二次創作

にわか高校生探偵団の事件簿シリーズ、二次創作 「新しい騒動」

以前pixixvに投稿していてこちらにも載せました「にわか高校生探偵団の事件簿シリーズ」ですがDノベに投稿したところ好評で「続きを」と要望されましたので何とか書いてみました。一応暫く? 連載していくつもりです。出来は良くないと想います。雰囲気だけでも楽しんで戴ければ……

☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
 新学期が始まり、何時もの平穏な市立がやって来た。翠ちゃんは、真面目に部活に出てくれている。
 部活動には本来「芸術棟」にある部室が使われるのだが例の事件の為に未だ閉鎖されており、仕方がないので美術室を借りているのだ。この部屋の監理は顧問の美術教師でもある百目鬼先生がしているのだが、あまり顧問としては熱心ではないので、
「葉山、任せるからちゃんと監理しておけよ」
 と一任されている。
 監理と言ってもこの部屋は美術の授業で使うので平時から開いていて、僕たち美術部員が下校時に教室にある鍵を掛けて帰るのが常となっている。
 昨年、この学校に五十年以上に渡って掛けられていた「呪い」のようなモノが解消して、この学校にも本当の意味で春がやって来たと思っていた。そこで、そ の事を記念して何か「花の絵」を描くことにしたのだ。勿論翠ちゃんも賛成してくれて、彼女は家から水仙と百合を持って来てくれたので部屋にあった花瓶に活 けてそれを描いているのだ。完成したら校舎内の廊下に掲示する事になっている。
 その日は夢中で描いていて周りの事が目に入らなかったのだが、いきなり肩を叩かれて飛び上がるほど驚いた。
「そんなに驚かなくてもいいでしょう。もう、変に敏感なんだから」
 声の主は、柳瀬さんだった。柳瀬沙織、僕より一学年上の人で、つい先月この学校を卒業していった人だった。演劇部の部長をしていて、舞台の上では輝くような魅力を解き放っていた。また放送の部長も兼ねていて、とても下級生に慕われていたのは言う間でもない。
「柳瀬先輩!」
 僕が何か口にする前に翠ちゃんが喜んで飛びついた。翠ちゃんは、僕より二学年上で、素晴らしい頭脳の持ち主の伊神さんの異母兄弟なのだ。ちなみに今まで この学校で起こった事件のことごとくを伊神さんが解決をしている。今は東京の国立大学に通う為に実家を空けていて、翠ちゃんがそこに下宿のような形で暮ら している。伊神さんのご両親は血の繋がっていない伊神さんや翠ちゃんを実の子供のように可愛がっているのは言うまでも無い事だ。
「大学の講義は大丈夫なのですか?」
「うん、今日は休講になったからこっちに様子を見に来たのよ。何か、ゆーくんの周りで事件でも起きてないかとね」
 全く、伊神さんでも翠ちゃんでもそして柳瀬さんでも、僕が事件を引きつけている見たいに思っている。それに関してはいい迷惑だと思っている。
「柳瀬先輩、本当は私と葉山先輩が仲良くなってるか、心配で見に来たのではないですか?」
 恐らく半分は本心なのだろう柳瀬さんの顔が僅かにひきつった。それを見逃す翠ちゃんではない
「ああ、や張り本当なのですね。柳瀬先輩と葉山先輩の間には、何か人に言えない秘密があるのですね」
 翠ちゃんの口調が一層険しくなる。何でこうなるのだろうか? 僕は確かに柳瀬さんに告白したが、あっさりかわされてしまったし、そもそもあれも彼女の本音だったかも今となっては怪しいと思っているのだ。
「あら、気になるのは当たり前じゃない。だって私とゆーくんは前世で結ばれていたのよ。今世でもそれは約束されている事だし」
 柳瀬さんも簡単には引き下がらない。それはそうだろう、この場で三つも下の後輩に言い負かされてしまっては立つ瀬がない。
「そもそも、葉山先輩がハッキリしないのが良くないのだと思います」
 翠ちゃんは方向を僕に向けて来た。僕は全く悪くない。何でいつもこうなるのだろう。
「ゆーくんも毎日こうやって私の目を盗んで翠ちゃんと仲良く部活度に励んでいるのね」
 柳瀬さんも矛先を僕に向けて来た。完全な思い込みだ。
「柳瀬さんも翠ちゃんも全くの誤解だよ。僕は僕でしかあり得ない」
 全く誤解を解くような言葉ではないが、咄嗟に出てしまった。
「柳瀬先輩、前は『葉山君』と呼んでいたのに、何故いきなり『ゆーくん』って馴れ馴れしく呼ぶようになったのですか?」
 翠ちゃんが柳瀬さんが僕の事を呼ぶ呼び方に疑問を持ってしまった。これは不味い。
「あら、いきなりじゃないわよ。去年の花火大会の時から呼んでいるわよ。あの夜の事は一生忘れないわ」
「ええ! 葉山先輩、一体何があったのですか? 私の知らない間に……」
 全く、柳瀬さんも何を言い出すやら……確かにあの晩に手を繋いだ事はあったが、それ以上の事は無かったはずだ。
「柳瀬さん。特別な事は無かったじゃないですか」
「あら、じゃあゆーくんはあれが一時の遊びだと言うのね?」
 ここまで来て僕はやっと柳瀬さんが、誤解を生むようにわざと言っているのが判って来た。
「そんな事言ってると、今度は本当に弄んじゃいますよ」
 言ってからシマッタと思ったが、もう遅かった。
「やはり葉山先輩は幾人も女の人を……」
 翠ちゃんが怪しい目をして僕に迫って来るし、柳瀬さんも
「ゆーくん。私はどんなに弄ばれても。、あなた一筋よ」
 そんな事を口にして笑っている。いよいよ絶対絶命だと思った瞬間
「葉山先輩! 美術部長の葉山先輩はいらっしゃいますか?」
 大きな声を出して数人の男女性生徒が美術室に雪崩れ込んで来た。
「どうしたの? 葉山は僕だけど」
 そう答えると今入って来た生徒の代表らしき者が
「大変なんです! 昨年百目鬼先生が描かれて学校の正面に飾られていた絵画に変な予告状が貼りつけられていたのです。直ぐに一緒に来て確認してください」
 何が起こったのかは理解出来たが
「君たちは?」
「清掃委員会の者です。校内の整理や備品の点検をしていた所だったのです」
 話だけでは実際に判らないので一緒に行くことにした。
「翠ちゃんはどうする?」
 声を掛けられた彼女は目を輝かせて
「勿論一緒に行きます。事件が起きたら兄の代りに私が解決します!」
 そのハリキリ様を見た柳瀬さんは
「あら、この私の前でよくそんな事が言えるわね。私とゆーくんで解決してみせるわ」
 そう言って口角を僅かに持ち上げた。
「兎に角行って見なければ判らないよ」
 僕は二人を伴って学校の正面玄関に飾られている百目鬼先生が描いた絵画の前に行ってみた。そこには校舎の上の方から学校全体を描いた絵が飾られていて、その額縁の下にA4の白い紙が貼られていた。
「なんて書いてあるの?」
 柳瀬さんが僕に尋ねると僕が読む前に翠ちゃんが声に出して読み始めた。
「予告! この絵画を近々一時的に預からせて戴く。心配ご無用。期日が来たら返却するものなり……なんでしょうね?」
 不思議がる翠ちゃんに柳瀬さんが
「これは単なる愉快犯ではないみたいね。ある時間だけこの絵がここ在ると困る者の犯行予告みたいね」
 柳瀬さんの言葉で僕は改めて絵を眺めてみた。それは、学校の上空から学校全体を鳥瞰図 のように描いた作品だった。よくある構図で珍しいものには見えな かった。絵に価値があるのではなく、ある時間だけこの絵がここの場所に在っては困る者の犯行予告だと僕も考えたのだった。

