2016年02月

君を喜ばせたくて

 会社を早退して家に帰ってみると、幸い妻の礼子はまだ帰っていなかった。それは今日の僕にとっては都合が良かった。部屋の明かりを灯して、僕は買って来たものを少しずつ分散して家の中に飾って行く。彼女への精一杯の想いを込めて……

 僕たち夫婦には子供が出来なかった。
 学生の頃に同級生だった僕と礼子は大学を卒業すると直ぐに結婚した。お互いの両親は反対で「まだ早い」 と言っていたが、当時の僕たちは、その時まで待ちきれなかったのだ。
『何時でも傍に居たい』
『一緒に居られれば幸せ』
 そう思っていたし、僕は常に礼子と一緒に居たかったし、彼女と毎日過ごせるなら、こんな幸せはないと思っていた。
 経済的なことは二人で働けば何とかなると甘く考えていた。彼女も僕も、それで何も疑問を持たなかった……今から思えば、ようするに甘ちゃんだったのだ。
 苦しい時は誰でも無理をすることになる。本業の仕事の他にアルバイトをして凌いだ。親に頼れば簡単だったのだが、「大丈夫だ」と見栄を張って結婚したの で、頼れなかったのだ。それでもお義母さん、つまり礼子の母親は隠れて援助してくれていたそうだ。これは随分後から知ったことなのだが。結果として彼女に は無理ばかりさせてしまった……。
 昔も今も家庭を持つと共働きの場合、どうしても女性に負担が掛かる。例え男が家事を手伝ったとしてもだ。たかが知れてる……。

 そんな結婚当初の無理が響いた訳ではないだろうが、結婚して五年が過ぎた頃、さすがに妊娠しないのはおかしいと、二人揃って医師の診察を受けた。それによると礼子は妊娠し難い体質らしい。根気よく不妊治療をして行くしかないと言うことだった。
 その後五年も過ぎた頃だったろうか、夜ベッドの中で僕の胸に抱かれながら
「もう不妊治療受けるの辞めようと思うの。辛いばかりで結果が出ないし、後は自然に任せようと思うの。子供が出来ないのは神様が私たち夫婦には子供は授けられないって決めたのだと思うの。ならば、それに甘んじようと……」
 礼子の辛さは良く判っているつもりだったが、治療の辛さを礼子一人に背負わせてしまっている現状では、さすがに自分には何も言えなかった。
「そうか……辛い思いをさせて、ごめん」
「ううん、いいの……あなたが、どうしてもって言うなら人工授精という方法もあるって、先生も言っていたし」
 礼子は遠回しに言ったが、要するに医師から人工授精を薦められたのだろう。自然受精は難しいと宣告されたのだと思った。
「いいよ。そこまで無理しなくても良いよ。二人だけだけど仲良くやって行こう。今までありがとう。君一人に辛い想いをさせてしまったね」
 僕はそう言って礼子を抱きしめた。柔らかい華奢な体が腕の中に収まった。その夜は本気で心の底から礼子を愛おしいと思った。僕にとって大切な人だと改めて感じた夜だった。

 それから更に数年過ぎた頃だろうか、その頃僕たち夫婦は都内のマンションを買って住んでいた。子供が居れば郊外の一戸建てを購入しただろうが、僕たちに は子育てということがないので利便性を優先したのだ。その頃にはそれだけのローンを返済する収入もあった。子供が居ないということを除けば幸せな日々だっ た。
 本当はこの時期をもっと大切に過ごしていなければならなかった。いつの間にか水や空気のような存在となっていたのだ。仲が悪い訳ではない。大切な人だと言う認識はあったが、それが当たり前だと感じていた。
 そんなある日のことだった。礼子が仕事から帰って来ると
「なんだか、今日は目がおかしくて……ゴロゴロするの」
 そう言ってリビングのソファーに座って、買って来た目薬を挿していた。僕は、夕食のおかずをダイニングのテーブルに並べながら
「明日は土曜で休みだから、目医者に行って来なよ。そんな目薬を挿しているより、よっぽど確かだよ」
 何時もは「平気よ」と言うのだが、この時は
「うん、そうする。なんだか段々酷くなって来た感じがするから」
 そう素直に言ったのが妙に印象に残った。
 翌朝、起きるなりに
「目がゴロゴロして開けられない。段々痛くなって来たわ」
 そう言って冷たい水で冷やしたタオルを目にあてている。僕は時計を確認し医者が開く時間を確認して、朝食もそこそこに車に礼子を乗せて目医者に連れて行った。一夜にしてこんなに酷くなるとは信じられなかった。近所では評判の良い街医者だった。
 礼子の手を引いて医者に入る。受付で保険証を出して症状を説明する。待合室で待っている間礼子は辛そうだった。
「痛むか?」
「うん……ごめんね休み潰して」
「そんなこと気にするな。今は自分のことだけ考えれば良いよ」
「ありがとう」
 気休め見たいなことしか言えない自分がもどかしかった。
 どの位待たされただろうか、やっと順番が来た。礼子を診察をした医師は
「これは、ウチじゃ手に負えないかも知れない。直ぐに紹介状を書いて予約も入れてあげるから、これから直ぐに行きなさい。時間もまだ間に合う」
 そう言って大学病院の眼科の予約を入れてくれた。一体何の病気なのだろうか?
 書いて貰った紹介状を手にして再び車を走らせる。二十分ほど走った場所の大学病院の駐車場に車を停める。痛みが酷くなって来て一人では歩くこともままな らない礼子の手を取って、病院の中に入って行く。初めての場所なので右も左も分からないが、兎に角案内の受付で場所を教えて貰い手続きだけは済ませた。長 いベンチに腰掛ける。礼子はハンカチで両目を抑えていて本当に辛そうだ。
 随分待たされてやっと順番が来た。礼子に付き添って一緒に診察室に入る。昨夜からの事情を礼子が説明をして医師が診察に入る。色々な機器を使って診察していたが
「角膜炎ですね。ウイルス性かどうか検査してみましょう」
 そう言って検査をすることになった。
「炎症が酷いので炎症を止める注射をします」
 何と目に直接注射をするのだと言う。
「麻酔しますから痛くありませんよ」
 看護師さんも優しく言うが目に注射など僕だったら絶対に嫌だ! きっと礼子もそう思っているはずだが
「この痛みが軽減されるなら何でもいいわ」
 そんなことを言っている。やはり女性は強いと思ったし、彼女の辛さが僕にも伝わって来た。
 検査の為に組織を一部採取した後で目に麻酔が刺された。刺すと言うより目薬みたいに挿入された感じと言った方が間違いないだろう。それから少し時間を置 いて、医師が細い注射器を礼子の白目に挿した。ゆっくりと炎症止の薬剤を注入していく。この時はさすがに辛そうだった。礼子の表情でそれは判る。同じ事を もう片方の目に施して注射は終った。
「針が入ったのは麻酔がかかっていたから痛くなかったけど、薬が入って行くのが気持ち悪かった」
 帰りの車で礼子が言った言葉だ。傍で見ていた僕はそれが痛いほど理解出来た。痛みのことを尋ねると、軽くなったと言っていたので、それだけでも良かった と思う。でも不妊のことと言い、今回のことと言いどうして彼女ばかりが辛い目に会うのだろうか、これが彼女の試練なのだろうか? 僕は帰りの車の中で色々 なことを考えてしまった。そして、僕にとって礼子は改めて無くてはならない大事な人だと思った。
 痛み止めやら幾つかの飲み薬や目薬を貰って帰って来たので、それを服用する。次回は火曜日だという。検査の結果が出て対処する薬が決まるそうだ。ウイルス性だったら厄介なことになるという。
 所謂、「角膜ヘルペス」と呼ばれるもので、この場合のウイルスは子供の頃に掛かった「水疱瘡」のウイルスが目の奥に潜んで、体の抵抗力が下がると表に出 て来て角膜を侵食するのだと言う。酷い時は失明するそうだ。また完治と言うことはなく、このウイルスを殺したり体外に出す方法は無いそうだ。一時は収まる が目の奥に移動して大人しくしてるだけだという。発熱、紫外線被爆、ストレスなどをきっかけに体調が悪くなれば、また症状が出ると言う。困った病だった。

