超能力高校生はパフェがお好き

「超能力高校生はパフェがお好き」 第38話 最終回

第38話 最終回 「別れ」

 新城は達也に連絡をして、10人のテレポートの能力の強い能力者を寄越して貰った。グズグズしてると連中がやって来てしまうからである。その10人の力で物質化の機械を組織の本部にテレポートしようと言うのである。

 間もなく10人が集まり、新城の命令通りに機械を囲むと皆が一斉に能力を発揮した。
すると、結構大きな体積を持っていた物質化マシーンは10人の脳力者と一緒に消えて行った。
「さあ、これで終わりだ。でも大学側はどうするのだろう?」
新城はそこを心配したが、鈴和が
「あのね、教授が亡くなった事はすでに大学側も了承済みで、近く研究所も整理させられるそうよ。だからあの連中は夜間に色々とやっていたそうよ」
綾瀬教授の霊の言葉を鈴和は忠実に伝えた。
「でも、あいつらの応援が来るわよね」
サツキが今後のことを心配する。
新城が「どうやらお見えになったみたいだよ」
鈴和も、サツキもそしてリョウさえも異世界の能力者の気を感じていた。

大学のキャンパスに出た鈴和達の前に3人の能力者が現れた。
鈴和が見たところ、いずれもかなりの使い手では無いかと思った。
如何にも強そうな感じだ。
「これはちょっと厄介ね」
サツキはこの3人を知っていた。
昔の組織で最強の5人と呼ばれた内の3人だったからだ。

「少し来るのが遅かったみたいだな。こうなりゃ、この世界の能力者を残らず片付けて、機械を貰って行く」
ここで、鈴和はおかしな事に気がついた。
そう言えばさっき母の陽子が新しく結界を張ったハズだが、どうしてやって来れたのだろう?
この連中は母の結界を破る程強いのだろうか?
そう思って考えていた。
「死んで貰うよ」
連中の一人が総叫び、気の弾を放出する。
高速で発射された弾は新城の胸に強く当たった……そして砕けた……
「うん?」
「あれ?」
鈴和が首を傾げ、敵の能力者も唖然とした。
新城が笑いながら
「鈴和ちゃん、僕が支配を発動しなかったから、変だとは思っていたんだろう? そんなに余裕が無いのかとね」
そう云うと鈴和も「どういう事なの?」と聞き返した。
「ふふふ、簡単な事さ、こいつらはマザーの結界を破ってこちら側にやって来たが、結界を破る時に能力を格段に弱められてしまったのさ。今のこいつらは普通の人間でも腕に自身があれば勝てるよ」
そう言って、新城は3人の後ろに素早く移動すると、あっと言う間に3人を気の縄で縛り上げてしまった。敵の連中は為す術もなかった。
「くそ!こんな仕組みになってるなんて……」
「さて、どうするの?」
鈴和が新城に訊くと新城は
「うん、どうせこいつらは指令に失敗したからにはもう元の世界には帰れ無いな。おめおめ帰ったら、よりキツイ前線に行かされるそうだから……そうだろサツキちゃん」
訊かれたサツキは笑いながら
「そうなの。私は嫌だったわぁ~」
そう言って3人を見ると
「あんた達でこの程度になってしまうという事は、後は誰もこちら側にやって来れないのね」
そう言って、陽子の作った結界の凄さに納得した。

「ほんと、どうするの?」
鈴和が新城に訊くと新城は
「そうだな、こっちで再教育して、僕達が両親の世界に帰る時に一緒に連れて行く。どうやら生殖能力はありそうだから、男2人と女1人というのも良い組み合わせだしね。
片方が活発なら、大丈夫だと思うんだよね」
そう言って鈴和に答えた。
「さあ、こいつらを本部に連れて行って再教育だ」
新城はそう云うと大学の門の方から親子らしき二人連れがやって来た
「お父さんと信太郎じゃ無い」
信太郎というのは鈴和の弟で達也と陽子の長男だった。
「もう片がついたみたいだね。信太郎を連れて来たのは、この子に凄い能力があることが判ったからなのさ」
達也の言葉に新城は
「ボス、じゃあもしかして、信太郎くんは例の能力者だったのですか?」
そう言って興奮している。
鈴和は、自分の家族のことなのに、新城が知っていて自分が知らないという事が悔しかった。
「ちょっと、私にも教えて!」
鈴和の言葉に達也は
「鈴和、信太郎に接触してごらん」
意味が判らなかった鈴和だが、そっと信太郎の手を取った。
「信太郎、能力を発動させなさい」
達也に云われて信太郎がメガネの奥の目をつぶる。
その時だった、鈴和は自分の能力がとてつもなく強くなっているのを感じる事が出来た。
「凄い!これが信ちゃんの能力なのね」
鈴和の気の充実度はサツキから見ても新城から見ても良く判るものだった。
「じゃあ、この3人を念だけでテレポートしてごらん」
達也の命令に従って鈴和は気を3人に送る。
組織の地下牢にテレポートするように念を送ると3人は消えて行った。
「凄い!自分でも信じられない!」
「信太郎、もういいいよ」
達也に言われて信太郎が力を抜くと、鈴和の能力は元に戻ってしまった。
「ああ、もう少し強いのを感じていたかったのに……残念!」

