かなり前の作品で稚拙かも知れませんが……
「一緒に歩く」

Image035~00「ちょっと散歩しない?」
 高校の頃より内に秘めた美しさが増した彼女は、俺に優しく微笑んだ。
「ああ、いいね」
 高校を出てから、もうすでに3年。今回俺は初めて高校の同期会に参加したのだ。都会の大学に進学した俺は、地元で開かれるこのような会にはおいそれとは参加できるハズも無かった。
 俺のやや前を静かに歩いていく彼女と俺は高校時代「新聞部」に在籍をしていた。三年の時は俺が副部長で彼女が部長。当然だった。
 何しろ彼女は学年でもトップクラスの成績で、それに比べて俺は何時も平凡な成績だった。下級生の支持も、同級生の支持もあり、彼女こそが部長にふさわしいと言われて、何の問題も無く決まったのだ。
 だが、卒業する時に彼女は
「本当は私は陰で支える方が得意だったんだけどね」
 と笑って言っていた。

 俺は、進学先も国立を狙える彼女は、当然そこに行くのだと思っていたのだが、彼女が選んだのは地元の短大だった。当然疑問に思ったのだが、事情は直ぐに判った。母親が病に倒れたのだ。
 その為、母親の介護や病院との連絡等、地元を離れる事が出来なくなった彼女は、当然、自宅から通える進学先を選ぶしか無かったのだ。卒業する時に、彼女は微笑みながら
「向こうへ行ったら、手紙でも、メールでもいいから連絡を頂戴ね」
「今だから言うけど、私、結構貴方の事気に入ってたんだよ」
「なんだ、もっと早く言って欲しかったな」
「ふふ、早く言ってたら、どうした?」
「う〜ん、くどいたかも知れない」
「そして、私を泣かしたんだね」
「なんで、泣かすのさ?」
「だって……お別れじゃ無い……」
 俺はそれ以上言えなかった。余りにも責任感の無い言葉だと思ったからだ。

 俺は都会に出ても、彼女の事を忘れた訳では無かった。手紙こそ書かなかったが、メールは一週間に一度は送っていた。
 最も、彼女からの返事は何時も、俺の倍以上だったが……
 そんな彼女のメールから判る事は、俺からのメールが介護生活中心の日常をわずかに忘れさせたのでは無いかと言う事だった。
 帰省すると、高校時代の友達から、彼女の噂を聞くことが出来た。
「よく介護と学校を両立させているよね」
 大体がその様な話だったが、俺の心には重く乗しかかった。俺は自分の気持ちに気が付きながら逃げたのか……
 
 同期会が開かれている会館の庭を俺と彼女は歩いて行く。
「お母さんどうなんだ?」
「うん、大分良いんだけどね……でも最近は介護のヘルパーさんも来てくれるから、楽になったんだよ」
 俺は彼女が介護の為に正規の職では無く時間の自由が利くアルバイトで食いつないでいる事を知っていた。
「前も言ったかも知れないけれど、私ね高校の時ね、部長嫌だったのよ」
「そうか、そうは見えなかったがな……」
「うん、見せない様にしていたからね。でも本当は自分には向いていない、と思っていたの」
 俺は、少し先を池の淵に沿って歩いて行く彼女の足元を見つめながら
「俺さ、就職、決めたんだ」そう語り掛ける。
「もう決めたんだ。何処にしたの?」
 俺はこの地元の会社の名をあげた。
「え、戻ってくるの?」
「ああ、戻る事に決めたんだ」
 今まで、先を見て歩いていた彼女が振り返る。そこには、目に戸惑いと期待がないまぜになった不安な表情の彼女がいた。
「俺、お前に頼む事があってさ……」
「なあに?」
「今、お前が背負ってる荷物をさ、半分俺に背負わせてくれないか?」
「それで、この先一緒に歩かせて貰えないかと思ってさ……」

 彼女は少し上を向いて、口をへの字に曲げて黙っている。
「すぐ、返事を欲しいとは思わない……」
 俺は、高校時代の様には行かないとは思っていた。あの頃、確かに部長職という苦手な事を何とかやって行けたのは、俺が陰で支えていたからなのだが……
「それ、プロポーズのつもり?」
「高校卒業の時、私がどんな思いだったか、知らなかったでしょう?」
「私ね、もうあなたとお別れだと思っていた……」
「私の事なんか女として見ていないと思っていた……」
「だからね、諦めたんだよ……あなたの事……」
「ごめん……あの時俺は勇気が無かったんだ」
「三年掛かってしまったが、改めて考えてくれないか?」
 彼女は庭の池を眺めながら
「一緒に歩くなら、丈夫な靴を買わないといけないよ。いいの?」
「道だって、きっと石ころばかりだよ」
「ああ、だからせめて荷物を、半分持ってやるのさ」
「私を、置いて先に歩いちゃ駄目だよ」
「ああ、その時はちゃんと待ってるよ」
「約束してくれる?」
「ああ、約束するよ」
「じゃあ、一緒に歩いてあげる」
 そう言うと彼女は俺の腕の中に飛び込んで来た。甘くて爽やかな香りが俺の鼻をくすぐる。いつの間にか自然と唇が重なっていた。
 
 でも、俺達はその光景を同窓会の奴らが見ていたとは思いもしなかったのだ……

続くかも……