即興小説

即興小説  「一番嫌いな存在」

お題:1000の闇 必須要素:CD 制限時間:1時間  使用30分

 最近、人間どもはちょっとばかし良い気になっているな。今までの担当者はこんな時には世界大戦や飢えや飢饉それに疫病を起こして人間どもを粛清していた のだが、今やこいつらは大抵の疫病は克服してしまった。まあ、癌やエイズなんて残ってるがそれももう少しで克服してしまうだろう。
 世界の一部で餓えはあるが、これも昔に比べればかなり良くなった。それでも死ぬ奴はいるがそれらは元々が寿命なのだ。そうこの世の掟で決められているのさ。
 じゃあ戦争はどうなったかって? それはあんたの方が知ってるだろう?
 相変わらずドンパチやってるさ。世界大戦にはならないが、それはこいつらが昔より多少賢くなっただけなんだ。その昔だって、俺達がやった事は大した事 じゃない。でも、あの頃の人間は喧嘩ぱやかった。それだけで世界大戦に発展したものさ。力は力で支配できるなんて考えの内は簡単だったのさ。
 でも、それがどうだ。人間どもは簡単にやり合わなくなった。無論小さな戦争は無くならない。いや俺達が無くさせないのさ。だから必ず世界の何処かで戦争は行われている。だが遂に俺に最終命令が降りた。
「増えすぎた人間どもを減らせ」と……
 俺は、今まで使って来なかった最終兵器を使う事にした。これなら大丈夫。必ず人間どもは最終戦争に発展する事請け合いさ。
 それはなんだって言うのか知りたいかい?
 じゃあ、あんただけには教えてやるよ。それは信仰さ。神に対する信仰だけじゃない。考え方に対する信仰もその対象さ。
「表現の自由」と言う信仰。
「自由」と言う形の無い物への信仰。
 それらを少しばかし刺激してやることさ。ただそれだけで良い。それだけで人々は憎しみ合い殺し合いをする。あんまり簡単だからこれは禁じ手だったんだ。
 でも、もう遅い。人間は限界を越えてしまったんだ。犯してはならない領域まで進出してしまったその報いを受ける時が来たんだ。


 誰の命令なのかだって? 
 それは言えないな。それを知ったらあんただってもう生きる望みが無くなると思うよ。俺?
 俺はそうさ死神ともあんたらは言う存在さ。俺で五十代目なんだがな。
 どうしても知りたいかい。じゃあ、この映像が収められたCDをあんたにあげよう。家に返って見て見れば良い、俺に命令してるのが誰だか判るから。
 でも判ったら1000の闇を感じるんだね。絶望の淵に佇むがいいさ……

 あのCDには1000の闇が納められているのさ。真実を知った者に対してはね……
 
 判ったかい? そうさ、俺に命令してるのは地球そのものさ。あんたら人間は地球に嫌われているんだよ……
 どうだい、死にたくなったろう? ヒッヒッヒッ……魂の処理なら任せな……


  了

即興小説  「武蔵野農業鉄道 」

☆お題:商業的な列車 必須要素:うんち 制限時間:2時間 使用30分

 意外と知られていない話だが、東京の山手線のあるターミナルから出ている大手私鉄は、その昔「農業鉄道」だった。所謂「あれ」を運搬していたのだと言う。「あれ」とは”あれ”である。
 そう人のお尻から出る黄金色の”あれ”である。
 まあ農業の肥しを運んでいたのだそうだ。そのついでに人も乗せていたという。極めて商業的な列車だと言えよう。
 だが、今や沿線はおしゃれな町並みに変わり、住んで居る住民も高額所得者ばかりだ。逆の東京の東側みたいな暗いイメージはない。
 それはそうだ、その鉄道の先々代の社長は農業鉄道だったイメージを払拭するために、東京と横浜を結んでその地域に鉄道網を敷いている会社を徹底的に参考にしたのだ。
 日本でも屈指の高級住宅地を走っているその鉄道会社を参考にしてイメージUPしたのだ。それは成功して、同じターミナルから出ている別な大手私鉄の線より差別化することに成功した。