氷菓二次創作 奉太郎とえる~その愛 第1話 初めての同期会

 氷菓の二次創作の休筆宣言をしてから未だ二ヶ月なのですが、この間、沢山の方からメッセージやコメントを戴きました。私の様な者に本当にありがとうございました! その中 でも新作の事を書いて下さった方がかなりいらっしゃいました。いつも出来の悪い拙作でしたが、そんな事を言われたのは始めてでしたので、本当にありがた かったです。
 そこで、秋から冬の頃にでも投稿出来れば良いと思い、少しずつ書いていました。大凡半分ほど書き上がったのですが、ここに来て個人的な事情により、すぐには最後まで書く事が出来なくなってしまいました。ボツにする事も考えたのですが、 ある方に相談した所「ここまででも良いので公開した方が良い」とアドバイスを受けました。
 そのうち時間が出来ましたら後半も書いてみたいと思います。

第1話 「初めての同期会」

 夏の香りのする風に吹かれながら駅からの帰り道を急ぐ。東京に住み着いて三年になり、やっとこの街の喧騒にも慣れてきた。そうなると不思議なもので、最近、神山の夢をよく見る。色々な神山が夢に出て来るのだが、最後は悲しそうな女性の影で目が覚める。自業自得……それ意外に言葉が見つからない……

 アパートの郵便受けを覗くと、普通の手紙の封書よりやや大きめの封筒が投函されていた。宛名は勿論俺、折木奉太郎。差出人を見ると「姉より」とだけ書いてある。部屋に帰り封書を開封するとメモと葉書が入っていて、メモの方を読むと

『高校の同期会の知らせが来たから転送したわよ あんた、誰にも住所教えていないの

 そんな意味の言葉が走り書きされていた。

「知ってる奴が幹事じゃないんだろう」

 独り言を口にしながら葉書を読むと、どうや神高を卒業して初めての同期会のお知らせらしかった。

 神山高校を卒業して早三年の月日が流れている。大学に進学した者は三年になっている。今年の秋からは就職戦線に嫌でも飛び込まなければならない。その前に同期会を開いて旧交を温め合おうと言う趣向らしかった。

 薬缶に水を入れてガス台に掛ける。火を点けて湯が沸くまでの間に同期会の期日と幹事の名前を読んで行く。

 期日は七月二十五日だった。会場は俺たちが神高を卒業してから立てられたホテルで、時間は午後一時開始としてあった。その他に会費なども書いてあり、参加の場合は書かれている捨てメールに返信して欲しいとあった。昔みたいに返信はがきで、と言う事ではなかった。続けて幹事の名前を見ると、その中に里志と伊原の名前があった。

「あいつら幹事だったのか……正月に会った時は何も言っていなかったのにな」

 また独り言を呟いて苦笑する。そう言えば最近独り言が多くなったと実感した……

 沸いた湯をコーヒーカップにドリップバッグをセットしておいた上に静かに注ぎ込む。泡が膨らみ膨張していく。更にその上から湯を注いで行く。何も無かった部屋がモカの香りで包まれる。並々と注がれたコーヒーを口にする。熱さと苦味と酸味が口の中で調和してゆっくりと体内に降りて行く。今の俺の至福のひと時だ……


