二次創作

「氷菓」二次創作 「二人の夏休み」

 今年の夏休みは長くなりそうな予感がしていた。それは休み初日の事件があったからなのだが、その後も色々な出来事が起きる予感がしていた。  七月も終わるという頃、昼の食事を作ろうと思っていたら電話が鳴った。出て見ると相手は女性の声だった。頭の切り替えが出来ていなかった俺は、その声の持ち主がよく知っている者だとはすぐに気がつかなかった。
「はい折木ですが」
「ああ折木さんですか! 良かったです」
「はい?」
「あ、千反田です。千反田えるです。先日は本当にありがとうございました」」  
 ここまで聴いて俺は電話の相手が千反田だと気がついた。
「ああ千反田か。どうした? それより大丈夫なのか?」  
 正直、その後のことは俺は聞いていない。だからこの電話はその後のことについての事だと思った。 「あ、先日のことはもう済みました。色々とご迷惑をおかけして申し訳ありませんでした。今日は、新しいことがありましたので、相談というより折木さんに聞いて欲しくて電話してしまいました」
  新しいこととは何か? それが千反田の身に降りかかるものなら聞かなくてはならない。そう思った。
「判った。都合をつけるから昼飯を食べたら何処かで逢おうか?」  
 そう言ったら千反田は含み笑いを押し殺したような声で
「実はもうすぐ傍まで来ているのです。近くの公衆電話からかけているのです。今からお邪魔してもよろしいでしょうか。二人で食べようと思い色々用意して来ちゃいました」  
 なんのことは無い。相手は既にそこまで来ていたのだった。
「判った。今日は平日だし、姉貴は居ないので家には俺しかいないぞ」  
 一応言っておかなくてはならないと思う 「はい、実は大事なことなので、わたしもその方が好都合です」  
 何が好都合なのだろうか。正直二人だけになれば何が起きるか判らないのだが。
「そこまで準備してるなら来れば良いさ。待ってるよ」
「ありがとうございます!」  
 そう言って受話器を置いて二、三分経った頃に玄関のチャイムが鳴った。開けると外には一杯に詰めたカゴを両手でぶら下げた千反田が立っていた。薄緑色のブラウスに紺のタイトスカートが夏らしさを漂わせていた。タイトスカートとは千反田にしては珍しかった。スカートの裾から伸びた脚が眩しかった。
「お言葉に甘えて来ちゃいました」  
 その声には喜びの他に安心感が漂っていた。俺は千反田の身の上に置きたことが普通のことでは無いような気がした。
「ま、入れ。何も無いがな」  
 千反田を招き入れるとスリッパを出した。千反田はそれを履くと
「台所お借りしてもよろしいでしょうか。一緒にお昼を食べたくて」
「ああ構わない」  
 千反田は以前にもウチに来ているし、その時に台所も使っている。  千反田はそのまま台所に行くとガサゴソと何やら準備をしていた。数分後だろうか、千反田が台所から長盆に色々なものを載せてリビングに入って来た。リビングのテーブルにそれらを並べて行く
「サラダとウチで採れた野菜の煮物と家で作って来たミックサンドです。ハムとチーズ、それにツナ、タマゴです」  
 野菜サラダはレタス、キュウリ、トマト、それにベビーコーンと脇には生ハムが添えられていた。その脇には千反田の手作りのドレッシングが置かれていた。
「さすが、うまそうだ」  
 千反田の料理の腕は既に知っている。期待も高まろうと言うものだ。俺は飲み物を取りに台所に向かう
「千反田飲み物は何が良い?」
「そうですね。アイスティーはありますか?」
「あああるぞ、既製品だがな」  
 大きめのボトルを千反田に見せると
「それは好きな銘柄です」  
 そう言ったのでグラスに氷を入れて注ぎリビングのテーブルに置いた。
「折木さんもこの銘柄がお好きだったのですね」  
 本当は姉貴が買っておいた奴だが
「まあな。これは良く飲むよ」  
 そう言って誤魔化す。
「それじゃいただきまよう」
「ああ、いただきます!」
「いただきます」  
 千反田の手作りドレッシングは爽やかで夏向きで食欲を増進させる気がした。サンドイッチも旨い。普通の食パンとは違う気がした。
「このパンが普通とは何か違うな。何処かの有名な店のか?」  
 俺は千反田が昨日あたり市内の有名な店で買っておいたのだと思ったのだが
「喜んで貰えて嬉しいです。それは昨夜、わたしが焼いたやつです」
「お前、パンも焼くのか?」
「はい。子供の頃から母に教えて貰い焼いていました」  
 それを聞いて俺は千反田の料理の腕が付け焼き刃では無いとは思っていたが筋金入りなのだと認識した。
「サンドイッチのからしバターも塩梅が丁度良い。辛すぎず甘すぎずだな」  