 それから火曜日までが大変だった。礼子は当然会社を休んで休養していたし、僕も家の家事を全てやっていた。早朝から起きて炊事、洗濯、掃除をして出社する。帰って来て夕食の用意。やることは多い。この間、礼子の痛みは酷くなって行った。それを見ている自分も辛かった。
 火曜は半休を取って礼子を病院に連れて行った。検査の結果はやはり「角膜ヘルペス」だった。
「角膜が大分侵食されています。既に視野に影響が出ていますね。今は特効薬があるので症状は収まりますが病そのものが完治することはありません。体の抵抗力が落ちると又発病します」
 そう言って薬を処方してくれた。薬局で貰うとその場で目に挿す。少しでも早く痛みが無くなれば良いと思った。
 結果として痛みは数日で殆ど無くなったが、眼球に濁りが出てしまって、回復にはひと月近くかかるということだった。
「痛みは無くなったけど実は、あなたの顔が良く見えないの……大丈夫かな……いつまでも仕事休めないし、こんな状態でこれから大丈夫かしら?」
 礼子の不安は尤もだと思う。僕だって同じ立場になったら、もっと狼狽えるだろう。それだけは言える。やはり礼子は強いと思った。
 大学病院にはその後は一週間おきに通った。三回目からは「一人で大丈夫」というのでそのまま行かせたが、やはり不安だった。
 僕は今回のことで、改めて自分の人生に彼女が居てくれるということが、どんなに素晴らしいことなのか、やっと理解したのだ。僕の人生は彼女無しでは今までもこれからもあり得ないと……。
 完全に見えるようになるまでひと月。それでも視野に欠損が出ると言う。運転関係の仕事は不安が残るだろうな、と思う。幸い礼子は事務の仕事なのでそれは 無いが、PCのモニターを長時間見つめるのも目に良くないのだろう。メガネ屋に連れて行き、PC用のブルーライトをカットするメガネを購入する。何も掛け ないよりかは良いだろうと思った。

 何気に部屋のカレンダーを見ていたら、結婚記念日が間近だと気がついた。結婚記念日などは最近は全く祝わなくなってしまったが、今までとこれからは違うと決意した。
 今年の記念日は彼女が喜ぶことをしたいと僕は考え、あることを計画した。
 その日、礼子は大学病院に行く日だった。僕は仕事を早退して、街の花屋さんに頼んであった花をかなり大量に購入した。花を散らせないように大事に持って帰ると、幸い礼子は未だ病院から帰って来ていなかった。
 家中の花瓶や花を活けれる大きな器を出して、水を入れてその花を挿して行く。段々と家中がその花の匂いで埋まって行く。
 全て飾り終えた時に礼子が帰って来た。
「あれ、帰っているの? どうしたの?」
 そんなことを言いながら部屋に入って来ると
「あれ、いい匂い! これ、私の好きなライラックの香りね!」
 礼子の表情が明るくなった。僕が一番見たかった表情だった。そう、僕はライラックの花を大量に買って部屋中に活けたのだった。
「ああ、いい匂い! まるで花に囲まれているみたい」
「どうだい?」」
 僕の質問に礼子は笑みを浮かべて
「目の方は大分戻って来たのよ。でもこの香りを嗅ぐと益々よく見える気がするわ」
「今日が何の日だか知っていたかい?」
「この匂いを嗅いで思い出したわ。ライラックの花の匂い」
「気に入って貰えたかな?」
「当たり前じゃない……あの時、北海道に旅行して満開のライラックのお花畑で求婚してくれたことを、忘れる訳がないわ」
「それで帰ってすぐに親に言ったんだよね」
「そうそう、両親からは怒られたわぁ」
「僕もだよ……それでも一緒になって、ここまでやって来れた。それは君が居てくれたからだ。今度のことで僕は判ったんだ。君無しでの人生はあり得ないと……」
「それは、私も同じよ。今度のことで、どれだけあなたが頼りになったか……私だけならヤケになっていたと思うの」
 僕と礼子は、やはり一緒に生きて行く為に出会ったのだと思った。そして、僕たちは本当の夫婦になった……。
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 その後、礼子の目の濁りは元に戻ったが視野の欠損はそのまま残った。それから礼子は運転をしなくなった。見えない部分があるということで事故を起こし兼ねないからだ。
 それと外に出る時は紫外線をカットするメガネを掛けることが日常となった。これは紫外線に晒されると角膜ヘルペスが再発する可能性があるからだ。
 でも、外観なんて、どうでも良かった。礼子が礼子で居てくれれば僕は幸せなのだから……


                                                                                 <了>

ホワイトデーには

 生まれて一番緊張したかも知れない。
 2月14日はご存知「バレンタインデー」
 女の子がチョコレートを持って好きな人に愛を告白してもいい日だ。今さっき、わたしは、その一大事をやってきた所だった。
 同じクラスの和也くんに告白をして来たのだった。今年高校に入学してから知り合った子だった。
 特別にスポーツマンでもないし、成績も良くはない。まあ、わたしと同じぐらいで、真ん中あたりをうろうろしている。でも、気が付いたら好きになっていた。いいや正確には一日中和也くんのことばかり考えていることに気がついた。
『今、何をやっているんだろう?』
 とか、本を読んでも
『和也くんだったらどんな感想を持つかな?』
 とか気が付くと何時も考えていた。これって、好きになったと言うことなのかな?
 実は、今まで男の子を見てもこんな気持になったことはなかった。だから、この感情が恋と言うものだとは全く気が付かなかった。それを知ったのは友達の長月玲奈に言われたからだ
「美紀、それを人は恋と呼ぶんだよ」
「え、知らなかった。その人のことが気になると言うことが恋だったんだ」
 今時の高校生としては、余りにも酷い答えだったのか玲奈は呆れてしまった。
「美紀はもしかして初恋?」
 その玲奈の言い方には驚きと、呆れと僅かな嘲笑が混じっていた。でもわたしにはそれに反論する答えなんか持っていなかった。
「和也くん。カワイイ顔してるものね。それに何時も美紀に優しいしね。あの子も満更じゃないのかもよ」
 無責任な玲奈の言葉にわたしは舞い上がってしまった。そう言えば和也くんは他の娘よりわたしに優しい気もする。果たしてそうなのだろうか? 
「今度の2月14日にはチョコ送ったら?」
「2月14日……ああ、バレンタイン!」
「ほんとに鈍いんだから……仕方がない、協力してあげるわよ」
 小学校からの友人の玲奈はそう言ってわたしに協力してくれることになった。そういう玲奈は今年はパスだそうで、来年に賭けるのだそうだ。要するにわたしに関わることで暇つぶしをしようと言うことなのだと考えた。でも正直ありがたい。持つべきは親友だ。

