第13話 「神城の能力」

 鈴和は英梨のカーテンを開ける音で目が覚めた。
ぼんやりと見ると、英梨が窓から外を興味深そうな目で見ている。
「どうしたの?」
良く頭がまわらない状態で英梨に話し掛けると
「今日、TVとか取材に来ますかねえ?」
そう言って期待した顔をしている。
「さあ、判らないけど、神城先輩の話だと来る様な事だったから、来ると思うわよ。それに騒動になってくれないと、私達もこれから困るでしょう」
そう言う鈴和の言葉に英梨は
「そうですよねえ。楽しみです」
そう言ってニヤついている。
「それよりも、夕べはあれから動画の編集したから眠いわ」
そう言ってあくびをすると英梨は
「何言ってるんですか、編集したのは私と神城さんで、鈴和さんは帰りにコンビニで買って来たデザートを食べていたじゃ無いですか」
そう言ってちょっとむくれると鈴和は
「あら、二人だけの方が楽しいと思って私は遠慮していたのよ。昨日だって編集点見つける為にマウスを動かしていたら、あなたが上手く見つけられないので、 神城先輩が貴方がマウス握ってる上から触って動かしていたじゃ無い。それに手なんか握りあってりして。ちゃんと見ていたのよ」
鈴和は呆れながらもしっかりとその点を言うのだ。
「えへへ、見ていました!? たくさん神城さんの手を握って仕舞いました」
そう言いながらウットリと自分の手を眺めている。
「神城さんやはり素敵ですよね」
その英梨の言葉に鈴和は
「でもさあ、神城先輩の能力が「錯覚」なら私達が見ている神城先輩の姿も錯覚なのかも知れないと考えた事無いの?」
それを聞いた英梨の表情は見ものだった。
「え!まさか、それで素敵に見えてるだけなんですか? 本当は変な顔だったりするとか……」
言いながら英梨は半分涙目になっている。それを見て鈴和は
「冗談よ、冗談、そこまで好きなんだ……」
「そうなんです……すいません……」
鈴和はここまでなら程度は康子よりも上かな?と思うのだった。
「私、シャワー浴びるからね」
そう英梨に言って浴室で体を洗っていると、浴室の扉が少し開いて、英梨が覗いている。
「こら!何見てんの? あなた神城先輩が好きな癖にそっちの気もあるの?」
そう鈴和が半分冗談に言うと英梨は
「違いますよ。鈴和さん胸は大きいし、ウエストはくびれてるし、お尻は持ち上がってるし、羨ましいなぁ~と思って見ていたのです」
「なに言ってるの、英梨だってスタイル良いでしょう」
女子二人が他愛ない会話をしていると、ドアをノックする音がする。
英梨がドアの小窓から除くと神城だった。
少しだけドアを開けると神城が
「おはよう、今良いかな?」と様子を伺うので英梨は
「鈴和さんが今シャワー浴びていて……」
そこまで言うと後ろから
「私ならもう出たわよ」
その声に振り向くと、鈴和は素肌にバスタオルを巻いて出て来ていた。
「ちょっ! 鈴和さん、そんな格好で!」
驚く英梨に鈴和は
「大丈夫よ、神城先輩とは、何回も一緒にお風呂に入った仲だから」
そう言って涼しい顔をしている。英梨は
「ええ!二人はそう言う関係だったのですか!わたし知らなかった!」
そう言って今にも泣きだしそうだった。慌てたのが神城で
「違う!違うよ!一緒にお風呂に入っていたのは幼稚園の頃だよ。幼い頃の話さ!」
「ならいいですけど……」
英梨は本当に泣きだしそうな感じになっていた。
英梨の後ろで舌を出して笑ってる鈴和に神城は
「鈴和ちゃんもいい加減にしなさい!」
珍しくキツく言うのだった。
「はあ~い」
鈴和は珍しく素直に笑いながらだが言う事を聞いた。
だが、英梨は本当の神城の事を知ったらどう反応するか、それも気がかりだった。