 俺の感想を耳にして千反田は嬉しそうな表情を見せた。この笑顔を見るだけでも今日は良かったと思った。  野菜の煮物は里芋、人参、牛蒡、椎茸、南瓜などだった。これも薄味ながらちゃんと芯まで味が染みている。
「これも朝から煮たのです」  
 つまり千反田は昨日から今日は俺の家に来るつもりだったのだ。俺が用事でもあればどうしたのだろう? それを問うと
「それはほぼ大丈夫だと思っていました。ある方に相談したら『多分大丈夫だと思うわよ』と言われ」ましたので」  
 その相手は大体想像出来た。何のことはない仕組まれていたことだったのかも知れなかった。  最初は他愛ないことを話していたのだが、突然千反田が思い切ったように語りだした
「実は今日聞いて欲しかったのはわたしが何故、家を継がなくても良いと言われた原因が判ったのです」  
 その言葉で二人の間の空気が一変した
「理由があったのか? 家に縛られなくても良いという理由以外にか?」
「はい。もしかすると、事情によりわたし二学期から家を出ることになるかも知れません」
「家を出る? 転校するのか?」
「いいえ、転校はしませんが今住んでいる家を出ることになるかも知れないのです」  
 全く困ったものだが、千反田の悪いクセで自分の中にある結論から語りだしてしまう。
「最初から説明してくれないか」
「ああ、すみません。いつも癖で……。実は千反田の家が破産するかも知れないのです」  
 破産とは穏やかなことではない
「どういうことなんだ?」
「はい、千反田農産なのですが、実は借入金がありまして、これまでちゃんと返済していたのですが、今年の不作が響いて返済が滞ることがありました。そうしたら担保として取っている抵当権のついた農地を売却して返済するように言って来たのです」
「交渉はしたのか?」
「はい弁護士なども交えて交渉したのですが今年に入って利息も払えない状態でしたので」  
 俺は千反田の家がそこまで困っているとは思ってもみなかった。
「それで家を継ぐ必要はないということなのか? で、家を出るというのは?」  
 破産は兎も角、農地の一部を売却しても千反田の土地は広大だ。資産は減るだろうが、家の売却まではありえないと思った。そのことを問うと千反田は
「確かに返済はそれで済みますが、一度こんなことがあると、今後は融資をしてくれる所もありません。資金を得る為には他の土地も売却しなくてはならないのです」
「じゃあ全部でどほど売るんだ」
「今判っているだけでも大凡八割です」  
 それを聞いて愕然とした。恐らく鉄吾さんは千反田を騒ぎに巻き込みたく無いのだろうと推測した。だから家を継がなくても良い。家から一旦出た方が良いと考えたのだろう。
「それで何処に行くのか決まったのか?」
「多分横手の伯母のところだと思います。あそこならわたしも慣れていますから」  
 俺は雨の降る中蔵に閉じこもっていた千反田を思い出した。  外が急に暗くなって来ていた。千反田の話に夢中で気が付かなかったが、にわか雨が降りそうだった。
「千反田。自転車で来たのか?」
「はい」
「雨が降ってくるぞ、自転車を中にいれておいた方がいいな」  
 そう言って俺は玄関の外に置かれていた千反田の自転車を家の中に入れた。その瞬間だった。ザーという音とともに雷が鳴り滝のような雨が落ちて来た。
「危ないところだったな」  
 心配そうな表情で俺の作業を眺めていた千反田に安堵の表情が浮かんだ。
「わたし、今少しだけですが想像してしましました」  
 千反田が少し恥ずかしそうな表情を浮かべていた。
「何を想像したんだ?」
「もし、今が高校を卒業する時期なら、こうやって一緒に住むのもいいなって」
 見ると千反田は真っ赤な顔をしている。今までそれを考えなかったと言えば嘘になるが、来年のことなのだ。ずっと先のことではないのだ。玄関の上がり口を上がると千反田がそっと傍に寄り添って来た。その華奢な肢体をそっと抱きしめる。
「わたしの心の中にずっと折木さんが住んでいました」
「俺も同じだよ」  
 昨年の『生き雛祭り』で己の心に気がついて以来、この両腕の中の愛しい人が常に俺の心に住んでいた。
「卒業したら一緒に住むか?」
「はい。実はそのつもりでした」  
 そっと腕に力を入れて抱き締めると千反田も腕に力を入れてきた。自然と唇を重ねる。甘い感じがしたのは気のせいではないだろう。長いときの後唇を離すと
「ずっとこのままで……このままでいたいです」  
 玄関の扉の外からは夏の雨が激しく叩きつけるように降っている。その音にかき消されぬように千反田の耳元で告白する
「俺はお前が好きだ。誰にも渡したくない」  
 その声を聞いて俺の背中に廻した千反田の手に一層力が入ったのが判った。