 それからは作戦を練ることになった。
「いい、手作りだからね! 素材のチョコはベルギー産のよ」
「そんなに高いの使うの? 国産でもいいやつ使えば……」
 戸惑うわたしに玲奈は
「駄目よ! ベルギー王室御用達。というのが貴重なのよ。第一夢があるでしょう」
 言われてみて、そうか夢の部分も必要なのだと思った。そして、わたしにそれが一番欠けてる部分だと気がついた。
 街の市場にある高級洋菓子の素材を売っているお店に行き、色々と揃える。買うものは多い。チョコの他にも色々と買わなくてはならない。型だってそうだ。ハートの大きな型が欲しかった。
「型はわたしのを貸してあげるわよ。色々と持ってるから。それから次は包装屋さんに行き、ラッピングの素材も買うのよ」
 玲奈はテキパキとわたしに指示をして行く。もしかしたら、わたしより乗っているかも知れない。こういうことって女の子の何か刺激させるのだろうか? 
 わたしは自分のことなのに何処か他人事みたいに感じていた。
 湯煎で溶かし、型に入れる。冷やして、表面にホワイトチョコのペンでメッセージを書いて行く。他の色で下手だが薔薇の絵も書いてみた。そんなことをしているうちに自分がこれを本当に和也くんに渡すのだとやっと実感が湧いて来た。想像するだけで耳まで真っ赤になる。
「あんた今から何上がってるのよ。失敗しちゃ駄目よ」
 一緒に作るのを手伝ってくれた玲奈が隣で呆れていた。
 でもそれやこれやで遂にバレンタインに和也くんに渡す手作りチョコは完成した。綺麗にラッピングも終わり、後は渡すだけとなった。
「あんた、呼び出せないでしょうから、呼び出すまでは手伝ってあげるからね。その先は頑張んなさいよ」
 本当に玲奈には感謝しきれないと思った。

 当日、放課後に校舎の裏手に和也くんに来て貰った。勿論玲奈が和也くんに声を掛けたのだ。
「もうじき来るはずだから頑張りなね」
 玲奈はそう言って消えてしまった。一人になると急に心細くなって心配になって来た。我が高校にはある種のルールがあって、男子は女子からバレンタインに チョコを渡されたら決して拒否してはならない。というものだった。それは、OKの返事ではなく、心を込めて作ってくれた女子に対する礼儀だと言うもので、 返事は翌月のホワイトデーを持って返事とする。というルールがあるのだ。だから和也くんがわたしのチョコを貰ってくれないということは無いのだった。
 2月も半ばになると陽が伸びて来て、夕方でもかなり明るい。お陽様が長い影を作っていた。校舎の角から人の影が僅かに頭ひとつ飛び出して来たように見えた。やがてそれは完全に人の形となった。角を曲がって現れたのは和也くんだった。
「長月が校舎の裏で待ってる人が居るから行きなさい。って言うから来たのだけど、美紀ちゃんとは思わなかった」
 和也くんは明らかに戸惑っている感じだった。今日、こんな時刻にこんな場所に呼び出したら目的はバレているよね? 
 それでも、わたしはめげずに手提げから作ったチョコを取り出した。それを見た和也くんは表情を変えない。やはり嬉しくないのかな?
「正直に言います! 前からずっと想っていました。これを受け取って下さい!」
 今の自分に言えるだけのことを口に出して言った。ちゃんと言ったつもりだったが、声が震えてしまって上手く言えなかった。でも、わたしの告白を聴いた和也くんは
「ありがとう! 大事に食べさせて貰うよ。返事は決まり通りにホワイトデーにちゃんとするからね」
 和也くんはそう言ってわたしのチョコを、大事そうにしまうと帰って行った。暫くして玲奈がやって来て
「どうだった? 上手く言えた?」
 かぶりを振るわたし……
「声が震えちゃって……」
「そうかぁ、でも返ってそれが真剣だって感じが出て良かったかもよ」
「そうかなぁ……」
「そうだよ!」
 わたしは、この時の玲奈のポジティブな言葉にかなり救われた。思えば、いつもわたしが落ち込んでいた時に前向きなことを言って励ましてくれたと思い出した。
「こんな言葉もあるじゃない。『家宝は寝て待て』とか『人事をつくして天命を待つ』あるいは『細工は粒々、仕上げはごろうじろ』あ、これは違うか」
 わたしは例え和也くんに振られても、これほど友達のことに一生懸命になってくれる玲奈が嬉しかったので気持ちが楽になった。今度、玲奈の番になったらわたしが頑張ろうと心に誓った。

