、大学の中で美玲の妨害工作をしたろ?」
この前の健太くんの夢の中に忍び込んだ事だ。
「確かに健太くんの夢に忍び込んだけど、別に妨害工作と言われるような事はしていないわ。夢から覚めたのは健太くんの友達が起こしたからだし」
私は事実をそのまま言った。そうしたらインキュバスは
「美玲の言い分は若干違っていたぞ」
「え、そんなこと無いわ。私の言ってる事が正しいわよ。アイツなんて訴えたの?」
私の質問にインキュバスは言葉を選んで
「美玲の言い分は、自分のテニトリー内の大学の構内で、ターゲットの夢に忍び込んで任務を遂行しようとしたら、麗華に妨害された、というものだ。ターゲットは美玲が見つけた者であり、その者が麗華と『血の契約』を結んだ者である事は知らなかったし、例え知っていたとしても自分のテニトリー内の大学内では麗華の契約は無効となるので、妨害されたのは規律違反になる。という事だ」
美玲こそ私の邪魔をしたいだけで、健太くんにちょっかいを出したのに決まってるじゃない。それをインキュバスに言うと彼は
「それを証明しない限り、お前は不利だな。近々に悪魔庁から呼び出しが来るぞ」
インキュバスはそう言って消えて行ったわ。私はそれを信じられない思いで見ていたの。
その夜は寝られなかった。最悪なら、私はサキュバスの資格を奪われ、悪魔界から出られなくなる。そうなったら健太くんとの「血の契約」も無効になってしまうし、逢えなくなる。健太くんと逢えないなんて、私には考えられない事なの。
ここまで考えて、私はいつの間にか健太くんの事を、精子を採取するターゲットから、自分にとって大事な人に変わっていることを自覚したわ。もう健太くんは私の心にすっかり住みついていて、いない生活なんて考えられなかった。
いつの間にか壁をすり抜けて、健太くんの部屋に居たわ。さっきまで愛し合っていたベッドで健太くんが眠っている。大好きな健太くん……健太くんは私の事どう思ってるのかしら。只の性欲のはけ口かしら。それとも少しは想っていてくれているのかしら?
夜が明けるまで私は黙って健太くんの傍に座っていたの。
それからと言うもの私は、少しでも健太くんと一緒に居たかった。それが健太くんにも判ったのか
「どうしたの? ここの所麗華さん少し変だよ。僕としては嬉しいけど。朝まで抱き合ったまま眠るなんてどうしたの?」
「ううん何でもないの。私本当に健太くんの事が好きだから一緒に居たいのよ」
その言葉に嘘は無かった。
「あのね。実は明日実家に帰らなくちゃならなくなったの」
「明日?」
「うん。一泊だから直ぐに帰って来るけど、明日は出来ないんだ。だから寂しいの」
本当は実家では無い。悪魔庁から呼び出しがあったのだ。審査、聞き取りは直ぐに終わると思う、その結果、判決が出ると思うけど、最悪ならそのまま人間界には帰れない。だからせめて行くまでは一緒に居たかったのだ。
「そうか。じゃ僕は大人しく待ってるよ」
健太くんはそう言って私を抱き締めてくれた。
翌日、私は悪魔界に戻ったの。悪魔界にある悪魔庁に赴くと、早速、審理室に通されたわ。ここは人間界で言えば裁判所みたいな所ね。私が部屋に入ると直ぐに審理をする悪魔が登場したわ。驚いたのは裁判長はサタン様だったこと。私ら下っ端悪魔では滅多にお目に掛かれない悪魔界の大ボスなのよ。それと補佐する悪魔が左右に二人。この悪魔も大物なの。何でこんな簡単な事件で、悪魔界の大物が審理をする理由が、私には判らなかった。