                        <了>

「氷菓」二次創作 「小さな幸せ」

 朝の見回りが済み、家に帰る道すがら、田圃に咲いた花菖蒲を切って持ち帰る。もう梅雨に入る時期が迫っている。雨が降るのを待って田植えをする。昔から変わらない農家の行いだ。
「ただいま。田圃に咲いていたから切って来た。床の間に活けてくれないか」
 そう言って妻のえるに三輪の花菖蒲を差し出す。
「あら、今年はもう咲いたのですね。例年より早いですね」
 えるは、そう言って受け取って
「この時期は本当に綺麗ですからね」
 そんな事を言いながら花瓶に活けて床の間に持って行った。帰って来ると
「朝ごはんの支度が出来ていますから、ご飯にしましょう」
 そう言って鉄吾さんとお義母さんの名を呼ぶ。その後で娘の部屋に娘の恵を起こしに行く。すると恵はえると一緒にやって来て
「もう起きてました」
 そう言って少し頬を膨らませた。今年で小学校4年生になる娘は地元の小学校に通っている。成績は俺に似ずかなり良い。恐らく妻のえるに似たのだろう。
 食事を済ませると少し休んでから裏の作業場に向かう。既に「千反田農産」の社員が来ていた。
「専務。おはようございます」
 それぞれが挨拶をする。俺も皆に
「おはよう! 今日もよろしく!」
 そう返して行く。農作業の事では俺は一番の新参者だ。それが会社の専務なのだから笑える。
「今日は田植えの用意をして行こう。今週の末には梅雨に入るそうだ。来週の末の田植えには丁度良いだろう」
 俺がそう言うと、社員でも古株の者が
「今年は花などが早く咲いているので、少々心配しましたが、例年通りに田植えが出来そうで安心です」
 その言葉に皆が頷く。準備が出来たら田圃に向かう。田圃に行く小径を歩いて行くと、えるがラボに向かって行くのは見えた。
 俺は鉄吾さんにえると結婚する時に小さくても良いからラボを作って欲しいと頼んだ。ラボは千反田邸から田圃に行く小径の途中にある。プレハブの建物で大きさは20畳ぐらいだろうか。そこに実験室と温室などの植物を栽培する所がある。表には「千反田農産研究所」と書かれた看板が掛かっている。
 当初は、える一人で作業していたのだが、えるが妊娠して研究を中断しなくてはならなくなった時に大学の後輩の女性が手伝ってくれるようになった。今では立派な研究員として勤務して貰っている。農業の研究には二人一組でやる事が多いのでその意味では大いに助かっている。
 田圃で作業をしていると娘の恵が登校するのが見えた。この辺りは家々が離れているので集団登校が早くから行われている。俺の育った神山市内ではそんな事が無かったので新鮮だった。
 お昼は普通はお義母さんが拵えてくれるが、えるも研究に余裕がある時は作る。夢中で作業しているとスマホが震えた。昼飯の時間の通告だった。基本的には社員一緒になって食べるのだが、中には弁当を持って来る者もいるし、家から特別なものを持って皆に振る舞ってくれる者もいる。例えば食後の果物とか、あるいは三時のおやつに蒸した薩摩芋等だ。
 手を洗って作業場で食べる。今日は握り飯に鶏の唐揚げ。沢庵に南瓜の煮物。それに筍と和布の酢味噌和えだった。酸っぱさが体に心地よい。少し遅れて、えると研究員の子も加わる。えるは
「この酢味噌和えは昨夜わたしが作っておいたのですよ。味は如何ですか」
 そう言って味を尋ねて来た。それで納得いった。味が俺好みだったからだ。
「ああ特別に美味しいよ」
 そう答えると、えるは照れ隠しか
「頬にお弁当付いていますよ」
 そう言って俺の頬からご飯粒を取って自分の口に入れた。それを皆がニヤニヤしながら笑っている。
 小一時間の休憩もそこそこに農作業に戻る。えるも研究員の子と一緒にラボに戻った。研究は結構成果を挙げており、先日はこのラボが改良を加えた野菜の種がえるが以前勤務していた種苗会社に権利を買い上げられた。結構な金額だったという。千反田農産としてはこの陣出では余り育たない種類の野菜だから権利ごと売った方が利益になる。その資金を元手にして地域に色々な事が出来ると、鉄吾さんと俺、それにえるが同意したのだ。
 えるが以前勤務していた種苗会社からは色々な研究の要請を受けている。大手では手が届かない分野の研究依頼だそうだ。これも研究費共々となる。
 そのような事で、ラボ単体では結構な黒字になっている。えるとの結婚が決まり、彼女が退職する時は会社の上役達が惜しんだものだ。俺はえるより遅くまで会社に勤務していたので、随分と言われたものだ。
 陽が西に傾く頃に作業から上がる。社員達も作業場で着替えるとそれぞれ帰路に着く。俺も着替えると湧いている風呂に入る。結婚当初はえると一緒に入ったものだが、最近はご無沙汰だ。尤もその分は夜に廻している。
 風呂から上がると夕食の用意が出来ている。夕食は結婚当初は鉄吾さん夫婦と一緒に採っていたのだが、娘が生まれると食事のサイクルが合わないので
「無理に合わせることも無いだろう」
 そう鉄吾さんが言ってくれたので、それからは無理に合わせることは無くなった。勿論朝などは一緒に採ることが多いのは言う間でもない。きょうは、二人は夕刻に出かけたので夕食は夫婦と子供だけとなった。
「今夜はカレーにしました」
 カレーは娘の恵が好きな料理だ。但し辛くない奴だが。テーブルの上には大盛りの野菜サラダが大皿に乗せられている。脇には揚げ物が乗せられた皿がある。揚げ物はコロッケ、エビフライ、それと一口カツだ。それらを自由にトッピングする趣向だ。鉄吾さん夫婦と一緒ならこんな献立は出来ない。子供に合わせた献立だからだ。
 席に座ると前は娘の恵で右側にえるが座る。えるは冷蔵庫からビールを出して来てグラスに注ぐ。俺もえるの小さめのグラスにビールを注ぐ。最近は一口ぐらいなら大丈夫になった。娘の恵には既にカレーがよそわれている。
「いただきま~す」
 手を合わせて感謝すると恵はカレーをスプーンで掬って食べ始めた。俺とえるは軽くグラスを交えてビールを口に運ぶ。冷えた刺激が心地よい。
 ビールを飲み終わるとカレーがよそわれた。俺自身、家で晩酌の習慣は無いのでこのぐらいが丁度良いのだ。
 家族で今日あった事などを話し合う。恵が学校で起きた出来事を夢中で話している。それを楽しそうに聴いてやってる妻は本当に幸せそうだ。こんな光景を昔の俺が見たら何と言うだろうか。そんなことを考えていたら、えるが
「どうかしましたか」
 不意にそんなことを訊いて来た。俺は首を左右に振って
「幸せってこんな感じなのかな。なんて思ってさ」
 そんな返事が口をついて出た。
「そうですね」
 そう言ったえるの表情は輝いていた。

