氷菓三次創作

「氷菓」三次創作   「11月の風」

一昨日から三次創作を載せて参りましたが、やはりレベル的に疑問符がつくような作なので、今日と明日で特に評判の良かった作品を再編集して載せます。
 次の事はまだ考えていませんが、明後日までには何か作品を用意します。
 程度の低い作品ですが、それでも一読して戴けるなら……続きを読む

「氷菓」三次創作  「神山七不思議~逆流する水梨川~」

「神山七不思議~逆流する水梨川~」

 沙也加お姉さんに電話して聞いた答えは要領の得無いものでした。
「それはねえ、めぐみちゃんがその子の事をどの様に思ってるかという事で答えは変わるから一概には言えないわね。それに相手の子がどういうつもりでその様な事を言ったか。という事もね。めぐみちゃんが自分の心に正直に向き合う事が大事だと思うの」
 今の私には思い付かない事ばかりです。

 次の日も朝から太陽がさんさんと降り注いでいました。それでも、守屋くんは九時二十分にはウチにやって来ました。
「おはよう。お迎えなんて何だか悪いわねえ」
「いいや気にしなくても良いよ。僕も早く、千反田さんの説を聴きたいからね」
 やっぱり、そうなんだ。そうですよね。それですよね……少し期待した私でした。
「じゃあ、早く行こうか!」
「うん、そうだね!」
 私達は自転車で図書館に向かいました。


 昨日に続いて、めぐみは守屋君と”取材”という名のデートですね。お互いそれに気がついていないというのがおかしいですね。夫の奉太郎さんは今日は自分の会社の用事で朝から出ています。
 めぐみが担当している『水梨川の逆流』というのは、数年に一度、水梨川のやや上流にある通称『上の池』と『下の池』の間で逆流が起こるのです。
 通常は上流の「上の池」から下流の『下の池』に流れているのですが、これが逆に『下の池』から『上の池』に水が流れる事を言うのです。
 私は古くからある事ですので、知っていましたし、夫の奉太郎さんも、情況を把握すると、すぐ推理してその仕組みを解説してくれました。あの子がどこまで迫れるか、とても興味があります。そう”わたし気になります”です。