 高校を卒業した古典部四名の進路だが、里志と伊原は県内の大学に進学して、今では神山は離れたものの大学の傍で一緒に暮らしている。千反田は京都の大学の農学部に進学した。「生雛祭り」で言った事を実行したのだ。「皆が豊かになる方法」を千反田なりに求めた結果だった。

 あの日、俺は確かに意識したはずだった。千反田の想いを受け止めて俺なりの答えを返してやるはずだったが……結局言えなかった。いや、あの千反田の背負ってる荷物を一緒に背負う気構えが足りなかったのだ。

 言えなかった……想いは遂に口にする事が出来なかった。結局、何も言えぬまま、卒業した。実は千反田の気持ちは薄っすらと判ってはいた。心の底では「千反田の想いに答えてやりたい」と想いながらも口にする事は出来なかったのだ。

 卒業の後で千反田は俺が告白してくれる事を望んでいたのかも知れないが、俺はそれも口には出来なかった。その時の千反田のどこか寂しげな眼差しは忘れる事が出来ない。

 謝恩会の二次会の後で千反田をタクシーに乗せた時に千反田が俺に紙切れを握らせた。その時はそのままタクシーを走らせてしまったのだが、後でその紙切れを開いてみると携帯の番号が書かれてあった。恐らく京都に行くので携帯の契約を結んだのだと理解した。俺も携帯を持つ事になったからその辺の事情は理解出来た。

 俺の進学先は東京の大学になった。理由はやはり東京は数多くの大学があるので、学ぶにしても選択の幅が広がると思ったからだ。最初は色々な学部を考えていたが、気がついてみると「農業経営」を中心に選んでいる自分に気が付き苦笑した。想いは断ち切れていなかったと気がついた。ならば、千反田の傍に居てやれなくても、何処かで繋がっている事が出来るならばと今の学科「農業経営学科」を選択した。どうって事はない、三年経った今でも俺は想いを残していたのだ。だから、千反田に逢えるならと僅かな期待をしてメールに「参加」と書いて返信した。

 偽善かも知れない……千反田の携帯の番号を知りながら、この三年間一度も掛けたことは無かった。それなのに今更逢ってみたいだなんて悪い冗談としか思えないのでは無いかと感じた。

 だが、この三年間で俺なりに判って来た事もある。色々な情報を取り寄せて千反田が迫られている問題も知る事が出来た。今なら……淡い期待だろうか……

 コーヒーを飲み終えてもう一杯ドリップをする。そういえば千反田はコーヒーは全く駄目だったと思い出した。

「カフェインのある飲み物を飲むと凄い事になってしまうのです」

 そう言っていた。アルコールを飲むと、どうなるのかは偶然にも判ったがカフェインに関してはついぞ判らなかった。だが、後で気がついたが、あいつが良く飲んでいたココアにだってタップリとカフェインが入っている……恐らくは気のせいだとは思うのだが……

 思わず普段思い出さぬ事まで思い出してしまった。苦い思いと一緒にコーヒーを飲み込むとメールの返信があった。見ると伊原からだった。どうやら俺に宛てた葉書には伊原のメールが書かれていたらしい。文面を読むと

『参加受付ました。 折木、当日は楽しみにしてるわよ。それからちーちゃんも参加する見込みだからね。楽しみにしていなさいよ』

 こんな事を書いて来るのは、全く幹事として越権行為では無いだろうかと感じた。

 千反田に逢えたら何を言おう……どんな事を話そうか……そう思いながら眠りに着いた。


  夏休みになりバイトの都合をして休みを都合三日つけて神山に帰って来た。帰郷そのものは他の大学生とそう変わり無く帰って来ていると思う。文系は理系と違って研究と言うものは無いからだ。勿論文系のレポートや論文はあるが、それは極端に言えばそれを書くのは何処でも構わない。理系の研究は研究室に縛られるのとは、そこが違っていた。

 朝一番の新幹線に乗り名古屋で乗り変えて東京から都合四時間弱、俺は神山の市街に降り立っていた。半年ぶりの神山は僅かに湿った風が吹いていた。何処で雨でも降っているのかも知れない。空を見ると曇っていて、この後雨が降ってもおかしくない空模様だった。

 目的のホテルは目立つ場所に立っていたからすぐに判った。この時は、何も無ければ明日の夜に東京に帰るつもりでいた。

 実家に帰ると姉貴が

「おかえりなさい  同期会行くなら、もっとお洒落してから行きなさいよ。えるちゃんも来るんでしょう

 そう言って早くも先制攻撃を加えられた。先日、里志から千反田が参加するという事は伝えられていた。正直、逢えると思うだけで心が弾む。ゲンキンなものだ。それだけ想っているなら、何故電話のひとつも掛けてやらなかったのか 甘りにも自分に都合が良く虫の良いと自分でも思う……

 姉貴に言われた通りで、自分では割合きちんとした格好をしたつもりになって鏡を見ていたが、細かい指摘を姉貴から受けて修正された。

「三年も放ったらかしておいたんだから、ちゃんとして来なさいよ」

 変な激励を受けて家を後にした。

 ホテルに到着して三階のホールに向かう。会場の入口には「神山高校第◯期同期会」としてあった。確かにここで間違い無かったと一安心する。入り口から会場の中を見てみると準備中で、幹事が忙しく動いていた。その中のひとりが俺の姿を見つけて近寄り