氷菓二次創作 「夫婦の寝室」

地学講義室の入り口の扉を開けた時に、その音で振り向いた彼女と初めて出会った。その姿を見て、『瞳の大きな人』だと思った。
 縁があったのだろう。俺は彼女と同じ部活動に入って高校時代を一緒に過ごした。
 そして彼女はいま、俺の隣で眠りについている。その緩やかな寝息がこちらまで伝わって来る。
 高校を卒業した後、色々なことが二人の間にあったが、今はではそれが幻のように感じてしまう。それぐらい今は全てが上手く行っている。
 枕元のぼんやりとした仄かな灯りが彼女の顔を少しだけ照らしている。先程まで同じ布団で一つになっていたのが嘘のようだ。
「う、う〜ん」
 浅い眠りから目ざめたのか、布団から枕元の水差しに手が伸びる。布団が捲れて素裸の二の腕が顕になる。はっとするような白い腕だ。やがてそれでは届かないと悟ったのか、うつ伏せのまま体を起こした。しどけなく開いた寝間の胸元から深い谷間を覗かせる。やがて俺が見ていたことに気が付き
「起きていらしたのですか」
 自分の行動を全て見られていたという恥じらいからか頬を淡く染めていた。
「ああ、眠れなくてな。お前の寝顔を見ていた」
「趣味が悪いです」
「そうか、それはすまん」
「駄目です。許しません」
「おやおや怖いことだ」
 彼女は水差しからグラスに半分ほど水を注ぐとそれを口に含み半分ほど飲み込んだ。そして俺の顔を抱き込み、そのまま口を付けて残りの水を俺に口移しで飲み込ませた。やっと飲み込み
「こぼしたら布団が駄目になるところだった」
 悪い遊びを注意すると彼女は自分の布団から俺の布団に移って来た。
「眠れないなら……」
 彼女はそこまで言うと俺に口づけをして来た。お互いが口の中で絡み合うような濃厚な口づけだった。思い切り彼女の躰を抱きしめる。柔らかで溶け込みそうな感触が襲う。
 彼女が俺の手を取り、自分の寝間の紐を外しにかかる。開くと中は何も身に付けていなかった。大きく美しい形の良い二つの高まりが俺を誘っているようだった。
「脱がせてあげます」
 そう言って彼女は俺の寝間も脱がせにかかる。
「うふ。もうこんなに……」
「こんな素晴らしい景色を見て正常に居られる訳がないよ」
 彼女の右手が俺の固くなったものを柔らかく握る。そのまま抱きしめて口づけをしながら、寝間を肩から脱がせ、生まれたままの姿にする。仄かな灯りに照らされて浮かび上がる裸身は想像以上に美しく男の欲望を掻き立てる。
「なぜ何も下に身に着けていなかったんだ」
「あなたも同じでした。同じ理由です」
 そう言って俺の股間に顔を埋めた。
 お互いに求め合い喜びを求め合う。彼女が何度も極めた後に俺も彼女の中に喜びを放出する。
 その後俺が腕枕をすると喜んで頭を付けて来て俺の胸に顔を埋めて
「このまま朝まで……」
 そう御ねだりをして来たので、黙って頷く。お互い素裸のまま抱き締め合う。布団を肩まで掛けてやると、そのまま寝息を立て始めた。俺もいつの間にか眠りに落ちた。
 翌朝、気がついてみると彼女の姿はなく、朝日が部屋に差し込んでいた。
「起きましたか?」
 彼女が無地の薄く蒼いウールの着物の上に割烹着を着て部屋に入って来た。
「早起きだな」
「はいお風呂も沸かしておきました。あなたもお入りなさいな」
 そうか、昨夜はあのまま寝て、今朝早く風呂に入ったのかと納得した。綺麗好きな彼女なら、あの後シャワーでも浴びると思ったのだが、それより温もりが大事だったのだと思った。
 言われたまま浴室に赴くと、着替えやタオルがちゃんと用意されていた。顔を見せた彼女に
「出来れば一緒に入りたかったな」
 そんな戯言を言うと
「わたしも、そう思いました。でも、あなたが中々起きませんので、遅くなってしまいました。今度二人だけの時に一緒に入りましょう」
「明るい時にかい」
 その言葉には返事こそしなかったが、嬉しそうな表情が物語っていた。
 さて今日も頑張って働こうか。