「これよりサキュバス美玲の申し立てより、サキュバス麗華の審理を始める。被告、名前を述べよ」
副官の言葉で審理が始まったわ。
「サキュバス麗華です」
「その者はサキュバス美玲の任務を妨害したと告発されているが、身に覚えはあるか?」
「いいえ、ありません。山縣さんは私と『血の契約』をした者です。他のサキュバスからの行為を未然に防いだだけです」
「では訴訟者ここへ」
その声で美玲が現れた。
「名前を」
「サキュバス美玲です」
「その者は被告に行為を妨害されたと訴えておるが、被告は否認しているが、どうか?」
「間違いありません。行為を行おうとした場所は私のテニトリーです。被告のテニトリーではありません。私のテニトリーの中であれば、いかなる場合でも、私の
行為が優先されるはずです」
全く美玲の奴、頭に来るわ
「私は妨害工作そのものをした覚えはありません。只、夢の中に登場しただけです」
私は事実を訴えた。そうしたら美玲は
「彼女は山縣なる人物と『血の契約』をしています。だから私は彼女のテニトリーには入らず、私のテニトリーに入るのを待っていたのです。ターゲットの山縣にしてみれば親しい者が夢に現れるだけで、私との行為よりも麗華との事が優先されると考えるのが筋です」
美玲はよどみ無く自分の考えを述べた。私はそれについて
「そこまで考える事は、その時は思いませんでした。普通はそこまで考えることはしないと思います」
そう反論するだけで精一杯だった。
そして調べが結審して判決が言い渡された。サタン様が副官から手渡された文言を読み上げる
「判決を言い渡す。サキュバス麗華、サキュバスとしての資格を一年間停止する。その間、悪魔界に出入りを禁ずる。人間界で人と同じようにして過ごすこと。これが悪魔にとって如何に辛いか判るだろう。人間と同じように働いて糧を得よ。その間の被告のテニトリーは悪魔庁が管理するものとする。復帰後被告に返却されるものとする」
判決は思っていたより重かった。サキュバスでは無い私なんて本当に人間と同じじゃない。しかも悪魔界には入れないなんて……。
でもテニトリーが保護されるのは幸いだったわ。一年を人間として過ごせば元に戻れると言う事ね。
「以上で結審する」
そう言って裁判官の三人は退場した。美玲がせせら笑っていたわ。きっと明日からでも大学で健太くんにちょっかいを出すに決まってるわ。
でも、私は健太くんとの接触は自由なのだから、サキュバスとしての仕事をしないだけで、今までと変わらないと思った。まあ、サキュバスに誇りがあるならショックだろうけどね。
翌日、私は人間界に戻って来た。これから一年間は悪魔界には帰れない。何か仕事を見つけないとならないわね。健太くんは大学から帰って来ていないみたいだった。部屋の明かりが消えていた。私は自分の部屋のドアの鍵を開けようとしたら鍵が開いていた。おかしい、確かに鍵を掛けて行ったはずだった。
そっとドアを開けてみると、部屋の中には炬燵に入って健太くんが寝ていた。
「健太クン……ただいま」
私の声で健太くんが目を覚ました。
「ああおかえりなさい。何時帰るかと思って部屋に入って待っていたんだ」
「鍵は?」
「嫌だなぁ。この前渡してくれたでしょう」
そうか、そうだった。悪魔界に行く前に渡していたのだった。