 だが、鉄道本来の設備には余り金額を掛けなかったようだ。高架化も遅れているし、複々線化も全くだ。線路は伸ばしてみたが単線で済ましている。駅舎も古いまま。ホームも狭く増え続ける住民を運ぶには設備が心もとなくなって来ているのだ。
「社長、我が社は代々怠って来た設備投資のツケがここに来て大問題になっています、早急に駅舎の改良やホームの拡大化が求められます」
 役員会で議題に上がるのはそればかりだった。慢性化した混雑はもはや電車の増発では賄えなくなって来ていた。
「社長! 良い案があります」
 ある役員が手を上げた
「言って見給え」
 社長が指名した。役員は立ち上がって話し始めた
「行く行くはホームや駅舎の拡充が求められますが、現在の人員の輸送向上に関しては、混雑時は座席を無くしてしまえば良いのです。そうすればコストが殆んどかからずに30%の輸送人員の増強が図られます。素晴らしいと思いますが?」
「だが、座れないので苦情が出ると思うが?」
「それには定期券の割引や回数券に特典を付けるなどして通勤客の利便を測ります」
「そんなので上手く行くかね?」
「勿論、空いてる時間帯は元の席に戻します」
「そうか、でも私は心配だよ」
「社長、良く考えて見て下さい。我が社は運んでいるものが、“そのもの”からそれを作る者を運ぶのに変わっただけですから」

 了

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必須要素に参りましたw 出来が……

即興小説  「左足の反乱」

☆お題:どうあがいても足 必須要素:アクション 制限時間:2時間 使用55分

 夏休みなので家でゴロゴロしていた。宿題はやってしまったし、小遣いは無いし、結局家でそうめん食べてゴロゴロしてるだけの毎日だった。
 その日も昼のそうめんを食べ終わるとゴロリと畳の上に横になった。たちまち瞼が重くなって来た。今日は縁側から涼しい風が入って来ている。クーラーの無い我が家では貴重な風だった。そして俺はいつの間にか意識を失った。
 どのくらい昼寝をしたろうか? 誰かが呼ぶ声がした。むっくりと起き上がり周りを見るが誰もいない。縁側からは相変わらず心地よい風が吹いている。
「もう一眠りするか」
 そう呟いて寝っ転がろうとした時だった。
「そんなに寝てばかりいると太るぞ! 少しは運動をするとか考えないのか?」
 何だか親父みたいなことを言うと感じた。周りを見てもやはり誰もいない。
「ここだよ。ここだ。下を見ろ」
 声のする方を見ると何と喋っているのは俺の左足だった。俺の左足に小さな口が出来てそこから声がしていたのだ。
「駄目だ、まだ寝ているのかも知れないな。寝すぎて変な夢を見ているらしい」
 そう独り言を言うと左足のやつが
「寝ぼけんなよ。ちゃんと俺を見ろ!」
 俺の左足はやや怒りながら叫んだ。やっぱり左足が口を利いている。
「お前があまりにも足を使わないから、俺は今日限りお前の体から独立することにした。今後は好き勝手にやらせて貰うからな」
 ここに来て俺はこれが夢でも幻覚でも無いことに気がついた。
「お前、俺の左足だろう? 独立ってどうするんだ?」
 俺は基本的なことを尋ねてみると
「簡単だよ左の股関節から外して勝手に出て行く
「そんな簡単に行く訳がないだろう! 独立ってのはクリミア半島だってどこだって大変なんだ。口で簡単に言うほどじゃないんだぞ」
 そういえば口はあるが目や耳はどうしたのだろう? そんな疑問に思ってると左足は
「お前が食っちゃ寝ばかりしてて、足を使わないから自分で運動することにしたんだ。俺達には運動する権利がある。それを行使させて貰うだけだ。ちなみに俺 が独立すれば相棒の右足だってアクションを起こすだろう。両足が独立したって判った暁には両腕だって黙っちゃいないだろうな。お前、両手両足が無くなった らどうする?」
 俺は左足の言うことを聴いていて、段々と空恐ろしくなって来た。
「どうすれば独立を思い留まってくれるんだい?」
 俺は必死だった。この若さで両手両足が無い体にはなりたくない。後100年もすればデパートで体の部分が買えるようになってるかも知れないが、今はそんなものは買えやしない。俺はどんな条件でも呑むつもりだった。
「よし、こちらの条件を呑んでくれるなら思い留まっても良い」
「その条件とは?」
 俺は必死で先を問うた。
「まず、食っちゃ寝ばかりしてないで、ちゃんと運動しろ! それから、そうめんみたいな炭水化物ばかり食べていないで、鶏肉や大豆なんかのプロテインを食 べて筋肉を強化しろ! お前が何もしないおかげで、俺は細くなってしまった。以前はカモシカのように力強かったのに……どうだ、ちゃんと守れるか?」
 俺は必死だったのだ。この際何でも言うことを利くことにした。