                               <了>

氷菓二次創作 「夫婦の営み」

内容が内容ですので、一応R-18としました。

 俺が千反田と一緒になってから三ヶ月が過ぎた。当初は鉄吾さんも家を継がなくても良い。と言っていたものの、俺が婿入りでも構わないと考えていることや、えるが農学の道に進み博士号まで取得した事などから当初の考えを改めた。
「いや、本音ではそりゃ、えるに継いで貰いたいと思っていても、今どき婿入りする人物なぞ居ない。来るのは能力の低い者かウチの財産目当ての者と相場が決まっている。だから自由にしても良いと言ったんだよ。でも、まさか奉太郎君みたいな人物がえると同級生で、しかもお互いが想い合っていたなんて思わなかった」
 そんな経緯があって俺は折木奉太郎から千反田奉太郎と姓を改めた。だがこれは俺が思っていたより大変な事だった。と言うのも俺は鉄吾さんの後継者となった訳で、それならば、将来は鉄吾さんに変わってこの千反田を動かさなけれなならない訳だ。
 物事の順序としては最初は顔繋ぎが重要になる。俺が新しい後継者として、神山の有力者達と会って覚えて貰う事が重要となるのだ。これが意外と大変で、俺は連日夜になると、アチコチの会合に引っ張り出さられて呑まされた。帰るのは深夜近くとなる。
 翌日は五時起きで、日中一杯本業の農業のことを学ぶのだ。夕方終わって一風呂浴びれば夕方から始まる会合に顔を出す訳だ。
 こんな生活を三ヶ月も続けていたら、体が持つ訳がない。当然夜のお仕事はお休みとなる。というより、そんな気が起きない。
 深夜近くなら夫婦二人でお風呂に入り、アンなことやコンなことをするとは思うが、風呂は昼の仕事が終わるとすぐに一人で入る。妻のえるとは別々なのだ。
 当然、えるの欲求が高まって来るが、なんせこちらも人間だ。そうは行かない。結婚当初の数日は本当に朝から夜まで頑張った。それがマズかったらしく、えるは、それが夫婦として、当たり前だと勘違いしてしまったみたいなのだ。
「今夜もお疲れですか?」
 枕元に淡い色のスタンドの灯りを燈して悩ましげに、そして寂しげに語りかけるのだが、何せ体が持たない
「明日な。明日なら……」
 そう言って布団を被るのだった。
 そうして三ヶ月が過ぎてしまったのだ。

