自慢じゃないが今まで女性にモテた事がない。正確に書くと中学生の頃に告白されたことがあるのだが、当時の俺はガキで恋愛のイロハも良く知らずにその告白を本気にしなかった。当然、その子は傷つきそれ以来口も聞いてくれなくなった。その報いでは無いだろうが、それから他の子に告白しても、さっぱりだ。こちらから告白しても
「悪いけど何とも思ってないから」
 と言われる事が殆どだった。この『何とも思っていない』と言うのは一番キツい。「友達で」よりも残酷でつまり「お前なんか人間と思ってないよ」という意味に等しいのだ。
 だから結婚年齢に達しても恋人などはおらず、気ままな独身暮らしだ。それでも今年の誕生日で三十一になる。面倒くさいのでこのまま独り身でも良かろうかと思い始めていた頃のことだった。親友の嫁さんから電話が掛かって来たのだ。正直、数回逢って話をしただけだし、それも親友を通さずにだから少し驚いた。スワ不倫の誘いかと思ったが全く違っていた。
「彬(あきら)くんさあ、結婚する気ある?」
「は、そりゃ当然でしょう。ありますよ」
「実はさ、紹介したい子がいるんだけど、ちょっと変わってるのよね」
「変わってる? 頭が二つあるとか、手が三本とか?」
「まさか。それじゃ奇形じゃない。そんなのなら、とっくにテレビで売れてるよ」
「そうか。じゃ顔が酷いとか」
「顔はコンテストで優勝するような、特別な美人という訳じゃないけど、十人並み以上かな。結構モテたみたいよ」
「へえ~。じゃあ何が変わってるんですか?」
「正直に言うと性癖が変わってるのよね」
「性癖? SとかMとか」
「S,Mで別けるならMかな」
「うん? どういうこと」
「まあ、その辺は逢えば判るから。逢ってみる?」
「歳は?」
「二十九歳にこの前なったばかり」
「三十前にして焦ってるんだな」
「焦ってるというより本当の自分をさらけ出せないので疲れちゃったという感じかな」
 彼女の話では肝心な事を言ってくれないので判らなかったが逢っても損はないだろうと勝手に決めて逢うことにした。日時を打ち合わせて電話を切った。この次の日曜日に親友の家で逢うことなった。

 親友の家は結構な旧家で家もそれなりの構えをしており、小さい頃なぞは沢山ある部屋で隠れん坊をしたものだ。築数十年は経っているので数年おきにあちこち修繕しながら住んでいるのだと言う。建て売り住宅で育った俺には羨ましいぐらい大きな家だった。
 親友は学校の成績も良く国立大から一流の商社に就職した。三流の会社勤めの俺とは正反対だ。おまけに先日電話をくれた嫁さんも結構な美人で明るくて人付き合いも良い。唯一の欠点が胸が無いことぐらいだろうか。尤も親友はそこには興味は無いらしい。昔からバレンタインデーになると女の子から抱えきれないほどのチョコを貰っていたアイツが選んだ嫁さんだから悪いはずが無いのだ。
 しか気になるのはM系統の性癖とは何だろうか? それが気になった。毎晩鞭で叩かないと子作りも儘ならないとは面倒だ。俺は精神的なS気なら多少あるが直接は御免だ。それほどの性癖はない。二十九になるまで結婚出来ず。あるいは相手が現れなかったというのは、かなり変わっているのだと思った。
 実家の近くにある親友の家を訪ねる。門構えは昔と変わっていなかった。懐かしさがこみ上げる。
「おお良く来たな。上がれ」
 親友が上機嫌で出迎えてくれた。後ろには先日の嫁さんも居た。
「この前はどうも。お邪魔しました」
 そう挨拶をして手土産を手渡す
「あら、気にしないでくれれば良かったのに」
 そうは言うが、その言葉は本気にしてはいけない。
「もう来てるわよ。楽しみにしててね」
 果たして楽しみにするような事なのだろうか?
