2016年01月

いまさら翼といわれても ~その後~

「いまさら翼といわれても」後編ですが、凄い所で終っていますね。実に米澤先生らしいですね。私の「海外留学」といのは完全に外れてしまいました。考えす ぎでした。もっとシンプルでした。でも話の持って行き方が圧巻でした。素晴らしかったですね。色々と創作の参考にしたかったのですがレベルが違い過ぎて参 考になりませんねw
それで、このままではいくらなんでも後味が悪すぎるので、その後を自分なりに考えてみました。よくある平凡なパターンです。こちらは原作とは違い甘めにしてあります。
毎回、沢山の評価ありがとうございます!
ネタバレ満載ですので未読の方はご注意を!!


「いまさら翼といわれても」後編 
あらすじ

奉太郎は控室に居た段林さんを部屋から出す為に「具合が悪くなって休んでいる千反田さんの場所が判ったから迎えに行く」と嘘を言って部屋から出て言って貰います。
そして横手さんと二人だけになったので、横手さんの嘘を追求します。「千反田はここには来ていませんね!」
否定した横手さんですが奉太郎の推理に負けて真実を話します。
自分が千反田さんの伯母であること。彼女は「南陣出のバス停」で降りた事。そして多分自分の家の蔵に居るのではないかと言う事を話します。「早く行きなさい」そう言われ奉太郎は運良く市民ホールに停まっていた陣出行きのバスに乗り込むのでした。
 「南陣出」で降りた奉太郎は横手さんが言った通りに蔵があるので、そこに向かいます。蔵の中からは発声練習をする声が聞こえたのでした。奉太郎は静かに中の千反田さんに語りかけます。「無理なら行かなくてもいい」そう言って千反田さんを落ち着かせます。
そして独唱をする箇所を段林さんから教えて貰っていた奉太郎は千反田さんの心情を代わりに言うのです。「後を継ぐという育てられ方をされて来て、いきなり自由にしても良いと言われて自分の立場失う事になった今だけは自由を謳うこの歌は歌う事が出来なかった」と……
 千反田さんはやっとの思いでそれを肯定して自分の考えを述べるのでした。それを聞いて奉太郎は何かを殴りつけて血を出したくなる衝動に駆られます。間に合う最後のバスが出るまであと四分……蔵の中から声は聞こえませんでした。続きを読む

