若い頃は人生の先のことなぞ余り考えて行動なぞはしない。でも千反田さんだけは例外だった。早くから旧家の跡継ぎとして育てられて来て、本人もその運命を受け入れていた。
 でも、高校二年の夏の日、それが脆くも崩れた。僕と摩耶花はそれに気がつくのが遅れた。彼女を救ったのは盟友とも言っていいホータローだった。それによって二人の結び付きは一層強くなった気がした。それ以前からも、僕と摩耶花から見ると二人がお互いに想っているのは確実なのだが本人たちはそれにお互い気がついていない。少なくともそう見えた。
「大丈夫だと思うわ。少しペースが遅いだけで、二人は一緒になる運命だと思うわ」
 そう言っていたのは摩耶花だった。僕もそれに異論はなかった。
 実際、あの事件を経過して高三になると二人の関係はより深くなったように感じた。千反田さんは、何かあるとまずホータローに相談をするようになった。僕達に話してくれるのはその後という事が多くなった。
 別にその事自体に異論がある訳ではない。千反田さん本人の心の問題であれば、僕達が介入することなぞ出来ないのだから……。でもホータローは千反田さんの心の問題でも丁寧に相談に乗ってあげていたと思う。二人が同級生から友達になり、やがてその先の関係になるのは自然だった。ただ、普通の人より少し時間が掛かっただけだった。あの当時、僕も摩耶花もそう考えていた。
 大学はそれぞれが別の所に進学した。千反田さんは京都の国立大の農学部に。ホータローは自分の専攻したい学科が関西の大学に無いので東京の大学に進学した。当初は連絡を取り合っていたそうだ。たまには逢ってもいたみたいだ。でも、二人の関係が疎遠になり自然消滅してしまったのは実は責任の半分は僕と摩耶花にある。今日はそのことを隠さずに述べてみようと思う。

 摩耶花は名古屋の芸術科のある短大に進学した。僕は大学には進学せず岐阜県の地方公務員の試験を受けて就職をした。地方公務員の新人は結構覚えることが多く、普通の勤務以外に色々な講習会に出なければならない。それは多岐に渡っていてとてもここでは書ききれないほどだ。
 例えば、ゲートキーパーとしての「うつ病」や「自殺防止」の為の講習会なども含まれる。それぞれが専門の役職があるのだが、基礎知識として覚えておかなければならないのだ。そんなこんなで摩耶花との連絡も以前よりは少なくなっていた。
 そこに摩耶花が新人賞を受賞したのだ。勿論僕も嬉しかったし、時間を作って一緒にお祝いもした。でも、それからが大変だった。漫画家としての仕事が一気に増えたのだ。新連載が始まり、それが好評となり更に忙しくなった。それに加えて学業がある。この時期摩耶花は寝る時間も惜しんで勉学に漫画に時間を費やしていたのだと思う。僕もそんな事情は判っていたので、もともと減っていた連絡の時間が益々減ってしまった。無論、それでは駄目だとは想っていたが、無理に電話をしても摩耶花はあらゆる事に追われていた感じだった。当然僕が連絡を取る回数は減ってしまった。摩耶花もたまに夜中に電話を掛けてくれることもあったが、こちらは翌朝から仕事なので長くは話していられなかった。気がついたら半年近くもろくに連絡を取っていなかったのだ。
 僕はホータローに相談をした。今から思えばこの時期、ホータローも大変な時期だったのだが、快く相談に乗ってくれた。そして直接摩耶花に電話をしてくれたのだった。その後、すぐに摩耶花から連絡があったのは言う間でもない。僕は摩耶花の大変さを想って彼女のことを心配したのだった。
 それがあった訳では無いのだろうが、それ以降千反田さんとホータローの関係が段々と疎遠になったみたいだった。進級して千反田さんが実験中心になると時間が不規則になりホータローとは合わなくなってしまったのも原因だと思う。
 結局二人の関係は自然消滅してしまい、千反田さんは種苗会社に就職し、滋賀県の研究施設に配属された。ホータローは東京の商社に就職した。その商社が何を扱っているのかは判らなかった。
 その後千反田さんは研究所の同僚と結婚してしまった。僕と摩耶花も式に呼ばれたがそこにホータローの姿は無かった。それはある意味無理もないと思った。だから今日の同期会に千反田さんとホータローが揃って出席すると訊いた時は正直嬉しかった。更に摩耶花からその経緯を聞いて驚きもした。
 同期会での会話は今どうしてるかが殆どで自分の近況を話して終わってしまった。当然二次会に移ったのだが、二次会はクラスごとになりそうだったので、僕たち四人は独自に会を開いた。そこに十文字さんや他の親しかった者も合流した。

「でもこうやって二人で並んでいるとお似合いの感じがするわ」
 いきなりそう言って会話の口火を切ったのは十文字さんだった。
「そうね。でも未だ落ち着いたばかりだからね」
 摩耶花が慌てて会話に口を挟む。彼女としても想いは僕と同じでそれは十文字さんも変わらないのだろうけど、やはりそこはデリケートな部分だから、正直僕はそっとしておきたかった。
「折木さんとは一度逢って色々と話を聞いて貰いました。今日はそれ以来なんです」
 千反田さんの言葉に一同は
「そうだったの」
 それぞれがそんな事を口にした。
 僕は隣に座っている摩耶花の耳元に
「この後は二人だけにしてあげようよ」
 そう言って提案した。正直、子供を両親に預けているので、それも心配だった。
 ホータローと千反田さんは並んで座っている。十文字さんの言葉ではないけれど、やっぱり二人は並んでいると「お似合い」の言葉が浮かんで来る。それはきっと摩耶花も他の同級生も同じではないかと思うのだった。 
「ホータローも千反田さんも少しゆっくりして行けるのかい?」
 僕の質問に二人は揃って
「ああ、二三日なら大丈夫だ」
「はい、二三日なら大丈夫ですよ」
 お互いがそう言ってニコヤカな表情をした。