 案内されて沢山ある部屋の何処かに通された。俺は洋間を想像していたのだが何と日本間だった。それも本格的な床の間つきの八畳間だった。「どうぞ」
 嫁さんは俺を床間の前を勧めた。
「俺が床の間ですか」
「当然じゃない。さあ」
 促されて座布団に座る。床の間には何かの日本画の掛け軸が掛かっていた。俺は全く判らないが雪舟を思わせる絵だった。
「すぐ連れて来るからね」
 そう言って嫁さんは消えた。俺は親友に
「なあ、どんな子なんだ」
 そう訪ねると親友は
「俺も良く知らないんだよね。嫁さんが良く知っているんだ」
 そう言って笑っている。こうなったら覚悟を決めるしかないと思った。そんなことを考えていたら奥の襖が開いて嫁さんに連れられて一人の女性が入って来た。そして俺の向かいに座った。
「こちらが山縣彬(やまがたあきら)さん。彬さんこちらが和久井碧(わくいみどり)さん」
 嫁さんがそうお互いを紹介してくれた。
「山縣彬です。宜しくお願いします」
 そう挨拶すると向いの和久井碧と紹介された女性はそっと顔を上げた
「和久井碧です。今日は宜しくお願いします」
 そう挨拶をしてくれた。十人並みと嫁さんは言っていたが冗談じゃない。結構な美人でしかも色白で可愛い。二十九には見えなかった。
『おいおいこれは結構だぞ』
 そうは思ったが同時に嫁さんの言った「性癖」が気になった。これだけの器量良しで今まで貰い手が現れなかったという事はそこに問題があると言う事だ。だから今回は俺がそれを承認出来るか否かという事なのだと考えた。
「山縣さんて背が高いのですね。わたし、背の高い人が好きなんです」
 碧さんはそう言ってニコリとした。その表情も悪くないと思った。
 そうしたら嫁さんと親友が
「じゃあ、残りは二人で話を盛り上げて下さい」
 そう言って嫁さんがコーヒーとケーキのセットを置いて二人で出て行ってしまった。まあ、お見合いには良くあるパターンだから仕方ないが、これでは俺が直接「性癖」を尋ねなければならない。そう考えていたら碧さんが
「あのう、彼女からわたしの事お聞きでしょうか?」
 そう水を向けられたので正直に口にする
「私が聞いたのは何やら『性癖』があるとか無いとかです」
「そうですか、実は……」
 聞いたことをすのまま言った。そうしたら碧さんは信じられない事を行動に移した。
 黒のカーデガンのボタンを一つずつ外すと裾を持って外側に開いたのだ。
 普通ならその下にはブラウスを着ているはずだった。勿論彼女も着ていた。しかし、そのブラウスが問題だった。
 そのブラウスは黒の網目模様でしかも目が粗い。つまり彼女の上半身は丸見えなのだ。といのも彼女はノーブラだからだ。豊かで形の良い乳房がその網目模様を通して丸見えなのだ。
 思わず目が行ってしまう。「性癖」とはこのことだったのか! 俺の視線を感じて碧さんは頬が赤く染まって来ている。明らかに興奮状態にあるのだと判る。しかし本当に素晴らしい乳房だ。これなら人に見せたくなるのも無理は無い等とバカな事を考えていたら
「わたし、こういう趣味があるんです。だから今まで親しくお付き合いさせて戴いた方からも変態扱いされ駄目になってしまったのです。最初は隠していても何れ判ってしまいます。ならば、最初から自分の『性癖』を正直に言った方が良いのではと思ったのです」
 確かに普通の美人だと思っていたら、人前で自分の裸を見せたいという癖があるとは思わないだろう。特に碧さんの外見ではそれを想像させることは難しいと思った。
「碧さんは普段はいつも、そのような格好なんですか?」
 正直、ここが大事だと思った。
「あの勘違いなされるとは思うのですが、わたしは好きな人やお付き合いさせて戴いてる信頼出来る人と一緒にいる時にするのです。それはその方がわたしのみだらな姿を見て興奮してくれたら嬉しいからなんです。わたしも相手の方が興奮してくれれば燃えます」