「ボス、遂にそれも自分の御子息から見つかるとは……」
新城が達也に今迄の事を話している。
鈴和もそれは知っていただけに感慨無量なのだ。その昔江戸の世界の志摩さんの弟さんがこの「補助」とも言うべき、能力者の能力を飛躍的に高める事が出来る能力を持っていて、同じ様な能力者をずっと探していたのだ。
それが自分の息子だった事に新城も喜んだのだった。

「さあ、全て片付いた。帰ろう!」
達也がそう云うとサツキとリョウが
「僕たちはどうなるのでしょうか?」
そう訊いてきたので、それには新城が
「リョウさんはサツキさんと当分一緒に暮らしてください。それがいいでしょう。
それに僕が生まれ故郷に帰る時に一緒に来て欲しいのです。
実は僕の生まれ故郷は激しい人口減に悩んでいます。生殖能力が皆衰えて、その世界のもの同士では子供が出来ないのです。だから、出来たらあの機械を持って行って人口が増え始める迄、魂を具現化させておきたいと思うのです」
新城はそう言って先程の機械を異世界に持って行く積りなのだ。
きっと新城なら悪用はしないだろうし、もしそうなってしまいそうになった時にリョウの様な存在が必要なのだと鈴和は思ったのだった。

「判りました。僕でお役に立てるなら喜んで一緒に行きましょう。なんたってサツキの望みでもありますしね」
リョウはそう言って笑ったのだった。


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それから3年後の上郷の家の庭

そこには既に高校を卒業し、大学に進学した鈴和、美樹、それにリョウとまるで夫婦の様なサツキ、それに新城と固く手を握ってる康子がいた。
「康子は向こうの世界で教育機関に入るのね」
鈴和がそう云うと康子は
「うん、将来のお妃だから色々と教育があるんだって、だからこっちの大学は行けないの」
そう言ってすまなそうな顔をした。
「寂しくなるな。康子もサツキも居なくなるんだね……」
鈴和がそう呟くと横にいた美樹が
「あたしが居るでしょう! そう思ったから同じ大学に進学してあげたんだから。ホントは大学行きたく無かったんだけど、鈴和がひとりぼっちで可哀想だと思ったから一緒の大学に行ったのよ。しかも同じ学部!」
そう言いながら鈴和の肩を抱く。
「判ってるわよ!ちょっとぐらい感傷的になってもバチは当たらないでしょう!」
鈴和もそう言って笑った。
この楽しい会話も後少しで交わせ無くなるのかとつい思ってしまうのだった。

「皆準備は出来たかな」
奥から達也が出て来て確認をする。
「新城家はウイに残って貰って向こうの世界との連絡をして貰います。将来僕と康子ちゃんの子供の一人に新城家は継がせます。それまでは管理も任せます」
新城がそう云うと達也は
「ウイちゃんがこっちで恋愛して結婚という事になったら、どうする?」
「その時は子供を沢山産んで貰います」
その言葉に家の中に居たウイも顔を赤らめて笑っていた。
「まあ、向こうに行けばエルスと呼ばれますが、この世界では新城剛志ですから」
新城はそう言って
「ボス、それにマザー、今まで本当にありがとうございます。いくら感謝しても感謝しきれません。この御礼はこれから僕が一生掛かって恩返しさせて戴きます」
そう言って達也と陽子礼を言った。
「それと、王子の間はちょくちょく帰って来ますから」
そう言って鈴和を安心させた。
「その時は康子も連れてきてね」
鈴和はそれを新城に約束させた。
「ああ、大丈夫だよ」
それからも何時までも別れを惜しんでいたが