早速抱き合ってキスをする。やはり健太くんとのキスは最高だと思う。私は健太くんに正直に全てを言おうと決めていた。それで嫌われるなら仕方ないと思った。と言うより普通はサキュバスを好きになる人間なんていない。覚悟を決めたのだった。
「あのね。私、健太くんに隠してることがあるんだ」
「隠してること?」
「うん」
「私ね、人間じゃ無いの」
「サキュバスでしょう。知っていたよ」
健太くんは、あっさりと笑顔で言ったのだ。
「知っていたの! 何で知っていたの。誰かから聞いたの?」
私の疑問に健太くんは
「嫌だなぁ。僕の専攻知らない?」
「ええと確か文学部でしょう」
「そう文学部史学科。歴史を勉強してるんだ。それも専攻は中世西洋史」
「え、じゃあ……」
「サキュバスとかインキュバスとかは専門なんだ」
私はこの時ほど躰の力が抜けるのを経験した事がなかった。
「悪魔だって知っていたのね。じゃあ『血の契約』も……」
「知っていたよ。喜んで契約したんだ」
どうしてだろう。普通の人間は悪魔とは契約したがらない。
「僕は麗華さんに感謝してるんだ」
「感謝?」
「うん知っての通り、僕は大きなふぐりの持ち主なんだ。だから精子がすぐに貯まってしまう。精子が溜まると男はそれを出したくなる。これは生理として当たり前だよね」
「うん。」だからそこにサキュバスが付け入るスキがあるんだけど」
「僕は今まで結構な数の女性と付き合って来たんだけど。性欲が強すぎて結局長続きしなかったんだ。最初は良くても、そのうちに『しつこい』とか『変態』とか言われて駄目になったんだ。だからこの世で僕の相手になる女性なんて現れないと思っていたんだ。そうしたら、僕の理想の女性が僕の隣の部屋に引っ越して来たんだ。僕は嬉しくなった」
「でも何時私がサキュバスだと判ったの?」
「最初に僕の夢に現れたでしょう。温泉で僕がのぼせてしまって駄目になってしまったけど」
「ああ、あの時」
「あの時に、麗華さんがサキュバスじゃないかと思ったんだ。それ以来何度も僕の相手をしてくれて確信したんだ。普通の女性なら考えられない位の回数をしたからね。それに麗華さんにはアレも無かったし」
「アレって?」
「生理。もう一月以上にになるのに駄目な日が無いからね。ピルを飲んでる訳でもないのにね」
「そうだったんだ」
「うん。麗華さんこそ僕の理想なんだ。昼は淑女のように夜は娼婦のようにって最高だと思う」
そう言って健太くんは喜んでくれている。
「でもね。この前大学で美玲の邪魔をしたから罰を受けたの」
「美玲さんの邪魔って……ああ、大学での居眠りの時の事。彼女もサキュバスだったんだ。どうりでね」
「どうりでって?」
「やたら親切だったからね。これからは気をつけよう。僕は麗華さんが一番だし。今から考えると僕が射精したのは、そのまま麗華さんの体内じゃなくて何かの精子を貯めるものに移動していたんだね。だから幾らしても麗華さんの中が綺麗だったんだ」
「そういうことなの。でもこれから資格停止の間は普通の状態になるのよ」
「なら、なおさら良いじゃない。僕は麗華さん以外の女性は抱きたく無いしね」
健太くんはそう言って私の胸を揉んで来た。そして濃厚なキスを交わす
「健太くん。だ・い・す・き!」
「僕もだよ。一生放さないよ!」
その夜、私たちは何回も交わった。正常位でバックで騎乗位で、そして座位で。その度に絶頂を味わったの。いいでしょう!