 2月は日が経つのが早い、あっという間に3月になった。和也くんの返事を貰えるホワイトデーはもうすぐだ。でも、その前に期末試験がある。わたしは必死に勉強した。あまり成績が悪くて和也くんに嫌われたくなかったからだ。
 試験前は部活も禁止になるので皆家に帰るのが早い。明日から試験だという日、わたしもホームルームが終わると急いで鞄を持って昇降口に降りて行った。廊 下の角を曲がれば下駄箱だという所まで来た時に人の声が聴こえた。誰だかは直ぐに判った。玲奈の声だった。誰かと話をしているみたいだった。
「じゃあ、後で家に行くからね。厳しく教えてあげるからね」
「お前に教えて貰えると助かるよ」
 もう一人の声の主が誰かは直ぐに判った。間違えるはずがなかった。和也くんだった。そっと廊下の角から顔を半分だけ出す。数メートル先には玲奈と和也くんが並んで立っていた。
「じゃ、後でね」
 玲奈が和也くんの肩を軽く叩いて走って行った。鞄を持っていたからそのまま家に帰るのだろう。わたしは呆然とその後姿を見送って、和也くんに気が付かれないように、そっとその場を逃げ出した。早足で歩きながら涙が出て来て止まらなくなった。
『どうして二人が一緒に勉強するほど仲が良いのだろう?』
『いつの間にか仲が良くなったのだろう?』
『前からそんな関係ならはじめに言って欲しかった』
 わたしは失恋と友達に裏切られた想いを抱えて制服を濡らしながら小走りに学校を後にした。
 翌日からの試験は散々だった。入学して一番酷い成績になるだろうと想像がついた。友達がわたしに元気がないので色々と心配してくれる。その中には勿論玲 奈も居た。でもわたしは正直口も利きたくなかった。そんなわたしの変化を玲奈も感じたのだろう。学校の帰りに待ち伏せをしていた。
「美紀、最近どうしたの? おかしいわよ」
 何でもハッキリさせたがる玲奈は、わたしの行く道を塞ぎながら腰に手をあてて仁王立ちしていた。それなら、わたしだって言いたいことがある。
「それはこっちの言い分よ。言わないでおこうと想ったけど、あなたがそう言うなら、わたしも言わせて貰うわ。どうして和也くんと親しい関係なら最初に言ってくれなかったの! 一緒に家で二人だけで勉強するなんて普通の関係じゃ無いじゃない」
 玲奈はいきなりわたしが、事の本質に迫ったことを言ったので、少々慌てて
「ちょっと、こんなところで、そんな大事なことを大声て言わないでよ」
 玲奈はわたしの腕を掴むと近くの公園に連れ込んだ。奥の人の来ないベンチに腰掛けると
「美紀見ていたんだ……誰にも知られたくなかったのだけど……」
 ちょっと放心したように下を向きながらつぶやくように言う。
「試験の前の日に下駄箱の所で約束してるのを見たの」
 わたしは事実をそのまま言うと玲奈は観念したように
「見られたのなら仕方ないわね」
「何時からなの? もう長いの?」
「長いわよ。ずっとだから」
「ずっと?」
 なんだか話が噛み合わないと感じた。
「誰にも言わないでね。学校でも知ってるのは担任と校長先生ぐらいだと思うから……わたしと和也は苗字は違うけど兄弟なのよ。幼い頃に両親が離婚したの。わたしと和也は二卵性の双子なのよ。驚いたでしょう。わたしが姉で和也が弟なのよ」
 驚いたなんてものではなかった。
「似てないからね。親が離婚して、わたしは父に、和也は母に引き取られたの。幼稚園の時だった。離婚の理由はよく知らないけど。それからわたしと和也は離 れて暮らしたの。たまに逢っていたから、お互いの事はよく判っていたの。それで、せめて高校は同じ高校に進もうって誓い合ったのよ」
「知らなかった。玲奈に双子の弟が居たなんて、しかもそれが和也くんだったなんて……」
「黙っていてゴメンね。何時もは別々に勉強してるのだけど、この前ねアイツ『試験勉強教えてくれ』って言って来たのよ」
 玲奈は学年でも10位以内に常に入る成績上位者だ。教えて貰うには都合が良い。
「アイツね、なんて言ったと思う?」
 ポカンとしているわたしに玲奈は
「真っ赤な顔をしてね『美紀ゃんに相応しい成績を上げなくてはならないから』って言ったのよ。それは必死だったわ」
 そうか、そうだったのかと心が軽くなったのと、自分の早とちりを呪った。
「だから期待しても良いと思うわよ」
 玲奈の言っていた通りに期末試験の結果が貼りだされた。わたしは、やはり下がったが思っていたよりは酷くなかった。玲奈は何時もの位置をキープ。和也く んは700人中で200番以内に入っていた。二学期の期末に比べると150番以上のUPだった。わたしは赤点を免れただけでも良しとしよう。

 3月14日月曜日、登校すると下駄箱に手紙が入っていた。開いてみると和也くんからの手紙だった。
『放課後、この前の場所に来て欲しい』
 それだけが書かれていた。その文字を見ただけで心臓が鐘を打つようにドキドキして来る。遂にこの日がやって来たのだ。あと数時間で結果が現れるのだ。玲奈は
「心配しなくても良いと思うよ。あ、でも他にも貰ったみたいだけど。そっちはどうするのしらね?」
 などと物騒な事を言って人を混乱させて喜んでいる。
 結局、試験後なので大した授業が無かったのだが全く頭に入って来なかった。私立なんかは試験休みだそうだ。羨ましいと思う。
 放課後、飛び出しそうな心臓をやっとの思いで胸にしまって、校舎の裏手に急ぐと和也くんが既に待っていた。
「ゴメン、待った?」
「いいや、大丈夫だよ。それより何か誤解させるような事をしてしまって申しわけない。俺、美紀ちゃんに告白されて嬉しくて、それなら美紀ちゃんに相応しい男にならねばと思ったんだ。だから普段は頼まないのだけれど、玲奈に勉強を見て貰ったんだ」
 和也くんは真っ赤になりながらも正直に言ってくれた。そして……
「俺も、前から美紀ちゃんのことは想っていて、本当に嬉しかったんだ。今日は何をお返ししようか考えたのだけど、あんな素晴らしい心が篭った贈り物には買ったクッキーなんかでは釣り合わないと思ってね。それならモノではなく一緒に楽しい思い出を作ろうと考えたんだ」
 そう言って和也くんが出したのは白い封筒だった。
「開けてみて」
 中を開くと有名な遊園地リゾートの1日パスポート券だった。わたしも随分前に行ったきりで暫く行っていない。
「一緒に行けないかな?」
 微笑みながらも僅かに上目遣いでわたしを見る和也くん……駄目な訳があるはずが無いじゃない。
「喜んで……」

 その後春休みに二人はリゾートに一緒に行ったのだが……
「ねえ、どうして二人のデートなのに玲奈が付いて来るの?」
「ゴメン、二人で行くと言ったら、自分の分は自分で出すから一緒に行くって利かないもので……」
「当たり前じゃない! 弟と親友が初めてのデートするのよ。それも地元を離れて……心配じゃない」
 そうなのだ。今日は何と玲奈が一緒について来ている。信じられない事実だが、まあいいかと思うことにした。だって三人なら今日は楽しくなりそうな予感もするからだ。

 その日、わたしは和也くんにリゾートのキャラクターのクッキーを買って貰いました。


                                                                                                               <了>

残り火

拙作「お星様とギター」の後日談です。

☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
 お店の常連さんは沢山いるけど、その中には純ちゃんの昔の仲間もいる。一番良く来てくれるのがカッキーこと柿沢タツヤで、その昔は純ちゃんとライブハウスの人気を二分していた人だった。
 完全に引退してイタリア料理のオーナーシェフになってる純ちゃんと違い、カッキーは未だ現役なのだ。
 純ちゃんが引退した後出したCDが少し売れてテレビにも少し出た。実際の歳より若く見えるし、男っぽい純ちゃんとは違ってのっぺりとした顔をしたジャニーズ系の顔をしていたので、その頃は少し話題になった。
 でも売れたのはその一曲だけで後は鳴かず飛ばずだった。ライブハウスに出ていた頃から二人は仲が良く、それぞれのファンもお互いを認めていたっけ。
 今、カッキーは地方のライブハウスを回ったり、ギターが得意なのでたまにはスタジオミュージシャンとしても演奏するらしい。
 暇があると(尤も年中暇なのではと私は思っているけど)店に来て休憩時間には純ちゃんと仲良く話している。
 そんな日常だった……ある日、カッキーが顔色を変えて店にやって来た。
「純居るかい?」
「居るわよ」
 私の答えを半分しか聴かず店の奥の厨房に入って行った。時間はもうランチタイムが終わって休憩に入ろうと言う頃だった。
 カッキーの何かの言葉を耳にした純ちゃんは顔色を変えて
「本当なんだろうな?」
 両手でカッキーの肩を揺さぶっていた。私はこの時、純ちゃんの中に僅かに残っていた火が大きくなったのを感じた。
 厨房の片付けを若い人に任せて、お店の片隅で二人で真剣に話し合っている。二人がこんなに真剣になるのは音楽の事以外にはない……少なくとも私はそう思った。
 純ちゃんが歌手を止めて私と結婚したのは現実的な選択だったと思う。同じ頃にカッキーが僅かでもメジャーデビューを果たしたのだから、自分の出番は無い と悟ったのかも知れない。でも、それで完全に歌を諦めた訳では無いと私は思っていた。だから店が終わると私に歌を弾いて聴かせてくれるのだと思ってい た……判っていたんだ。純ちゃんの心に残り火のように歌への想いが残っている事を……。

