僅か一日にして関係を皆に隠す必要がなくなったので、伯父の家では純子さんと普通に接していた。
 夕食の時に伯母が純子さんの事を自分の姉に告げたことを話してくれた。
「それでどうなったの?」
 思わず先を尋ねてしまう
「姉が言うには、任せるって。もう大人なんだし、離婚して半年過ぎていれば結婚出来る自由も手に入れたのだから、特に何も言わないって。一つ訊かれたのは彰ちゃんの事」
「僕の事?」
「そう。だって姉はあなたの事何も知らないんだから。どんな人物なのかって。だから一通りのことは教えたけど、近いうちに挨拶に行くように言っておいたわ」
 そうなのだ。そのあたりを忘れていた。そんなことを考えていたら純子さんが
「きっと厄介払い出来たと思っていそう。本来なら私に原因があるから私が何か言えた立場では無いけど、母は最初から『家には戻ってこないで』って言われたし」
 突然そんなことを言い出した。僕は彼女なりに色々な想いが腹に溜まっていたのだと判った。思えば純子さんの性格もよく判ってはいないのだと思った。それが通じたのか純子さんは
「母に恨みがある訳じゃないけど、傷ついた時にもう少し優しくして欲しかったって思ったの」
 その言葉は僕と伯母に向けられたのだと悟った。
「だからおばちゃんには本当に感謝しています。この半年本当にありがとうございました。正直言うと、私、彰さんと最初に逢った時に『この人が運命の人』だと直感したの。だから積極的に出たのです。ごめんなさい彰さん」
 別に謝る必要はないとは思うが、積極的とは僕が酔いつぶれていた時に介抱してくれたことだろうか。それともあの時浴衣の下に何も身に付けていなかったことだろうか。
「まあ、いい人が見つかったのいなら何も言う必要はないわ。彰ちゃんは本音ではどうなの?」
 伯母は今度は僕に尋ねて来た。こうなれば僕も正直に言うしかない
「そうですね。簡単に言うと一目惚れってヤツですね。最初に逢った時に風が吹いたんです」
「風?」
「はい。それで純子さんの髪の毛がふわっと揺れて彼女の顔に掛かったのです。その時に惚れました」
 最初、伯母は黙って聴いていたが、やがて吹き出した
「あははは、そうなの。そうなんだ。そんなものかも知れないわね。理屈じゃないからね」
 確かに理屈では説明出来ないだろう。僕もそして、おそらく純子さんも同じだろうと思った。
 その夜は堂々と二人で離れの部屋に居た。彼女は僕に背を向けて着ているものを脱ぎ始めた。そのうしろ姿を抱きしめる
「ああん。まだ脱いだだけです。寝間はこれからです」
「判ってる? これから毎晩こうするんだよ」
 半分は冗談で半分は本気だった。僕は出来れば毎晩彼女を抱きたかった。そして完全に僕だけのものにしたかった。今の彼女には離婚した亭主の影がある。それを払拭したかった。
「望まれる女になります。それが私の喜びになります」
 彼女の体を抱きしめたまま布団に倒れ込んだ。そしてお互いが求め合うように交わった。彼女は僕の胸の下で何度も喜びを表し。僕も彼女に全てを注ぎ込んだ。
 気分が落ち着くと寝間を着て普通に布団に横になる隣には愛しい純子さんが眠りにつこうとしている。その彼女が僕に問かける。
「東京に行ったら二人だけの生活が始まるのですね」
「ああ、そうだよ。僕はスケベだから毎晩求めるよ。覚悟していた方がいいよ」
「大丈夫です。私も彰さなら何度でも嬉しいです」
 人とは不思議なものだと思う。つい三日前の僕には想像もつかない出来事が起きているのだから。
「私とりあえず落ち着くまでは奥さんになります」
「落ち着いたら?」
「仕事を探して、少しでも彰さんのお役に立ちたいです」
「永久就職というのは第二弾だけど」
 その意味が判った時の純子さんの表情が見ものだった。
「芦田純子から柳瀬純子になっても良いということですか?」
「ああ」
 純子さんは抱き合ったまま僕の胸に顔を埋めてしまった。僕はその空きに彼女を再び生まれたままの姿にしてしまう
「ああ、彰さんて」
「なんだい。本当にスケベだって言いたいのかい」
 その返事は唇を求めて来たので聴けなかったが彼女も僕の寝間を脱がせ同じように身につけていない状態になったから、おあいこだと思った。
「今夜は朝までさ」
 その夜は何度も求め合いそして果てた。

 翌朝は太陽が眩しかったは事実だ。
「それではおじさんおばさん。本当にお世話になりました。正孝さん恵子さん、ありがとうございました」
 純子さんはそう言って頭を下げて伯父の家を後にした。バス停に行くまでに
「本当に明け方近くまでするとは思いませんでした。一晩であんなにしたの初めてです。最も経験の回数がそれほど無いのですが」
 純子さんが言うには前の夫は結婚前から彼女がいて、そっちと結婚するつもりだったそうだ。だから結婚の初夜から純子さんはほったらかしにされたそうだ。だから結婚生活でも交わったのは数えるほどだと言う。それなら妊娠などし難いはずだと思った。まあ僕はその事に関しては全く気にしていない。と言うより出会う前のことなぞ考えても仕方ないと思う。誰にでも過去はあるものだし。僕も一時は結婚の約束をした女性が居たのは事実だから。
 バスに乗り一番後ろの席に並んで座る。僕と純子さんの新しい第一歩だ。これからのことは誰にも判らない。神様だけが知りうることさ。僕は純子さんの白いワンピースの背中に手を廻して肩をそっと抱き寄せる純子さんも僕により掛かる。僕はこんな感じがいつまでも続けば良いと漠然と考えていた。


                                            
                      <了>