081029-1jpg噺家奇談の続きですが、話の方向が若干違う為に新しく立ち上げました。
 これから不定期ですが連載していきます。

こちらに乗せなかった「噺家奇談」(落語シリーズ)の続きはこちらで読むことが出来ます。
噺家奇談

~神山は編集部から新しい仕事を任命される。それは、古典落語の舞台を噺家と訪れ、そのレポートとその噺に纏わる人々のかかわり合いを記事にすることだった。
 新しい仕事に準備をする神山。やることは多い。ゆくゆくは訪れた噺を落語会で披露するという趣向もあるという。
果たして神山は順調にこなすことが出来るだろうか?~

★ プロローグ

 秋分の日を過ぎるとやっと幾らか涼しくなって来た。とは言え未だまだエアコンのお世話にならないと過ごせない陽気だった。
 俺は今朝から開かれていた「編集会議」をやっと抜け出した所だった。それが許されたのも、来年の新年号から新しい企画が立ち上がる事になり、それを俺が担当する事になったからだ。
 どのような企画かと言うと、古典落語の舞台になった場所を噺家が訪れてレポートすると言うものだ。良く昔は落語雑誌で見られた記事だが、ほとんどは単発 で連載というのは少なかった。社では好評なら数年単位での連載も考えていると言う。そう古典落語はかなりの数があるからだ。
 俺のする事は多い。まず同行してくれる噺家の選択と依頼。場所の選定。記事は俺が書くのだが、噺家との会話も入れたいとの事だった。そのフォーマットも 考えなければならない。それに取材費の関係でカメラマンの高梨は同行出来ないのだ。写真も担当する事になった。いざとなったら佐伯や他のスタッフも手伝っ てくれるかも知れんが、今から期待はできない。まずは企画を話して賛同してくれる噺家を探す事だった。

 その日から俺は寄席や落語会に出かけ、数人の噺家に打診してみたが、皆「忙しくて」と言う答えだった。忙しいのも事実だが本当はギャラの安さだったと思う。本音では「それぐらいなら寄席に出た方が勉強になる」だろうと思う。俺でさえそう思うのだから……
 そんな訳で人選は壁に突き当たっていた。これはと思う噺家にことごとく断られて、実際「この企画はボツかな」と思ったほどだった。
 そんな時、編集部で別な仕事をしていたら柳生が顔を出した。
「よお、暫くだな。相変わらず忙しそうで何よりだ」
 夏が過ぎたのに相変わらず白い顔をした柳生は
「面白い話聞きましたよ。なんでも面白そうな企画があるそうじゃ無いですか? 何で声を掛けてくれないんですか? 水くさい」
 実は真っ先に柳生の顔が浮かんだのだが、協会や所属の事務所に問い合わせてみると、柳生のスケジュールがかなりキツイ事が判って断念したのだ。そのことを言うと
「事務所なんかに問い合わせたら駄目ですよ。お金にならない仕事は受けないんですから……直接電話してくれたら良かったんですよ」
 そう言って半分むくれている。こんな表情の柳生を見るのは初めてだった。
「じゃあ、改めて頼む。引き受けてくれるかい」
 俺の言葉が終わると同時に
「勿論です。そこで提案なんですが、何人かの噺家でローテーションを組んだらどうでしょうか? この噺はこの人が得意だから担当して貰うとか、どうでしょうか?」
「確かにそれは魅力的だが、今までことごとく断られて来たんだ。今更誰に頼むんだい?」
 実際問題として、これから誰が引き受けてくれるかが、問題だと思った。
「何言ってるんですか! 神山さんの人脈の噺家に頼めば良いんですよ」
 ニヤリとした柳生の顔を見て三人の噺家の顔が浮かんだ。だがそのうち二人は高齢だ、引き受けてくれるだろうか?
「私も一緒に行きますよ。丁度これから圓盛くんに稽古をつける約束なんです。そこで話してみますよ」
 俺は柳生に企画書を見せて理解して貰った。もとより聡明な柳生の事だ、その真意を理解してくれた。
「後から連絡しますよ」
 そう言い残して柳生は去って行った。もし四人でローテーションを組めるならこんな良い事はない。
 若手ナンバーワンの柳生、名手の圓盛師、幻の噺家の圓海師、そして若手真打で進境著しい盛喬となればこれは読者も付いて来ると思ったのだ。

 夜になり残業を終えて帰ろうとした時に電話が鳴った。出てみると柳生だった。
『神山さん、了解取れましたよ。三人供OKです』
 弾んだ声が俺の耳に届いた。
「そうか、ありがとう! よく引き受けてくれたな」
『それは皆、何かあったら神山さんの手助けがしたいと思っていたからですよ』
 それは違う、俺は自分が正しいと思って来た事をやっただけだ。
「一度皆で集まっらないとな」
『それも含めてもう一度伺いますよ』
 柳生はそう言って通話を切った。さて、どこかで呑まさないとならないと考えた。
 家に帰り今日の事を薫に言うと、新しい俺の仕事を喜んでくれて
「それならウチに呼べば良いじゃない。わたし、料理沢山作るから来て貰えれば嬉しいな」
 そんな事を言って俺を慌てさせた。
「だってお前、大変だぞ、身重なのに」
「身重は関係ないわよ。今ね食べ物が美味しいの! だからきっと料理も美味しく作れると思うんだ」
 どういう理屈でそうなるのかは良く判らないが薫がそうしたいなら良いだろう。後片付けは俺がやれば良い。そう考え直した。
 翌週、我が家に圓海、圓盛、柳生、盛喬の四人の噺家に集まって貰った。薫の作ったコールドビーフや焼き鳥、その他の料理を口にしながら、幾つかの事を決めた。

 1.季節に沿った噺を取り上げる。
 2.その噺を得意な噺家が担当する。
 3.神山が書いた原稿を一応監査する。
 等と言う事が確認された。原稿を監査すると言うのは大げさだが、要するに間違いが無いか確認すると言う意味だ。
 相談しながら圓海師が
「ワシは粋な場所担当がいいな~」
 そう言ったら弟弟子の圓盛師が
「兄さん、それはずるいですよ」
 そう言ったので皆で笑ってしまった。そして、企画の色々な事が決まった。
 企画のタイトルが「古典落語の舞台を尋ねて ~噺の命~」と決まった。
 そして最初の噺が「野ざらし」で尋ねる場所は隅田川沿いとなった。勿論、向島の多門寺も尋ねる。そして最初の担当の噺家は麗々亭柳生と決まったのだ。
 いよいよ企画が動き出す……