 二人はお店の休憩時間になると私の前にやって来て
「陽子ちゃん……お話があるんだけどな……」
 カッキーがすまなさそうな顔で私に告げると純ちゃんが
「なあ、一度だけでいいんだ。もう一度だけ歌わせてくれないかな?」
「どういう事なの? ちゃんと説明して欲しいな」
 私の言葉にカッキーが順を追って話しだす。それによると……
 カッキーは、たまにだがテレビ局に行く事もあるそうだ。ある時、某民放の公開歌番組の前座をやらないか? とプロデューサーから話があったそうだ。
「二回程放送の収録前の前座をやって貰って好評ならメジャーデビューさせる」と言うものだった。向こうの注文は男性二人の「デュオ」だそうで、二人でギ ターを弾きながら歌って欲しいのだそうだ。何でもこれからは若い人対象ではなく、中年のかって音楽に熱くなった世代を対象にもう一度火を付けられそうなコ ンビを探してる。と言われたのだそうだ。そこでカッキーは「自分が信頼出来る腕と人間」と言う事で純ちゃんに声を掛けてみたのだと言う。
「駄目かな……」
 小さな声でカッキーが私にお伺いを立てている
「純ちゃんは、どうなの? それが一番大事でしょう」
 私の言葉に目を合わせなかった純ちゃんは
「一度は歌を諦めたんだ。今更と言われてもなぁ……」
 その言葉は嘘だと思った。
「ねえ、本当の気持ちを教えて? お店の事なら今なら少しぐらい純ちゃんが居なくても何とかなる。私だって、若い子だって多少は出来るし、それぐらいなら 純ちゃんを支えてあげられる。だから私にだけは本当の事を言って! あの時、私は嬉しかったの! ライブハウスで引退宣言をしたあなたを素敵だと思った。 あれから何時かお返しが出来ればとずっと思っていたのよ。だから、お願いだから本当の気持ちを伝えて欲しいの!」
 私の言葉を最後まで聞いてから純ちゃんは
「ありがとう……本当は、今度、カッキーと組んで前座をやったって上手く行くはずが無いとは思ってるよ。それはこいつ(カッキー)も同じだと思う。だけ ど、俺もこいつも心にロックンロールの魂は消えていないんだ。それを見つけるのと、僅かに残った残り火を燃え尽きる事を確認するために一度だけ許してくれ ないか」
 純ちゃんがそう言うのは判っていた。今でもあの頃と変わらない歌声と演奏……それは私が誰よりも一番判っていたはずじゃないか……。
 それに、純ちゃんと一緒になる時に父が言ったっけ
「陽子、男の心残りは一生残るものだ。あいつはいつか残り火に火を付ける時が来るだろう、その時は好きにさせてやりなさい。その為に若い頃は一生懸命に働いて余裕を持っようにしなさい」
 父は判っていたのだ。純ちゃんが、また歌を歌う時がやって来るのを……父も、心残りがあったのだろうか? ふと、そんな事を考えた。
「判ったわ。何時か来ると思っていたわ。お店の事なんか気にしないで悔いの無いように頑張ってね」
 私はそれだけを言った。その時の純ちゃんの笑顔は忘れないだろう。こうして一時だがイタリア料理店のオーナーシェフの純ちゃんは私の前から去った。
 
 それからというもの、純ちゃんとカッキーは二人で練習に明け暮れた。本番の日まで日にちが少ない事もあったが、スタジオを借りたりしてかなり真剣に練習をしていた。
 約束では、収録は二回で、二週分を一日で収録するそうだ。その合間や収録前に座を温める目的で演奏するのだという。曲はオリジナルなんか歌わせては貰え ない。誰かのヒット曲を演奏して歌うのだという。勿論ギャラなんか出ない。カッキーに言わせると「弁当が出るくらい」らしい。
 最初の収録の日、車でカッキーが朝早く迎えに来た。純ちゃんはまるで試験に行くような感じで出ていこうとしたので
「無理しなくても良いんだよ。自分の好きに歌って通じなければ良いじゃない。私は今でも一番好きなロッカーだからね」
 そう言って励ました。純ちゃんの顔から強張りが消えて何時もの顔になった。
「ありがとう。じゃ行って来るよ」
 にこやかな顔になって車に乗り込んだ。見送ってから私は店の支度に掛かる。店に出て来た若い子が
「マスター本当に行ったんですね。もし、本当に売れたらどうします?」
 心配そうに言うのでおかしくなって
「大丈夫よ。そうなったら、私とあなたで頑張れば良いだけだから」
 そう言ってあげると、気の抜けた顔をした。
 
 その日は遅くなってから帰って来た。お腹を空かせていると思い、カッキーと純ちゃんにスパゲティーアラビアータを作ってあげた。二人は黙々とそれを食べていた。
 カッキーが帰ると純ちゃんは私を前に座らせて
「アラビアータ旨かったけど、俺より一段落ちるな……やっぱり俺が店に居ないとな」
「駄目だったの?」
 純ちゃんはそれには直接答えず
「俺の求めていたものが、あそこには無かった……俺が求めていたのはお客の笑顔だったんだ。ロックンロールでも同じ。俺の歌で喜んでくれる人の笑顔が一番 だったんだ。今日は、あそこには無かったと言う事さ。これからはフライパンでお客を笑顔にしてみせるさ。そうすべきだと歌っていて想ったんだ。もう心配は 掛けさせないよ」
「いいの? 悔いは無いの?」
「ああ、これからも趣味では歌ったり弾いたりするけどな。それに俺の傍には一番のファンが居てくれるしさ……」
 純ちゃんはいつの間にか私の横に座っていて、そっと肩を抱いてくれた。見上げるとやっぱり満天の星空で、純ちゃんにお星様は似合うと想った。


                               <了>

お星様とギター(改稿作)

共幻文庫第9回短編コンテスト落選作「お星様とギタ」ーを、色々な方のアドバイスを受けて改稿してみました。
その上で「星の砂ショート・ショートコンテスト」に応募しましたが落選しました。

