第35話 「康子救出へ」

 新城は康子に告白してから康子の心と何時もテレパシーで意志の疎通をしている。
康子にはテレパシーの能力は無いが、新城が定期的に康子の心をスキャンしているのだ。
その時、新城は康子に優しく語りかけるのだ。

今日も、明日からの事があるので寝る前にテレパシーを送ったのだが、反応が無かった。
「おかしいな? 通じない……今までこんな事は無かったのだが……」
新城は今度は自分の能力を発揮して、この辺り一帯を自分の結界に入れた。
康子の家を操作する。
康子の部屋……誰も居なかった……
「おかしい!これはおかしい!」
新城は急いで着替えると家を飛び出して行った。
途中で、鈴和に連絡を取る。
「大変だ!康子ちゃんが居なくなった」
「え!康子が! すぐ私も行くわ」
鈴和もすぐに事情が判ったのだろう。
着替えて急いで康子の家に向かう。
途中でサツキに連絡を取る。
サツキは「いま、新城さんから連絡が入ったからすぐ私も行く!」
サツキはそれだけを短く言うとすぐにアパートを飛び出す。

康子に家は鈴和が一番近いのですぐに到着する。すぐに呼び鈴を押すが反応が無い。
「どうしちゃったのだろう……」
鈴和が不安な気持ちを吐露すると、新城がやって来た。
「鈴和ちゃん、誰も出ないのかい?」
「うん、呼び鈴押したのだけど反応が無くて……」
新城は玄関のドアノブを静かに回すと音もなくドアが開いた。
新城は鈴和と視線を合わせ
「行こうか」
と静かに言う。鈴和も黙って頷く。
二人が一歩入った時にサツキも到着した。
三人で家の中に入って行くと、どの部屋も明かりが点いていて、ほんの先ほどまでそこに人が居たような感じなのだ。
ダイニングのソファーの凹みにはぬくもりまであった。
「消えちゃったのかな?それとも誘拐されたのかしら」
サツキがそう云うと鈴和は家の中に誰か霊が居ないか探したが霊魂の跡さえ無かった。
「誘拐されたのよ」
鈴和は静かに言って、新城に
「結界の中には見つからなかったの?」
そう新城に訊いてみたが新城も首を振るだけだった。

「康子どうしちゃったのだろう。それに御両親も……」
せめて誰かの守護霊が残っていれば、事情が判ったと思うと鈴和は悔しかった。
その時、サツキが
「もしかして、私が彼の事を発見したので、気が付いたのかしら? 彼が霊魂の状態になっても具現化する事でかっての能力を発揮出来るのなら、私の事は知られているかも知れない」
そうサツキは言って可能性を考えた。

「じゃあ、サツキのかっての組織が関係してるの?」
鈴和はそうサツキに訊いていて
「ねえ、三角移動という技かも知れないよ。母もそれは防げないと思うし」
鈴和がそう云うとサツキも
「そうか三角移動か! 盲点だったわ。そんな面倒臭い事しないと思っていた」
「ねえ、ヒロポンの頃から、あの大学の事調べていたのじゃ無いかしら」
サツキの返事に鈴和は以前の事まで持ちだして考えた様だ。

「あたしは知らないけれど、可能性は大いにあるわ。やけにこの世界に熱心だったから……」
「じゃあ、康子はなんで家族ごと誘拐されたの?」
そこまで鈴和が言って、サツキも黙ってしまった。
そこに、それまで二人の会話を聞いていた新城が
「康子ちゃんを誘拐したのは、僕達にこれ異常探るな!という警告かも知れない。
それに、御家族は別な目的もあるのかも知れない」
新城の考えにサツキが
「確かに、向こうの組織はこの前の失敗に対して、随分苦々しく思っていて、必ず何時かはやり返す。って言っていたしね……」

それを聞いた新城は
「可能性としては東山大学の研究室に乗り込んでみよう。それが手っ取り早いと思うんだ」
そう言って二人を見た。
鈴和は、何時もは慎重な新城がこのような事を言うのは珍しいと思った。
「今から? 行く?」
サツキはすでに行く積りで、研究室に行きかっての恋人に真実を問い正したいのだろうと思った。
「夜中になるがいくか?」
新城が二人に問い正すと二人共頷く
「よし!」
そう云うと三人は東山大学に向かい出した。

三人は深夜の大学の研究室がある棟内に居た。
能力者にとっては深夜建物の中に入るのは簡単な事だ。
中もほとんど明かりが消えていて、不気味さにおいては、中々のものだった。
問題の「綾瀬物質研究所」は建物の突き当りにあった。
静かに、進んで行くと研究所の前では明かりが漏れていた。
「誰かいる!」
鈴和は瞬間的にそう思い、部屋の中を霊視した。
すると中に康子、それに康子の両親の気が感じられた。
「よかった……無事だった……」
鈴和の思いは二人にも伝わった。
三人で合図をして、中に飛び込むタイミングを測っていた。
その時、後ろから声を掛けられた。

「よくここが判りましたね」
後ろを振り返るとサツキの恋人だった男だった。
「リョウ!」
サツキが笑顔で飛びついた。