三次創作

「氷菓」三次創作  「雪になったクリスマス」

昨日の続きのようなお話です。
今日で「氷菓三次創作」は終了致します。
明日からは別な作品を掲載します。
  

「雪になったクリスマス」

 十二月になると神山は雪の日が多くなります。積もる事は滅多にありませんが、それでも自由に表を歩く事に不自由を感じます。
 今年もクリスマスがやって来ます。今年は夫が福部さん家族を呼んで楽しくやろう、と言う提案で都合が良い二十三日に行う事に決まりました。
めぐみも守屋くんを呼ぶつもりです。
 でもどうせ次のイブには二人だけで逢う約束をしていると思うのですがねえ。福部さんの所からは沙也加さんも来ます。彼女も次の日は万人橋さんとデートでしょうねえ。里志お父さんが機嫌悪くなるのでしょうね。

 さて当日は出し物を出す予定です。それはちょっとした寸劇で、主演はめぐみで補佐が私、となっています。今日もめぐみは、当時の私の仕草の練習をしています。私も娘の頃の声が出る様に発声の練習をしています。
「ああ、もう本格的にやると難しいです。お母様はどのような躾をされていたのか、想像も出来ません」
 なんてめぐみが愚痴を言っています。
「駄目ですよ、あなたは堪え性が無いから動作に品が無いのですよ。もっと間をもって動きをすると綺麗な仕草が身に付きますよ」
 私はなるべく判る様に教えているのですが、めぐみにとっては難しいのかも知れません。

さてそうこうするうちに、十二月も二十二日になりました。私とめぐみで明日のクリスマスの料理の準備をしています。今年は鶏の丸焼きも作りましょう。下ごしらえとして内蔵を取った鶏にスパイスを刷り込み、味をなじませます。
 それから、お父様とお母様にお刺身なんかも用意します。オードブルも作り、みなさんに一杯食べて貰います。
「おーい、シャンパンはこのぐらいで良いか」
 夫が裏口からカゴ一杯のシャンパンを運んで来ます。
「冷やすのは雪があるからいいか。表に出しておけばキンキンに冷えるけどな」
 夫も珍しく明日の事が楽しみの様です。
「守屋くんにはちゃんと言いました?」
 私はめぐみに訪ねると
「はい、明日の三時からなので、その前には来るという約束になっています」
「それから、あれの準備はできました?」
「大丈夫です!仕草も今回は完璧に覚えました。それから順番ですが、おばさまの後がおじさまですね?」
「そうね、あれでね麻耶花さんは結構恐がりだから、効果があるじゃないかしら」
「上手くやって、驚かせましょうね」
「そうね。何かあったら、お父様が言い出しっぺですから、お父様に責任を取って貰いましょうね」
 会の始まりを午後3時としたのは、明日は夜遅くなると雪が降ると予報で言っていたからです。
それに次の二十四日は皆さんお仕事があったり学校があるので余り遅くまでは出来ませんから開始を早くしたのです。クリスマスには雪はつきものですが、なるべくなら明日は降るのを遅れて欲しいものです。

 翌日となりました。今の処お天気も持っています。午後二時少し前になり、福部さん一家がお見えになりました。
「やあ、千反田さん。お招きに預かり参上しました」
 里志さんの陽気な声が響き渡ります。
「ちーちゃん、何か手伝う事があると思い、少し早く来たんだ」
「それから、これ、今朝私と沙也加で作ったクリスマスケーキ、後で皆で食べよう!」
 そう言って差し出されのはとても大きなケーキでした。
「ちょっと見せて貰っても良いですか?」
 箱を開けてみると、サンタさんやトナカイさんが可愛く書いてあります。
「うわぁ~凄いですねえ!こんなに凄いのを作るのは大変だったでしょう?」
「うん、まあ、沙也加と二人掛かりだから、割合平気だったの」
 ありがたく、頂戴して冷蔵庫にやっとの思いで仕舞います。
「僕も何か手伝う事は無いかい?」
 里志さんが嬉しそうに言ってくれます。
「すいません。じゃあ、大広間で夫が飾り付けをしていますので、見てやって下さい」
「オーケー簡単な事だね。早速行ってきます!」
 そう言って里志さんは大広間に消えて行きました。続きを読む

「氷菓」三次創作   「11月の風」

一昨日から三次創作を載せて参りましたが、やはりレベル的に疑問符がつくような作なので、今日と明日で特に評判の良かった作品を再編集して載せます。
 次の事はまだ考えていませんが、明後日までには何か作品を用意します。
 程度の低い作品ですが、それでも一読して戴けるなら……続きを読む