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 純ちゃんは世間では殆ど知られていないロック歌手だった。橘純平(たちばなじゅんぺい)、通称「純ちゃん」だ。アコースティックギターを抱えて切れの良い演奏しながら歌うスタイルだった。
 知られていないと言ったのは、メジャーデビューしてないからで、ライブハウスで演奏する時は何時も満員だった。その殆どが女の娘で溢れかえっていた。
 ステージで見せてくれる表情やその姿は私達を熱くさせてくれた。誰かが
「純ちゃんは艶っぽいわよね」
「抱かれたい!」
 と言っていたのが耳に残った。私はそんな事今まで考えた事なかったが、ステージの純ちゃんが色っぽい人だと言う事には納得した。
 私は純ちゃんがライブハウスに出演する時は必ず行って前の壁際で見ていた。たまにだが純ちゃんの汗が飛び散って来たりして、そんな時は何かときめいたものだった。
 周りの娘は夢中で声を上げていたけれど、私にとっては純ちゃんの汗の匂いが宝物だった。
 そんなある日、私は純ちゃんのライブハウスでの演奏が終わるのを通用口で待っていた。所謂『出待ち』で、ひと目でも姿を見たかったからだ。
 通用口から出て来た純ちゃんはギターを肩に掛けて重そうな鞄を持っていた。通用口の脇にある自販機を見ると飲み物を買うために荷物を一端降ろしてポケットを探り始めた。その姿を見て私は今買ったばかりのミネラルウオーターを差し出して
「あのう、水ならこれどうぞ。今買ったばかりですから」
 そう言って恐る恐る差し出した。
「え、ああ、ありがとう! いいの?」
「はい、よければ飲んで下さい」
 私の言葉に純ちゃんはキャップを捻って美味しそうにミネラルウオーターを飲み干した。近くにいる純ちゃんからは何か特別な匂いを感じ私はドキドキした。
「ああ、旨かった。値千金だね酔ってないけど」
 純ちゃんは少し古い表現で水の美味しさを表現した。やはりシンガーソングライターだから言葉にもこだわるのかなと思った。
 飲み干してからポケットを探っていた純ちゃんは少し困った顔をして
「今細かいの無かったと気がついたよ。代金どうしようか?」
「そんな、いいんです! お金なんて要りません」
「そうも行かないよ」
 困った顔で暫く考えていた純ちゃんは
「じゃあ一曲ここで弾くから聴いていて」
 そう言って肩のギターを降ろして、傍にあったベンチに腰掛けると自作の曲を弾き始めた。今日のライブでは歌わなかった曲だった。それは偶然だったかも知れないけれど、私が一番好きな曲だった。気が付いたら一緒に口ずさんでいた。少しばかり残っていた他のファンの娘達も一緒に口ずさんだ。
 うらぶれたライブハウスの通用口が暖かい雰囲気に包まれた。曲が終わると一斉に拍手が起こり、純ちゃんは笑顔で一礼した。
 名前を尋ねられたので「陽子」と自己紹介した。嬉しくなり、涙を見られないように見上げると夜空には綺麗なお星様が光っていた。
 それから、私は前よりもライブハウスに通うようになった。純ちゃんもあの日以来、私の姿を見かけると声を掛けてくれるようになった。周りの娘から随分と羨ましがられたっけ。

 高校が早く終わった私は学校の帰りに評判のパスタ屋さんに友達と行くことにした。午前中で終わった学校の帰りに食事をして帰ろうと相談が纏まったのだ。
 十二時を大分回っていて会社の人はもう食べ終わった時刻だったらしく、お店はテーブルの上に食べ終わったお皿が並んでいた。それをお店の人が片付けていた。
 人が足りないのか、ホールの人だけではなく、厨房の人も一緒になって片付けていた。その白衣を着た人に見覚えがあった。丁寧にお皿を重ねて行き、テーブルもきちんと拭いていた。
 その人はギターを抱えて歌ってる夜の艶やかな姿ではなく、地味なそれでいて誠実な仕事ぶりがステージの姿とダブった気がした。
「純ちゃん……」
 口に出してはならないと思ったが反射的に出てしまった。私の声を耳にして白衣の純ちゃんは思わず顔をこちらに向けた。
「陽子……ちゃん」
 後で知ったのだが純ちゃんはこのお店の厨房でアルバイトをしていたのだった。
「マイナーレーベルで何枚か出しているぐらいじゃ食べて行かれないからね」
 後で純ちゃんが私に言った言葉だ。
 純ちゃんは数枚、マイナーレーベルから出していたが売上は期待出来なかった。今から思うと、その頃だったのだろう、随分と色々なオーディションを受けていたみたいだった。
 結果は、どれも駄目だったのだろう。お店に通うようになった私はロック歌手の純ちゃんではなく、パスタ店のアルバイトの純ちゃんと付き合うようになった。普段の純ちゃんからは厨房の匂いがした。それも私は好きになった。
 交際と言っても手を繋ぐのにも数回のデートを重ねないと出来ないような初な関係だった。
 そんな交際をしていたある日、喫茶店で思いつめたように告白された。
「真剣に付き合ってくれ! 歌は諦めて真面目に料理に精を出すよ」
 真面目な顔で言われ。正直戸惑った。私は、ロック歌手のこの人を追いかけてここまで来たのだろうか? それともコック見習いのこの人を追いかけていたのだろうか? 直ぐには答えは出なかった。
「嬉しいけど少し考えさせて」
 一週間の猶予を貰った。その間にも純ちゃんはライブハウスに出演した。勿論いつもの場所で見ていた私。相変わらずカッコイイ! やはりステージの純ちゃんは特別だと思った。でもライブが終わる頃に突然純ちゃんは、いきなり引退宣言をした。これは驚きだったし、周りの女の娘は半狂乱になる娘もいた。
 でも、私には再度のプロポーズに聞こえた。本当は直ぐにでも結婚に向けて歩き出したいと思っているのでは無いかと感じていたのだが……この時、私は決断した。いいや決断出来たのだ。純ちゃんは私の
「もっと頑張れば時代の波に乗って売れるかもよ」
 そんな言葉に
「時代なんてものは所詮たまたま巡ってくるものであって、追いかけるだけ無駄だよ。俺は別なものを追いかける事にしたんだ」
 公園でギターを爪弾きながら私に言ったけ……。

 あれからどのくらい経ったろう。今夜も綺麗なお星様が出ている。夫が店を閉めてから使い古したギターを出して来た。
「さて、星が綺麗だから一曲歌うかな」
 店の窓際の席に腰掛けて「ピーンピーン」とギターをチューニングする。
「ところでリクエストは?」
 私は、あの夜の曲をリクエストする。今でも私の一番好きな曲。
「お安い御用さ!」
 私は店の灯りを少し落として彼の周りだけが明るくなるようにする。
「はじめていいよ!」
 その声で曲を弾き始める。あの頃と変わらない歌声、そして演奏……。
 歌手として時代は巡って来なかったけれど、こうして店も持てた。
 そして今夜は私だけの為のコンサート。
 涙が溢れないように見上げると窓の外の夜空には綺麗なお星様が光って、私だけのスターを艶やかに照らしていた。


