オリジナルですが酷い出来です……

「夢の生活」


 夏の暑さも一段落して朝晩が過ごしやすくなって来た頃、僕は地元に帰って来た。
 高校を卒業して十年。都会の大学に進学してそのまま都会で就職をした。地元に帰って来たのは、転勤願いを出したからだった。その理由は……
 転勤して最初の休日。昨夜は高校の時の友人としこたま呑んで騒いだ。やはり旧友はいいものだと思った。
 陽が真上に上がり、流石に真夏ほどではないが暑さで目が覚める。家に居た母親に
「ちょっと出て来る」
 それだけを言って散歩に出た。本当は何処かで上手いコーヒーでも飲みたかったのだ。
 
 歩いていると、僕が地元を去ってから建て替えられた図書館があった。この街の中央図書館ではなく、いわゆる地区図書館というやつだ。建物の半分は市民センターとなっていて、住民票等を受け取る事が出来る。
 僕は暑さから逃れる為にその図書館に入った。本を借りる為ではない。只何となく涼みがてら入ったのだ。そこで僕は驚く人に出会った。
 それは、高校を卒業して十年ぶりに出会った片思いの人……
 昔、その人は僕の住んでいる地区の図書館で司書のアルバイトをしていた。
 借りたい本があったので利用カードを作った時に彼女も僕が高校の同級生だったと判った。
それがきっかけで僕達はグループ交際を始めたのだった。
 その想い出が鮮やかに蘇って僕を少しだけセンチな気分にさせた。
 相変わらず彼女はカウンターで司書をしていた。まるで時が止まったみたいだった。彼女は長い髪をポニーテールにして、薄いピンクの髪留めをしていた。その髪留めさえ昔とは違うはずなのに僕の目にはあの頃のままのように映った。
 綺麗だな……純粋にそう思った。
 彼女は僕を目に留めると
「久しぶりね。元気にしていた?」
 さりげなく言う様は昔と変わらなかった。いいや、そう僕の目には見えたのだった。
「何時からここに?」
「今年の春から、バイトだからとりあえず1年間」
「そうか、先日からこっちに転勤になったから、なるべくここに本を借りに来るよ」
 僕はそう言って昔を懐かしんだが
「出来れば来ないで欲しい……あなたの顔を見ると辛くなるから」
 いきなりそう言われ、僕は困惑してしまった……どうして……
 困惑してる俺に彼女は
「あの頃、私はあなたの事好きだったの。でもあなたは別の子に興味がありそうだったから諦めたの。今の私には夫がいます。だから私の前に表れないでほしいのです」
「どうして……今の僕は何も無いのに……」
「それは私が、今でもあなたの事が忘れられないからです……この十年私がどんな想いで過ごして来たかあなたには判らない……判って欲しくは無いから」
 昼下がりの平日の小さな地区図書館。二人の他は誰もいない……
 その小さな空間では僕と彼女の間に不思議な空気が流れていた。

「僕は独身だ。確かに君と逢うのは止めておいた方が良いだろうね。でも今の僕は君を見ても恐らく懐かしさ以外は何も思わないだろう。今の僕には人を好きになる権利も自由も無いのだから」
 それだけを伝えると僕は図書館の出口に向かった。さよならを言おうと振り返ると彼女と目が合った。悲しげな目だった。
「待って! あと1時間したら交代なの。その頃もう一度来て欲しいの」
 先ほどとはうって変わった言葉を僕に伝えた。
「判った。その頃また来るよ」
 それだけを言い残して表に出た。夏を思わせる秋の太陽が僕を襲った。
 彼女は僕に何が言いたいのだろう。僕には彼女に伝える事はない。いいや無いはずだった。あの時、僕は彼女が好きだった。だが僕には玲子がいた。積極的な 子で僕は結局その押しに負けてしまい付き合う事になった。あの時、はっきりと自分の意志で言えば良かったんだ。「僕には好きな子が居る」と……
 だが、実際は言えなかった。ズルズルと関係を深めて行き、卒業前にはセックスもするようになった。お互いが初めての相手だったので、僕よりも玲子が喜んだ。
「わたしが一番最初の相手なんて素敵!」
 今でも耳に残っている。
 大学も同じ大学に入学して関係は続いた。大学の頃は子供が出来ないように注意していたが、大学を卒業して直ぐの頃に玲子が妊娠してしまった。
「産みたい」と言う玲子に冷たく「堕ろせ」と伝える。結局玲子は泣く泣く堕ろした。玲子は小さな位牌を自分で作り、一緒に暮らしている部屋のタンスの上に 置いていた。僕はそれが辛気臭くて嫌で、見つけると直ぐに燃やしていた。玲子は燃やされたと判ると直ぐに代わりの位牌を拵えたのだった。またそれを見つけ ると燃やす僕……その繰り返しだった。