「じゃあ、そろそろ行きます」
そう新城が決断をして、新城、康子、サツキ、リョウと並んだ。
向こうからも異世界に移動出来る能力者が迎えに来ていて、新城と康子の両肩に手を置いた。
サツキも片手をその肩に置き、片方の手をリョウに繋ぐ。
「準備できました」
能力者がそう云うと新城は
「じゃ頼みます! それでは皆様さようなら」
そう言って皆が手を振りながら影が段々薄くなっていって、やがて消えて無くなった。
その時、鈴和はあの世からやって来ていた綾瀬教授(元)がいないのに気がついた。
「ありゃ、教授一緒にいっちゃったんだ。まあ機械がもう向こうにあるから、きっと向こうの霊能者に扱って貰いましょう」
鈴和がそう言って苦笑いをした。
それを見た、美樹が
「鈴和、元気ださないと、また次の事件に対処出来ないよ」
「大丈夫!パフエさえ食べられれば元気が出るんだから」
鈴和はそう言って美樹に言い返したのだった。
「康子、サツキ、幸せになるんだよ。ずっとこっちで祈ってるからね」
鈴和は見えない遠い空にむかってそう思うのだった。


「超能力高校生はパフェがお好き」 了

「超能力高校生はパフェがお好き」 第37話

第37話 「潜入」

 異世界から来た研究員になりすました敵の連中は、その一人が手にガラスの容器を手にしている。
「この容器は特殊な加工がしてあり、中の魂はこのガラスを突き抜けないのさ」
その中のひとりが余裕を持った声で言う。
新城、貴様が「支配」を実行すると同時に俺たちはこの容器のこのボタンを押す。すると冷気によって魂も凍らされるのだ。諦めて俺たちの言いなりになれば命だけは助けてやろう」
全く、この状態じゃ言う事を聞くしか無いと鈴和は思い始めていた。

横を見るとリョウが鈴和に向かって片目をつむってみせた。
「うん?なんだろう」
鈴和がそう思った瞬間、何かが一瞬変わった。
気がつくと新城の両手に康子の魂が入ったガラス容器があった。
「新城さん、早く支配を!」
リョウが必死で叫ぶ。次の瞬間新城の「支配」が発動された。
全てが新城の思いのままの世界が展開される。

「鈴和ちゃん、悪いけどこれ康子ちゃんの体に戻してくれるかな」
「判った!」
鈴和は新城からガラス容器を受け取ると康子の家に向かってテレポートした。
危機は去ったのだ。

「リョウさん。あなたの能力が時間停止だとは思いませんでした」
新城は感心してリョウに言う。
リョウは「こんな形になって発揮出来るか不安でしたが、短時間なら出来ました」
敵の連中は新城が動きを止めているので、全く動く事が出来ずにただ、立っているだけだった。

「でも良かった。正直康子ちゃんの魂を取られた時は、もう絶望的になりましたよ」
新城は安堵の表情で言うとリョウは
「こいつらは目的の為なら何でもやる連中です。今回だって、亡くなった霊魂をまた再利用しようなんて自然の摂理を逸脱しています。まあ、自分がそれは言えないですが……」
リョウはそう言うと「こいつらはどうしますか?」と訊いた。

新城は「そうだねえ、組織のボスに訊いてみるかな」
そう言ったかと思うと鈴和の母親陽子が現れた。
「マザー!どうしたんですか?」
驚く新城に陽子は
「鈴和から連絡もらったから、やって来ました。この人達の霊紋を調べてこの世界に人は誰も今後こちらには入って来れない様にします」
そう言って色々と調査を仕出した。
やがて「判りました、もうこの世界の人はどういう経路でもやって来られない様にします」
そう言って、何やら呪文を唱え始める。
暫くすると陽子は「もうこれでこっちからは行けるけど向こうからは来れないというか、向こうの世界の人だけは来られない様にしました」
陽子は笑顔でそう言と新城に
「康子ちゃん無事に魂戻ったから安心してね」
そういって安心させた。
「ありがとうございます。ところでこいつらはどうしますか?」
新城のその問に陽子は「本部の地下牢に連れて行きます」
そう言うと陽子は5人を気の力でまとめると、自分と一緒にテレポートして消えて行った。
それを見ていたサツキとリョウは
「凄い!レベルが違う!」
そう言って驚いた。新城が
「マザーとボスは格が違うからね」
そう言って笑った。