「氷菓」三次創作  「神山七不思議~逆流する水梨川~」

「神山七不思議~逆流する水梨川~」

 沙也加お姉さんに電話して聞いた答えは要領の得無いものでした。
「それはねえ、めぐみちゃんがその子の事をどの様に思ってるかという事で答えは変わるから一概には言えないわね。それに相手の子がどういうつもりでその様な事を言ったか。という事もね。めぐみちゃんが自分の心に正直に向き合う事が大事だと思うの」
 今の私には思い付かない事ばかりです。

 次の日も朝から太陽がさんさんと降り注いでいました。それでも、守屋くんは九時二十分にはウチにやって来ました。
「おはよう。お迎えなんて何だか悪いわねえ」
「いいや気にしなくても良いよ。僕も早く、千反田さんの説を聴きたいからね」
 やっぱり、そうなんだ。そうですよね。それですよね……少し期待した私でした。
「じゃあ、早く行こうか!」
「うん、そうだね!」
 私達は自転車で図書館に向かいました。


 昨日に続いて、めぐみは守屋君と”取材”という名のデートですね。お互いそれに気がついていないというのがおかしいですね。夫の奉太郎さんは今日は自分の会社の用事で朝から出ています。
 めぐみが担当している『水梨川の逆流』というのは、数年に一度、水梨川のやや上流にある通称『上の池』と『下の池』の間で逆流が起こるのです。
 通常は上流の「上の池」から下流の『下の池』に流れているのですが、これが逆に『下の池』から『上の池』に水が流れる事を言うのです。
 私は古くからある事ですので、知っていましたし、夫の奉太郎さんも、情況を把握すると、すぐ推理してその仕組みを解説してくれました。あの子がどこまで迫れるか、とても興味があります。そう”わたし気になります”です。

 
 市立図書館に着くと、私と守屋くんは地図のコーナーに向かいました。そこから、神山の市街地図と、神山でも陣出が書いてある、国土地理院の五万分の一、と一万分の一の地図を出して来ました。でも、自習室はかなり混んでいて、おおぴらに地図を広げられありそうにありません。すると守屋くんは司書の方に
「すいません、地図を広げて勉強したいのですが、第二自習室を使っても良いですか?」
 と聞いてくれました。司書のかたは
「いですが、照明や空調が入っていないので、スイッチを入れで下さい。使用後はくれぐれもスイッチ切って退出して下さい」
「判りました。有難う御座います」
 礼を言って守屋くんは私を誘います。
「有難う、でも第二自習室なんてよく知っていたわね」
「うん、図書館はよく来るから、夏休みとか土日は自習室が一杯になる事があるから、その様な時は一階の第二自習室を使うんだ」
「さすがね!」
 私は守屋くんの慣れた対応に感心しました。
 第二自習室の照明のスイッチを入れ、空調の設定をして、涼しくなるのを待って私は借りた地図を広げました。そして等高線の書かれた、一万分の一と五万分の一の地図を比べて『上の池』と『下の池』の辺りを注意深く目で追って行きます。
 やはり私の思った通りでした。この二つの地域は高低差が殆んどありませんでした。だとすると、今度は神山の積雪量と気温を見なければなりません。
 マルチメディアコーナーに行けばパソコンがあります。そこでネットで積雪量と春先の気温を確認すれば良いのです。
「守屋くん、頼みがあるのだけど」
「なんだい」
「マルチメディアコーナーでパソコンの順番を取って置いて欲しいんだけど」
「ああ、いいよ。結構混んでるからね。先に行ってるね」
「ありがとう。わたしはその間この地図をコピーしてくるから」
 やはり守屋くんと一緒に来て正解でした。私は推理はするのですが、その資料集めに守屋くんを使って、少し申し訳無い気持ちもあります。守屋くんは本当に親切で助かります。
 自習室を退出する時にちゃんと各種スイッチを消して、私は二階のコピー機で資料に使う地図をコピーして、借りた地図を返し、一階のマルチメディアコーナーに向かいました。
 何台かあるパソコンは全て埋まっており、何人かが順番を待っています。無線LANが引かれてれば、自分のパソコンが使えるのですが、ここ図書館にはまだ引かれていません。守屋くんは二番目の位置に座っていました。私はそこに近づいて
「お待ちどう様。ちゃんとコピーできたわ」
「そう、それは良かった。もうすぐ順番も来ると思うよ」
「うん、ありがとう」
「あのさ、待ってる間に推理を聞かせてくれないかな」
「うん、いいわよ。あのね、『上の池』と『下の池』は殆んど高低差が無いのね」
「へえ~そうなんだ」
「うん、昨日ね、自転車を押して登っていてね、急に楽になったから、もしかしてと思ったの」
「ああ、あの時なんかブツブツ言ってたのはそう云う事か」
「それで今日地図で確認したの。やはり正解だったわ」
「ここからは推理なんだけど、その冬に積もった雪が急に溶けて水梨川に流れ込んで、その水が上流からは、地形的に流れ込みにくい『上の池』を通り越して、川の水が流れこんで貯まって出来た『下の池』に流れ込んだと思うの」
「そうか、昨日見たけど、『上の池』は湧き水が貯まって出来た池だから、川の水は流れ込まない地形だったね。」
「そう、逆に湧き水が池から川に流れ込んでいたわ。」
「それに「下の池」は上流に向かって口が開いていて、川の水がふんだんに流れ込んでいたね」
「だから、急に水かさが増えるのは、積雪量と雪解けの時期の気温の相関関係があると思うの。それで、その後、川の水量が減って、逆流するのだけど、この時元々二つの池には高低差が殆んど無いから、この時点で『下の池』の水かさの方が上回ってるから『下の池』から『上の池』に逆流すると思ったの」
 私の説明に
「そうか、急に暖かくなり一気に雪解けが始まって、水量が増えてか、なるほどね。でもよく気がついたね」
「たまたまよ。ほんと、偶然かな。だって昨日自転車で登らなかったら気がついたかどうか……」
「いいや、それでも凄いよ。うん!」