 翌日からいいや、その日から俺は運動を始めた。昼もそうめんばかりでなく、鶏のささみを蒸して食べるようにした。朝はゆでたまごを幾つも食べた。そして 運動のおかげで体重も減り、バランスの良い体型となった。すると現金なものでカワイイ娘に告白されて交際するようになった。
そんな時に例の左足が再び口を利いた。
「なあ、あの時はああ言ったけど、俺達はどうあがいても足なんだよ。頭のお前が行動してくれなかったら大変なことになっていたんだぜ」
「大変なことって何だい?」
「それはな、体重増加で糖尿病や痛風や動脈硬化なんかになって彼女も出来ないうちに死んじゃうってことさ」
 そんなことにならなくて良かったと俺は思うのだった。

「ねえ、先生。今度のプログラムはちゃんと成功するでしょうか?」
 助手の子が俺に尋ねる。俺はあれから勉強して、肥満解消の研究を大学で行う研究者になったのだ。今ベッドに寝ている患者は肥満の重症者だ。俺が経験した あの左足の反乱を疑似体験させているのだ。大丈夫、きっと成功する。何故なら、自分の体の部分が独立して無くなってしまうなんて恐怖は物凄いからだ。
 あの恐怖に比べれば食事を制限したり運動したりするのは訳無いからだ。


  了

即興小説  「さんすくみ」

☆お題:安いダンジョン 必須要素:レモン 制限時間:2時間 使用54分

 俺はある組織に忍び込んで捕まってしまい、地下牢に閉じ込められてしまった。捉えた組織の言うことには
「お前もスパイの端くれならば、この地下牢から脱出してみろ、上手く脱出して逃げおおせたなら、見逃してやろう。その代わり、逃げ出せなければ永久にこのままだ。飢え死にするまであがくが良い」
 少し小太りで古臭いサングラスを掛けた男がそう言って、俺に一個のレモンを投げてよこした。
「何だこれは? これで喉の渇きを癒やせというのか?」
「どう取ろうと、それはお前の勝手だ。好きに使うがいい。ひとつだけ教えておいてやる。そのレモンは幾らでも使い道があると言うことだ」
 小太りの男はそれだけを言うと扉を締めてどこかに消えてしまった。俺は残されたレモンを見つめるだけだった。これでどうしろと……