 少し関係が変わったのは、玲子がある会社の重役の息子に見初められた事があってからだった。
 向こうは本気で、どうしても玲子と結婚がしたいと言われたそうだ。人生はどんな運があるか判ったもんじゃない。
 結局僕が何とも言わないので、玲子はその重役の息子の所に嫁に行ってしまった。僕はやっと一人になったのだった。
 その事もあり僕は転勤願いを出して故郷に帰って来たのだった。

 一時間ほど歩いただろうか、汗を掻いたので近くの木陰の公園のベンチに休むとハンカチで汗を拭う。時計を見て「そろそろ良いかな」と思い、地区図書館に向かう事にする。
 図書館の前では彼女が待っていた。
「来てくれないかも知れないと思っていました。何処かに入りましょう」
 彼女の案内で近くの喫茶店に入る。アイスコーヒーを頼む、彼女はアイスティーにした。
「話って何かな?」
 僕の問いかけに彼女は
「玲子さん。お金持ちの方と一緒になったのね。先日披露宴に呼ばれたの。そこであなたの事を聞いたわ」
「ろくな噂じゃ無かったろう。僕はあいつにろくな事をしていない。だから玲子から見捨てられたのさ」
 そう、それが事実だ。僕は“ろくでもない奴”と思われ見捨てられたのさ。一時は僕の子を身篭った事もあるというのに……
 彼女は薄笑いを浮かべながら
「でも、あなたの知らない事も聞いたわ。ちょっと信じられない事だけど……訊きたい?」
 今更だが興味はあった。訊きたいと伝えると
「玲子さんが堕ろした子供、実はあなたの子では無かったそうよ。もう言っても構わないと言われたから教えてあげる」
 まさか……信じられ無かった。あの頃、僕と玲子は同棲していたのだ、玲子が別な男と関係があれば判るはずだった。
「そんな馬鹿な事ある訳無いだろう。玲子はあの頃は僕とだけ関係があったはずだ」
 俺の反論を鼻先で笑いながら
「何にも知らないのね。高校の頃から玲子は別に付き合ってる人が居たのよ。あなたには決して話さなかったけれどもね」
 嘘だ……彼女は嘘を言っている。僕があの頃玲子と付き合っていたから、その恨みで嘘をついているんだ。そうに決まってる……
「信じられないと言う顔をしてるわね。じゃあ大事な事を教えてあげる。あなた、精子の数が少ないそうよ。玲子はあなたと関係があった時にコンドームを持っ て行き調べて貰ったそうよ。そうしたら、何が原因かは判らないけど、精子の数が少なかったのですって。だから、あなたの子は出来るはずが無いのよ。それと 玲子はあなたと付き合った頃はとっくに経験済みよ。それも教えてあげる」
 そんな僕が知らない事まで知ってるなんて……確かに高校の頃に高熱を出して十日ほど寝込んだ事があった。一週間も熱が下がらなかった……あの時か……
「それ、全て玲子が話したのか?」
 僕の質問に彼女は薄笑いを浮かべて
「話したというより、私が訊きだしたのよ。渋る玲子を説得したの。だって私には訊く権利があるのよ」
「何の権利なんだ? 俺と君は特別な関係は無かったはずだ」
 そう確かに僕は彼女が好きだったが、特別な関係があった訳では無かった。権利とは何なのだ……
「私はあなたの事が好きだった。だから訊く権利があるの。玲子があなたを騙し続けていた時も私は我慢した。本当は私があなたと同じ大学に行き、同棲するはずだったの……だから、私は玲子が知っている全ての事を白状させたのよ」
「何で、そんな事をするんだ。それに先ほどは、もう図書館に来ないで、と言ったじゃないか!」
 支離滅裂だと思った。玲子も彼女も支離滅裂だと思った……どうしてこうなった?



「所長、三号機のお客さんですが、あんな変な設定にして大丈夫なんですかね?」
 ここは、夢の世界で色々な体験が出来るドリームパワーという設備を持った店で、ここでは料金を取って、お客さんに色々な体験をして貰えるようになっているのだ。
 行ってみたい外国や宇宙。素晴らしい異性とのラブ・ロマンス、それ以外でもあらゆる事が体験出来るのだ。
 だが、今日来たお客は一風変わっていた。
「泥沼の恋愛関係を体験したい」
 そう言って、マシーンに色々な情報をインプットしたのだ。不倫、裏切り、堕胎、浮気、初恋、青春、グループ交際、その他色々な情報を入れたのだ。こんな事は我々も行った事は無かった。果たしてこのお客がどうなるかは、判らなかった。
 まあ、いい、どうなっても構わない。きっと彼は人生が嫌になったのかも知れない。そんな人もたまに来る事がある。それに誓約書をちゃんと貰ってるので法的には我々には責任は無い事になっている。すべてはお客様の望む事なのだから……夢の生活……

  了