着替えた鈴和と英梨は神城の部屋に呼ばれていた。
神城がテーブルに昨日英梨と編集した動画が入ったSDカードが並べられている。
「右から順に、昨日の霊の証言から、霊が出て来るシーンも含めた完全版が入っているもの。
次が霊の証言だけが入っているもの。それから一番左が霊が出て来るシーンだけが入ってるものとなっている。それぞれ右から番号が振ってある」
神城が二人に改めて説明をすると、鈴和が
「この3番目の短いシーンだけが入ってるのはマスコミ用?」
そう訊くと神城は
「そうさ、まずはこれをマスコミに手渡して、騒ぎを大きくして貰う。そしてその後マックスと交渉する。これで大人しくこっちの条件を呑めば問題無いがね」
そう言いながらノートPCにSDカードを挿して再生を始める。
画面には如何にもおどろおどろしい感じで暗闇から霊の姿がぼんやりと浮かんでは消えると言う事を繰り返してる。それを見ながら鈴和は
「ほんと、この時演出するのに苦労したのよね。みんな慣れて無いからいきなりパッと出るのよね。あれだと怖くもなんとも無いからさあ」
英梨も思い出したのか、笑い出した。
「霊魂って本当は怖く無いんですね。わたし初めて知りました」
「あら、英梨は今まで恐いと思っていたの?」
そう訊く鈴和に英梨は
「そりゃあそうですよ。お化けとか幽霊って恐いって相場が決まってます」

「先輩、この映像は何時渡すのですか?」
鈴和の質問に神城は
「うん、今日の午前11にここのホテルのロビーで会う事になっているんだ」
そう言って腕時計を見る。
「そろそろいいかな? じゃあ僕はマスコミの人と会って来るから、後をついて来ちゃイケナイよ。僕は能力を使うからね」
それを聞いて、二人は遠くからでも見たいと思ってしまった。
「じゃあ遠くからだよ、半径10m以内には入らない事いいね!」
「はあ~い」
二人は神城の能力を見る事が出来る様になった。

鈴和と英梨は神城が部屋を出てから3分ほど遅れて後を追った。
ロビーの端のテーブルと椅子のある場所に既に神城は座っていた。
手にはノートPCがある。
相手はTV局のディレクターとプロデューサーと思わしき男女二人連れで、見た感じでは女性がディレクターと言う感じだ。
神城は何やら名刺を渡している。
それを見た二人は感激した感じにも見える表情をしていた。
やがて神城がPCの映像を二人に見せ始める。
さっき鈴和と英梨が見た昨日編集した映像だ。
その映像を見た二人は興奮している。
明らかに顔が上気していろのが鈴和と英梨の場所からでも良く判る。
神城がSDカードを抜いて二人に渡すと二人は何回も礼を言って帰って行く。
その言葉に「今夜の放送で使わさせて戴きます」と言う文言が聞き取れた。

鈴和と英梨は何が起こったのか全く判らなかった。
なぜ、神城に二人はあんなにペコペコしていたのか……
二人を見送った神城は英梨と鈴和を見つけると、傍に寄って来た。
その瞬間、神城は中年の何か偉そうな人物に変わり、二人に声を掛けた。
「私はこういうものです」そう言って名刺を渡された。
そこには「N◯K放送センター映像エンジニアリング、チーフディレクター 松本弧門」と書かれていた。
「実はですね。あのような映像はウチでは使用出来ませんのでおたくで使えませんかね。映像の他にデーターもその中に入っていますから」
二人はその言葉を聞きながら、渡された名刺を見ていると松本と自己紹介した人物は指をパチンと鳴らした。
その瞬間、二人の目の前には神城が笑って立っていた。
「どうだい、お嬢さん方、僕の能力を理解してくれたかな?」
あっけに取られている二人だが鈴和が先に我に返った。
「凄い能力ね!初めて経験したわ」
その鈴和の言葉で英梨も我に返った。
「神城さん……凄いです!」
その英梨の様子を見て鈴和は、増々神城にのめり込みそうな英梨を心配するのだった。

「まあ、今日の夕方のニュースで放送されるそうだから、楽しみだよ。
種は蒔かれた……これからどう育つかさ!」
神城はそう言って二人にウインクするのだった。