以前pixixvに投稿していてこちらにも載せました「にわか高校生探偵団の事件簿シリーズ」ですがDノベに投稿したところ好評で「続きを」と要望されましたので何とか書いてみました。一応暫く? 連載していくつもりです。出来は良くないと想います。雰囲気だけでも楽しんで戴ければ……

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 新学期が始まり、何時もの平穏な市立がやって来た。翠ちゃんは、真面目に部活に出てくれている。
 部活動には本来「芸術棟」にある部室が使われるのだが例の事件の為に未だ閉鎖されており、仕方がないので美術室を借りているのだ。この部屋の監理は顧問の美術教師でもある百目鬼先生がしているのだが、あまり顧問としては熱心ではないので、
「葉山、任せるからちゃんと監理しておけよ」
 と一任されている。
 監理と言ってもこの部屋は美術の授業で使うので平時から開いていて、僕たち美術部員が下校時に教室にある鍵を掛けて帰るのが常となっている。
 昨年、この学校に五十年以上に渡って掛けられていた「呪い」のようなモノが解消して、この学校にも本当の意味で春がやって来たと思っていた。そこで、そ の事を記念して何か「花の絵」を描くことにしたのだ。勿論翠ちゃんも賛成してくれて、彼女は家から水仙と百合を持って来てくれたので部屋にあった花瓶に活 けてそれを描いているのだ。完成したら校舎内の廊下に掲示する事になっている。
 その日は夢中で描いていて周りの事が目に入らなかったのだが、いきなり肩を叩かれて飛び上がるほど驚いた。
「そんなに驚かなくてもいいでしょう。もう、変に敏感なんだから」
 声の主は、柳瀬さんだった。柳瀬沙織、僕より一学年上の人で、つい先月この学校を卒業していった人だった。演劇部の部長をしていて、舞台の上では輝くような魅力を解き放っていた。また放送の部長も兼ねていて、とても下級生に慕われていたのは言う間でもない。
「柳瀬先輩!」
 僕が何か口にする前に翠ちゃんが喜んで飛びついた。翠ちゃんは、僕より二学年上で、素晴らしい頭脳の持ち主の伊神さんの異母兄弟なのだ。ちなみに今まで この学校で起こった事件のことごとくを伊神さんが解決をしている。今は東京の国立大学に通う為に実家を空けていて、翠ちゃんがそこに下宿のような形で暮ら している。伊神さんのご両親は血の繋がっていない伊神さんや翠ちゃんを実の子供のように可愛がっているのは言うまでも無い事だ。
「大学の講義は大丈夫なのですか?」
「うん、今日は休講になったからこっちに様子を見に来たのよ。何か、ゆーくんの周りで事件でも起きてないかとね」
 全く、伊神さんでも翠ちゃんでもそして柳瀬さんでも、僕が事件を引きつけている見たいに思っている。それに関してはいい迷惑だと思っている。
「柳瀬先輩、本当は私と葉山先輩が仲良くなってるか、心配で見に来たのではないですか?」
 恐らく半分は本心なのだろう柳瀬さんの顔が僅かにひきつった。それを見逃す翠ちゃんではない
「ああ、や張り本当なのですね。柳瀬先輩と葉山先輩の間には、何か人に言えない秘密があるのですね」
 翠ちゃんの口調が一層険しくなる。何でこうなるのだろうか? 僕は確かに柳瀬さんに告白したが、あっさりかわされてしまったし、そもそもあれも彼女の本音だったかも今となっては怪しいと思っているのだ。
「あら、気になるのは当たり前じゃない。だって私とゆーくんは前世で結ばれていたのよ。今世でもそれは約束されている事だし」
 柳瀬さんも簡単には引き下がらない。それはそうだろう、この場で三つも下の後輩に言い負かされてしまっては立つ瀬がない。