「敵が居なくなったなら、研究所の中を調べてみよう。案内してくれると助かるんだが」
新城はリョウにそう頼むとリョウも快く快諾した。

リョウを先頭にサツキ、戻って来た鈴和、一番後ろを新城がついて行く。
建物のかなりの面積を占めていると思われるので、中は広い。
左右には色々な薬品やホルマリン漬けになった得体の知れないものが標本として並べられている。
リョウはサツキに「大丈夫だよ。何も怖く無い。この先に霊魂を物質化させる機械があるはずだから」
そう言ってサツキの手を取り先に進んで行く。
鈴和はこの中に霊がいるのでは無いかと思い、注意して左右を見ながら後をついて行く。
「康子ちゃんはどうだった?」
新城は先ほど陽子から様子は聞いたが、やはり心配だったのだ。
訊かれた鈴和は
「うん、全く元の通りだったし、霊魂の状態の時は眠らされていた感じで全く覚えていないそうよ」
それを聞いたリョウは二人に
「それは、実は危なかったですね。まず第一段階として、霊魂を休眠状態にして作業に入るのです」
リョウは実際の経験者だから、流石に詳しい。
「じゃあ、あいつらはこの次は康子を実験台にする積りだったのね」
鈴和が怒りをぶつける様に言うと、前方に見たことの無い機械が置かれていた。
「これが、その装置です」
そこには、正直、見たこともないという表現しか出来ない装置が横たわっていた。
前の方には何かを取り付ける処があり、出口にあたる場所はローラが轢かれていて恐らくこの上を物質化した霊魂が出て来るのだと新城も鈴和もサツキも思った。
「ここに、先ほど康子さんの霊魂が入っていたあのガラス容器を取り付けるのです」
リョウは手前にある、何かを取り付ける場所の説明をした。
その時だった。
研究室の更に奥から声がした。
「こんな遅くに誰かな? 研究員では無いようじゃが……」

歳の頃なら60代後半とも言う感じの痩せて白衣を来た白髪の人物だった。
「綾瀬博士です」
リョウが説明をしてくれる。
「あなた方は、どちら様かな?研究室の見学は昼間にして欲しいのじゃが……」
とぼけた対応に皆肩の力が抜けたが、その博士の姿を見てリョウが驚いた。
「博士! そのお姿は……」
云われた綾瀬博士は、半分笑いながら
「ああ、これか、わしも持病の発作が出てな、それで寿命が尽きてしまった。
もう少し実験がしたかったので、助手どもにわし自身の霊魂を物質化させたんじゃよ」
博士は飄々とした感じで自分に起こった事を話すと
「ところで、あの異世界から来た助手はお前さん方に捕まってしまった様じゃの」
そう言う博士に対して、新城は
「はい、我々とは敵対する者達ですから」
そうキッパリと言った
「そうか、なら仕方ない。もう研究は完成した。わしがする事も余り無いしな。それにあいつらは研究の資料を皆、異世界に持って行ってしまったからな。世界が違えば色々な事が違う。そのままでは役に立たない資料だがな」
博士はそう言って笑うのだった。
「この先はどうなされますか?」
リョウがそう訊くと博士は
「ああ、もう研究が完成したらこの世に未練は無い。この機械の始末さえ付けば、わしはあの世に行く」
「博士、元の霊魂の状態に戻れるのですか?」
リョウが驚いて尋ねると博士は
「当たり前じゃろう。この薬を飲めば物質化している物質が解けて霊魂の状態に戻る」
それを聴いて皆驚いた。リョウは
「博士、博士は霊魂の物質化という研究をなされていたのに、元に戻す事も考えていたのですね?」
「当たり前じゃろう。そうしないと世界のバランスが崩れる。物質化するのは一時的にどうしても……という場合じゃ。そのために研究していたのじゃ。
世界史を見ても、この人物があと僅か生きていてくれたら、と思う事は多々ある。
先の大戦でも、ルーズベルトがもう少し生きていたら、日本に2つの原爆は投下されなかったかも知れないし、無能トルーマンが大統領になる事も無かった……そうじゃろ?」
「そうですか、博士はその為に研究を……」

新城が呟く様に言うと博士は
「お前さん、この世界の、その組織の者じゃろう? だったら、この機械をお前さんの組織で管理してくれ、やはりわしの研究は未だ早すぎたのかも知れない。あるいは別な霊魂の存在が証明されている世界で使う のが良いかも知れない。お前さんの組織でその世界を選んで活用して欲しい。あの異世界のやつらがいずれこれも回収しに来るじゃろう。
この研究を死なない兵士の製造に使ってはならん。頼んだぞ」
博士はそれだけを言うとピルケースからピンクの錠剤を取り出した。
「リョウ君、残りは君がいずれその恋人が天国に行く時に使って一緒に召されたまえ」
そう云うとその錠剤を飲み込んだ。
「みなさん、さらばだ。わしのした事は非道な事だから閻魔様に怒られるじゃろうな」
それが最後の言葉だった。
物質化した博士の影が段々薄くなり、やがて消えて行った。鈴和が
「ふふふ、博士ここにいてニコニコしてるよ。当分お迎えが来る迄は、私達を見守るってさ」
そう、他の人間には見えなくなっても鈴和には同じ様に見えるし、会話も出来るのだった。
新城もサツキもこの時はその能力が正直羨ましいと思うのだった。