 やっと会合も少なくなって来た二月の中頃に、農協のバスツアーが行われることになった。千反田からは鉄吾夫婦とお婆さんも参加することになった。
 二泊三日の温泉旅行だ。これは農閑期を利用して毎年この時期に行われているらしい。例年なら俺たち若夫婦も参加するそうだが、今年はそうは行かなかった。と言うのも、ウチの畑ではえるが作った新しい小麦の試験栽培をしているのだ。これは俺とえるが進める事業だから人任せにする訳にも行かない。結局、俺たち二人は残ることになった。
 だが、それほど仕事は無いのだ。精々が試験栽培をしている畑を見回る事ぐらいだ。それも早朝に終わってしまう。
 バスを見送って家に帰って来る
「おお寒い。家の中は暖房が効いていて温かいな」
 家の中はエアコンを始め、ガス温風ヒーターや色々な暖房があり、かなり温かい。それにしても温か過ぎないか? コートを脱ぎ、上着も脱いてセーター一枚になる。それでも汗が出るぐらいだ。
「おい、何だか暑すぎないか」
 キッチンに居るはずのえるに声を掛ける。
「そうですが。暑ければ脱げば良いと思います。私は脱ぎましたよ」
「それはそうだが、脱いでも暑いと思わないか?」
「それは脱ぎ方が足らないと思います」
 そう言ってキッチンから出て来たえるの姿を見て驚いた。素っ裸……いや、正確には自分の腰の前の部分を小さなエプロンで隠している。それだけなのだ。豊かで形の良い胸や艶めかしいウエストも全て露出している。
「ほら後ろもですよ」
 そう言ってクルっと回れば豊かな胸がぷるんと揺れる。そして形の良い二つのお尻が丸出しだ。その尻の上にエプロンの紐が結んである。あれを外したいと考えてしまった。
「おい、朝からなんて格好してるんだ」
 そうは口から出たが、この姿をもっと楽しみたい、という思いもあった。
「いいじゃ無いですか。今日明日は二人だけです。地域の人も皆旅行に行っています。誰も来ません。来ても居留守すれば良いです。もう三月も何も無いんですよ。わたしもう……」
「それでそんな格好をしたのか?」
「実は摩耶花さんに相談したのです。摩耶花さん夫婦はマンネリになると、摩耶花さんが色々な格好をして福部さんを誘うのだそうです」
「あいつら、そんな事やっているのか」
「元々は沙也加ちゃんが生まれてから、回数が減ってしまったので摩耶花さんがこの格好をしたのだそうです。そうしたら授乳中だったので摩耶花さん、お乳が張っていて物凄く巨乳になっていたので福部さんが喜んだのだそうです。それがヤミツキになったとか。だからわたしが相談したら、是非やって見た方が良いとアドバイスしてくれたのです」
 あいつらも、それなりにやってるのだと思った。確かに今日と明日は二人だけで邪魔をする者は居ない。そう考えを改めて、俺は目の前にある豊かな膨らみに手を伸ばす。
「ああんエッチです」
「どっちがエッチなんだ」
「奉太郎さんです」
「どうしてだ?」
「だって、わたしは裸同然ですが奉太郎さんはセーターとズボンを履いています。わたしと同じ格好をしてください。そうなれば対等です」
 変な理屈だが確かに俺がここで服を着ている必要は無い。俺は素裸になると、えるを押し倒す。そして両足を広げてエプロンを捲る。そこは既に外から見ても判る程濡れていた。
「何だもうグショグショじゃないか」
「だって、朝のお日様の明るい内から、こんな格好をして夫とはいえ人に見詰められて、恥ずかしくて、恥ずかしくて……摩耶花さんが『ヤミツキになる』と言った事がわかります」
 その泉に舌を這わすと泉の主は喜びの声をあげた。
「ああん、本当に久しぶりです」
 俺の何かに火が点いた感じだった。シックスナインの形になるとお互いの口で愛し合う。しばらくその状態だったが、やがて
「もう……お願いします」
 哀願されるまでもなかった。己の硬くなったものを溢れる泉に挿入した。そして果てるまで求め合ったのだった。
 正直言うと俺は、えるのその格好が気に入ってしまい。その日一日、更に翌日もエプロン一枚にさせた。そして何をする時にも傍に居させて、えるの豊かな躰の感触を楽しんで、お互いが求め合えば応じあったのだった。
 三日目は夕刻に皆が帰って来るので、朝から二人で家の掃除をした。昼頃までには終わって、素知らぬ顔で出迎えたのだった。
 その夜、自分達の部屋に下がると、えるが
「わたし、ヤミツキになりそうです。今度はどんな格好しようか今から考えておきます」
 そう言って妖艶な笑みを浮かべた。俺も
「里志達はどんな事やってるか訊いてみるか?」
 そう返すと
「二人目が欲しいと言ってましたから、きっと凄い事やってると思います」
 そんな返事が来た。俺はえるを抱きしめキスをすると
「あんなに沢山したのに、今夜もですか?」
 そう言って少し驚くので
「嫌かい?」
 そう尋ねると
「いいえ。今夜はどんな……」
「何も身に着けないこと」
 そう言ってえるの衣服を脱がせた。