 やがて順番が廻って来ました。端末を操作して神山の積雪のデーターを出します。それと平行して、「逆流」が起こった前後の気温のデーターも出します。それを、二人で確認して納得します。
「これで記事が書けるね」
「そう、少なくとも私達は大丈夫ね」
 二人で、端末の前で顔を合わせる様に座りながら笑い合います。
  気温と、積雪のデーターもプリントアウトして、私達は図書館を出ます。
「どうする、もう解散してしまう?」
「う~ん。守屋くん、原稿はもう書いた?」
「いや、これからかな。原稿用紙も買わないとならないしね」
「じゃあ、一緒に買いに行かない?」
「どこで買う?」
「ここからだと駅前の『巧文堂』か神高の傍の『英文堂』かな」
 私はそこまで言って、名案を思いつきました。
「ねえ、『英文堂』で原稿を買って、ついでに部室でクーラー利かせて、なんか冷たい飲み物を買って、あそこで書かない?」
「部室かぁ~、良いかも知れないね」
 私達は神高に向かって行きました。私は本当は原稿も電子データで良いと思ったのですが、部長や先輩はちゃんと原稿に書いて来る様に言いました。なんでも、原稿に書いた方が校了しやすいからだそうです。私は単に慣れの問題だと思うのですが……
 高校の自販機で私が冷たい缶の紅茶。守屋くんが缶コーヒーを買って部室に行くと、そこには先輩達がすでにいました。
「残念だったな一年、今日はもう一杯だ」
 三年の先輩が笑いをこらえて言います。部長も
「みんな考える事は同じと見えてな。悪いが外当たってくれないか……ああ図書室も一杯だったぞ」
「そうですか、残念です・・」
 そう言い残して私達は神高を後にしました。
「どうする守屋くん。やっぱり解散する?」
 守屋くんは少し考えていましたが
「あのさ、良かったら僕の家で書かないかい?」
「え、守屋くんの家で?」
 私は以外でした。今まで守屋くんが家に寄る様に言った事が無かったからです。学校からは守屋くんの家の方が近いはずなのにです。私が返事を言い澱んでいるので、守屋くんは
「あ、あのちゃんと家族……親がいるから、大丈夫だよ」
 なんと、守屋くんに変な想像までさせて仕舞いました。
「あのね、違うの、家族の人がいるなら、私ちゃんとした格好してるかしら、と思って」
「今日は制服じゃないか」
「ああそうか、そうね……何やってるんだろうわたし……」
「じゃあ、おいでよ、僕の部屋で原稿を書こうよ」
「うん、判った。お邪魔しますね」

