僕は佐久さんが帰った後もその場に佇んでいた。頭の中には先ほど、この眼で見た佐久さんの豊かな胸の谷間がくっきりと頭の中に残っていた。薄いセーターの中には豊かな谷間が眠っているのだと思うと体の血がたぎるのを感じるのだった。あの胸はきっとノーブラに違いない!
 それは佐久さんが動く度に不規則に揺れる動きからも判った。ノーブラは男のロマンだと僕は思う。だってそうじゃないか、あの薄いセーターの下には何も身に付けていないのだと考えるだけでご飯が三杯はイケる!
 何時までも立ち尽くしていたので、すっかり日が暮れてしまった。僕は佐久さんが作ってくれた肉じゃがの入った鍋を火に掛けた。その時僕は気が付いた。鍋でくれたという事は、また鍋を返さなくてはならないと言う事だと……。
 と言う事はまた佐久さんと二人だけになるチャンスがあると言うことだ。今思い返してみると、最初に挨拶に来た時は確かミニスカートだったと思い出した。今思えば、あの時もっと良く見て居れば良かったと思った。惜しいことをしたものだと考えた。
 ならばこの鍋を返す時にもっと積極的に出て佐久さんとの関係を近づけなくてはならないと思った。僕の考えは更に妄想を生んで行った。このとき僕は冷静さを失っている事に気が付かなかった。
 温まった肉じゃがを大きな器に移して箸をつける。
『美味しい!』
 なんて味なんだ。まるで体が蕩けるような味だと思った。美人で巨乳でしかも料理上手! 理想じゃないかと僕は思うのだった。

 わたしはサキュバス。日本語だと「夢魔」とも言うわね。サキュバスの使命は男の子の精子を抜き取ること。それを仕事の相棒のインキュバスに渡すの。インキュバスはそれを子供に恵まれない夫婦の女性に与えて子供を授けるのよ。え? まるで神様みたいだって? そうよ悪魔なんて天使の成れの果てなんだから多少の違いはあれど同じようなものよ。でも神様と違うのは、それが人間の望んだ行為ではないということね。まあ、十代の男の子なんて頭の中の八十パーセントは女の子のことしか考えていないんだけど、子供が出来ない夫婦だって夢の中でインキュバスに精液を仕込まれる訳だから、旦那以外の子種と言うことは明白な訳で、それが神様から言うと悪くふしだらな行為だと言われているのよね。まあ悪魔だからいいんだけどねえ。
 それでね。今度の命令は健康で容姿端麗な日本人の若い子の精子を抜き取ることなの。色々探して、わたしが目を付けたのがこのアパートに住む山縣健太という大学生。背が高く、容姿も端麗なのよ。何よりなのは、とってもカワイイのよ。ジャニーズのタレントなんて、ごめんなさいして通り過ぎるぐらいなのよ。しかも彼が通ってる大学はレベルが高いので有名。つまり三拍子も四拍子も整ってるという訳なの。どうせなら優秀な男の子の精子が欲しいでしょ。
 だから彼の部屋の隣が空いたので早速引っ越して来た訳。挨拶の時に手を握って印象づけたし、今日はノーブラの姿で特製の肉じゃがを届けたわ。あれを食べると効果テキメンだと思う。なんせ悪魔界に伝わる秘伝の媚薬をたっぷりと入れてあるからね。
 もう食べたかしら。食べたなら今夜が楽しみだわ。媚薬のせいで思うがままに操れるわ。早速、今夜の夢の中に忍び込んでみるわ。

 佐久さんから貰った肉じゃがを食べてから何だか体調がすこぶる良い気がする。何ていうか活力がみなぎってる感じなのだ。それにしても佐久さんの肢体を思い出すと堪らなくなる。大きく揺れていた胸も良いし、あのヒップというか腰回りの豊かさも忘れられない。それにしても妙だ。二回会話を交わしただけの人に何故こんなに興味を持ってしまったのだろう。何時もの僕らしくないと思った。
 まあ、明日はこの鍋に何かを入れて返しに行こう。もしかしたら、もっと親しくなって良いことが起きるかも知れない。僕はそんな妄想をしていた。
 その夜、僕はいつもの時間より早くベッドに潜り込むといつの間にか眠りに落ちていた。

 僕は何処かの温泉に居て、露天風呂に入っている。景色も良くいい気分だった。宿の人に訊いたところ、この露天風呂だけは混浴だそうだ。夜になると湯気が凄く視界が悪くなるので結構男女が入って混むそうだが視界が良い昼間は余り人が入らないとのことだった。
 そんなことを聞いていたせいか、僕はノンビリとした気分だった。そうしたら、入り口の引き戸が開いて誰かが入って来たみたいだった。近くに来るまでその人が誰だかは判らなかった。でも
「あら、健太さん?」
 その声に聞き覚えがあった。確か佐久さんの声に似ていると思った。でも、あり得ない。だってここは何処かの地方で僕や佐久さんが住んでる東京ではない。それにいきなりこんな場所に佐久さんがやって来るなんて考えられないことだった。でも湯気の中に現れたのはバスタオルで体を包んだ佐久さんだった。長めの髪の毛はタオルで巻いてありうなじが現れていて、それはそれは色っぽかった。しかもバスタオルで隠してあるとは言え、胸の大きさは隠しようがなく、胸の谷間もバッチリだった。バスタオルの裾から伸びる長く美しい脚。それに何と色が白いのだろうか、僕は見とれてしまった。この時、僕は二人だけだった事に感謝し、永遠に誰も入って来ないことを祈った。
「お一人ですの?」
 佐久さんは僕の姿を見つけるとにこやかに話しかけて来た。
「ええ、佐久さんはどうしてここへ?」
「あら、わたしがここに来てはおかしいですか?」
「いえ、余りにも突然だったもので驚いているところです」
 そんな受け答えしながも僕の視線は佐久さんの肢体に注がれていた。
「そちらに行っても宜しい?」
 そう言って僕の返事には構わずに佐久さんが僕の隣にやって来た。匂うような女の色気を感じてのぼせそうだった。