一昨日に続いて初期の作品です。一昨日の続きとも取れる内容です。

「決断」

 襖を開けて、母のいる部屋に入る。微笑んでいる母に
「お母さん、私ね結婚する事にしたの」
「高校の時の、新聞部にいた人だから……そうあの彼だよ。ウチにも高校の頃一~二度は来た事あると思うから良く知ってるよね」」
 母は微笑んだまま何も言いません。
「だからね、心配しなくて良いよ……安心して……二人で、ちゃんとやって行くからさ……本当だよ」
 私は今まで、母に出来る限りの事をしてあげただろうか? 不自由な思いを、させ無かっただろうか?
 常にその事を考えていました。……わたしは、できのわるいむすめではなかったろうか? 常にその考えが頭から離れはしませんでした……
「ご免ね、これからだというのに……親孝行出来なくて」

 後ろで襖が開き、彼が私に声を掛けてくれます。
「もうすぐ、出棺だからさ……」
「うん、判った。釘打って貰っていいよ」
 私の言葉で、葬儀社の人が母が横たわっている部屋に入り、棺に蓋をして釘を打ち付けます。それが終わると、私と彼と数少ない親戚で母の遺体が入っている棺を担ぎます。
 お坊さんの読経が流れる中を静かに霊柩車に運び込みます。私が助手席に乗り込み、彼がその後のタクシーに親戚と乗り込むのです。
 クラクションが鳴り、家を出発します。家は私の友人が留守番を買って出てくれました。
 火葬場に着き、棺が火葬する場所に運び込まれます。やはり読経が流れる中を、お釜に棺が入れられます。蓋が閉められ、母が煙となって登って行きます。

「よく耐えたね。我慢したよ」
 彼が控え室で、私の横で話かけてくれます。
「うん、ありがとうね。色々頼んじゃって……全部やって貰って御免ね…‥」
「そんな事無いだろう。これからも一緒じゃ無いか」
「うん、でもさ、付き合い出してから、母がどんどん悪くなって、貴方にも随分迷惑かけてさ……」
「気にするなよ。俺はお前が大変だと思う事はみんな代わりにやる積りだったからさ」
「うん、ありがとう。それは判っていたけど、実際は大変だもんね」
「そうでもないよ。傍にお前がいたから……」
「ほんとう? 私すぐ調子に乗るよ」
「嘘なものか! 俺はお前の為だったら何だって苦にならないよ」
 そう言って、彼が私の手を握り締めてくれます。そして、左の薬指の指輪を優しくなでながら
「本当はもっと高いの買いたかったんだけどな」

 そう言って少しだけ残念な思いを打ち明けてくれます。
「ううん、これで充分。だってアパートと私の所と随分往復させちゃったから……」
「随分、必死でバイトしたんだけどな」
「みんな無くなっちゃったね!」
「また、貯めるよ……でも直ぐ卒業だ」
「そうだね……ウチ来る?」
「ああ、そのつもりだよ。置いてくれるかい?」
「私、一人暮しってしたこと無いんだ」
「そうか、確かお父さんは高校の時だったな」
「うん、そう言えばあの時も、香典持ってお焼香に来てくれたね」
「そうだったけ、忘れたな……」
「うそばっかし……」
「バレていたか、思い出したら辛くなると思ってさ……」

 取り留めの無い事を語り合っていると、焼けたと係の人が告げてくれます。お坊さんが読経をしてくれている間に、皆で少しづつ骨を拾って骨壷にいれます。
 最後に係の方が、すくってくれて、残り全部を入れてくれます。一礼をして、箱におさめて、儀式は終わりです。
 帰りは何台かのタクシーに乗り家へ帰ってきます。仕出し屋さんから取り寄せたお弁当を、持って帰る方には持たせ、上がって食べて貰う方はその世話を友人が行なってくれます。
 彼は、先程の火葬場でも裏方さんに心づけを渡したり大変でした。今も、お弁当の数のチェックをしています。
 彼は、あの日、告白してくれた日から確かに私と一緒に歩いてくれました。本当にその生活の全てを私と共に歩む事に費やしてくれたのです。
 残念ながら、母の病は治りませんでしたが、意識があるうちに指輪を見せられた事が救いでした。きっと安心してくれたと思います。
 もうすぐ彼は卒業します。わたし達は籍を入れて、夫婦になります。式や披露宴は喪が明けてお金が貯まったら行います。一人では歩けない道も、二人なら何とか歩ける様な気がするのです。
『お母さん、天国から見守っていて下さい』
 私は心の中でそう思うのでした……

 その時
「お~い、お弁当一つ余ったんだけど、これお義母さんに供えようか?」

 ああ、彼はリアリストなんでしょうか……