 
 市立図書館に着くと、私と守屋くんは地図のコーナーに向かいました。そこから、神山の市街地図と、神山でも陣出が書いてある、国土地理院の五万分の一、と一万分の一の地図を出して来ました。でも、自習室はかなり混んでいて、おおぴらに地図を広げられありそうにありません。すると守屋くんは司書の方に
「すいません、地図を広げて勉強したいのですが、第二自習室を使っても良いですか?」
 と聞いてくれました。司書のかたは
「いですが、照明や空調が入っていないので、スイッチを入れで下さい。使用後はくれぐれもスイッチ切って退出して下さい」
「判りました。有難う御座います」
 礼を言って守屋くんは私を誘います。
「有難う、でも第二自習室なんてよく知っていたわね」
「うん、図書館はよく来るから、夏休みとか土日は自習室が一杯になる事があるから、その様な時は一階の第二自習室を使うんだ」
「さすがね!」
 私は守屋くんの慣れた対応に感心しました。
 第二自習室の照明のスイッチを入れ、空調の設定をして、涼しくなるのを待って私は借りた地図を広げました。そして等高線の書かれた、一万分の一と五万分の一の地図を比べて『上の池』と『下の池』の辺りを注意深く目で追って行きます。
 やはり私の思った通りでした。この二つの地域は高低差が殆んどありませんでした。だとすると、今度は神山の積雪量と気温を見なければなりません。
 マルチメディアコーナーに行けばパソコンがあります。そこでネットで積雪量と春先の気温を確認すれば良いのです。
「守屋くん、頼みがあるのだけど」
「なんだい」
「マルチメディアコーナーでパソコンの順番を取って置いて欲しいんだけど」
「ああ、いいよ。結構混んでるからね。先に行ってるね」
「ありがとう。わたしはその間この地図をコピーしてくるから」
 やはり守屋くんと一緒に来て正解でした。私は推理はするのですが、その資料集めに守屋くんを使って、少し申し訳無い気持ちもあります。守屋くんは本当に親切で助かります。
 自習室を退出する時にちゃんと各種スイッチを消して、私は二階のコピー機で資料に使う地図をコピーして、借りた地図を返し、一階のマルチメディアコーナーに向かいました。
 何台かあるパソコンは全て埋まっており、何人かが順番を待っています。無線LANが引かれてれば、自分のパソコンが使えるのですが、ここ図書館にはまだ引かれていません。守屋くんは二番目の位置に座っていました。私はそこに近づいて
「お待ちどう様。ちゃんとコピーできたわ」
「そう、それは良かった。もうすぐ順番も来ると思うよ」
「うん、ありがとう」
「あのさ、待ってる間に推理を聞かせてくれないかな」
「うん、いいわよ。あのね、『上の池』と『下の池』は殆んど高低差が無いのね」
「へえ~そうなんだ」
「うん、昨日ね、自転車を押して登っていてね、急に楽になったから、もしかしてと思ったの」
「ああ、あの時なんかブツブツ言ってたのはそう云う事か」
「それで今日地図で確認したの。やはり正解だったわ」
「ここからは推理なんだけど、その冬に積もった雪が急に溶けて水梨川に流れ込んで、その水が上流からは、地形的に流れ込みにくい『上の池』を通り越して、川の水が流れこんで貯まって出来た『下の池』に流れ込んだと思うの」
「そうか、昨日見たけど、『上の池』は湧き水が貯まって出来た池だから、川の水は流れ込まない地形だったね。」
「そう、逆に湧き水が池から川に流れ込んでいたわ。」
「それに「下の池」は上流に向かって口が開いていて、川の水がふんだんに流れ込んでいたね」
「だから、急に水かさが増えるのは、積雪量と雪解けの時期の気温の相関関係があると思うの。それで、その後、川の水量が減って、逆流するのだけど、この時元々二つの池には高低差が殆んど無いから、この時点で『下の池』の水かさの方が上回ってるから『下の池』から『上の池』に逆流すると思ったの」
 私の説明に
「そうか、急に暖かくなり一気に雪解けが始まって、水量が増えてか、なるほどね。でもよく気がついたね」
「たまたまよ。ほんと、偶然かな。だって昨日自転車で登らなかったら気がついたかどうか……」
「いいや、それでも凄いよ。うん!」

 やがて順番が廻って来ました。端末を操作して神山の積雪のデーターを出します。それと平行して、「逆流」が起こった前後の気温のデーターも出します。それを、二人で確認して納得します。
「これで記事が書けるね」
「そう、少なくとも私達は大丈夫ね」
 二人で、端末の前で顔を合わせる様に座りながら笑い合います。
  気温と、積雪のデーターもプリントアウトして、私達は図書館を出ます。
「どうする、もう解散してしまう?」
「う~ん。守屋くん、原稿はもう書いた?」
「いや、これからかな。原稿用紙も買わないとならないしね」
「じゃあ、一緒に買いに行かない?」
「どこで買う?」
「ここからだと駅前の『巧文堂』か神高の傍の『英文堂』かな」
 私はそこまで言って、名案を思いつきました。
「ねえ、『英文堂』で原稿を買って、ついでに部室でクーラー利かせて、なんか冷たい飲み物を買って、あそこで書かない?」
「部室かぁ~、良いかも知れないね」
 私達は神高に向かって行きました。私は本当は原稿も電子データで良いと思ったのですが、部長や先輩はちゃんと原稿に書いて来る様に言いました。なんでも、原稿に書いた方が校了しやすいからだそうです。私は単に慣れの問題だと思うのですが……
 高校の自販機で私が冷たい缶の紅茶。守屋くんが缶コーヒーを買って部室に行くと、そこには先輩達がすでにいました。
「残念だったな一年、今日はもう一杯だ」
 三年の先輩が笑いをこらえて言います。部長も
「みんな考える事は同じと見えてな。悪いが外当たってくれないか……ああ図書室も一杯だったぞ」
「そうですか、残念です・・」
 そう言い残して私達は神高を後にしました。
「どうする守屋くん。やっぱり解散する?」
 守屋くんは少し考えていましたが
「あのさ、良かったら僕の家で書かないかい?」
「え、守屋くんの家で?」
 私は以外でした。今まで守屋くんが家に寄る様に言った事が無かったからです。学校からは守屋くんの家の方が近いはずなのにです。私が返事を言い澱んでいるので、守屋くんは
「あ、あのちゃんと家族……親がいるから、大丈夫だよ」
 なんと、守屋くんに変な想像までさせて仕舞いました。
「あのね、違うの、家族の人がいるなら、私ちゃんとした格好してるかしら、と思って」
「今日は制服じゃないか」
「ああそうか、そうね……何やってるんだろうわたし……」
「じゃあ、おいでよ、僕の部屋で原稿を書こうよ」
「うん、判った。お邪魔しますね」

