第17話 「悪い奴ほど良く怖がる」

  マックスを後にした神城は内心ほくそ笑んでいた。
マックスの会社自体が未だ神城の結界の中にあり、すべての事は手に取る様に判るのだった。
神城は「全く大人しくしていれば痛みは少なくて済むのに、こうなったらとことんやるか」
そうつぶやくと、鈴和達の待っているホテルに帰って行った。

「どうでした?」
待っていた鈴和が早速訪ねる。
「うん、予想通りで素直にはならないね。それに僕達に刺客を送り込んだみたいだ」
そう神城が言うと鈴和は
「はあ~身の程知らずと言うか……せいぜい可愛がってあげましょう先輩」
笑いながらそう言うと神城も
「大丈夫だよ、マックスの会社自体もまだ僕の結界にあるから、これから面白い事が起きるよ」
そう言って神城は楽しそうに笑った。

マックスから連絡を受けた例のコンサルタントはマックスで話の内容を聴いていた。
「じゃあ、こいつを殺ればいいんですね。自殺と言う何時ものやりかたで済ませますかね」
そう言って笑い、タバコに火を点けようとしてライターを点けると、なんとライターの火が暴走したのだ。
「アチチチ」
慌ててライターを放すが周りの書類に火が燃え移る。
あっという間に会社の中が火の海となってしまった。
途端に天井のセンサーが動作してスプリンクラーが作動した。
「プシュウー」と大量の水が社内を埋め尽くす。
火は消えたものの、あたり一面水浸しになって仕舞った。
「ちょっと、タバコは遠慮して下さいよ。おたくの上の組織に損害を弁償して貰いますよ」
課長の石野はずぶ濡れになりながらもコンサルタントに文句を言った。
言われたコンサルタントは
「いや、申し訳無い、こんな事は初めてで……」
そう言ってハンカチで顔の水を拭っていると、今度は明かりが消えて社内は真っ暗になった。
「停電か?」
「いえエアコンはついています」
「じゃあブレーカーだ、早くあげろ」
そんな声が飛び交っていた時だった、薄暗い中で何か恐ろしげな声が聞こえて来たのだった。
「……だましたな!……よくも騙したな」
「だ、誰だ!」
石野が声のする方を見ると、先ほど神城に見せられた工事現場の霊がそこに出ているではないか!
「うわああ~」
石野の声に一斉に騒然となる社内。
女子社員は皆驚き泣き叫び、腰を抜かして顔を両腕で隠してしまう。
男の社員も顔面素白で何も言えなくなっている。
やがて霊達はコンサルタントと石野の周りをぐるぐる廻り始めた。
「こ、これはきっとあの霊能者の仕業だ。あいつ本物だったんだ!」
石野はそう思いながらも、このままでは全く業務が出来ない事を悟った。
コンサルタントは恐ろしげな様子で
「悪いけど、今回は降ろさせて貰うわ、相手が悪すぎる」
そう言うと床を這いずりながら這々の体で逃げ帰って行った。
「冗談じゃない!安いコンサルタント料で命まで捧げられるかよ」
逃げながらも考えるコンサルタントだった。

残された石野を始め社員はもう恐怖と絶望の淵にいた。
「課長何とかして下さい」
若手社員の必死の叫びに石野は、破れかぶれで
「判った! アンタの言いなりになろう!」
そう大きな声で叫ぶと、不思議な事に、社員たちの周りを廻っていた霊の姿は消えて行った。
「やっぱりアイツの仕業か……今回は相手が悪い……言いなりになるしか無いだろう。
この事で使う金額はM不動産に渡す時に上乗せするしか無いな……もう御免だ。あんな詐欺を働いてまで業績をあげるのは……」
石野は心の底からそう思うのだった。
全ては神城の能力「支配」のせいだった。
この結界の中では神城の思い通りに物事が動くのだ。
その中では誰も抵抗出来ないのだ……

その後、マックスは神城の言う通り、遺族に正規の土地の購入金額を支払い、敷地内に慰霊碑(工事で亡くなった人の分も含めた)を立てる事を約束して書類にサインした。
「もし、約束不履行なら、今度はこんなものでは済まないと思って下さいね」
組織の弁護士を伴って霊能者に扮した神城はそう言い放った。
「それは大丈夫です。なんせバックは天下のM不動産ですから……」
石野は苦しげに言い訳をするのだった。

その事を工事現場にいる霊達に報告をすると、霊達も喜んで
「これで成仏出来ます」
そう鈴和にお礼を言ったのだった。

「ねえ、先輩、もしあの脅かしで屈しなかったらどうしてました?」
鈴和が大阪の市内のうどん屋で「きつねうどん」を三人で食べながら神城に訊いている。
「ちゃんと考えていたよ。それはね」
そう言って神城は二人の前に書類を見せた
「ふどうさんばいばいけいやく……不動産売買契約書……つて?」
英梨が不思議そうに尋ねると神城は
「ああ、架空の不動産売買の話をマックスに持ちかけて、マックスを詐欺に引っ掛けるのさ、
それも完全犯罪をね、いや犯罪の証拠も残さずに出来るけどね」
それを聴いて鈴和は、神城なら簡単にやってしまうだろうと思っていた。
何故なら、鈴和は神城の本当の能力を知る数すくない人間の一人だったからだ。

「ねえ、神城さん、鈴和さん、帰りに名古屋で降りて味噌カツを食べて行きませんか?
それに、栄に美味しいパフェを食べさせる店もあるんですよ」
それを聴いた鈴和は目を輝かせて
「そりゃ寄らないとねえ先輩!」
「そうだな、今回は良く働いたから、それぐらいは許して貰わないとな。でも鈴和ちゃんは食べたら真っ直ぐ家に帰るんだよ」
「判ってますよ!」
鈴和はそう言って笑って、英梨とスマホを出してお店のチェックを始めるのだった。

「そうそう、鈴和さん、うどんと言えば大阪駅のホームでJRが営業している立ち食いのうどん屋さんは結構美味しいですよ。もう一杯食べて帰りましょう!」
そう言英梨に鈴和は「冗談じゃ無い!あんたは食べた分が皆、背に行くのでしょうが、私はお腹とか背中に付いちゃうから嫌! パフェが食べられ無くなるじゃ無いの!」
「大丈夫!大丈夫!入る所が違いますから」
「違わないよ!先輩も笑って無いでなんか言って下さいよ英梨に」
そう云われて笑って見ていた神城は
「そうだね、大阪には滅多に来ないから、食べて行くか!」
そう言って英梨の考えに賛成をした。
「ああんもう! 帰ったらダイエットしなくちゃ。大体関西は美味しいもの多すぎで、ただでさえ太ると思っていたのよねえ~」
「あれ、鈴和さん彼氏に見せるのですか、いいですね~モテる人は」
「英梨、私は彼氏なんて未だに居ないから!」

きっとこの二人は最後までこうやって言い合いをするのだろうな?
と神城は思ったのだった。