「超能力高校生はパフェがお好き」 第36話

第36話 「リョウの告白」

 サツキはリョウと呼んだ青年にしっかりと抱きついていた。
「こうしてもう一度抱けるなんて思わなかった」
サツキは涙を流しながら両の手をリョウの背中に回す。
「僕もこうしてサツキを抱きしめる事が出来るなんて夢の様だよ」
二人がしっかりと抱き合っている脇で鈴和が
「お取り込み中だけどいい?」
そう言ってサツキとリョウを見た。
「あ、鈴和、ゴメンつい夢中になってしまって……」
「それは良いのだけど、紹介してくれると助かるんだけど……」
そう云われてサツキは自分のしたことを自覚して真っ赤になってしまった。

「始めまして、僕は元サツキと同じ組織に入っていたリョウと申します」
リョウは男らしく、さっぱりとした感じで自己紹介をした。
「わたしはこの世界の組織の一員の上郷鈴和と申します」
そう鈴和が自己紹介をするとリョウは
「実は良く知っています。こちらが新城剛士さんでいらっしゃるんですよね」
「どうして、ご存知なんですか? 何処かでお会いしましたっけ?」
新城のその言葉にリョウは
「いや違うのです。わたしは向こうの世界で任務に失敗して死亡しました。
そして霊魂となってサツキのもとにやって来たのです。
ずっとサツキに取り付いていました。
そして、サツキと一緒にこの世界にやって来たのです。
それからもサツキの周りにいたのですが、サツキがあなたと戦って負傷した時に離れてしまったのです。その後再びサツキはこの世界に派遣されましたが、わたしはその時はこの大学の研究室にすでに居たのです」
リョウが今迄の経緯を話すとサツキは
「知らなかった……あの時もあなたが傍にいてくれたなんて……」
「ゴメン、僕には知らせる術が無かったんだ。だからこの世界のこの研究所で霊魂を物質化する研究をしてると知って僕はここに潜り込んで、色々な方法で綾瀬教授に僕を実験台に使ってくれるように頼んだのさ」
「頼んだって……どうやって?」
そう云うサツキと鈴和にリョウは
「なに、自動書記とか、霊感の強い研究員に憑依して話すとか、教授の夢枕に立つとか色々と方法はあるよ。そうやって教授に信用して貰って実験台になったのさ」
「じゃあ成功したんだ!」
サツキが喜びの声で言うとリョウは
「確かに物質化は成功したのだけど、量産は出来ないんだ。量産するには多くのエクトプラズムが必要だし、それから霊魂の数も多くないと気が集まらない。恐らく僕の次はまだまだ時間が掛かると思っていたんだ」
「いたんだ……という事は?」
鈴和が訊くとリョウは
「そこに、かっての組織が目を付けてやって来たんだ。元の世界から大量のエクトプラズムを持ってね。教授は研究を助けてくれるなら正直誰でも良かったのさ。化学者は往々にしてそうだけどね」
「どうして、こっちに来れたの?母が結界を張ってるのに……」
鈴和は再びリョウに訊く
「何、一旦別の世界に飛んで、そこからこの世界に飛んだのだよ。三点移動さ」
鈴和は想像していた通りだったので、驚きはしなかったがガッカリした。
これから、またあの連中とやり合うと思うと気が重かった。
それまで黙っていた新城が
「その研究は僕が生まれた世界でも有望な技術だね。亡くなっても形が残ればとりあえず人口の極端な減少は避けられる」
新城がそう云うとリョウは
「連中もそこが狙いで、戦いで亡くなってしまった能力者を蘇らせて、また使おうという気なんです。そんな事は許され無いです。無限の戦いの循環にさせようなんて事は……」
リョウはそこまで言うと
「だから、僕でも何かお手伝い出来ないか、待っていたのです」
「リョウ君、敵はもうどのくらい入り込んでるんだい?」
「この研究室の助手や生徒に化けてのべ20人以上は入り込んでいます。確か今も5人はいます。そしてもうすぐ第2号が物質化されそうです」