 守屋くんの家は、以外にも父の実家、今は供恵おばさまが住んでいる家の近くでした。
「ねえ、守屋くん。あの『高橋』という表札が掛かった家は知ってる?」
「ああ、高橋さんね。挨拶はするよ。それ以上は良くは知らないけどね」
「そう、実はね、あの家だけど伯母の家なの」
「へえ~そうなんだ。じゃあ今度は声でも掛けてみようかな」
 守屋くんは楽しそうに言っています。私は言わない方が良かったでしょうか?
「さあ、ここだよ。遠慮無く上がって」
 守屋くんの家は二階にロフトが付いた瀟洒な家でした。
「ただいま、友達を連れて来たよ」
 守屋くんが声を掛けると奥からお母様が出て来ました。
「おかえりなさい。あらいらっしゃい。どうぞ上がって下さい」
「お邪魔します。守屋くんと同じ古典部で活動している千反田めぐみと申します。
 宜しくお願い致します。守屋くんには何時もお世話になっています」緊張したせいか、なんか余計な事まで喋った感じがします。
 私と同じ頃、母は完璧な敬語と洗練された仕草を身につけていたそうですが、そんなに厳しく躾けられなかった私ですが、母には及びませんが目上の人に対する敬語くらいは一応出来ます。
「あら、あら丁寧な自己紹介ですね。私は路行が友達を連れて来たのは始めてなので嬉しい気持ちで一杯なんですよ」
「母さん余計な事はいいから。さっ千反田さん上がってよ」
守屋くんに案内されて二階の部屋に入ります。八畳ぐらいの大きさでしょうか、ベッドに机、本棚にPCとCDコンポがあります。その反対側には衣類が入っていると思われるタンスがあります。守屋くんの性格でしょうか、きちんと片付けている印象です。
 守屋くんは隣の部屋から座卓と座布団を持って来て、
「ここで書こうか。でも今日で良かった。実は昨日家に帰ってから、部屋を掃除したんだ」
「そう、じゃあ本当に都合が良かったのね」
「うん、まあね」
 その後、お母様が冷たい飲み物を出してくれました。早速二人で原稿を書き始めます。
「守屋くん、タイトルはどうする?」
「僕は『狂い咲きの桜』と決めたよ。千反田さんは?」
「私は『水梨川の逆流』じゃあ無く『逆流する水梨川』の方が七不思議ぽいと思うのだけど、守屋くんどう思う?」
「そうだね。後の方が相応しいと思うよ」
「じゃあ、これで書く事にする」
 暫く書いていましたが、私は集中力が途切れました。その様子を感じた守屋くんは
「トイレは階段降りて左だから」
 そう気を利かして言ってくれました。本当は少し、休みたかっただけなのですが、せっかくの好意を無駄にしてはいけないと思い、言葉に甘える事にしました。
「じゃあ、ちょっと」
 そう言い残して私は階段を降りました。左手にトイレのドアがある事を確認し、守屋くんのお母様に「トイレお借りします」と言って用を足しました。
 出て来てハンカチで手を拭いていると、守屋くんのお母様が話し掛けて来ました。
「千反田さん、本当に路行と友だちになってくれて、有難うね。あの子は余り友達を作らない子だから、知り合いの居ない高校に行って少し心配だったの。でもね、ある時から、あの子の口から、貴方の話題が沢山出る様になって、安心していたの。そして、今日、始めてお会いして、とても素敵なお嬢さんだったから、嬉しくなってしまって……」
 私は聞いていて返って恥ずかしくなって仕舞いました。
「お母様、こちらこそ、何時も守屋くんにはお世話になっています。私は結構我が儘を言うのですが、何時も聞いて貰っています。感謝するのは私の方です」
 私はそう言うのが精一杯でした。
「あの子の事宜しくお願いしますね」
 最後にそう言われました。後から考えると、どういう事かと思うのですが、良くは判りません。でも彼が友達を余り作らなかった、というのは以外でした。

 二階に戻ると守屋くんは
「母親となんか話してたの? ごめんね気にしなくて良いからね」
「ううん、大した話じゃ無いから気にしないで」
「さっ。それより続けましょう」
「そうだね」
 その後も私達は作業を続けました。途中で、なんとお昼までご馳走になり、結局夕方まで一緒に書いていました。
「もうこんな時間、帰らないと」
「ああ、そうだね。送ってくよ」
「ええ、悪いわ。朝も迎えに来てくれたのに」
「いいじゃ無い。送りたいから送るよ。気にしないで」
「そう、じゃあ、有難うね。」
 結局、二人で自転車を並べて、家まで送って貰いました。
 家の前まで来ると、守屋くんは
「じゃあ、またね。電話するね」
「うん、待ってるからね」
 そう言い交わして、私は家の中に入りました。
「只今帰りました」
 そう声を書けましたが返事はありません。確か弟の信太郎は今日から林間学校で、明後日でなければ帰って来ません。私は、そっと家に上がり、奥の方へ進みます。奥の部屋には明かりが点いていて、両親の声が聞こえます。
 私は物陰から声を掛けようとしたのですが、二人の様子が何時もと違う感じがしたので、そっと覗きました。
 なんと、父と母が抱き合っていました。
「おい、そろそろ めぐみ が帰って来るのじゃ無いか?」
「まだ、大丈夫ですよ。帰って来れば大きな声がしますから」
 母は父の首筋に手を廻して抱きついています。父もそんな母を両手でしっかりと抱きしめています。
 私は最初、何かいけないものを見た感じですが、良く考えると、夫婦なんですから当たり前なんですよね。両親が愛し合ってるのは子供としては嬉しいものです。でも男女のこのような処は始めて見るので、心臓が破裂しそうな感じです。
「奉太郎さん」
「える」
 初めて母が父の事を「あなた」でも「お父さん」でも無く「奉太郎さん」と名前で呼ぶ処を見ました。また、父も母の事を「える」と名前で呼んだのも初めてでした。二人は抱き合ったまま濃厚な口づけをします。
 母でも父でも無い素の二人……
 男女の濃厚な口づけを見るのは始めてですが、それが両親というのはどんなものでしょうか?
 やがて、口が離れると、母が「あとで……」と意味ありげに言います。父もまんざらでもなさそうな感じです。二人は今でも深く愛しあっているのですね。私はその現場を見て、感激しました。
 娘として、両親の愛の交換を見て、私はいつの間にか、感激で涙が流れていました。私の両親は今でも猛烈に愛しあっているのです。
 恐らくあの感じでは高校の時とそう変わらない感情を抱いているのでは無いでしょうか。何時までも純粋な気持ちを持ち続ける両親……二人の子供でよかった……つくづくそう思いました。