それから一年後。私はサキュバスに復帰しなかった。そのまま人間として生きる事を決めた。悪魔と人間では寿命が全く違うが、私にとって健太くんが居なくなった世界なんて生きていても仕方ない。価値の無いものだ。
健太くんが大学を卒業して私たちは結婚した。人間として生きる事を選択した時に戸籍も作って貰った。山縣の籍に入れて貰い山縣麗華というのが私の名前になったのだ。
そして二人の娘を産んだ。私と健太くんの両方に似て器量よしな娘だった。成長すると、きっと素敵な悪魔になると思うの。今から楽しみだわ。
他の夫婦とひとつ違うのは、私の外観が若い頃と殆ど変わらないことだった。そこだけは悪魔の血なのかも知れない。
となりのキュバスちゃん <了>
その日も沢山行為をしてから部屋に帰って来てシャワーを浴びて浴室から出て来たら、炬燵にインキュバスが居るのよ。
「あらどうしたの。壺は今日が新しいから未だいっぱいになっていないわよ」
昨日の行為で壺がいっぱいになったから、未だなの。でもインキュバスは
「今日はそれで来たんじゃ無いんだ。お前、悪魔庁では大変な事になってるぞ」
「大変なこと? なあに?」
私は全く思い当たる事が無いので逆に訪ねてみた。するとインキュバスは
「お前、大学の中で美玲の妨害工作をしたろ?」
この前の健太くんの夢の中に忍び込んだ事だ。
「確かに健太くんの夢に忍び込んだけど、別に妨害工作と言われるような事はしていないわ。夢から覚めたのは健太くんの友達が起こしたからだし」
私は事実をそのまま言った。そうしたらインキュバスは
「美玲の言い分は若干違っていたぞ」
「え、そんなこと無いわ。私の言ってる事が正しいわよ。アイツなんて訴えたの?」
私の質問にインキュバスは言葉を選んで
「美玲の言い分は、自分のテニトリー内の大学の構内で、ターゲットの夢に忍び込んで任務を遂行しようとしたら、麗華に妨害された、というものだ。ターゲットは美玲が見つけた者であり、その者が麗華と『血の契約』を結んだ者である事は知らなかったし、例え知っていたとしても自分のテニトリー内の大学内では麗華の契約は無効となるので、妨害されたのは規律違反になる。という事だ」
美玲こそ私の邪魔をしたいだけで、健太くんにちょっかいを出したのに決まってるじゃない。それをインキュバスに言うと彼は
「それを証明しない限り、お前は不利だな。近々に悪魔庁から呼び出しが来るぞ」
インキュバスはそう言って消えて行ったわ。私はそれを信じられない思いで見ていたの。
その夜は寝られなかった。最悪なら、私はサキュバスの資格を奪われ、悪魔界から出られなくなる。そうなったら健太くんとの「血の契約」も無効になってしまうし、逢えなくなる。健太くんと逢えないなんて、私には考えられない事なの。
ここまで考えて、私はいつの間にか健太くんの事を、精子を採取するターゲットから、自分にとって大事な人に変わっていることを自覚したわ。もう健太くんは私の心にすっかり住みついていて、いない生活なんて考えられなかった。
いつの間にか壁をすり抜けて、健太くんの部屋に居たわ。さっきまで愛し合っていたベッドで健太くんが眠っている。大好きな健太くん……健太くんは私の事どう思ってるのかしら。只の性欲のはけ口かしら。それとも少しは想っていてくれているのかしら?
夜が明けるまで私は黙って健太くんの傍に座っていたの。
それからと言うもの私は、少しでも健太くんと一緒に居たかった。それが健太くんにも判ったのか
「どうしたの? ここの所麗華さん少し変だよ。僕としては嬉しいけど。朝まで抱き合ったまま眠るなんてどうしたの?」
「ううん何でもないの。私本当に健太くんの事が好きだから一緒に居たいのよ」
その言葉に嘘は無かった。
「あのね。実は明日実家に帰らなくちゃならなくなったの」
「明日?」
「うん。一泊だから直ぐに帰って来るけど、明日は出来ないんだ。だから寂しいの」
本当は実家では無い。悪魔庁から呼び出しがあったのだ。審査、聞き取りは直ぐに終わると思う、その結果、判決が出ると思うけど、最悪ならそのまま人間界には帰れない。だからせめて行くまでは一緒に居たかったのだ。
