「いまさら翼といわれても」後編ですが、凄い所で終っていますね。実に米澤先生らしいですね。私の「海外留学」といのは完全に外れてしまいました。考えす ぎでした。もっとシンプルでした。でも話の持って行き方が圧巻でした。素晴らしかったですね。色々と創作の参考にしたかったのですがレベルが違い過ぎて参 考になりませんねw
それで、このままではいくらなんでも後味が悪すぎるので、その後を自分なりに考えてみました。よくある平凡なパターンです。こちらは原作とは違い甘めにしてあります。
毎回、沢山の評価ありがとうございます!
ネタバレ満載ですので未読の方はご注意を!!


「いまさら翼といわれても」後編 
あらすじ

奉太郎は控室に居た段林さんを部屋から出す為に「具合が悪くなって休んでいる千反田さんの場所が判ったから迎えに行く」と嘘を言って部屋から出て言って貰います。
そして横手さんと二人だけになったので、横手さんの嘘を追求します。「千反田はここには来ていませんね!」
否定した横手さんですが奉太郎の推理に負けて真実を話します。
自分が千反田さんの伯母であること。彼女は「南陣出のバス停」で降りた事。そして多分自分の家の蔵に居るのではないかと言う事を話します。「早く行きなさい」そう言われ奉太郎は運良く市民ホールに停まっていた陣出行きのバスに乗り込むのでした。
 「南陣出」で降りた奉太郎は横手さんが言った通りに蔵があるので、そこに向かいます。蔵の中からは発声練習をする声が聞こえたのでした。奉太郎は静かに中の千反田さんに語りかけます。「無理なら行かなくてもいい」そう言って千反田さんを落ち着かせます。
そして独唱をする箇所を段林さんから教えて貰っていた奉太郎は千反田さんの心情を代わりに言うのです。「後を継ぐという育てられ方をされて来て、いきなり自由にしても良いと言われて自分の立場失う事になった今だけは自由を謳うこの歌は歌う事が出来なかった」と……
 千反田さんはやっとの思いでそれを肯定して自分の考えを述べるのでした。それを聞いて奉太郎は何かを殴りつけて血を出したくなる衝動に駆られます。間に合う最後のバスが出るまであと四分……蔵の中から声は聞こえませんでした。

 静まり返っていた蔵の扉が静かに開いた。中から白いブラウスに黒いスカート姿の蒼白の千反田が顔をのぞかせた。

「折木さん……ありがとうございます」

「歌えるのか 無理ならば行かなくてもいいんだぞ」

 迎えに行くと言って出て来た手前、千反田と一緒に帰らなければ、一騒動起きて問題になるだろうが、それは基本的には俺の問題ではない。連れて帰れなかった責任はあるだろうが、それだけのことだ。今はこいつの気持を優先したかった。

「大丈夫です……折木さんとお話をして心が決まりました」

 蔵の中で発声練習をしていたのだ。恐らく俺が来なくても市民ホールには行く気は持っていたのだろう。

「そうか、ならば時間もない、少し急ぐぞ」

 俺はそう言って、しとしとと降る雨の中を千反田と小走りにバス亭に向かった。千反田の手には横手さんが言っていた茜色の傘が握られていた。

「折木さん濡れます。この中に入って下さい

 千反田が後ろから傘を差し出すので自然と二人で傘に入ることになってしまった。斜面を二人で駆け下りるように道に出ると後ろからバスがこちらに向かって来るのが見えた。間に合ったと思った。

 バスに乗り込むと先ほどの運転手だった。俺の顔を見てぎょっとした顔をした。まさかほんの二十分程前に降りてその折り返しのバスに乗って来るとは思わなかったのだろう。

 千反田と二人で一番後ろの席に並んで座り、バスが発車した。乗客は他にはおらず二人だけだった。これで取り敢えず時間までには間に合う。隣に座った千反田が手に持った傘から雨の雫が床に伝わり流れていた。時計を見ると五時十三分を指していた。