私は、二人に気が付かれ無い様に、玄関まで戻り、
「ただいま、かえりました!」
 と大きな声を出しました。奥から、両親が揃って「おかえりなさい」と出迎えてくれます。
 今夜は三人で楽しい夕食ですね。私は今日、守屋くんとあった事を話しましょう。
 私は将来誰と夕食を共にするのでしょうか? 少しだけ、考えて仕舞いました。

 了

「氷菓」三次創作    「神山七不思議~狂い咲きの桜~」

「神山七不思議~狂い咲きの桜~」

 真夏の太陽が容赦なく照りつけています。今日は洗濯物が良く乾くでしょう。私は、夫に冷たい麦茶を、涼し気なグラスに入れて差し出しました。
「ああ、ありがとう。今日は本当に暑いな」
「めぐみはどうした? 朝から見えないが」
「あの子は今日は部活動らしですよ」
「部活? 古典部か……今頃というと文集か……」
「なんでも、今日は取材だそうですよ」
「ほう、本格的だな」
 夫は麦茶を美味しそうに飲むと、息をして、私に笑顔を見せてくれました。夫の名は、千反田奉太郎、私は妻の千反田えるです。結婚して十七年が経ちました。子供も二人恵まれ、上が長女で名を「めぐみ」と言い、下の子は長男で「信太郎」と言います。
 めぐみは私達と同じ神山高校に進学し、お姉さんの供恵さんや私達の勧めもあり、古典部に籍を置いています。下の子は、私と同じ印字中学の二年生です。

「今年はどういうテーマで文集を作るんだ?」
 夫が麦茶を飲み干して、おかわりを欲しそうにしながら訊いてきます。
「なんでも『神山七不思議』だそうです」
 私は夫のグラスに麦茶を注ぎながら答えます。やっぱり気になるのは古典部OBとしてでしょうか? それとも、娘可愛さからでしょうか?
「それで、この暑いのに取材に行ったのか。ご苦労なこった」
「でも、一人じゃありませんから」
 それを聞いてわずかに夫の表情が変わります。本当に面白い程です。
「古典部皆で行ったのか?」
「まさか、大体今の神高の古典部は三年生が三人、二年生が二人、そして一年生は、めぐみと守屋君と言いましたかね。その子の七人なんですよ」
「それで、一人一つずつの謎で七つの謎か……」
「そうんなんでしょうね」
「そうか、じゃ、その何とか……」
「守屋君です」
「そう、その守屋とか言う子と二人で行ったのか?」
「そうですよ。朝迎えに来ましたよ。可愛い子でしたよ」
「かわいい? 女の子か?」
「男の子ですよ」
「なんだ男か……え?」
 夫は飲んでいたグラスを置いて、私の方に向き直りました。
「男と二人で出かけたのか……デートじゃ無いか!」
「本人たちはそう思って無いと思いますよ。そんな雰囲気じゃありませんでしたから」
 全く、娘の事となると、途端に平常心を失う夫は、本当に可愛いです。同じ古典部に在籍している一年生の守屋君は、入学早々にある事件で知り合いになり、めぐみが古典部に誘ったのです。
 そのある事件とは、入学早々めぐみは友だちと下校しようとして、そのクラスに行った処、何か騒がしかったそうです。何事か? と思い聞いてみると、ある女子のポーチが失くなっていたそうです。それで、その子の机の近くに居た守屋君が疑われていた。と言う事でした。
 めぐみは、その場に居た子から証言を聞いて、情況証拠を調べて、守屋君が犯人では無いと証明し、ポーチを隠した子を探り出しました。事件を解決したお礼をしたいと言う守屋君に、
「お礼なんか要らないから、良かったら『古典部』に入ってくださらないかしら」
 そう言って古典部に入らせたのだそうです。めぐみ曰く、
「何時も何事にも全力で当たるけど、エメルギー効率の悪い人」
 というのが守屋君の評だそうです。