                                                     <了>

ホワイトデーには

 生まれて一番緊張したかも知れない。
 2月14日はご存知「バレンタインデー」
 女の子がチョコレートを持って好きな人に愛を告白してもいい日だ。今さっき、わたしは、その一大事をやってきた所だった。
 同じクラスの和也くんに告白をして来たのだった。今年高校に入学してから知り合った子だった。
 特別にスポーツマンでもないし、成績も良くはない。まあ、わたしと同じぐらいで、真ん中あたりをうろうろしている。でも、気が付いたら好きになっていた。いいや正確には一日中和也くんのことばかり考えていることに気がついた。
『今、何をやっているんだろう?』
 とか、本を読んでも
『和也くんだったらどんな感想を持つかな?』
 とか気が付くと何時も考えていた。これって、好きになったと言うことなのかな?
 実は、今まで男の子を見てもこんな気持になったことはなかった。だから、この感情が恋と言うものだとは全く気が付かなかった。それを知ったのは友達の長月玲奈に言われたからだ
「美紀、それを人は恋と呼ぶんだよ」
「え、知らなかった。その人のことが気になると言うことが恋だったんだ」
 今時の高校生としては、余りにも酷い答えだったのか玲奈は呆れてしまった。
「美紀はもしかして初恋?」
 その玲奈の言い方には驚きと、呆れと僅かな嘲笑が混じっていた。でもわたしにはそれに反論する答えなんか持っていなかった。
「和也くん。カワイイ顔してるものね。それに何時も美紀に優しいしね。あの子も満更じゃないのかもよ」
 無責任な玲奈の言葉にわたしは舞い上がってしまった。そう言えば和也くんは他の娘よりわたしに優しい気もする。果たしてそうなのだろうか? 
「今度の2月14日にはチョコ送ったら?」
「2月14日……ああ、バレンタイン!」
「ほんとに鈍いんだから……仕方がない、協力してあげるわよ」
 小学校からの友人の玲奈はそう言ってわたしに協力してくれることになった。そういう玲奈は今年はパスだそうで、来年に賭けるのだそうだ。要するにわたしに関わることで暇つぶしをしようと言うことなのだと考えた。でも正直ありがたい。持つべきは親友だ。

 それからは作戦を練ることになった。
「いい、手作りだからね! 素材のチョコはベルギー産のよ」
「そんなに高いの使うの? 国産でもいいやつ使えば……」
 戸惑うわたしに玲奈は
「駄目よ! ベルギー王室御用達。というのが貴重なのよ。第一夢があるでしょう」
 言われてみて、そうか夢の部分も必要なのだと思った。そして、わたしにそれが一番欠けてる部分だと気がついた。
 街の市場にある高級洋菓子の素材を売っているお店に行き、色々と揃える。買うものは多い。チョコの他にも色々と買わなくてはならない。型だってそうだ。ハートの大きな型が欲しかった。
「型はわたしのを貸してあげるわよ。色々と持ってるから。それから次は包装屋さんに行き、ラッピングの素材も買うのよ」
 玲奈はテキパキとわたしに指示をして行く。もしかしたら、わたしより乗っているかも知れない。こういうことって女の子の何か刺激させるのだろうか? 
 わたしは自分のことなのに何処か他人事みたいに感じていた。
 湯煎で溶かし、型に入れる。冷やして、表面にホワイトチョコのペンでメッセージを書いて行く。他の色で下手だが薔薇の絵も書いてみた。そんなことをしているうちに自分がこれを本当に和也くんに渡すのだとやっと実感が湧いて来た。想像するだけで耳まで真っ赤になる。
「あんた今から何上がってるのよ。失敗しちゃ駄目よ」
 一緒に作るのを手伝ってくれた玲奈が隣で呆れていた。
 でもそれやこれやで遂にバレンタインに和也くんに渡す手作りチョコは完成した。綺麗にラッピングも終わり、後は渡すだけとなった。
「あんた、呼び出せないでしょうから、呼び出すまでは手伝ってあげるからね。その先は頑張んなさいよ」
 本当に玲奈には感謝しきれないと思った。

 当日、放課後に校舎の裏手に和也くんに来て貰った。勿論玲奈が和也くんに声を掛けたのだ。
「もうじき来るはずだから頑張りなね」
 玲奈はそう言って消えてしまった。一人になると急に心細くなって心配になって来た。我が高校にはある種のルールがあって、男子は女子からバレンタインに チョコを渡されたら決して拒否してはならない。というものだった。それは、OKの返事ではなく、心を込めて作ってくれた女子に対する礼儀だと言うもので、 返事は翌月のホワイトデーを持って返事とする。というルールがあるのだ。だから和也くんがわたしのチョコを貰ってくれないということは無いのだった。
 2月も半ばになると陽が伸びて来て、夕方でもかなり明るい。お陽様が長い影を作っていた。校舎の角から人の影が僅かに頭ひとつ飛び出して来たように見えた。やがてそれは完全に人の形となった。角を曲がって現れたのは和也くんだった。
「長月が校舎の裏で待ってる人が居るから行きなさい。って言うから来たのだけど、美紀ちゃんとは思わなかった」
 和也くんは明らかに戸惑っている感じだった。今日、こんな時刻にこんな場所に呼び出したら目的はバレているよね? 
 それでも、わたしはめげずに手提げから作ったチョコを取り出した。それを見た和也くんは表情を変えない。やはり嬉しくないのかな?
「正直に言います! 前からずっと想っていました。これを受け取って下さい!」
 今の自分に言えるだけのことを口に出して言った。ちゃんと言ったつもりだったが、声が震えてしまって上手く言えなかった。でも、わたしの告白を聴いた和也くんは
「ありがとう! 大事に食べさせて貰うよ。返事は決まり通りにホワイトデーにちゃんとするからね」
 和也くんはそう言ってわたしのチョコを、大事そうにしまうと帰って行った。暫くして玲奈がやって来て
「どうだった? 上手く言えた?」
 かぶりを振るわたし……
「声が震えちゃって……」
「そうかぁ、でも返ってそれが真剣だって感じが出て良かったかもよ」
「そうかなぁ……」
「そうだよ!」
 わたしは、この時の玲奈のポジティブな言葉にかなり救われた。思えば、いつもわたしが落ち込んでいた時に前向きなことを言って励ましてくれたと思い出した。
「こんな言葉もあるじゃない。『家宝は寝て待て』とか『人事をつくして天命を待つ』あるいは『細工は粒々、仕上げはごろうじろ』あ、これは違うか」
 わたしは例え和也くんに振られても、これほど友達のことに一生懸命になってくれる玲奈が嬉しかったので気持ちが楽になった。今度、玲奈の番になったらわたしが頑張ろうと心に誓った。