                            <了>

氷菓二次創作 「出会いと別れ」

 千反田と初めて逢ったのは神山高校に入学間もない頃だった。
 OGの姉貴のたっての願いで「古典部」に入部する事にしたのだった。その入部願いを出しに「古典部」の部室である特別棟の四階にある地学講義室を訪れた。もとより「古典部」には部員はおらず誰も居ないのを見越して職員室から鍵を借りて出向いたのだった。
 だが俺の考えとは違い地学講義室の扉は鍵が掛かっていなかった。不思議に思いそっと扉を開くと教室の窓際に一人の髪の長い少女が外を見て立っていた。少女は俺が扉を開いた音に反応して振り向いた。その瞳を見た時何故だか俺は吸い込まれる様な気がした。そして初対面の俺に向かって
「折木奉太郎さんですね」
 そうハッキリと言ったのだ。俺は何故初対面の人間の名前が判るのか疑問に思ったが、少女が言うのは隣の組との芸術科目の合同授業で一緒になったらしい。しかし、この授業は入学してから一度しか行われていなかった。凄まじい記憶力だと思った。
 少女の名は千反田える。後から里志から聞いた限りでは北陣出の旧家で豪農だそうだ。そこの一人娘だった。そして俺は不思議な縁に導かれて「古典部」に入部した。部員は千反田える、折木奉太郎、福部里志、そして少し遅れて伊原摩耶花の四名となった。

 同じ部活をしている間に、俺は千反田の頼みを聞き入れ、彼女の忘れていた記憶を取り戻す切っ掛けを手助けした。後から思えばこの時にある程度信用されたのでは無いだろうか? 今ではそう考えている。
 千反田は段々と学校の外の事にも俺に同道を求めるようになって行った。当初俺はその意味を深く理解していなかった。俺がその事を理解したのは、二年になった四月の初めの「生き雛祭り」だった。
 艶やかに着飾った千反田の姿を見、その後ろから傘を差して行列をしたのだった。この時俺は自分の気持ちに気がついた。それからと言うもの俺は次第に千反田の考えを推理するようになっていく。言い換えれば千反田の立場で物事を考える事が多くなった、と言う事でもある。
 下級生との行き違いをマラソン大会の最中に整理したり、音楽コンクールで姿を隠した千反田を雨の中迎えに行ったりもした。昔の俺なら到底考えられないことである。でも俺は選択してしまった。何処まで行けるか判らぬがこの道を行くと言うことを……。

 二年の夏休みの初日の夕刻、俺は南陣出の横手さんの家の蔵に居た。降り出した雨に濡れながら佇んでいると、蔵の扉がそっと開かれた。薄暗い蔵から現れたのは白いブラウスに黒いスカート姿の合唱団の制服を身に纏った千反田だった。しかしその表情には精彩が無く顔色は蒼白だった。
「折木さんありがとうございます!」
「どうするんだ? 行けるのか。無理しなくても良いんだぞ」
 千反田の様子を見ると、とても舞台で独唱しろなどとは言えない。
「でも皆さんに迷惑がかかってしまいます。千反田の娘としても行かなくてはなりません」
 千反田はそうは言ったが明らかに無理をしてるのが判った。
「千反田。もう一度言う。無理しなくても良いんだぞ」
 今度はゆっくりと口にした。すると千反田は
「折木さん……わたし怖いんです。何も無かったら怖くも何とも無かったと思います。でも、でも今はあそこで独唱するのが怖いんです」
 初めて見る千反田の怯えた表情だった。恐らく家族以外……いいや今まで誰にも見せたことの無い千反田の心の弱さだった。
 薄暗い蔵の中に一歩踏み入れて千反田をそっと抱きしめた。そこには成績優秀で旧家の一人娘の千反田えるはいなかった。多くの重圧から突然開放され行き場を失った一人の少女だった。
「おれきさん」
 何も言葉は出なかった。ただ、しっかりと抱きしめた。千反田もその躰を俺に預けてくれた。自然と唇を重ねる。何も言わなくても理解していた。この場に留まれば俺も非難の対象になる。それを理解した上での言葉だと言う事を。俺の気持ちはお前と一緒なんだと言う事を……。