 二杯目を飲み終えた夫は
「そう言えばあいつ自転車で出かけて行ったのか?」
「そうですね。そう言ってましたが、なにか?」
「いや、どちらの方角に行ったのかと思ってな」
 まあ、そこまで心配するのですか。私少し妬いちゃいますよ。
「七不思議で、めぐみが担当するのは、「水梨川の逆流」の事だそうですよ」
「じゃあ、ここより上流だ。自転車じゃ坂ばっかで辛いだろう」
「いいらしいですよ。帰りは二人乗りで楽に帰って来れるって」
「はあ~、あいつ昔の俺より省エネだな」
 それだけ言うと夫はまた田圃に帰って行きました。父親って、本当に娘が可愛いのですね。
 めぐみは外見は当時の私と良く似ています。違うのは、髪の毛にわずかにカールをあてて居る処です。それと、考える時に前の毛をいじりながら考える事と、当時の私より少し目つきが悪い事です。表情の作り方が昔の夫と同じなのです。省エネというか無駄が嫌いで、年中効率を求めています。
 物事の洞察力や推理力は抜群で、当時の夫を凌ぐやも知れません。でも、もう少し女らしくしてくれたら良いと思います。高校時代からの私の親友、摩耶花さんは
「めぐみちゃんは黙っていたら、抜群の美人さんなんだけど……」
 と言っています。彼女の娘さんの沙也加ちゃんは大学生ですが、大変可愛い子で、両親の良い処だけ持って生まれた様な子です。めぐみは、実の姉の様に慕っています。


 自転車は緩やかな坂を段々速度を上げて降りて行きます。夏の風が気持ち良いくらいに体をすり抜けて行きます。なんという気持ち良さでしょう。ぞくぞくするような快感です。ところが、不意に加速が遅くなります。
「守屋くん、駄目よ靴を地面に着けてブレーキ掛けちゃ。あなたの靴が台無しになるわよ」
 私は後ろに乗っている同じ古典部の同級生の守屋くんに叫ぶ様に言います。私の名は千反田めぐみ。神山高校の一年生で古典部に所属しています。
「そんな事言ったって、スピードが出すぎているよ。もし転んだら、君も僕も無事では済まないよ」
「大丈夫! わたしはそんなヘマはしないから」
 大体、守屋くんが自分の自転車を私の家に置いて来たのが悪いのです。帰り楽だから、と言ったのですが、守屋くんは
「行きはずっと登りだから自転車を押して行くのは御免だ」
 そう言うので、私だけが自転車を押して登って行ったのです。行きはあんなに大変だった道も、見る見るうちに千反田の家が見えて来ました。
「ほら、やっぱり早いでしょう!」
「でもこの早さは危険と言うリスクを伴っているよ」
 確かにそうだけど、もう少し評価してくれてもバチは当たらないと思うのです。
 自転車は軽快なスピードで坂を駆け下りて、平坦な所へ出ました。それでも速度は落ちずに走り続けています。それは私が漕いでるからです。千反田の家が見える所を通り過ぎます。守屋くんが慌てて
「ちょっと、千反田さん、家通り過ぎてるよ!」
「いいのいいの!このまま長久橋を渡って、守屋くんの担当の『狂い咲きの桜』迄行きましょう!」
「なら、尚更僕の自転車を取って来た方が・・・」
「すぐだから、大丈夫!」
 守屋くんが何かを言ってる間にもう長久橋を渡るとすぐそこの道の脇に大きな桜の木が目に入って来ます、これが『狂い咲きの桜』です。
 道の脇に自転車を止めて、葉っぱが生い茂る桜の木を二人で眺めます。
「樹齢何年くらいなんだろう? 凄いなぁ・・・これが満開だったらさぞ壮観だろうね」
 守屋くんは目の前の木では無く遠くを見る様な目つきで言います。
「満開の時の写真だったら、多分家にあると思う。母にプリントアウトして貰う様に頼んでみるわ」
「それは、有難いね。見ると想像では全く違うからね」
 桜が開花するシステムというのはもう解明されていて、気温の変化がスイッチにあたると言う事ですが、その事を二人で話してみると、さすが学年で五本の指に入る成績上位者だけの事はあり、守屋くんも知っていました。
私ですか? 一月期の期末では三百五十人中百七十番で中間より五位上がりました。
「でも、そのスイッチが寒さを感じるという事で入るという事は、その前は暖かった、という事よね?」
「うん、そうだね。ずっと寒かったら、寒くなったとは思わないね」
「守屋くん、わたしね、お日様が差す時間が関係してると思うのだけど」
「僕もそう思ったよ。でもこのへんの日照時間って季節によって変わるけど毎年同じ様なものだろう?」
「わたしも最初はそう思ったの。でもね、ほらこの桜の反対側の山を見て!」
 私は桜の木を川を挟んで反対側から見下ろす事が出来る山を指差しました。
「どうしたの? あの山が何かあるのかい?」
「よく見て! 他の山と違うと思わない?」
 守屋くんは注意深く周りの山とくらべていましたが
「もしかして、あの山だけが植林をしているという事かい?」
 さすが守屋くんです。でもそれだけじゃ半分です。
「それと、伐採を行なってるの」
 それを聞いて守屋くんは目を輝かせて
「そうか! 伐採をすれば陽の光が遠くまで届く様になる」
「そう!気温も上がるわね!」
「凄いね、でもどうして考えついたの?」
「ううん、大した事じゃ無いの。あの山は万人橋家の山でね、木の事業で財産を拵えた万人橋さんの山なら手入れはちゃんとやってると思ったの」
「でも、植林や伐採って毎年とはいかないから、それで、その行なった年だけ、よく陽の光が届いてこの桜の周りの気温も上がると思ったの」
「そうか、それで冬になって気温がぐっと下がって開花のスイッチが入ったのか」
「まあ、わたしの仮説だけどね……でも神山の気温の記録ならネットでも調べられるし、そう外れでは無いと思うのだけどね」
「有難う。この線で原稿を書いてみるよ」
 守屋くんの助けになった様で私は満足でした。
「ところで、千反田さんの方は目処ついたのかい?」
「今日も上の池と下の池の両方を見てきたけど……」
「うん、現場を観てね、それから自転車を押して歩いたので判った事があるの」
「そうか、話せる様になったら教えてね」
「うん!約束する」
「じゃあ、わたしの家まで帰ろうか。写真もプリントしてあげたいし」
「うん、帰ろう」
 私は自転車の前に乗り、守屋くんを誘いましましたが、
「普通は男が漕ぐもんだよ」
 そう言われ交代させられて仕舞いました。後ろで横になって、まるでお嬢様の様な感じで座り私達は家に帰り着きました。
 守屋くんは流石に男です。見かけよりしっかりとした体つきで、そのお腹にしっかりと腕を廻しました。 
 あれ? さっきは守屋くんは後ろでどうしていましたっけ?……思い出しました。私のお腹に腕を廻していたのでした。今になって恥ずかしくなってきました……