 2月は日が経つのが早い、あっという間に3月になった。和也くんの返事を貰えるホワイトデーはもうすぐだ。でも、その前に期末試験がある。わたしは必死に勉強した。あまり成績が悪くて和也くんに嫌われたくなかったからだ。
 試験前は部活も禁止になるので皆家に帰るのが早い。明日から試験だという日、わたしもホームルームが終わると急いで鞄を持って昇降口に降りて行った。廊 下の角を曲がれば下駄箱だという所まで来た時に人の声が聴こえた。誰だかは直ぐに判った。玲奈の声だった。誰かと話をしているみたいだった。
「じゃあ、後で家に行くからね。厳しく教えてあげるからね」
「お前に教えて貰えると助かるよ」
 もう一人の声の主が誰かは直ぐに判った。間違えるはずがなかった。和也くんだった。そっと廊下の角から顔を半分だけ出す。数メートル先には玲奈と和也くんが並んで立っていた。
「じゃ、後でね」
 玲奈が和也くんの肩を軽く叩いて走って行った。鞄を持っていたからそのまま家に帰るのだろう。わたしは呆然とその後姿を見送って、和也くんに気が付かれないように、そっとその場を逃げ出した。早足で歩きながら涙が出て来て止まらなくなった。
『どうして二人が一緒に勉強するほど仲が良いのだろう?』
『いつの間にか仲が良くなったのだろう?』
『前からそんな関係ならはじめに言って欲しかった』
 わたしは失恋と友達に裏切られた想いを抱えて制服を濡らしながら小走りに学校を後にした。
 翌日からの試験は散々だった。入学して一番酷い成績になるだろうと想像がついた。友達がわたしに元気がないので色々と心配してくれる。その中には勿論玲 奈も居た。でもわたしは正直口も利きたくなかった。そんなわたしの変化を玲奈も感じたのだろう。学校の帰りに待ち伏せをしていた。
「美紀、最近どうしたの? おかしいわよ」
 何でもハッキリさせたがる玲奈は、わたしの行く道を塞ぎながら腰に手をあてて仁王立ちしていた。それなら、わたしだって言いたいことがある。
「それはこっちの言い分よ。言わないでおこうと想ったけど、あなたがそう言うなら、わたしも言わせて貰うわ。どうして和也くんと親しい関係なら最初に言ってくれなかったの! 一緒に家で二人だけで勉強するなんて普通の関係じゃ無いじゃない」
 玲奈はいきなりわたしが、事の本質に迫ったことを言ったので、少々慌てて
「ちょっと、こんなところで、そんな大事なことを大声て言わないでよ」
 玲奈はわたしの腕を掴むと近くの公園に連れ込んだ。奥の人の来ないベンチに腰掛けると
「美紀見ていたんだ……誰にも知られたくなかったのだけど……」
 ちょっと放心したように下を向きながらつぶやくように言う。
「試験の前の日に下駄箱の所で約束してるのを見たの」
 わたしは事実をそのまま言うと玲奈は観念したように
「見られたのなら仕方ないわね」
「何時からなの? もう長いの?」
「長いわよ。ずっとだから」
「ずっと?」
 なんだか話が噛み合わないと感じた。
「誰にも言わないでね。学校でも知ってるのは担任と校長先生ぐらいだと思うから……わたしと和也は苗字は違うけど兄弟なのよ。幼い頃に両親が離婚したの。わたしと和也は二卵性の双子なのよ。驚いたでしょう。わたしが姉で和也が弟なのよ」
 驚いたなんてものではなかった。
「似てないからね。親が離婚して、わたしは父に、和也は母に引き取られたの。幼稚園の時だった。離婚の理由はよく知らないけど。それからわたしと和也は離 れて暮らしたの。たまに逢っていたから、お互いの事はよく判っていたの。それで、せめて高校は同じ高校に進もうって誓い合ったのよ」
「知らなかった。玲奈に双子の弟が居たなんて、しかもそれが和也くんだったなんて……」
「黙っていてゴメンね。何時もは別々に勉強してるのだけど、この前ねアイツ『試験勉強教えてくれ』って言って来たのよ」
 玲奈は学年でも10位以内に常に入る成績上位者だ。教えて貰うには都合が良い。
「アイツね、なんて言ったと思う?」
 ポカンとしているわたしに玲奈は
「真っ赤な顔をしてね『美紀ゃんに相応しい成績を上げなくてはならないから』って言ったのよ。それは必死だったわ」
 そうか、そうだったのかと心が軽くなったのと、自分の早とちりを呪った。
「だから期待しても良いと思うわよ」
 玲奈の言っていた通りに期末試験の結果が貼りだされた。わたしは、やはり下がったが思っていたよりは酷くなかった。玲奈は何時もの位置をキープ。和也く んは700人中で200番以内に入っていた。二学期の期末に比べると150番以上のUPだった。わたしは赤点を免れただけでも良しとしよう。

 3月14日月曜日、登校すると下駄箱に手紙が入っていた。開いてみると和也くんからの手紙だった。
『放課後、この前の場所に来て欲しい』
 それだけが書かれていた。その文字を見ただけで心臓が鐘を打つようにドキドキして来る。遂にこの日がやって来たのだ。あと数時間で結果が現れるのだ。玲奈は
「心配しなくても良いと思うよ。あ、でも他にも貰ったみたいだけど。そっちはどうするのしらね?」
 などと物騒な事を言って人を混乱させて喜んでいる。
 結局、試験後なので大した授業が無かったのだが全く頭に入って来なかった。私立なんかは試験休みだそうだ。羨ましいと思う。
 放課後、飛び出しそうな心臓をやっとの思いで胸にしまって、校舎の裏手に急ぐと和也くんが既に待っていた。
「ゴメン、待った?」
「いいや、大丈夫だよ。それより何か誤解させるような事をしてしまって申しわけない。俺、美紀ちゃんに告白されて嬉しくて、それなら美紀ちゃんに相応しい男にならねばと思ったんだ。だから普段は頼まないのだけれど、玲奈に勉強を見て貰ったんだ」
 和也くんは真っ赤になりながらも正直に言ってくれた。そして……
「俺も、前から美紀ちゃんのことは想っていて、本当に嬉しかったんだ。今日は何をお返ししようか考えたのだけど、あんな素晴らしい心が篭った贈り物には買ったクッキーなんかでは釣り合わないと思ってね。それならモノではなく一緒に楽しい思い出を作ろうと考えたんだ」
 そう言って和也くんが出したのは白い封筒だった。
「開けてみて」
 中を開くと有名な遊園地リゾートの1日パスポート券だった。わたしも随分前に行ったきりで暫く行っていない。
「一緒に行けないかな?」
 微笑みながらも僅かに上目遣いでわたしを見る和也くん……駄目な訳があるはずが無いじゃない。
「喜んで……」

 その後春休みに二人はリゾートに一緒に行ったのだが……
「ねえ、どうして二人のデートなのに玲奈が付いて来るの?」
「ゴメン、二人で行くと言ったら、自分の分は自分で出すから一緒に行くって利かないもので……」
「当たり前じゃない! 弟と親友が初めてのデートするのよ。それも地元を離れて……心配じゃない」
 そうなのだ。今日は何と玲奈が一緒について来ている。信じられない事実だが、まあいいかと思うことにした。だって三人なら今日は楽しくなりそうな予感もするからだ。

 その日、わたしは和也くんにリゾートのキャラクターのクッキーを買って貰いました。


                                                                                                         <了>
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