「折木、今日はちーちゃんと、きちんと決着つけなさいよ。伸ばすにもほどがあるからね」

 挨拶の言葉も無しにいきなり俺に寸鉄を食らわした。三年経っても相変わらずだと思った。もっとも、こいつとか里志とは何回か会っているのだがな……

「ちーちゃん、本当は卒業の時にあんたの告白を待っていたのよ。それが、何も言わないから、今まで時間だけが無駄に過ぎてしまって……」

 伊原の言う事は尤もで、今の俺には何も言えた義理は無い。そもそも本当に今日、千反田は来るのだろうか それを伊原に言うと

「来るわよ。ちーちゃんだってあんたに逢いたいんだから」

 変なもので、そう言って貰えると俄に嬉しくなるゲンキンなものだ。


 定刻通りに同期会は始まった。色々な旧友と再会して旧交を温めたが未だ千反田の姿は見つけられなかった。里志に尋ねたところ、同期三百五十名のうち二百名が参加しているのだという。そうは簡単に見つけられないと思った。

「折木君久しぶり」

 振り返ると十文字だった。

「やあ、久しぶりだな。元気そうで何よりだ」

「もう、えると逢った

「いや、未だ見つけられない」

「おかしいわね来てるはずなんだけど……探して来るわね」

 その言葉だけ残して十文字は人混みの中に消えて行った。

 会場は基本的には立食形式になっていて、会場の隅に幾つかのテーブルと椅子が用意され、疲れた者や座って食べたい者らが利用していた。その部屋の隅でも特に目立たない場所に、俺が先ほどから探している人物が座っていた。

「折木くん、える、あそこに座っているわよ。早く行って来なさい ぐずぐずしていると誰かに取られちゃうわよ

 十文字に気になる言葉を言われて、はやる心を抑えて静かに足を向ける。段々と心臓の鼓動が早くなって来るのが自分でも判る。

 五メートルほど傍に近づいた所で千反田が俺に気がついて立ち上がって会釈をした。三年ぶりに見る千反田は卒業の頃より一段と美しくなっており、長い髪は相変わらず艷やかで、その表情からは、僅かに残っていた幼さは影を潜め、大人の落ちつきと憂いさを兼ね備えていた。ありきたりだが『綺麗だな』そう口から言葉が溢れた。

「久しぶり……元気そうで何よりだ」

 三年ぶりに逢ったのだ、もう少し気の効いた言葉を掛けても良かったと思ったが後の祭りだった。

 千反田は俺の言葉を頷きながら聴いて、静かに

「本当、お久しぶりでした。折木さんもお元気そうで何よりです。今日は心の底からお逢いしたかったです」

 憂いを帯びた瞳が怪しく輝くのも以前の通りだと思った。

「大学は大変だろう 理系だから実験が大変なんじゃないか

「そうですね。でもそれは判っていた事ですから……それよりも折木さんは学問の方は進んでいますか

「ああ、大学では『農業経営論』を学んでいる」

 それを聴いた時に僅かに千反田の顔に陰りが出た。

「農業……経営……ですか……そうですか……」

 テーブルに座る千反田の隣に座る。

「隣、座っても良いかな

「どうぞ」

 千反田はソーダのようなものを飲んでいて、俺に水割りを持って来てくれた。

「ありがとう」

 礼は言ったが、話が続かなくなって来たので、一気に話を本題に入って行く事にする。

「千反田、これは俺の言い訳と詫びだが、三年前、卒業の時に俺は遂にお前に言葉を掛けてやる事が出来なかった。あの時、俺にはお前の背負ってる余りにも大きな荷物を一緒に背負う覚悟が出来ていなかった。いつか、覚悟が出来たら、その時告白しようと思って逃げてしまったんだ。だから今日は、その時の詫びを言いに来たんだ」

 俺の言葉を頷きながら聴いた千反田は。視線を俺から外して

「それは判ります。あの時折木さんにわたしの本音を話したのも折木さんだけにはわたしの気持ちを理解して欲しかっただけなのです。でも一緒に居てくれるなら……等と甘い夢も見ました。でも現実は陣出はもう惨憺たる有り様なのです。こんな現状にある環境に折木さんに来てくださいとは言えません」

 千反田の言葉は俺の想像外だった。

「誤解しないでください。わたし、折木さんのことをお慕いしていました。これは本当です。この三年間で一層その想いは強まりました。だからこそ陣出に折木さんを迎える事なんて出来ないと思いました。不幸になるのはわたしだけで沢山だからです」

「千反田、それでも俺は構わないと言ったら……俺もこの三年で色々な事を学んだ。日本の農家が抱えている問題についても色々と学び、対策も自分なりに考えてみた。だから、前よりもお前の役に立てると思って今日はここに来たんだ。」

 俺が覚悟の事を言うと千反田は悲しそうな瞳をして

「ごめんなさい わたし、すでに、お付き合いしている方が居るんです

「え……」

「両親や親戚の勧めで……」

 千反田はそれだけを言い残すと俺の隣から立ち上がり人混みの中に消えて行った。俺は黙ってその後ろ姿を目で追うだけだった。いや、動こうにも体の力が抜けて動けなかったのだ。

 甘かった……俺は己の甘さを呪った。そうなのだ千反田ほどの女性なら婿になり手は腐るほど居る。それも名家の御曹司ばかりだろう。俺みたいな平民の家の出で「何処の馬の骨」かも判らない者では無いだろう。