 兎に角、飢え死にする前にここから出なければならない。俺は必死で考える……駄目だ、焦っていい考えが浮かばない。
 半分諦めかけていた時だった。ふと牢屋の隅をナメクジが這っていた。俺はこの手に持っていたレモンをせめて何かに使いたくなり、手で半分にちぎるとナメクジにそのレモン汁をかけて、殺してやろうかと思って、手を伸ばすと、そのナメクジが驚いて俺に向って
「どうぞ、そのレモンの汁だけは勘弁して下さい。見逃してくれれば、あなたをここから出してあげますから」
 なんと口をきいたのだ。これは面白い
「そうか塩や砂糖に弱いとは知っていたがやはり酸にも弱かったのか」
「そうなんです。内緒ですが、我々は本当は酸が一番弱いんです」
「よし、本当にここから出してくれるなら、このレモン汁はかけないでおく」
「ありがとうございます! では早速」
 ナメクジはそう言ったかと思うと仲間を大勢呼び寄せた。すると壁の隙間から数えきれないナメクジが出て来たのだ。そして、そのナメクジ達は牢屋の鍵の所に集まるとその体のぬめりを沢山出し始めたのだった。
 何が起こるのかと思っていると、そのぬめりで鍵がバカになり開いてしまったのだ。
「さあ、どうぞ……これでダンジョンを抜けて逃げて下さい」
 ほうナメクジの分際できちんと約束を守るとは大したものだと思った.
「じゃあ逃げさせて貰うぜ」
 そう言ってダンジョンの方に行こうとするとナメクジが
「ああ、ダンジョンの途中には蛇がいます。何もせずに行くとそいついに飲み込まれてしまいます。そんな時はこれを使って下さい」
 そう言って手渡されたのはドロリとした半透明の液体が入った入れ物だった。
「何だこれ?」
「それは我々のぬめりが集まったものです。その蛇にこれをかけてやると蛇が溶けてなくなります。そう言って脅かして通り抜けて下さい」
「そうか、ありがとう!」
 俺はその入れ物を持つとダンジョンに入って行った。そして苦労しながら進んだ時だった。いきなり俺の目の前に大きな蛇が現れた。そして大きな口で俺を飲み込もうとする。この時俺はナメクジが言った事を思い出した。そして手に持っていたあのヌメリを蛇に見せた。すると蛇は
「これはナメクジのヌルヌルですな。これはダメです。これに私は弱いんです。見逃してくれれば出口に居る大蟇をやっつけてあげます」
 そうか出口には大蟇がいるのか。ならばこれも利用しない手はない。
「よし、判った。そこまで案内しろ」
 俺はダンジョンの案内を蛇にさせながら先を急いだ。すると蛇が言った通りに、出口に大きな蟇が構えていた。口から赤い舌を出している。
 だが、俺の隣の蛇を見て、動くけなくなる蟇。俺はその脇を悠々と歩いて通り過ぎ出口に到達したのだった。やった! 遂に脱出成功だ。これで俺はここから帰れる。そう思った時だった。後ろで不気味な音がした。振り向くと蛇が蟇を飲み込んだ音だった。
「邪魔者は消しましたから。もう大丈夫です」
 蛇が舌を出しながら言う。いい蛇だなと思っていたら
「あっ! しまった!」
 そう言って半分泣き顔になっている。
「どうしたんだ?」
「はい、俺、実は毒蛇なんです。でもいまさっき、自分で舌噛んじゃって……流石に不味いですよね……ああ、どうしよう……」
 俺は困る蛇を後にして帰りを急ぐのだった。

 
   了

即興小説  「行って見たい場所」

☆お題:かっこいい湖 必須要素:バラン 制限時間:2時間 使用65分

 子供の頃に見て今でも記憶に残っている映画がある。タイトルも筋も忘れてしまったけど、ひとつだけ覚えていることがあって、それは映画の冒頭のシーンで高原の美しい湖に、早朝、主人公の美少女が朝もやの中を一糸まとわぬ姿になって湖を泳ぐ姿だった。
「なんてカッコイイんだろう! なんて綺麗な人なんだろう! その両方が相まって僕の中では「最高にカッコイイ湖」として記憶されることになった。
 出来れば一度はあそこに行ってみたい。泳がなくても、あの透明な湖の水に触れてみたい……
 その思いは僕の中で段々と強くなり、終いには夢にまで出て来るようになった。せめて、もう一度あの映画を見てみたい……そう思ってレンタルビデオ屋に日 参して、これは! と思う作品を借りて見てみたが、違う作品ばかりだった。あのシーンだけは鮮やかに覚えているのに、その他のシーンや登場人物が思い出せ ないのだ。
 映画好きの友人に訊いて見て、幾つかの同じようなシーンが出て来る映画を教えて貰い借りて来て見たが、やはり違っていた。
「それ、日本の映画だったのか?」
「思い違いじゃないのかい?」
「そんなのはきっとフランス映画だろう」
 色々なことを言われたが、外国映画ではないと思ってた。理由は自分でも定かではないが、湖の周りの景色が日本だった……いや正確には日本のものだと思われた、からだ。