皆がこうした話をしている間に鈴和は研究所の扉を開けて、中の様子を伺った。
康子も両親も寝かされている。鈴和は両親を抱くとテレポートして家に帰した。
サツキも手伝って康子を抱いて家に送り届ける。
実はその時鈴和はあることを確認しなかったのだ。
「さてこれで、心配事は無くなった」鈴和はそう云うと
「さあ、いらっしゃい!今日のあたしは怖いからね」
そう言って指を鳴らすのだった……
「鈴和、それやると関節が太くなるから」
サツキが横からちゃちゃを入れる。
「もう、サツキったら、久しぶりに彼氏に会えたんで気が充実してるじゃない」
二人はそう言って笑った。

やがて物音を聞きつけて徹夜で作業していた研究員がやって来た。
そして康子達が居ないのを確認すると。
「リョウ!裏切ったな!」
「冗談じゃ無い!僕はもう組織の人間じゃ無い!自由にする権利があるはずだ。僕はサツキと一緒に生きると決めたんだ」
そう言って対決の姿勢を決めた。

「ねえ、リョウって何の能力なの……その前にあの状態で能力使えるの?」
鈴和はサツキに尋ねるとサツキも
「能力は色々と持っているけど、あの状態で使えるかは、わたしも始めてだから……」
「そうか、そうだよね……ごめん」
向こうの数は5人だった。こちらはリョウを入れて4人とやや分が悪い。
新城が「ここでは研究室に被害が及ぶ。君等もそれは本望じゃ無いだろう」
そう云うとキャンパスに戦いの場を移したのだった。

新城は戦いに備えて「支配」で一気に決着をつける積りだった。
その能力を解放しようとした時だった。
向こうの研究員の一人が
「おっと待った、新城剛士。お前の能力「支配」は調査済みだ。我々もそう簡単にお前に能力を解放させはしない。これを見るがいい」
そう言って研究員が出したのは小さなガラスのような容器だった。
霊能力が無いものが見ても判らないが、新城は愛のちからで、鈴和は能力でその中にあるものが判ったのだ。
「康子……どうして……あの時良く知らべなかった……体だけ無事で確認しなかった……」
鈴和の泣くような声に新城も真っ青になるのだった。

「超能力高校生はパフェがお好き」 第35話

第35話 「康子救出へ」

 新城は康子に告白してから康子の心と何時もテレパシーで意志の疎通をしている。
康子にはテレパシーの能力は無いが、新城が定期的に康子の心をスキャンしているのだ。
その時、新城は康子に優しく語りかけるのだ。

今日も、明日からの事があるので寝る前にテレパシーを送ったのだが、反応が無かった。
「おかしいな? 通じない……今までこんな事は無かったのだが……」
新城は今度は自分の能力を発揮して、この辺り一帯を自分の結界に入れた。
康子の家を操作する。
康子の部屋……誰も居なかった……
「おかしい!これはおかしい!」
新城は急いで着替えると家を飛び出して行った。
途中で、鈴和に連絡を取る。
「大変だ!康子ちゃんが居なくなった」
「え!康子が! すぐ私も行くわ」
鈴和もすぐに事情が判ったのだろう。
着替えて急いで康子の家に向かう。
途中でサツキに連絡を取る。
サツキは「いま、新城さんから連絡が入ったからすぐ私も行く!」
サツキはそれだけを短く言うとすぐにアパートを飛び出す。

康子に家は鈴和が一番近いのですぐに到着する。すぐに呼び鈴を押すが反応が無い。
「どうしちゃったのだろう……」
鈴和が不安な気持ちを吐露すると、新城がやって来た。
「鈴和ちゃん、誰も出ないのかい?」
「うん、呼び鈴押したのだけど反応が無くて……」
新城は玄関のドアノブを静かに回すと音もなくドアが開いた。
新城は鈴和と視線を合わせ
「行こうか」
と静かに言う。鈴和も黙って頷く。
二人が一歩入った時にサツキも到着した。
三人で家の中に入って行くと、どの部屋も明かりが点いていて、ほんの先ほどまでそこに人が居たような感じなのだ。
ダイニングのソファーの凹みにはぬくもりまであった。
「消えちゃったのかな?それとも誘拐されたのかしら」
サツキがそう云うと鈴和は家の中に誰か霊が居ないか探したが霊魂の跡さえ無かった。
「誘拐されたのよ」
鈴和は静かに言って、新城に
「結界の中には見つからなかったの?」
そう新城に訊いてみたが新城も首を振るだけだった。