「終わった……全ては遅かったのだ」

 俺は再び自分の甘さを痛感したのだった。

「ホータローどうしたんだい

 気が付くと里志が隣で心配そうにしていた。

「何だか気の抜けた顔だったからね。どうしたのかと思ってさ」

「千反田にふられた。千反田には既に交際している人物が居るそうだ。全ては遅かったよ。それとも三年前の報いかな……ははは、ザマはない」

「ホータロー、千反田さんが何を言ったのかは知らないが、千反田さんは今でも待ってるはずだよ。誰かと交際しているなんて何かの間違いだと思う」

「それが、そうでも無かったんだな……」

 俺の言葉を耳にして里志は何処かへ連絡をしていた。その通話が終わると

「ホータローは何時帰る予定なんだい

 意味ありげに尋ねるので

「予定では明日の夜だったが、もう、今夜でもいいし、これからすぐに東京に帰りたいくらいだ」

「いや、それは駄目だよ 予定通りにしておいてくれ いいね 動いては駄目だからね

 それだけを言い残すと里志も人混みの中に消えて行った。何をしに行ったのか判らないが俺は千反田本人の口から直に聞いたのだ。間違いは無いはずだ……

 馬鹿な話だ。何時かはあいつの傍に立って、支えてやりたいと思い、今の学科を選択した。あの時は言えなかった事を今度逢ったら言おうと思っていた。みんな自分に都合の良い考えばかりだった。時は再び戻っては来ないんだと、改めて思い知らされたのだった。



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「にわか高校生探偵団の事件簿シリーズ」の二次創作  続き

昨日の続きです。
読みたいと言う奇特な方だけ次に進んで下さい。大したオチではありません。
このシリーズで重要なレギュラーの人物が登場します。

 それでは……
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「にわか高校生探偵団の事件簿シリーズ」の二次創作を載せてみます。

え~タイトル通りなのですが、「にわか高校生探偵団の事件簿シリーズ」とはなんぞや? とお思いの方にまず説明を致します。

主人公は、葉山くんと申しまして、下の名前は判っていません。千葉県蘇我市立高校に通う高校生です。
美術部に所属しているのですが、演劇部に良く手伝いに駆り出されます。
 その演劇部に居るのがこの物語のヒロイン柳瀬さん(一学年上)でして、彼女は葉山くんを愛妾扱いにしてる有り様です。
 そして不思議な事に彼の周りに次から次へと不思議な事件が発生します。難問に挑戦する葉山くんですが、事件の壁を乗り越えられません。
 それをいとも簡単に解決してしまうのが、
伊神先輩(二学年上)で、その見事さは唸るばかりです。

 お人好しで苦労症の葉山くんが周囲のためにと一生懸命駆け回ってがんばったあげく考えた推理と結論を伊神先輩が一瞬でひっくり返すと言うのがこのシリーズの醍醐味でもあります。


と言う関係をご理解の上お読み戴きたいと思っております。私の二次創作はそこまで出来良くありませんが……
 

※……これは、pixviで公開した時は別名で公開しています
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氷菓二次創作  「16年目の再会」

「16年目の再会」

 相変わらず二次創作です。少し長いです。

 二年も二学期に入ると、そろそろ進路相談等と言う事が問題になって来る。最初の三者面談が行われるのもこの頃だ。俺の家からは姉貴が親父の代わりに参加してくれた。そこで俺は「経営学部に進みたい」と一応希望を出しておいた。これは実は千反田には内緒である。千反田はきっと農学部と言ったに違いないと思う。
 その千反田だが、このところ何だか様子がおかしい。部活にも出て来るのだが、何となく元気が無いと言うか、心ここにあらずと言う感じなのだ。
 今日も本を読む間に表を何気なく見つめていて、読書に集中していない事は明らかだった。俺は、地学講義室に二人だけなのを利用して直接千反田に訊いてみた。
「なあ、千反田、何か心配事でもあるのか? この前から様子が普段のお前らしく無いのだが……」
 窓の外を眺めて何か想っている千反田は俺の言葉に
「はい、わたし、何かおかしかったですか?」
 そう俺に問うて来たのだ。
「ああ、全くもって何時ものお前らしく無い」
 そう俺が言うと千反田は明らかな作り笑いを見せて
「そうですか……やはり折木さんの目は誤魔化せませんね」
 そう言って俺の方に向き直った。
「実は、1週間前の事なのですが、下駄箱にこのような手紙が入っていました」
 そう言って千反田は鞄の中から白い封筒を取り出した。そして中の手紙を取り出して俺に見せてくれた。それは……

「私の大事な人を取らないでください!」

 白い便箋の中央にそれだけが書かれてあった。力を込めて書いたのだろう、裏側にも跡がついていた。
「千反田、この文面に心当たりがあるのか?」
 俺は自分の心が騒ぎ出すのを抑えながら千反田に訊いてみた。
「いいえ、全くありません。私が親しい男子と言えば、福部さんと……折木さんです」
 里志の事を言ってから、やや間があり頬を僅かに赤くして俺の名を口にした。
「里志には伊原がいるし、伊原がこんな文面を書くとは思われん」
 最もらしい事を言うと千反田も
「それはそうです。お二人の仲には誰も入れません」
 そうだろうと思う、俺も同じ意見だ。
「あの、折木さんは、誰かいらっしゃるのですか?」
 いきなり千反田が飛躍した質問をする。何時もの悪い癖だ。
「千反田、俺はクラスの女子とはたまに話すが、それだって事務的な事が多い。私的な事を話すのは千反田、お前とが一番多い」
 勘違いされると後々面倒なのでこの際ハッキリと言っておく。

「人違いだな……」
「そうでしょうか?」
「そうだろう! それ以外で何があるというのだ?」
「交際とか以外では考えられませんか?」
 千反田が逆に俺に質問をする。
「具体的にはどういう事だ?」
 俺は千反田が何を思っているのか知りたかった。
「そうですね、勉強かなにかでわたしが誰かに教えて貰っていて、それを勘違いされたとか」
「その様な事があったのか?」
「いいえ、ありません」
「じゃ、やはり人違いだ。だがどこで、どのようにして人違いされたかが問題だ」
「そうですね、でもそれだけじゃ無いのです」
 千反田は更にもう一つの白い封筒を出して俺に手渡した。
「昨日、やはり下駄箱に入っていた手紙です」
 俺は封筒の中を確認して取り出して広げた