 そんな時だった。いつも見ている動画のリンクを貼ったサイトで見慣れない新しいサイトを発見した。何でも古い日本映画が載っている場所のリンクを貼って紹介しているということだった。
 所謂違法投稿になるのかも知れなかったが、このサイトを見るだけなら大丈夫だろうとそこに飛んでみた。
 すると、そこには僕も知っている過去の名作のリンクが貼ってありそれぞれに映画の短い紹介が書かれていた。
 その一つに僕の全く知らない映画があった。しかもその解説には舞台がある湖だと書かれていた。
「これだ!」
 思わず小さく叫びながら僕はリンクをクリックした……
 それは、僕の長年探していた映画だった。忘れないように、映画の情報をメモしていく。映像では僕の記憶どおりに、主人公が湖で泳ぐ姿が写っていた。そして映画では湖の名前が登場したが、映画の中の架空の湖だということで名前も場所も架空だった。
 これだけでは判らないが、この映画のタイトルを検索して色々と調べれば何処の湖でロケしたのか判ると思った。

 映画を見終わり(勿論違法だと知っていたが、ダウンロードした)その情報を参考にして検索したが、有益な情報はヒットしなかった。
 WiKiにも載っていなかったのでネットでは調べようが無かったのだ。仕方なく僕は図書館に行き、映画の情報が載ってる本を片っ端から探し始めた。そし て、遂にある本でその映画のタイトルを発見した。ロケ地も判った。情報が少なかったのは、公開初日で主人の少女を演じていた女優さんが行方不明になってし まったので上映を撃ち切ってしまったからだ。これでは資料が少ないはずだと思った。更に判ったのは、この映画に関わった人の多くがやはり行方不明になって いると言うことだった。
 色々な情報が判り僕は満足だった。今度の連休にそのロケをした湖に行くことにした。僕の住んでる街から車で高速を使って四時間あれば着くはずだったからだ。以外と近くだと思った。

次の休みに僕は予定通りその湖に行くために前の晩の深夜に自宅を出発した。行くからには朝もやが出ている時刻にそこに行ってみたかった。
 高速を降りて山間の道を進むと暫くして目的の湖が見えて来た。ところが近くに行ってみるとすっかり観光化されてしまっていて、映画の面影は全くなかった。波打ち際には弁当に入っていたバランが数多く捨てられていて、環境破壊が進んでいることを伺わせた。
 がっかりして、夕方まで湖畔のベンチでぼおっとしていた。暗くなって来たから帰ろうと思い車に戻り、出そうとして、帰りは湖の反対側を回って帰ろうと考えて車を走らせた。
 暫く走って、国道に出るはずだったが、車窓には相変わらず湖が見えている。いくら何でも変だとは思ったが、初めての土地で良く判らないから、地図どおりに行けば良いと思った。変だったのは途中からカーナビが位置を表示しなくなった事だった。
 気が付くと前の場所に戻っていた。いつの間にか道を間違えていたみたいだ。再び車を走らせる今度は間違えないように湖を見ながら曲がり角を間違えないようにする。だが、また前の場所に戻って来てしまった。
 おかしい……変なのは戻って来てしまったことだけではなくて、ついさっきまであった店が無くなっていることだった。
 店だけではなくて、周りの景色も変わっていた。僕はおかしいと思いながらも、もう一度湖を回って見た。
 すると、沢山あった観光化された店は一件もなくなり、湖畔のゴミなども無くなっていた。
 僕は頭が変になりそうだったが、そのまま車に乗り朝まで湖畔を回り続けた。 何回も回っただろうか、僕は朝もやの中で車を止めた。それは湖畔で、あの少女が泳いていたからだ。そしてそれを撮影するスタッフの姿もあった。
 僕は遂にこの世で一番行ってみたい場所に行くことが出来たのだった。
 もう、帰らなくても良い……心の底からそう想った。

 
  了
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