 そうか,要は「羞恥プレー」をしたいと言う事だと思った。碧さんは自分の恥ずかしい姿を人に身られて燃えるM気がある女性なんだと理解した。ならばこちらも一緒に羞恥プレーを楽しめば良いと考えたのだった。
「あの隣に行っても良いですか。実は碧さんのその豊かな胸を間近で鑑賞したくなりまして」
 こうなったら俺も本心で語ることにした。碧さんは嫌がるかと思ったら
「隣ですか。実は先ほどから山縣さんの視線を感じていまして、遠い向こう側ではなく、もっと近くに来て欲しいと思っていました」
 何と言う僥倖だろうか。早速碧さんの斜め後ろに移動する。この位置からだと碧さんの大きな乳房とその美しい形を堪能出来るからだ。それにしてもピンと上を向いてその存在感を示している乳首の美しさよ。これは男としてはたまらない。正直触りたくなってしまう気持ちが出て来てしまう。
「それにしても本当に美しく豊かな胸ですね。素晴らしいです」
「ありがとうございます。今までの男の方は皆、人目でそんな格好をするなんて等と言われ、怒って帰ってしまう方ばかりでした。山縣さんは違うのですね」
 まあ怒る気持ちも理解出来なくは無いが、俺は根がスケベなのでそっちの方の気持ちが勝ってしまっただけなのだ。
「僕はスケベなだけですよ。それに美人で可愛い碧さんが、そのような格好をされていると言う事実がとても僕を魅了してやりません」
 本音に近い発言だった。もっと正直に言えば触りたい。触ってゆっくりとこの乳房を堪能したかった。まさかそれを碧さんの前で言う訳には行かない。もし将来があるならダイレクトに言う事もあるかとは思うが、果たして碧さんと交際するかどうか今の時限では判らないからだ。
 それにしても碧さんは気持ちが完全に昂揚しているのがハッキリと判る。顔は上気して項から真っ赤だし、上を向いた乳首も益々その存在感を示している。「触れなば落ちなん」という感じにも受ける。
「正直に尋ねます。イヤなら黙っていて下さい。碧さんは僕に見られて興奮なさっています?」
 いつまでもこうやって密室で碧さんの乳房を眺めている訳にも行かない。この先に進まないとならない。どう返事をしてくるか、あるいは黙っているか、見透かされて怒るか。どれかだと思っていたら
「はい、正直に言います。先ほどから体が疼いてしまっています。だからわたしからも山縣さんにお尋ねします」
「はいなんでしょうか?」
「もし、わたしと今後交際するとして、これからも、わたしのこのような趣味にお付き合い願いますか?」
 要するに今後のデートの時に「羞恥プレー」をしてくれるか。と言う事なのだと理解した。
「喜んで! 正直言えば碧さんを僕の好みのいやらしい格好になって貰いたいと思っていました」
「わたしみたいな変態でも良いのですか? 結婚を意識したお付き合いですよ。将来、わたしみたいな変態が妻になっても良いのですか?」
 恐らく、これが碧さんが俺に確かめたかった本音だろう。
「そうですね。夏なら、紐みたいな殆ど隠す場所が無い水着を着て、プールサイドや海岸を一緒に歩いたり、全裸にコートだけを羽織って散歩したり、ノーブラTバッグに少しキツいTシャツにミニスカートだけで街を歩いてみたりしたいです」
 まずは頭に浮かんだ格好を述べてみたら、碧さんはいきなり俺に抱きついて来て
「嬉しいです。そこまで考えてくれていたなんて。それ実は全部一度はやってみたかった事なんです」
「そうですか、ならば趣味が同じなんですね」
 碧さんんは俺に抱きついたままだ。そっと触りたかった胸を手全体覆うように優しく掴む。柔らかくもプリンとした感触が堪らない。こんな感情を抱いたのは何年振りだろうか。
「ああ、とても感じます。正直、わたし我慢出来そうもありません。でもここでは」
 そうだ。ここは親友の家なのだ。ここでこれより先に進んではならない。
「僕、今日はここに車で来ていますから、何処かに行きましょう。そこでたっぷりと続きをしましょう」
 俺の提案に碧さんは嬉しそうに喜びを露わにして