「康子どうしちゃったのだろう。それに御両親も……」
せめて誰かの守護霊が残っていれば、事情が判ったと思うと鈴和は悔しかった。
その時、サツキが
「もしかして、私が彼の事を発見したので、気が付いたのかしら? 彼が霊魂の状態になっても具現化する事でかっての能力を発揮出来るのなら、私の事は知られているかも知れない」
そうサツキは言って可能性を考えた。

「じゃあ、サツキのかっての組織が関係してるの?」
鈴和はそうサツキに訊いていて
「ねえ、三角移動という技かも知れないよ。母もそれは防げないと思うし」
鈴和がそう云うとサツキも
「そうか三角移動か! 盲点だったわ。そんな面倒臭い事しないと思っていた」
「ねえ、ヒロポンの頃から、あの大学の事調べていたのじゃ無いかしら」
サツキの返事に鈴和は以前の事まで持ちだして考えた様だ。

「あたしは知らないけれど、可能性は大いにあるわ。やけにこの世界に熱心だったから……」
「じゃあ、康子はなんで家族ごと誘拐されたの?」
そこまで鈴和が言って、サツキも黙ってしまった。
そこに、それまで二人の会話を聞いていた新城が
「康子ちゃんを誘拐したのは、僕達にこれ異常探るな!という警告かも知れない。
それに、御家族は別な目的もあるのかも知れない」
新城の考えにサツキが
「確かに、向こうの組織はこの前の失敗に対して、随分苦々しく思っていて、必ず何時かはやり返す。って言っていたしね……」

それを聞いた新城は
「可能性としては東山大学の研究室に乗り込んでみよう。それが手っ取り早いと思うんだ」
そう言って二人を見た。
鈴和は、何時もは慎重な新城がこのような事を言うのは珍しいと思った。
「今から? 行く?」
サツキはすでに行く積りで、研究室に行きかっての恋人に真実を問い正したいのだろうと思った。
「夜中になるがいくか?」
新城が二人に問い正すと二人共頷く
「よし!」
そう云うと三人は東山大学に向かい出した。

三人は深夜の大学の研究室がある棟内に居た。
能力者にとっては深夜建物の中に入るのは簡単な事だ。
中もほとんど明かりが消えていて、不気味さにおいては、中々のものだった。
問題の「綾瀬物質研究所」は建物の突き当りにあった。
静かに、進んで行くと研究所の前では明かりが漏れていた。
「誰かいる!」
鈴和は瞬間的にそう思い、部屋の中を霊視した。
すると中に康子、それに康子の両親の気が感じられた。
「よかった……無事だった……」
鈴和の思いは二人にも伝わった。
三人で合図をして、中に飛び込むタイミングを測っていた。
その時、後ろから声を掛けられた。

「よくここが判りましたね」
後ろを振り返るとサツキの恋人だった男だった。
「リョウ!」
サツキが笑顔で飛びついた。

「超能力高校生はパフェがお好き」 第34話

第34話 「サツキの告白」

 サツキは静かに語り始めた。
「私が育った世界ではこの世界とシステムが大分違っていて、人の安楽死が認められているの。だから人は皆65歳になると安楽死を選ぶの。そうするとその子孫に減税が施されたりするんだ」
サツキの語り出した内容に二人は驚愕を覚えた。
安楽死という耳慣れない言葉がサツキの口から出たからである。
「それでね。その時安楽死を選ばないとその人には増税され、年金も打ち切られてしまうの。
つまり、『勝手に生きろ』という事なのね。医療も保険適用外になるから現金だしね。生きにくくなるんだ。だから殆んどの人は安楽死を選ぶんだ」
聴いていた鈴和は
「それって酷い!65歳過ぎたら人でないから死ね!って言われてるんじゃない!」
そう言って怒りを表した。
「まあ、最後まで聴いてね。だから、教育とか世の中の仕組みが早熟になってるの」
「どうゆうこと?」
康子が疑問を挟む
「うん、例えば小学校は5歳からで、5年間。その上が5年あるの。それで義務教育は終わりで、年齢はこの世界と同じで15歳で卒業だけど、向こうはこっち で言うと高卒になるのかな……そんな感じで、その上はこっちだと大学にあたる学校があるんだけど。そこに進学するのは3割ぐらいで、この人達はエリートと なる人ね。そこが4年間で、二十歳前には教育は終わるの。
その上は研究期間だからほんの一部の人だけが進めるの」
「ふうん、じゃあ、サツキは向こうの組織にはどのようにして関わったの?」
鈴和が最もな疑問を口にした。
「うん、向こうでは能力者は社会的に認知されていて、私も小学校の頃には能力に目覚めていたから、小学校を卒業すると組織が主宰する上級学校に進んだの……彼とはそこで出会ったの。
歳は中学生だったけど、早熟な教育のお陰で精年齢はこちらの高校生だから、自然と惹かれ合ったの」