「そうか。じゃ僕は大人しく待ってるよ」
健太くんはそう言って私を抱き締めてくれた。
翌日、私は悪魔界に戻ったの。悪魔界にある悪魔庁に赴くと、早速、審理室に通されたわ。ここは人間界で言えば裁判所みたいな所ね。私が部屋に入ると直ぐに審理をする悪魔が登場したわ。驚いたのは裁判長はサタン様だったこと。私ら下っ端悪魔では滅多にお目に掛かれない悪魔界の大ボスなのよ。それと補佐する悪魔が左右に二人。この悪魔も大物なの。何でこんな簡単な事件で、悪魔界の大物が審理をする理由が、私には判らなかった。
「これよりサキュバス美玲の申し立てより、サキュバス麗華の審理を始める。被告、名前を述べよ」
副官の言葉で審理が始まったわ。
「サキュバス麗華です」
「その者はサキュバス美玲の任務を妨害したと告発されているが、身に覚えはあるか?」
「いいえ、ありません。山縣さんは私と『血の契約』をした者です。他のサキュバスからの行為を未然に防いだだけです」
「では訴訟者ここへ」
その声で美玲が現れた。
「名前を」
「サキュバス美玲です」
「その者は被告に行為を妨害されたと訴えておるが、被告は否認しているが、どうか?」
「間違いありません。行為を行おうとした場所は私のテニトリーです。被告のテニトリーではありません。私のテニトリーの中であれば、いかなる場合でも、私の
行為が優先されるはずです」
全く美玲の奴、頭に来るわ
「私は妨害工作そのものをした覚えはありません。只、夢の中に登場しただけです」
私は事実を訴えた。そうしたら美玲は
「彼女は山縣なる人物と『血の契約』をしています。だから私は彼女のテニトリーには入らず、私のテニトリーに入るのを待っていたのです。ターゲットの山縣にしてみれば親しい者が夢に現れるだけで、私との行為よりも麗華との事が優先されると考えるのが筋です」
美玲はよどみ無く自分の考えを述べた。私はそれについて
「そこまで考える事は、その時は思いませんでした。普通はそこまで考えることはしないと思います」
そう反論するだけで精一杯だった。
そして調べが結審して判決が言い渡された。サタン様が副官から手渡された文言を読み上げる
「判決を言い渡す。サキュバス麗華、サキュバスとしての資格を一年間停止する。その間、悪魔界に出入りを禁ずる。人間界で人と同じようにして過ごすこと。これが悪魔にとって如何に辛いか判るだろう。人間と同じように働いて糧を得よ。その間の被告のテニトリーは悪魔庁が管理するものとする。復帰後被告に返却されるものとする」
判決は思っていたより重かった。サキュバスでは無い私なんて本当に人間と同じじゃない。しかも悪魔界には入れないなんて……。
でもテニトリーが保護されるのは幸いだったわ。一年を人間として過ごせば元に戻れると言う事ね。
「以上で結審する」
そう言って裁判官の三人は退場した。美玲がせせら笑っていたわ。きっと明日からでも大学で健太くんにちょっかいを出すに決まってるわ。
でも、私は健太くんとの接触は自由なのだから、サキュバスとしての仕事をしないだけで、今までと変わらないと思った。まあ、サキュバスに誇りがあるならショックだろうけどね。
翌日、私は人間界に戻って来た。これから一年間は悪魔界には帰れない。何か仕事を見つけないとならないわね。健太くんは大学から帰って来ていないみたいだった。部屋の明かりが消えていた。私は自分の部屋のドアの鍵を開けようとしたら鍵が開いていた。おかしい、確かに鍵を掛けて行ったはずだった。
そっとドアを開けてみると、部屋の中には炬燵に入って健太くんが寝ていた。
「健太クン……ただいま」
私の声で健太くんが目を覚ました。
「ああおかえりなさい。何時帰るかと思って部屋に入って待っていたんだ」
「鍵は?」
「嫌だなぁ。この前渡してくれたでしょう」
そうか、そうだった。悪魔界に行く前に渡していたのだった。