「泥棒猫! いつまで彼を取るつもりなの!」

 やはり白い便箋の真ん中に大きくそう書かれてあった。
「全く心当たりが無いのです……だから……」
 千反田が何時もと違っていたのは、この事だったのだ。全く心当たりの無い事なのに、言いがかりとも言える手紙が下駄箱に届く。普通ならそれだけで、気持ちがおかしくなってしまう。俺は千反田の意外と芯が強い一面を改めて見た思いだった。

 事件は意外な展開を見せた。俺と千反田が部室で話してから二日後に伊原が
「ねえ、ちーちゃん、ちーちゃんTwitterやってるの?」
 そういきなり訊いて来たのだ。
Twitterは俺も知ってはいるが、携帯を持っておらず、ネットもたまにしかしない俺はやっていない。千反田も多分そうだと思う。
「Twitterですか? 一応入須さんから進められてアカウントは取りましたが、殆んどやっていません。携帯やスマホが無いと無理みたいですね」
 千反田はそう伊原に告げたが、それを訊いていた里志が
「じゃあ、このアカウントは千反田さんじゃ無いんだね。僕のフォロワーさんなんだけど」
 里志がそう言ってスマホの画面を見せてくれた。そこには……

 える@eru
 神山高にいます。
 趣味は料理、好奇心旺盛な女子です。

 そう書かれてあった。それを見た時の千反田の驚きはちょっと見ものだった。
「これはわたしではありません!」
 千反田は里志に自分のアカウントを検索して貰った。

 L@eru_titanda
 よろしくお願いします

 その画面をみた里志は
「千反田さんらしくて至ってシンプルだね。それにフォロワーさんが1名しかいないね」
「それは入須さんです」
「ツイート数もごくわずかだ。それに比べて先程のニセモノは随分とフォロワーさんがいる様だね。それに……」
 里志が意味ありげに言葉を止める。
「あるフォロワーさんとやけに親しくしてるみたいだよ。それにDM送りました。とか書いてあるから、知られたく無い事はダイレクトメールでやりとりしているんだろうね」
 それまで黙って聞いていた伊原が
「でも、このニセモノ、なんでちーちゃんを語るのかしら? ちーちゃんが可愛いからなりすまして彼氏でも作るつもりかしら」
 伊原の疑問に俺は千反田を見ると千反田も俺を見て頷く。手紙の件を話すと言う事だと理解した。

 俺は、話しだそうとする千反田を手で制して
「実は千反田の下駄箱に「私の大事な人を取らないでください!」とか「泥棒猫! いつまで彼を取るつもりなの!」とか書いた手紙が入っていたんだ」
 俺が千反田の代わりに話すと伊原は
「許せない!ちーちゃんが他の男子に気を移すなんて事がある訳無いじゃ無いの!」
「摩耶花さん……それは……」
 千反田の顔が見る見る赤くなる。里志が割って入って
「まあ、まあ、何故その娘は千反田さんのニセモノになりきっているのだろう?」
 そう言って俺の方を見た。これは何か言えと言う無言の合図だ
「この相手は本当の千反田だと思っているのかな?」
 だとすれば、随分間抜けな話だと思う。千反田の家は旧家の大農家だ。そっち方面の事を言えば直ぐにボロが出るだろうと思う。その事を皆に言うと伊原が
「これを見てる限りは随分上手くやってる感じだけどね」
「話題を学校に限っていれば、判らないと思ったのじゃ無いかしら」
 伊原が里志のスマホの画面を見ながらつぶやく様に言うと千反田が
「何故、わたしを騙るのでしょうか?」
 それを聞いて伊原が
「そんなの決まってるじゃない!ちーちゃんは男子から人気だもの。虎の威を借る狐じゃ無いけど、ちーちゃんと仲良くなれるなら男子としては本望じゃ無いかしら」
「摩耶花さん、それは……」
 千反田が返答に困っていると里志が
「まあ、まあ、恐らくこのTwitterの千反田さんになりすましてる人物が特に親しくしてる相手の傍にいて、二人のやりとりを見る事の出来る人物が千反田さんに抗議の手紙を送ったと思って間違い無いと思うけど、ホータローはどう思う」
 里志が纏めた事に対して俺は
「Twitterを俺は全くやっていないから良くは判らないが、そのフォロワーから推測は出来ないのか?」
 それに対して里志は
「絞り込む事は出来ると思うけど、特定は難しいね」
 そう言って両手を広げた。
「なら、張り込むしか無いな」
 俺の提案に、三人が「ぎょっ」とした顔をした。翌日から俺達は千反田のクラスの下駄箱がある昇降口で放課後交代で張り込みをすることになった。
 最初の日は俺が張り込んだ。放課後、授業が終わるとまっすぐに昇降口に行き、物陰から様子を伺っていが、下校時刻までに千反田の下駄箱に触れるものは居なかった。