 その後はやはり大変な事となったし、俺と千反田の関係も世間に知られる事となった。何れ判ることなのでここには記しない。俺と千反田は学校以外でも自然と一緒に居る事が多くなった。
 千反田は俺にそれまでは語ることの無かった自分の本音を言う事が多くなった。それらは他愛ないものもあったが、自分の将来についての事柄も含まれた。
「折木さんはもう進学先を考えていらっしゃいますか?」
 千反田が俺の家に来て、昼食を作ってくれて一緒に食べていた時のことだった。
「まあ凡そはな。俺の成績なら入れる所優先だよ」
 お世辞にも俺は成績の良い方ではない。かと言って特別悪い方でもない。所謂普通なのだ。
「お前は決めたのか?」
 千反田の作ってくれた野菜ソテーを取皿に盛りながら問うた。
「はい、やはり京都の京大に進もうと思っています」
「農学部があるからか?」
「はい。そうですね。許されるなら日本でも有数の所で学びたいと考えています。東京大学もありますが、京都の方が家に近いもので、父の許しも出そうなのです」
 神山から東京は遠い。神山線の特急で名古屋まで出てそこから新幹線となる。時間にしては四時間半ほどだが事実上半日以上が潰れてしまう。岐阜羽島まで迎えが来たらかなり楽にはなるが、それでも名古屋で乗り換えが必要になる。富山まで出て新幹線という手もあるが時間が掛かるのは変わりない。それに比べ京都ならこだまで直ぐだ。一時間かからない。比べれば京都という結論が導かれるはずだと思った。
「わたし、将来は農学博士の資格を取って神山と陣出の農業に尽くしたいんです」
「嫁に行っても良いと鉄吾さんは言っていたけどな」
「それとこれとは別です。例えばわたしが折木えるになっても農業の道には進めます」
 うん? 今何か大変な事をさらりと言った気がするが。
「あ、これは例えです。はい」
 千反田は真っ赤な顔をしている。俺はここはツッコミどころかとも思ったが
「おれきえる。オレキエル。俺消えるだな」
 詰まらないベタなダジャレでしのいでしまった。
「折木さん。将来もこうやって毎日一緒に食事が出来れば良いですね」
「ああ、そうだな」
 その時は普通にそう思っていた。かなり現実味のある未来だと……。
 千反田は京大に合格し、京都に住まいを移した。俺は東京の三流大学に進学した。俺と千反田は離れ離れとなった。
 当初はそれなりに連絡を取り合っていたのだが、やがて千反田の実験が始まるとそうも行かなくなった。段々と連絡が途切れがちになった時だった。夜遅く千反田から電話が入った。思えば久しぶりの電話だった。
「よう暫くだな。元気にしていたか?」
「はい元気でやってます。こんな遅くにすみません。どうしても伝えたい事がありまして」
 思い詰めたような千反田の声だった。思わず姿勢を正す。
「何があったんだ?」
「はい実は留学のチャンスが訪れたのです。わたしが師事してる教授が交換留学生の相手にわたしを推薦してくれたのです」
「留学か……。どのぐらいなんだ?」
「とりあえず二年です。わたしが希望して成績が良ければ延長出来ます」
「そうか、好条件だな。行くのか?」
「出来れば 行きたいです。でも折木さんと別れるのは辛いです」
 正直言えば日本に居る限りは都合さえ付けば何時でも逢えると思っていた。でも留学となるとそうは行かない。
「留学先はアメリカか?」
 バイオ関係の研究が進んでるアメリカなら得るものも多いだろう
「はいそうです。ニュヨークです。あそこは生活費も高いので裕福な家の者でないと……。授業料は兎も角。そんな事情もあったみたいです」
 アメリカの田舎ならイザ知らず。ニュヨークは家賃も高いと聞く。千反田家ならそこら辺は問題ないのだろう。
「良いチャンスじゃないか。世界最先端の研究が出来るんだろう。大きくなって帰ってくれば良いさ」
 思っていた事と反対の言葉が口から出た。本音では俺が京都に移り住みたいぐらいだった。でもその言葉を飲み込んだ。
「行っても良いですか?」
「ああ」
「本当に行っても良いのですね。翼を使っても良いのですね」
「ああ、その翼で飛んで行けば良い、そして大きくなって帰って来い」
「ありがとうございます」
 その言葉は涙声だった。
 その後は経過を書いておく
 千反田は向こうでも優秀な成績を収め留学を延長するように向こうから求められた。最終的にはアメリカで博士論文を提出して農学博士の資格を得た。神山高校のOB達の間でも話題になった。
 アメリカに行った当初はメール等もあったが、いつの間にかそれも無くなった。それはそうだろう。異国の地での勉学はそれほど甘くはない。俺は大学を卒業して中規模の商社に入社した。主に農産物を扱う商社だった。

 今年久しぶりに高校の同期会が開かれることになった。普段は東京住まいだが休暇を取って神山に帰って来た。会場のホテルに向かう前に母校に寄ってみる事にした。出来れば思い出の教室である古典部の部室、地学講義室をこの目でもう一度見ておきたかった。
 受付でOBである胸を告げ、用紙に書き込んで特別棟の四階に向かう。鍵を借りて来るのを忘れたと思ったが、使用中かも知れないと思いそのまま階段を登った。校舎はそのままで、まるで時間が逆行した感じだった。
 四階は静かだった。もしかして今は使っていないのかも知れないと思った。誰も居ない廊下を歩いて行く。受付で借りたスリッパの音が静かに響いている。地学講義室の扉は鍵が掛かっていなかった。そっと開く。
 教室の中には窓際に一人の髪の長い女性が校庭を見ながら立っていた。俺はその後ろ姿に見覚えがあった。声をかけようとしたら女性がこちらを振り向いた。
「こんにちは折木さん。わたし帰って来ました。あなたのところに」
 その言葉は俺の空白を埋めるのに充分だった。
「おかえり」
 ありったけの想いを込めて……。

                            <了>

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