「はい。宜しくお願いします」
 そう言って三つ指を着いたので俺も同じ格好をした。そしてそれが可笑しくて二人で大笑いした。
 碧さんが再び真剣な眼差しで俺を見つめるので、俺は碧さんを抱きしめて柔らかい躰の感触を楽しんでから、その赤い唇に口づけをした。
「これは予約みたいなものです」
「はい、しっかりと受け止めました。それからですが、正直に申し上げますが、恥ずかしながら、わたしアラウンドサーティなのに未だ男の方を知らないのです」
「え、すると処女ですか?」
「はい。気持ち悪いですか? 寸前までは何度か行ったのですが、そこで『変態とは付き合いきれない』と駄目になってしまっていたのです。ですから好きな人と身も心も一緒になるという事は初めてなのです」
 正直、本当に驚いた。俺は処女だとか非処女には全くこだわらないからどうでも良いが、碧さんの性癖は昔の男が仕込んだのだと考えていたからだ。
「昔の彼氏に仕込まれたのでは無いのですか?」
「はい。元々なんです。小さい頃から父と銭湯に良く行きました。母とはあまり入らず。もっぱら父と一緒でした。小さい頃から人に身られると妙な快感を覚えていて、それが成長した感じなんです。だから一人で居る時は、頭の中でい色々なシュチュエーションを考えて楽しんでいたのです」
「あの一人で楽しんでいたと言う事は、一人エッチですか?」
 そう尋ねると碧さんは消え入りそうな声で一言
「はい」
 そう言って俺の胸に顔を埋めてしまった。この時は思わなかったが、碧さんは会話でもこのような攻められると嬉しいそうで、言葉だけでも逝ってしまうらしい。完全なMなんだと理解した。

 その後親友夫婦が入って来て、俺と碧さん二人が上手く行きそうだと判ると祝福してくれた
「良かったね碧! 中々合う人って居ないから上手くやるんだよ」
 嫁さんはそう言ってくれ、親友は
「正直、お前には勿体ないぐらいの美人だから大事にして上手くやれよ」
 そう言ってくれた。二人に礼を言って、庭に止めてあった俺の車に乗る。助手席に座った碧さんに
「走り出したらカーデガンを脱いで上半身をブウス一枚になりましょうよ」
 そう提案する。つまり上半身が丸見えになると言う事だ
「でも。」
「大丈夫ですよ。車の中は暗いから外からは良く見えないんです。でも中から外は良く見えるんです。だから碧さんの美しい姿態も表の連中からは良く見えないんです。でも運転してる僕からは丸見えなんです」
「そうなんですか。新しい事を覚えました。じゃ脱いでみます」
 碧さんはそう言って黒のカーデガンを脱ぎ去った。先ほどは胸しか見えなかったが今度は背中もばっちりと見える、背中も均整が取れて美しかった
「何かスポーツをされていたのですか?」
「はい、学生の頃は器械体操をやってました」
「器械体操ですか。だから均整が取れているのですね」
「でも不純な動機なんです」
 車は街中を抜けて街道に出ていた。この先にシティホテルがあるはずだった。
「不純な動機って?」
「器械体操ってレオタードを着るでしょう。あれって躰の線が露わになるから。それにその頃から結構胸があったので部の仲間からは『ホルスタイン』って呼ばれていました」
 そうかやはりこの人の性癖は極め付きなんだなと思った。
「先ほど胸を触られて、凄く感じました。好きな人に触られるってこんなにも感じるものだと思いました」
 そう言って碧さんは網目のブラウスの上から自分で乳房をもみし抱いている
「そんな嫌らしい事をしても外からは見えませんからね。大胆にもなりますよね。今度は一糸纏わぬ姿になってみますか。そうやって高速を走るプレーもあるそうですよ」
 これは某AVで見たやつだった。それを聴いた碧さんの目が輝いたのは言う間でもない。
 車はホテルに入って行った。この後俺と碧さんは結ばれた。セックスの相性もバッチリで結婚の約束をしたのだった。

 誰だ! 「破れ鍋に綴じ蓋」だと笑ってる奴は……。