「そもそも、葉山先輩がハッキリしないのが良くないのだと思います」
 翠ちゃんは方向を僕に向けて来た。僕は全く悪くない。何でいつもこうなるのだろう。
「ゆーくんも毎日こうやって私の目を盗んで翠ちゃんと仲良く部活度に励んでいるのね」
 柳瀬さんも矛先を僕に向けて来た。完全な思い込みだ。
「柳瀬さんも翠ちゃんも全くの誤解だよ。僕は僕でしかあり得ない」
 全く誤解を解くような言葉ではないが、咄嗟に出てしまった。
「柳瀬先輩、前は『葉山君』と呼んでいたのに、何故いきなり『ゆーくん』って馴れ馴れしく呼ぶようになったのですか?」
 翠ちゃんが柳瀬さんが僕の事を呼ぶ呼び方に疑問を持ってしまった。これは不味い。
「あら、いきなりじゃないわよ。去年の花火大会の時から呼んでいるわよ。あの夜の事は一生忘れないわ」
「ええ! 葉山先輩、一体何があったのですか? 私の知らない間に……」
 全く、柳瀬さんも何を言い出すやら……確かにあの晩に手を繋いだ事はあったが、それ以上の事は無かったはずだ。
「柳瀬さん。特別な事は無かったじゃないですか」
「あら、じゃあゆーくんはあれが一時の遊びだと言うのね?」
 ここまで来て僕はやっと柳瀬さんが、誤解を生むようにわざと言っているのが判って来た。
「そんな事言ってると、今度は本当に弄んじゃいますよ」
 言ってからシマッタと思ったが、もう遅かった。
「やはり葉山先輩は幾人も女の人を……」
 翠ちゃんが怪しい目をして僕に迫って来るし、柳瀬さんも
「ゆーくん。私はどんなに弄ばれても。、あなた一筋よ」
 そんな事を口にして笑っている。いよいよ絶対絶命だと思った瞬間
「葉山先輩! 美術部長の葉山先輩はいらっしゃいますか?」
 大きな声を出して数人の男女性生徒が美術室に雪崩れ込んで来た。
「どうしたの? 葉山は僕だけど」
 そう答えると今入って来た生徒の代表らしき者が
「大変なんです! 昨年百目鬼先生が描かれて学校の正面に飾られていた絵画に変な予告状が貼りつけられていたのです。直ぐに一緒に来て確認してください」
 何が起こったのかは理解出来たが
「君たちは?」
「清掃委員会の者です。校内の整理や備品の点検をしていた所だったのです」
 話だけでは実際に判らないので一緒に行くことにした。
「翠ちゃんはどうする?」
 声を掛けられた彼女は目を輝かせて
「勿論一緒に行きます。事件が起きたら兄の代りに私が解決します!」
 そのハリキリ様を見た柳瀬さんは
「あら、この私の前でよくそんな事が言えるわね。私とゆーくんで解決してみせるわ」
 そう言って口角を僅かに持ち上げた。
「兎に角行って見なければ判らないよ」
 僕は二人を伴って学校の正面玄関に飾られている百目鬼先生が描いた絵画の前に行ってみた。そこには校舎の上の方から学校全体を描いた絵が飾られていて、その額縁の下にA4の白い紙が貼られていた。
「なんて書いてあるの?」
 柳瀬さんが僕に尋ねると僕が読む前に翠ちゃんが声に出して読み始めた。
「予告! この絵画を近々一時的に預からせて戴く。心配ご無用。期日が来たら返却するものなり……なんでしょうね?」
 不思議がる翠ちゃんに柳瀬さんが
「これは単なる愉快犯ではないみたいね。ある時間だけこの絵がここ在ると困る者の犯行予告みたいね」
 柳瀬さんの言葉で僕は改めて絵を眺めてみた。それは、学校の上空から学校全体を鳥瞰図 のように描いた作品だった。よくある構図で珍しいものには見えな かった。絵に価値があるのではなく、ある時間だけこの絵がここの場所に在っては困る者の犯行予告だと僕も考えたのだった。