「あんたの、見張り方が悪くて相手に気づかれたんじゃ無いの?」
 伊原が無情な事を俺に言う。そりゃあ、俺が言い出しっぺだが、ちゃんと隠れていたし、第一あそこで長時間待っているのは正直辛い。自分で言い出した事でなければとっくに辞めていた。
「大丈夫でしたよ。折木さん、わたしが帰る時でもわたし判りませんでしたから」
 千反田が擁護と思えない庇いかたをする。
「いいわ、今日はわたしが残るから」
 伊原が威勢良くそう宣言した。
 結果だけ言えば、伊原の努力も報われ無かった。犯人は現れ無かったのだ。
「よし、じゃあいよいよ真打の登場かな」
 里志がそう言って張り込んだのが、三日目だった。俺と伊原と千反田は下校時刻まで部室で待機していた。何時何時、犯人が見つかるか判らないからだ。

 今日も駄目かとあきらめかけていた処、地学講義室の扉が開かれた。三人とも一斉に扉の方向を見る。そこには小柄な一年女子を従えて里志が立っていた。
「犯人を捕まえたよ」
 一斉に立ち上がり入り口付近に集まる。
「ごめんなさい!すいません!私の変な思いこみで千反田先輩を始め古典部の先輩方にご迷惑をお掛けして 何と言ってよいやら言葉も見つかりません」
 その女性徒はそう言って深々と頭を下げた。
 その一年生を座らせ事情を訊いた。
「私は印地中学出身の後藤さやかと言います1年B組です。実は私と中学時代から交際していた田中くんが、twitterで仲良くなった娘と最近凄く親しくしていて、しかも名前を見るとeruとしてあったので、私はてっきり千反田先輩だとばかり思ってしまったのです」
 後藤と名乗った生徒は殊勝な顔で畏まっている。
「ああ、あなた後藤さんちのさやかちゃん!」
 千反田が誰だか判った声を出した。
「はい、父がいつもお世話になっています」
「とんでもない、後藤さんのお父様にはウチも大変お世話になっているのですよ」
 いつの間にか陣出の町内会、みたいになって来た。
「千反田先輩は印地中では後輩の我々のあこがれなんです。綺麗で聡明でおしとやかで、それはそれはとても人気があるのです。だから誤解したのもちゃんと訳があるのです。千反田先輩が田中くんと親しくしてれば私なんか忘れ去られてしまうと思ったのです」
 後藤さやかという1年生はそう言って事情を話した。
「ふううん、さすが4大名家のお嬢様だね。地元じゃ知らない人はいないんだね」
 里志が茶化した様に言うと千反田は
「そんなことはありません。たまたまです……はい」
 そう言って小さくなった。
「じゃあ、その@eruと名乗ってる娘は誰だか判らないのね?」
 伊原が問題を戻す。
「はい、誰だかは……」
 後藤がそう言って考え込むので俺は
「その田中に直接訊いてみたら良いだろう。どうして訊かないんだ?」
 そう後藤に尋ねると彼女は
「訊きました。でもハッキリ答えてくれないんです。お前には関係無いとか、お前を裏切る様な事はしていない、とか言うばかりで……」
 そう言って項垂れると伊原が
「そうなのよね。男って秘密主義が多くてさ、女は何時もそれに振り回されるのよ」
 里志を横目で見ながらいい放つ。
「いいわ!力になってあげる。この古典部にはこんな時でしか役に立たない人間が居るから、安心して!」
 伊原はそう言って俺の背中を押した。
「何だ?俺の事か?何で俺が……」
 そう言いかけると千反田も
「わたしからもお願い致します。どうか後輩のちからになってあげてください」
 頭を下げながらそう言われては断れ無かった。
「ああ、判った!どれだけ役に立つか知らんが、協力させて貰うよ」
 そう言って後藤を安心させた。こうして俺達、いや俺は千反田の後輩のちからになる事になったのだ。

 その日、俺は千反田を家まで送って行くことになった。その後藤の彼氏だという田中という高校1年生に会いたかったからだ。
「すまんな、付きあわせて」
 二人で自転車を押しながら坂道を登る。
「そんな、わたしの方こそ、わたしの後輩の問題に付きあわせてしまって、心苦しいです」
「そんな事は気にしなくていい……ところで、三者面談だが、どうした?」
 恐らく千反田の事だから農学部と言うだろうと思っていた。
「はい、迷いましたが、国立の農学部と希望を言いました」
 やはりそうだったのかと、ある意味安心をした。
「そうか……やはり家を継ぐのか……」
 俺は千反田の顔を見ない様に前を向いて呟いた。
「折木さんは、どうされました?」
 やはりそう訊いて来るのだと思ったが、果たして言ってもいいのだろうか、との思いがよぎる。何故ならそれは、俺の千反田に対する決意の表明だからだ。
「俺は……経営学部に行く事にした。できれば農業経営を勉強したい」
 そう言って千反田の顔を見ると、千反田は大きな瞳を更にいっぱいにして
「それって……あの……いいのですか?」
 やっとの想いだったのだろう、それだけが口をついて出て来た。
「許してくれるか? お前の為に、そして自分の為に経営を勉強することを……」
 見開かれた目がたちまち潤んでくるのが俺にも判った。
「折木さん……許すも許さぬも……何時決意なされたんですか?」
 ハンカチをズボンのポケットから出して千反田の手に握らせる。
「わたし……もう何も言えません……幸せ過ぎて……」
 坂をやっとの思いで押して登り切ると遠くに千反田邸と陣出一帯が見渡せる。このまま行けば俺は将来この地で暮らす事になるのだろうか?そう思って眺める景色は何時もとは違って見えた。