 守屋くんの家は、以外にも父の実家、今は供恵おばさまが住んでいる家の近くでした。
「ねえ、守屋くん。あの『高橋』という表札が掛かった家は知ってる?」
「ああ、高橋さんね。挨拶はするよ。それ以上は良くは知らないけどね」
「そう、実はね、あの家だけど伯母の家なの」
「へえ~そうなんだ。じゃあ今度は声でも掛けてみようかな」
 守屋くんは楽しそうに言っています。私は言わない方が良かったでしょうか?
「さあ、ここだよ。遠慮無く上がって」
 守屋くんの家は二階にロフトが付いた瀟洒な家でした。
「ただいま、友達を連れて来たよ」
 守屋くんが声を掛けると奥からお母様が出て来ました。
「おかえりなさい。あらいらっしゃい。どうぞ上がって下さい」
「お邪魔します。守屋くんと同じ古典部で活動している千反田めぐみと申します。
 宜しくお願い致します。守屋くんには何時もお世話になっています」緊張したせいか、なんか余計な事まで喋った感じがします。
 私と同じ頃、母は完璧な敬語と洗練された仕草を身につけていたそうですが、そんなに厳しく躾けられなかった私ですが、母には及びませんが目上の人に対する敬語くらいは一応出来ます。
「あら、あら丁寧な自己紹介ですね。私は路行が友達を連れて来たのは始めてなので嬉しい気持ちで一杯なんですよ」
「母さん余計な事はいいから。さっ千反田さん上がってよ」
守屋くんに案内されて二階の部屋に入ります。八畳ぐらいの大きさでしょうか、ベッドに机、本棚にPCとCDコンポがあります。その反対側には衣類が入っていると思われるタンスがあります。守屋くんの性格でしょうか、きちんと片付けている印象です。
 守屋くんは隣の部屋から座卓と座布団を持って来て、
「ここで書こうか。でも今日で良かった。実は昨日家に帰ってから、部屋を掃除したんだ」
「そう、じゃあ本当に都合が良かったのね」
「うん、まあね」
 その後、お母様が冷たい飲み物を出してくれました。早速二人で原稿を書き始めます。
「守屋くん、タイトルはどうする?」
「僕は『狂い咲きの桜』と決めたよ。千反田さんは?」
「私は『水梨川の逆流』じゃあ無く『逆流する水梨川』の方が七不思議ぽいと思うのだけど、守屋くんどう思う?」
「そうだね。後の方が相応しいと思うよ」
「じゃあ、これで書く事にする」
 暫く書いていましたが、私は集中力が途切れました。その様子を感じた守屋くんは
「トイレは階段降りて左だから」
 そう気を利かして言ってくれました。本当は少し、休みたかっただけなのですが、せっかくの好意を無駄にしてはいけないと思い、言葉に甘える事にしました。
「じゃあ、ちょっと」
 そう言い残して私は階段を降りました。左手にトイレのドアがある事を確認し、守屋くんのお母様に「トイレお借りします」と言って用を足しました。
 出て来てハンカチで手を拭いていると、守屋くんのお母様が話し掛けて来ました。
「千反田さん、本当に路行と友だちになってくれて、有難うね。あの子は余り友達を作らない子だから、知り合いの居ない高校に行って少し心配だったの。でもね、ある時から、あの子の口から、貴方の話題が沢山出る様になって、安心していたの。そして、今日、始めてお会いして、とても素敵なお嬢さんだったから、嬉しくなってしまって……」
 私は聞いていて返って恥ずかしくなって仕舞いました。
「お母様、こちらこそ、何時も守屋くんにはお世話になっています。私は結構我が儘を言うのですが、何時も聞いて貰っています。感謝するのは私の方です」
 私はそう言うのが精一杯でした。
「あの子の事宜しくお願いしますね」
 最後にそう言われました。後から考えると、どういう事かと思うのですが、良くは判りません。でも彼が友達を余り作らなかった、というのは以外でした。

