露子と新太郎 第23話 最終話
今夜も鈴虫の音が聴こえる。夏も、もう終わりだ。蒸し暑い表とは違い家の中はクーラーが効いていて過ごしやすくなっている。冷えすぎは良くないが、このぐらいなら良いだろうと思う。
そんな部屋に「りりりり」「りりりり」と鈴虫のような音が鳴り響いている。すると仏壇の中から白い煙のようなものが出て来て、段々人の形になって行く。そして、それは露ちゃんの姿となった。
露ちゃんは今夜も自分の娘を抱きに降りて来たのだ。毎晩とは言わないが、このところ回数が多くなってきた。
わたしも美香も慣れっこになってしまったが、これは凄い事なんだと段々判って来たのだ。
だって露ちゃんの魂は四十九日も過ぎたのであの世に昇天しているはずなのだ。そのあの世の世界から一々やって来るのは大変だと思うのだが、実際の所は良く 判らない。具現化した露ちゃんは基本的に話さないし、消える時にわたしや美香の心に「宜しくお願いします」と伝えて消えてしまうのだ。だから実際は判って いない。
そんなことが起きてる時期に美香が
「ねえ、麗子さん。今のままだと何か不安定な感じがして露子も安心出来ないんじゃないかな……例えばなんだけど、誰かが正式な知世ちゃんのお母さんになってあげるとかしないと安心出来ないんじゃないかな」
高校生とは思えない大人の考えだと思う。更に
「わたしはもうすぐ結婚出来る歳になるけど、黒川くんは来年にならないと出来ないしねえ……」
美香ちゃんよ、あんた何考えているのよ。本当にこの子高校生なのかしら? と思わず言いそうになった。
「わたしが正式なお母さんになるしか、ないのかな。きっとそうだよね、露ちゃんもそれを望んでいるんじゃないのかな?」
この前から考えていた選択肢のひとつと思っていた。それを聴いた美香は
「でも、新太郎さんに愛情なんてあるの?」
そう言ってわたしの考えに疑問を挟む。それに対してわたしは
「ねえ、美香ちゃん。日本には昔から『人には添うて見よ馬には乗って見よ』という諺があるのよ。そりゃ男性として、というより夫としての愛情はないかも知れないけれど、友情なら沢山あるわ。それこそ溢れるぐらいにね」
「でも、麗子さんはそれでいいの? こんなに綺麗なのに……誰か素敵な人が現れるかも知れないのに……」
美香ちゃんはどうしても納得出来ないみたいだ。わたしも完全に決めた訳じゃないし、それよりも新太郎がなんて言うかだけど……
「案外、新太郎が誰か連れて来たりしてね」
「そんなことしたら、わたしが知世ちゃんを連れ出すわ」
どうやら美香は愛情のない結婚は許せないらしい。
知世ちゃんを抱きかかえてミルクを飲ませる。この子の母親にわたしはなれるだろうかと、あどけない知世ちゃんの顔を眺めながら思うのだった。 続きを読む
今夜も鈴虫の音が聴こえる。夏も、もう終わりだ。蒸し暑い表とは違い家の中はクーラーが効いていて過ごしやすくなっている。冷えすぎは良くないが、このぐらいなら良いだろうと思う。
そんな部屋に「りりりり」「りりりり」と鈴虫のような音が鳴り響いている。すると仏壇の中から白い煙のようなものが出て来て、段々人の形になって行く。そして、それは露ちゃんの姿となった。
露ちゃんは今夜も自分の娘を抱きに降りて来たのだ。毎晩とは言わないが、このところ回数が多くなってきた。
わたしも美香も慣れっこになってしまったが、これは凄い事なんだと段々判って来たのだ。
だって露ちゃんの魂は四十九日も過ぎたのであの世に昇天しているはずなのだ。そのあの世の世界から一々やって来るのは大変だと思うのだが、実際の所は良く 判らない。具現化した露ちゃんは基本的に話さないし、消える時にわたしや美香の心に「宜しくお願いします」と伝えて消えてしまうのだ。だから実際は判って いない。
そんなことが起きてる時期に美香が
「ねえ、麗子さん。今のままだと何か不安定な感じがして露子も安心出来ないんじゃないかな……例えばなんだけど、誰かが正式な知世ちゃんのお母さんになってあげるとかしないと安心出来ないんじゃないかな」
高校生とは思えない大人の考えだと思う。更に
「わたしはもうすぐ結婚出来る歳になるけど、黒川くんは来年にならないと出来ないしねえ……」
美香ちゃんよ、あんた何考えているのよ。本当にこの子高校生なのかしら? と思わず言いそうになった。
「わたしが正式なお母さんになるしか、ないのかな。きっとそうだよね、露ちゃんもそれを望んでいるんじゃないのかな?」
この前から考えていた選択肢のひとつと思っていた。それを聴いた美香は
「でも、新太郎さんに愛情なんてあるの?」
そう言ってわたしの考えに疑問を挟む。それに対してわたしは
「ねえ、美香ちゃん。日本には昔から『人には添うて見よ馬には乗って見よ』という諺があるのよ。そりゃ男性として、というより夫としての愛情はないかも知れないけれど、友情なら沢山あるわ。それこそ溢れるぐらいにね」
「でも、麗子さんはそれでいいの? こんなに綺麗なのに……誰か素敵な人が現れるかも知れないのに……」
美香ちゃんはどうしても納得出来ないみたいだ。わたしも完全に決めた訳じゃないし、それよりも新太郎がなんて言うかだけど……
「案外、新太郎が誰か連れて来たりしてね」
「そんなことしたら、わたしが知世ちゃんを連れ出すわ」
どうやら美香は愛情のない結婚は許せないらしい。
知世ちゃんを抱きかかえてミルクを飲ませる。この子の母親にわたしはなれるだろうかと、あどけない知世ちゃんの顔を眺めながら思うのだった。 続きを読む