鈴和と康子はそれで色々な事を納得した。
サツキの成績が学年でトップだった事も、同じ歳なのに年長のような感じがするのも、全てそのせいだったかと思い当たった。
更にサツキの告白は続く……
「最初は同じクラスになって、実習の授業があるんだけど、それで同じ班になったの。そして色々な事をやったり、話したりして仲良くなったわ……何時の間にか好きになっていたの」
サツキは遠くを見る目つきをした。

5年間の間で違うクラスになった事もあったけど、ずっと付き合っていたの。そして卒業する時に実際に課題を実習で出されて、それを解決する時に私と彼は結ばれたの……幸せだった……」
鈴和も康子も黙って聴いていたが
「ねえ、卒業してから危険な事になったの?」
鈴和がどうしてその彼が亡くなってしまったのかが判らない。
それに対してサツキは
「うん、卒業すると私達は組織に配属されるんだけど、私達は同じ支部に配属されたの。
私はそこでこの世界に配属されてヒロポンに関わったのだけど、彼は別な世界に配属されてしまったの……そこで、彼は敵にやられて亡くなってしまったの……」
それを聞いた鈴和は
「それは確かなの?きちんと確認したの?」
そう訊くとサツキは
「うん、一度鈴和に負けて向こうの世界に帰った時に遺体と対面したから間違い無いわ」
「そうか、そんな事があったから、あの頃サツキは荒れていたんだ。凄かったものね」
鈴和が懐かしそうに言うとサツキは
「それは、もう言わないで、そうだったのよ。もうどうでも良いと思っていたからね。この世界で暮す事を決めたのも向こうの世界じゃ色々と思い出があって辛いからなの」

サツキがそこまで話すと康子が
「判る!よく判る!私はサツキの味方だからね!」
興奮しながらそうサツキに言うのだった。
「でも、なんでこの世界にあの人の霊がいたのだろう?」
考えれば考えるほど不思議だった。
「ねえ、私考えだけど、サツキを追ってこっちに来たんじゃ無いの?」
ロマンチストの要素がある康子がそう言って茶化す。
すると鈴和が
「それはあるかもよ。母が結界を張ってサツキが居た世界とは人間は行き来出ないけれど、霊魂だったら違うかもしれないわ」
そう言って可能性を否定しなかった。
「どうするサツキ。彼が魂になっても逢いたいって言って来たら?」
あくまでも思考がロマンチックな康子はそう考えるのだった。

そこに、新城が送れてやって来た。
「あ、新城さん!」
康子は呼び名も「先輩からさんに変わっていた」
「送れてごめんね。進路相談会だったから」
「何処かもう決めたの?」
康子はちょっと心配だった。
学年でもトップクラスの新城と一学年下だが平凡な自分では進路が違うのは避けたかったからだ。
出来れば同じ大学に進みたい……それが康子の希望だったからだ。
「康子ちゃん。それは後で話すからね。先に事件の説明をしてくれるかな?」
新城がそう言ったので、サツキと鈴和は順を追ってあらましを話し始めた。

全て聞き終わり新城は
「サツキちゃんの彼氏と研究所が何処で接点を持ったかだね。それを調べよう。それから大学を見張って動きが無いか調べる事だね……そうだ、大学を調べるのは僕が進学を考えているという事であちこち見学させて貰おう、それがいいね。康子ちゃんも一緒に行こう!」
新城の考えに康子は勿論賛成したが。サツキと鈴和は
「私達は何処を調べるの?」
そう鈴和が聞くので新城は
「それは、大学や研究所の関係者の守護霊を調べるとか、だれか事情を知ってるかも知れない。
それに構内で僕が怪しい何かを見つけたらすぐに二人に連絡をする。それでどうかな?」
新城の割り振りは納得出来るものだった。
実際、康子が同行していて危険な目に合ったら大変だと思ったからだ。
「じゃ、それで明日から行動しよう。放課後になったらすぐに大学に直行すること」
四人はそれだけを決めると、その日は解散してのだった。

だが事件はその晩に起こって仕舞ったのだ……
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