 それから一週間後、わたし達古典部に折木さんから招集がかかりました。
「ねえ、ふくちゃん、折木が招集するなんて『氷菓』の謎を解く時以来だよね」
 摩耶花さんが福部さんにそう尋ねます。
「そうだね。前代未聞と言いたいけど二回目だね」
 そう言って摩耶花さんの方を見ます。
「ねえ、ちーちゃんは折木から何も訊いていないの?」
 摩耶花さんは今度はわたしに尋ねました。実はわたしも良くは知らないのです。あの日は折木さんを田中さんに紹介しただけで、わたしはあんな事があったので、気持ちが落ち着かず、失礼したのです。それから折木さんは色々と調べていたみたいです。部活もこの一週間はあまり参加しませんでした。
 地学講義室の扉が開かれて、折木さんが現れました。
「みんな揃ってるな、早速始めよう」
 そう言って扉の影から後藤さんを招き入れました。
「適当な場所に座ってくれ」
 そう言って座らせた後、扉を閉めました。
「まず、後藤が交際している田中くんだが、結果だけ言うと彼には後藤が心配するような事実は全く無いと言える」
「じゃあ、田中くんはどうして私には何も説明してくれなかったのですか」
 窓際に座っていた後藤さんが問い正します。
「最もな質問だ。この世には、大事な人だから、大切に想っていればこそ、秘密にしておきた事がある」
 折木さんはそう言って私達一人ひとりの顔を眺めます。
「今から16年前、ある家庭で男の子が生まれた。だが、運悪くその子の親は彼が1歳になるかならないうちに病で亡くなってしまった。親が居なくなってしまったのを不憫に思った親戚がその子を引き取って、養子とした。だが、この男の子には姉がいた。その親戚は二人も養うのは無理なので、姉の方の引き取り手を探した。
 結果として、彼女の母方の親戚が引き受ける事になった。彼は、それを知らずに今まで育って来た」
「お姉さんはその時幾つだったの?」
 摩耶花さんが折木さんに尋ねます。
「当時、七才だった。だから彼女には記憶がある。しかしこの一家は引っ越してしまいその地方を離れてしまった」
「それからどうしたんですか?」
 後藤さんが続きを促します。
「男の子は元気に育ち、中学生となって進学の問題とぶつかった。彼が通っていたのは印地中学だ。印地中の生徒が多く進学するのは西高だ。成績の良かった彼はそこへ進学した。当時から交際していた彼女とは離れてしまったが、家が近所だから問題はなかった。そうだったね?」
 折木さんが後藤さんに問い正します。
「はい、そうです」
 後藤さんの返事を訊いて折木さんは続けます。
「だが、高校進学の時に彼は自分の戸籍を初めて見た。そこには実子では無く養子という事が書かれていた。勿論彼は今まで育ててくれた両親に感謝をしたし、今の自分の境遇に満足もしていた。両親は彼に当時の事を詳しく話して彼も納得、感謝した。だが、行き別れになった姉と、ひと目会って見たかった。それだけが彼の望みだった」
「それでどうなったの?」
 摩耶花さんも続きが気になるようです。折木さんは、わたしが入れたお茶を一口飲むと

「一方、姉の方は当時の記憶も残っていて、機会がれば弟と再会したいと常々思っていた。彼女は弟が預けられた家庭が未だ神山に残っている事を知り、何としても神山に来たかった。そこで、彼女は大学で高校の英語の教員免許を取り、何と岐阜県の教員採用試験に合格した。そして、この神山高校に赴任したんだ。そして、この二人はTwitterで知り合ったんだ。
 偶然とは言え、Twitterの位置情報で二人が神山に居る事、色々な事をやりとりしているうちに、お互いが「もしかして」と思う様になった。そしてダイレクトメールでやりとりをするようになる」
「それを私が勘違いしたんですね」
 後藤さんがそう言って納得する。
「その神山高校に赴任した新任の英語の先生って、江沢瑠依子先生なんですか?」
 わたしは思わず訊いて仕舞いました。
「でも江沢だったら何でTwitterの名前が「eru」だったのでしょう?」
 私の疑問に折木さんは
「江沢「え」でe、「るいこ」の「る」でru、続けて「eru」となる」
 納得しました。そう言う意味だったのですね。

「そして、実は今日、田中くんを呼んでいるんだ。入りたまえ」
 折木さんがそう言うと地学準備室とのドアが開かれ背の高い男子が入って来ました。彼は西高という事でしたが、神山高校の制服を着ていました。
「部外者なので、神山高校の制服を着て貰いました」
 後藤さんが田中さんに飛びついて行きます。
「まだ、これで終わりじゃ無いんだ。これからが本当の本番なんだ」
 折木さんがそう言うと今度は地学講義室の扉を開けました。
「先生どうぞ」
 入り口からは江沢先生が入ってきました。
「二人は今日初めて再会します」
 折木さんはそれだけを言いました。十六年ぶりの再会はそれは感動的でした。わたしではそれを上手く表す事は出来ません。ただ、そこにいた皆の目が真っ赤になっていた事だけは事実でした。


 帰り道、今日も折木さんが私を送ってくださいます。
「あの学生服はどうしたのですか」
 それが私の疑問でした。折木さんは笑いながら
「遠垣内先輩に借りたのさ。事情を言ったら、もう使って無いから、気前良く貸してくれたよ」
「そうだったんですか……でも二人、再会出来て良かったですね」
「まあ、実際問題として姉貴なんて、そんなに良い物じゃ無いけどな」
「折木さん!わたしは素敵な姉か弟が欲しかったのです。夢を壊す様な事は言わないでください」
「はは、悪い、だが、いいのか? もしかしたら、俺の姉貴がお前の義姉になるかも知れんのだぞ」
「はい、それは望むところです」
 わたしは笑いながら陣出に続く長い坂道を登りながら自転車を押していました。
 折木さんと二人で……



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