 二階に戻ると守屋くんは
「母親となんか話してたの? ごめんね気にしなくて良いからね」
「ううん、大した話じゃ無いから気にしないで」
「さっ。それより続けましょう」
「そうだね」
 その後も私達は作業を続けました。途中で、なんとお昼までご馳走になり、結局夕方まで一緒に書いていました。
「もうこんな時間、帰らないと」
「ああ、そうだね。送ってくよ」
「ええ、悪いわ。朝も迎えに来てくれたのに」
「いいじゃ無い。送りたいから送るよ。気にしないで」
「そう、じゃあ、有難うね。」
 結局、二人で自転車を並べて、家まで送って貰いました。
 家の前まで来ると、守屋くんは
「じゃあ、またね。電話するね」
「うん、待ってるからね」
 そう言い交わして、私は家の中に入りました。
「只今帰りました」
 そう声を書けましたが返事はありません。確か弟の信太郎は今日から林間学校で、明後日でなければ帰って来ません。私は、そっと家に上がり、奥の方へ進みます。奥の部屋には明かりが点いていて、両親の声が聞こえます。
 私は物陰から声を掛けようとしたのですが、二人の様子が何時もと違う感じがしたので、そっと覗きました。
 なんと、父と母が抱き合っていました。
「おい、そろそろ めぐみ が帰って来るのじゃ無いか?」
「まだ、大丈夫ですよ。帰って来れば大きな声がしますから」
 母は父の首筋に手を廻して抱きついています。父もそんな母を両手でしっかりと抱きしめています。
 私は最初、何かいけないものを見た感じですが、良く考えると、夫婦なんですから当たり前なんですよね。両親が愛し合ってるのは子供としては嬉しいものです。でも男女のこのような処は始めて見るので、心臓が破裂しそうな感じです。
「奉太郎さん」
「える」
 初めて母が父の事を「あなた」でも「お父さん」でも無く「奉太郎さん」と名前で呼ぶ処を見ました。また、父も母の事を「える」と名前で呼んだのも初めてでした。二人は抱き合ったまま濃厚な口づけをします。
 母でも父でも無い素の二人……
 男女の濃厚な口づけを見るのは始めてですが、それが両親というのはどんなものでしょうか?
 やがて、口が離れると、母が「あとで……」と意味ありげに言います。父もまんざらでもなさそうな感じです。二人は今でも深く愛しあっているのですね。私はその現場を見て、感激しました。
 娘として、両親の愛の交換を見て、私はいつの間にか、感激で涙が流れていました。私の両親は今でも猛烈に愛しあっているのです。
 恐らくあの感じでは高校の時とそう変わらない感情を抱いているのでは無いでしょうか。何時までも純粋な気持ちを持ち続ける両親……二人の子供でよかった……つくづくそう思いました。

私は、二人に気が付かれ無い様に、玄関まで戻り、
「ただいま、かえりました!」
 と大きな声を出しました。奥から、両親が揃って「おかえりなさい」と出迎えてくれます。
 今夜は三人で楽しい夕食ですね。私は今日、守屋くんとあった事を話しましょう。
 私は将来誰と夕食を共にするのでしょうか? 少しだけ、考えて仕舞いました。

 了
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