第5話 「広がる疑惑」

鈴和は翌日学校に登校すると康子を伴って3組にやって来た。
「確か3組は美樹がいたわよね」
鈴和は康子に中学時代のクラスメイトの名をあげた。
「いるよ。何でも浅野さんと仲がいいらしいわよ」
鈴和は、そうか、それなら呼びだすのにも好都合だと思った。

教室の入口で二人の姿を見た美樹は傍に寄って来た。
「どうしたの? ヤスとレイ」
昔ながらの呼び方に二人の頬も自然と緩む。
「あのね、浅野さん未だ登校してないかしら?」
康子がそう美樹に聴くと、美樹は残念な顔をして
「それがね、今日は休みだって、私の処にメールが来たわ」
そう言って、スマホを取り出してメールを再生してみせた
『美樹さん。今日風邪ひいて熱があるので休みます。学校にも連絡しておくけど、借りた本は治るまで待っててね』
元より合成音声だからあまり感情は入っていない。
「どうする?」
康子は短く鈴和に訊いてみる。
すると鈴和は美樹に対して
「ねえ美樹、昼休みにでも話があるんけど時間作れないかな?」
いきなりの鈴和の話にも美樹は平然として
「いいわよ! お昼食べたらそっちに行くね」
そう約束してその場は別れた。
学校を休んだとなれば、学校に居る間にする事は彼女、浅野さんの周辺を調べる事しか無い。
それには、今一番仲良しだという美樹に訊くしかなかった。

自分のクラスに戻りながら鈴和は康子に
「ありがとうね。付き合って貰って、もう大丈夫だよ、私一人でも」
そう言うと康子は目を剥いて
「それは無いよ鈴和、私だって真実が知りたいよ。何の役にもならないかも知れないけど、一緒に真相を追求させてよ」
そう言って来た。康子がここまで本気になるのは珍しかった。
鈴和はそれが嬉しかった。
「あ、御免ね。それじゃ一緒に真相を解明して行こう」
「うん!」
二人の間で話は纏まったみたいだ。
「じゃあ、始業まで未だ時間あるわね。もう一件付き合ってくれる?」
そう鈴和が言うと康子は
「いいわよ!どこでも」
そう言って笑うのだった。

鈴和が康子を連れて来たのは2年の教室のある階だった。
「ええと確か2年4組だったかな?」
2年4組の教室を覗こうとして、声を掛けられた
「鈴和ちゃんどしたの僕に用かい?」
声を掛けたのは神城だった
「神城先輩、ちょっと」
そう鈴和は言うと物陰に神城を連れ込んだ。
「先輩、こちらは私の親友で……」
「康子ちゃんだろう、知ってるよ。それに初めてじゃ無いし」
「あれ?そうでしたっけ?」
神城は何時もの鈴和だとこの時思って安心をした。
「もう時間が無いので手短に言いますけれど、この学校で『勉強が出来る薬』と言うのが流行り出してるのを知っています?」
「『勉強が出来る薬』だって? そんなのは聞いた事無いけどなぁ」
鈴和は神城の表情から、男子の間では流行ってないのかも知れないと思った。
そして、康子の事は隠して今迄の事を手短に纏めて話した。
「ヒロポンって……覚醒剤じゃないか、いくら弱くてもそんなの服用したら……」
「そうなんです。若しかしたら、ウチの学校だけじゃ無いかも知れません。組織でも取り上げて貰えますか」
「判った!でもそれなら自分でお父さんに言った方が良くないか?」
「でも今は余計な心配を掛けたくないし、それよりこの学校のルートを解明するのが先ですから」
「今日、放課後にファミレスで会わないか、それまでに今日一日学校で判った事もしりたいしね。僕の方も2年を調べて見るから」
さすが神城だと鈴和は思った。事件慣れしてると言うか一を聞いて十を知る、だと思った。

「有難うね。先輩に黙っていてくれて」
康子は自分の教室に帰りながら鈴和にお礼を言った。
「いいよ、そんなの気にしなくて。それより放課後はまたパフェが食べられるわよ」
「ええ!また奢らせるの?」
「いいの、いいの?お金持ちなんだから」
屈託の無い鈴和の笑いを見ていて康子は、ちゃんと真実を言ってよかったと心の底から思うのだった。

美樹は、昼休みに約束通りに二人の処へ顔を出した。
美樹も笑顔で出て来て鈴和に
「長い話だったら屋上行こうか?」
そう言って3人は屋上に向かった。

「なあに?話って」
美樹は何の心配事も無いような素振りをしていた。
「あのね美樹は『勉強の出来る薬』って聞いた事ある?」
鈴和はいきなり確信を訊いてみた。美樹の答えは
「知ってるよ。私も浅野さんから貰ったけど使わなかった。だってそんな魔法みたいなモノがあるわけ無いと思ったから。それに私勉強嫌いだからさ、私の成績が悪いのは勉強が出来ないんじゃ無くて、勉強が嫌いだから……」
美樹は単純にしかもキッパリと言い切った。
「きっと、そういうのを使ってしまう子って、焦っているんだと思う。脅迫観念って言うんだっけ? そう言うのになってると思うんだよね。ある意味可哀想だよね」
美樹は美樹なりに分析をしているのだと鈴和は思った。
「それを、浅野さんが何か絡んでると言う事を訊いたのだけど何か知ってる?」
鈴和の質問に美樹は
「やっぱり、屋上に来て正解だったわね。鈴和、あなたが普通の高校生じゃ無いから言うのだけど、私の知ってる事だけは話すからね」
そう言って美樹は話始めたのだった。