 バスは定刻通り市民ホールに到着して、俺と千反田は控室に向かう。千反田はここの傘のルールを知っていたと見えて控室までそのまま傘を持って行った。

「本当に大丈夫か

 もう一度確認をする。これから段林さん達合唱団の者からどのような声がかかるか知れないのだ。俺はこの時期に、千反田の心の拠り所を揺るがせるような事は親として普通は言わないのでは、と思っていた。もし合唱コンクールの事を考えていたら、このタイミングでは将来のことを言わないと思った。知っていたなら無神経過ぎると……

「ちーちゃん 良かった

 控え室の前で待っていた伊原が駆け寄って来て千反田に抱きついた。

「摩耶花さん、ご心配をかけて申しわけありませんでした」

「ううん、いいのよ具合が悪くなる事は誰にでもあるから。でも治って本当に良かった」

 一瞬、千反田があっけに取られた顔をしたが、俺の表情を見て理解したようだ。真実は横手さんと俺しか知らない……そして更に本当の事は今ここでは口に出来ない。

 伊原に引かれるように控室に入ると先ほどは違い大勢の人が中に居た。それはそうだ。本番までもう三十分を切っている。

「皆様、ご迷惑をおかけ致しまして申しわけありませんでした」

 深々と頭を下げた千反田に段林さんが

「具合が悪くなったのなら一言連絡が欲しかたわね。もう良くなったの

 そう言って更に嫌味の一つでも言いそうになったので横手さんが

「まあ、まあ、いいじゃありませんか、こうしてちゃんと間に合ったのだし……ね」

 そう言ったので段林さんは何も言わなくなった。俺は横手さんの隣に千反田を立たせて、二人だけに聴こえる声で

「ご想像通り蔵にいました。誰にも見つかりませんでした」

 そう言って取り敢えず報告をした。バスの中で千反田が俺に何を言ったのかは二人だけの秘密だった。


 合唱コンクールでは千反田は見事に独唱をして合唱団は金賞に輝いた。それだけでも良かったかと思う。

「それじゃ、ちーちゃんのこと頼んでも良いかな」

 伊原が後片付けをしながら俺に言うので

「ああ、ちゃんと送って行くよ」

 横手さんが送って行く、と言ったが時間も遅いので、俺が二人に着いて行く事にした。自転車を先に家まで戻してから再び市民ホールに向かう。俺は、再び雨が降りだした神山市内を歩きながら、先ほどバスの中で千反田が俺に言ったことを思い出していた。バスの一番後ろの席に並んで座り、千反田は自分の傘を見つめながら

「正直に言います……本当は行きたくありませんでした。今のわたしには歌えないと思ったのです。でも千反田の娘としての責務を考えると行かない訳には行きません。どうしようかと思っているうちに時間ばかり過ぎてしまいました。

 そんな時に折木さんの声が聴こえたのです。一瞬信じられませんでした。でも横手の伯母に訊いたと耳にして納得しました。折木さんなら、あの口の固い伯母を納得させるだけの事を出来ると思いました。そして、そこまでわたしの事を考えてくれた折木さんの為にも行かないとならないと思いました。本当に嬉しかったです……」

 やはり千反田は、行けなかったのだ。もし行けたとしても、あの精神状態で、きちんと歌えたかどうかは判らない。恐らく金賞は無理だっただろうとは思う。


 市民ホールは後片付けのトラックらが入っていて多くの人で混雑していた。その人混みの中を先ほどの控え室に向かって階段を登って行く。扉を開けようとして、中から声が聴こえるのを感じて、ドアノブを廻すのを止めた。どうも、横手さんと千反田の二人だけが残っていて会話をしているようだった。

「あなた、あの折木さんという子はしっかりした子ね。素晴らしい推理でわたしを納得させてしまったわ」

「そうなんです。いつも折木さんは、わたしなどが幾ら考えても判らないことを簡単に見抜いてしまうのです」

「いいわね。あのようなしっかりとした人が傍に居てくれるなんて……」

 少しの間の後やがて

「はい 一番信頼している人です」

 その千反田の声を耳にして、俺は取り敢えず館内を一回りして来る事にした。


 バスで帰る時、南陣出のバス停で横手さんが降りる時に

「折木さん。これからも、この子のこと宜しくお願い致しますね」

 そう言ったのが印象的だった。



                             <了>