「只今戻りました」そう奥に声を掛けて、「守屋くん上がって」
 彼を上がらせます。自分の部屋に連れていこうと思いましたが、縁側のある部屋が風通しがよく涼しいので、そこにちゃぶ台を出して守屋くんを案内します。母が奥から出て来て
「おかえりなさい。あらいらっしゃい。今冷たいものを持って来ますね」
 そう言って、台所に行きました。
「守屋くん、母は始めてじゃ無いよね?」
「うん、前に一度会ってると思う……でも本当に千反田さんに似ているね」
「そうかしら? わたしはそう思わないんだけど」
「うん、話したりすると全く違う印象だけど、黙っていたらそっくりだよ」
 私は母と似ているのは、嫌では無いし、むしろ嬉しいのですが余りあからさまに言われると恥ずかしいです。
 母が冷たい麦茶と菓子を持って来てくれました。守屋くんは恐縮して
「あ、すいません」と頭を掻いています。
「いいのですよ。何にもありませんが、ごゆっくりね」私は母に
「狂い咲きの桜の写真ってお母様持っていましたよね?」
 そう訪ねてみたところ、母は
「ええ、持ってるけど、桜だけじゃ無く別のものも写ってるわよ。それでも良ければ」
「ええ、構いませんからプリントして欲しいのです」
「そう、じゃあ少し待っててね」
 そう言ってまた奥に消えていきました。私達の希望を叶えさせてくれるみたいで、ありがたいです。