早速抱き合ってキスをする。やはり健太くんとのキスは最高だと思う。私は健太くんに正直に全てを言おうと決めていた。それで嫌われるなら仕方ないと思った。と言うより普通はサキュバスを好きになる人間なんていない。覚悟を決めたのだった。
「あのね。私、健太くんに隠してることがあるんだ」
「隠してること?」
「うん」
「私ね、人間じゃ無いの」
「サキュバスでしょう。知っていたよ」
健太くんは、あっさりと笑顔で言ったのだ。
「知っていたの! 何で知っていたの。誰かから聞いたの?」
私の疑問に健太くんは
「嫌だなぁ。僕の専攻知らない?」
「ええと確か文学部でしょう」
「そう文学部史学科。歴史を勉強してるんだ。それも専攻は中世西洋史」
「え、じゃあ……」
「サキュバスとかインキュバスとかは専門なんだ」
私はこの時ほど躰の力が抜けるのを経験した事がなかった。
「悪魔だって知っていたのね。じゃあ『血の契約』も……」
「知っていたよ。喜んで契約したんだ」
どうしてだろう。普通の人間は悪魔とは契約したがらない。
「僕は麗華さんに感謝してるんだ」
「感謝?」
「うん知っての通り、僕は大きなふぐりの持ち主なんだ。だから精子がすぐに貯まってしまう。精子が溜まると男はそれを出したくなる。これは生理として当たり前だよね」
「うん。」だからそこにサキュバスが付け入るスキがあるんだけど」
「僕は今まで結構な数の女性と付き合って来たんだけど。性欲が強すぎて結局長続きしなかったんだ。最初は良くても、そのうちに『しつこい』とか『変態』とか言われて駄目になったんだ。だからこの世で僕の相手になる女性なんて現れないと思っていたんだ。そうしたら、僕の理想の女性が僕の隣の部屋に引っ越して来たんだ。僕は嬉しくなった」
「でも何時私がサキュバスだと判ったの?」
「最初に僕の夢に現れたでしょう。温泉で僕がのぼせてしまって駄目になってしまったけど」
「ああ、あの時」
「あの時に、麗華さんがサキュバスじゃないかと思ったんだ。それ以来何度も僕の相手をしてくれて確信したんだ。普通の女性なら考えられない位の回数をしたからね。それに麗華さんにはアレも無かったし」
「アレって?」
「生理。もう一月以上にになるのに駄目な日が無いからね。ピルを飲んでる訳でもないのにね」
「そうだったんだ」
「うん。麗華さんこそ僕の理想なんだ。昼は淑女のように夜は娼婦のようにって最高だと思う」
そう言って健太くんは喜んでくれている。
「でもね。この前大学で美玲の邪魔をしたから罰を受けたの」
「美玲さんの邪魔って……ああ、大学での居眠りの時の事。彼女もサキュバスだったんだ。どうりでね」
「どうりでって?」
「やたら親切だったからね。これからは気をつけよう。僕は麗華さんが一番だし。今から考えると僕が射精したのは、そのまま麗華さんの体内じゃなくて何かの精子を貯めるものに移動していたんだね。だから幾らしても麗華さんの中が綺麗だったんだ」
「そういうことなの。でもこれから資格停止の間は普通の状態になるのよ」
「なら、なおさら良いじゃない。僕は麗華さん以外の女性は抱きたく無いしね」
健太くんはそう言って私の胸を揉んで来た。そして濃厚なキスを交わす
「健太くん。だ・い・す・き!」
「僕もだよ。一生放さないよ!」
その夜、私たちは何回も交わった。正常位でバックで騎乗位で、そして座位で。その度に絶頂を味わったの。いいでしょう!
それから一年後。私はサキュバスに復帰しなかった。そのまま人間として生きる事を決めた。悪魔と人間では寿命が全く違うが、私にとって健太くんが居なくなった世界なんて生きていても仕方ない。価値の無いものだ。
健太くんが大学を卒業して私たちは結婚した。人間として生きる事を選択した時に戸籍も作って貰った。山縣の籍に入れて貰い山縣麗華というのが私の名前になったのだ。
そして二人の娘を産んだ。私と健太くんの両方に似て器量よしな娘だった。成長すると、きっと素敵な悪魔になると思うの。今から楽しみだわ。
他の夫婦とひとつ違うのは、私の外観が若い頃と殆ど変わらないことだった。そこだけは悪魔の血なのかも知れない。
となりのキュバスちゃん <了>