 十分程して母が写真を持って来てくれました。それは、母が高校生の頃の「生き雛祭り」で雛の役をして、父が傘持をした時の満開の狂い咲きの桜の下を通る写真でした。
「懐かしいわぁ~。ついこの前だと思っていたのにねえ~」
 生き雛は私も中学二年から雛をやっていますが、狂い咲きの桜にあたった事はありませんし、ルートもそこを通りません。だからこの写真は貴重なのです。写真を興味深く観ていた守屋くんは
「凄い綺麗ですねえ。お母様も本当に美しかったのですね。それに桜も満開ですね」
「そう? そう言われると恥ずかしいですね」
母はついでに今年の祭りで私が行列した写真も持って来ました。
「うわ! 千反田さんお母様そっくり!」
 私は話が違う方向に行きそうになったので
「違うでしょう。桜よ桜。それが大事でしょう」
 と会話を修正しました。
「ああ、そうか、『生き雛祭り』という事はこの写真が紛れもなく四月三日の撮影だと言う証明になりますね」
「あの、これ文集の原稿に載せても良いですか?」
 守屋くんは真剣に母にお願いをしました。母は
「私は構いませんけど、もう一人が何と言うかしら?」
「もう一人? 誰ですかそれは……」
 私は誰だか知っていますが、守屋くんには想像がつかないでしょう。
「守屋くん、そのね。後ろで傘を持ってる人物が居るでしょう?」
「ああ、この人ね。この人が何か……」
「それね、父なの! おかしいでしょう。似合って無くて」
「えっ!」
 守屋くんはまじまじと写真を眺めていましたが、
「確かに……似合っていませんね」
 そう言って笑い出しました。
「今本人に聞いてみるから、少し待っていてくださいね」
母はそう云うと携帯を出して連絡を取っています。
「もしもし、わたしです。今大丈夫ですか?」
「あの、ほら狂い咲きの『生き雛祭り』の時の写真を、古典部の守屋さんが『氷菓』に載せたいそうなんです。それで写ってる貴方の許可も戴けないかと思いまして……」
「はい、そうですか……構いませんか。はい、判りました……え?大丈夫です……はい。じゃお帰りを待っています」
 母は父から許可を貰ったみたいです。
「守屋さん、主人も構わないそうです。使って下さい」
「有難う御座います。これでしっかりした記事が書けます」
 守屋くんは嬉しそうにして写真をカバンに仕舞いました。母は、「それじゃ」と言ってまた奥に下がって行きました。思わぬ事で父と話が出来たみたいで、母は機嫌が良くなった様です。

「僕の方は、それで片付いたけど、千反田さんの方がこれからだね」
 守屋くんは今度は私の方を心配してくれる様です。本当に人が良いと思います。普通の男子ならここで「じゃあ、今迄の事を纏めるから」とか言って帰ると思うのですが、とことん私に付き合ってくれる様です。
「ごめん、守屋くん、わたしの方は推論は出来ているのだけど、等高線のある地図を見てちゃんと確かめたいの。それじゃないとハッキリ言えないから……明日、守屋くん暇かな?」
「僕は暇だよ。明日も何処か行くのかい?」
「うん、その地図が見たいし、出来ればコピーも欲しいから図書館に行こうと思うのだけど、明日も一緒に行ってくれるかしら?」
「僕は構わ無いよ。千反田さんの推論も聴きたいしね『逆流する水梨川』」
「ありがとう。本当に優しいのね守屋くん」
「お礼を言うのは僕の方だよ。いつかちゃんと言わないといけないと思っていたのだけど、あの時に千反田さんが僕の無罪を証明してくれ無かったら、僕の高校生活は暗いものになっていたと思うんだ」
「だから、千反田さんは僕にとって恩人なんだ」
「それに」
「それに、なあに?」
「いや……千反田さんみたいな可愛い娘と知り合いになれたのも嬉しいしね」
 可愛い? 私は守屋くんの言った事が瞬間には理解出来ませんでした。だって、男の子から『可愛い』なんて言われた事が無かったからです。
「そ、そんな事言われたの始めてだから、その……なんて言って良いか判らないけど……ありがとう、とても嬉しい」
 そう言いながら多分真っ赤な顔をしていたと思うのです。

 翌日九時半に守屋くんが迎えに来てくれる約束をして守屋くんは帰りました。私は玄関先まで守屋くんを送り、その姿が見えなくなるまで佇んでいました。まだ、胸の鼓動が収まりません。いったいどうしたのでしょう。始めての事です。後で母に相談してみましょうか?
 いや、沙也加お姉さんにしましょう。きっと回答を教えてくれると思います。
 明日も守屋くんに逢えると思うと不思議と嬉しくなります。友達と逢うのは楽しいですよね。
 私はその時はそう思っていたのでした。

三次創作「17年目のバレンタイン」

今日から、かなり前ですが書いていた三次創作の話を連載していきます。
 これは「氷菓」の二次創作を元に私が勝手に世界観を広げ、
奉太郎と千反田さんの子供の世代の話を書きました。
 設定としては、これ以前に書いていた二次創作の延長の設定になっています。
 奉太郎は自分で農業関係の会社を起こし、千反田家の農家と両立をしている。
 二人は一時離れた時があったが二十六歳の時に結婚している。
 等の過去設定がたまに顔を出します。
 そして、かなり出来が良くないとは思います。それでも一読して戴けるなら……続きを読む
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