にわか高校生探偵団の事件簿シリーズ(葉山君シリーズ)二次創作  定期公演に潜む闇 3

やっぱり竜頭蛇尾、羊頭狗肉になってしまいました。すいませんm(_ _)m

☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆

 柳瀬さんは途中の交差点の信号を黄色でも止まらずに走ってしまったり、横断歩道を渡っている人が渡り終わらないのに左折してしまったりして、結構乱暴な運転をして市民ホールに戻って来た。この人絶対将来お巡りさんに捕まると思う。
「さ、早く」
 柳瀬さんは、僕を急かせて一人で勝手に降りて走って行く。僕はその後ろから遅れて付いて行く。何事も無ければ良いと思っていた。
 先ほどの現場では皆が荷物を粗方降ろし終わっていた。二人の姿を見たミノが
「どうした? 衣装はどうなっていた?」
 そう言って僕に詰めよって来たので、見た事をそのまま話す
「そうか……衣装を二つ作っておいて良かったよ」
 そう言って胸を撫で下ろすと大道具の係が
「ああ、葉山さん、戻っていらしたのですね。良かった。実は舞台に背景をセットしたら。補修して欲しい箇所が出てしまったんです。お願い出来ますか?」
 元よりその為に来ているのだから、僕は舞台の方に行くことにした。その時柳瀬さんが
「大道具にも何か無いか注意しておいてね」
 そう耳打ちして来たので
「大丈夫です。そこはちゃんと確認しておきます」
 そう返事をして僕は舞台の方に急いだ。
 市民ホールの舞台には大道具の係の者が数名、背景をセットしていた。何時もの事ながらガランとした観客席は何か不思議な感じがする。
「あ、葉山さん。ここです」
 二年の女子に呼ばれて行くと、背景の隅が経年劣化とも言うのだろうか、色が抜けていたり汚れていた。僕は大道具の二年生が用意した道具箱を開けて補修に取り掛かった。僕の作業を手伝ってくれている二年生に
「僕と柳瀬さんが居ない間、何かあったかい?」
 そう尋ねると、
「そうですね。仮の主役の衣装ですが、切れていたのは単なる糸のほつれで、直ぐに修復出来ました。針で刺した子も大した事はありませんでした。向こうはどうでしたか?」
 そう返事をして僕に部室の事を尋ねたので、正直に言うと
「やっぱり……実は部員で怪しい事してる者が居るんですよ」
 そう言って部員の中に犯人が居るような事を伺わせた。
「ちゃんとした事が判るまではいい加減な事は口にしては駄目だよ」
 僕は上級生として注意をして補修を終えた。その日は舞台も完成して、通しで最後の稽古をして準備を終えた。帰る時に翠ちゃんが
「私、明日もお手伝いします。兄には明後日行くと伝えます」
 そう言っていた時だった。
 帰り支度をしていた僕達の前に知った人物がいきなり立ちふさがった。
 「伊神さん! どうしてここへ」
 僕の質問に伊神さんは
「本当は明日翠に『五月祭』を案内してやるつもりだったが、演劇部の手伝いで来られないと言うから様子を見に来たのだよ。それで先ほどここに来て事件の事を知って少し調べたのさ」
 全く、今回だけは伊神さんの手を借りずに事件を解決しようとしていた所だったのに……
 僕のそんな思惑を全く無視した伊神さんは
「犯人は演劇部員の酒井順子くんだね」
 意外な人物の名前を口にした。僕は直ぐに彼女の方に視線を向けた。戸惑っていた彼女が突然伏せて泣き出した。
「すいません!私が犯人です。間違いありません。私が小池さんに嫌がらせを画策したのです。でも私の思惑とは違って来てしまって……」
 僕には彼女の言っている意味さえ良く判らなかった。そこで伊神さんが解説を話しだす。
「まず、ビリビリに引き裂かれた衣装は本番で使う奴で、市民ホールに持って来たのがスペアだったのだ。逆になっていたんだ。それはミノ君のの仕業だね」
 伊神さんの言葉を聞いてミノが驚きの表情をする。僕も驚いた。でもそれでしつけ針があった事や縫い目がほつれていた理由も納得出来た。あれは意識的にやった事では無かったのだ。ではミノが共犯なのだろうか? 伊神さんが、続けて話す。
「部内でヒロインの役を巡って揉め事が起きていた。今までは絶対的存在の柳瀬くんが居たので、誰もヒロインを演じたいとは思っていなかった。だが、彼女が 卒業してしまうと、一年生の時から演劇部に居て柳瀬さんの芝居を見ていた酒井順子くんがヒロインの役を熱望した。だが、彼女は芝居は上手だが華が無かっ た。だから脇役、それも重要な役ならうってつけだがヒロインには向かなかったのだ」
 驚きの真相を伊神さんは更に話して行く
「代わりに選ばれたのが二年次から入部した小池美波くんだった。彼女は聡明で美人でしかも華があった。しかも勉強熱心で遅く入ったハンディを物ともせずに勉強した。
 ミノ君は悩んだ挙句、定期公演のヒロインを美波くんにしたのだった。順子くんは大事な役を与えられたが、実は落胆していた。柳瀬さんが卒業して居なく なった今年こそはと思っていたのだった。それは順子くんにとって悲願に近いものだったのだ。そこで思いつめた挙句、公演の失敗を願う事になった。ヒロイン の衣装がビリビリに破けていれば美波くんは舞台に立てない。そう考えての行動だった」
 まさかの動機が語られて行く
「その動きを察知したミノ君は部長としてこれを表沙汰にしてはならないと思い、密かに衣装ケースの場所を本物とスペアと交換したのだ。同じ衣装ケースなので交換したミノ以外は気が付かなかったのだ。
 だから市民ホールに運んだのは、スペアの方だったので、本当にしつけの針が残っていたり、縫い目がほつれていたのだった。そうだね三野部長」
 問われたミノは静かに語りだした。
「その通りです。何としても公演の失敗は許されませんでした。でも僕は部長として失格ですね。定期公演を前に部員の意思が統一出来なかった。その責任は負うつもりです。柳瀬さんの指名でなった部長でしたが、やはり僕には荷が重すぎました」
 ミノがそう言って力なく笑うと、回りを取り囲んだ二年生から
「違うんです。本当は、わたし達は柳瀬先輩が部を退部する時に次の部長には三野先輩を押しました。でも先輩は『柄じゃない』と引き受けてくれませんでし た。でもわたし達や当時の二年生の先輩達も次の部長は三野先輩だと口々に言っていました。演劇部を纏められるのは三野先輩しか居ないと言っていたのです。 だからわたし達は相談して卒業を控えた柳瀬先輩に頼みに行きました。三野先輩は柳瀬先輩の頼みなら断らないと思ったからです。だから三野先輩の部長はみん なの意思なんです、だからこれからも部長をお願いします」
 口々にそう言ってミノを押し留めようとした。
「でも、現に、ヒロイン役の小池と酒井の対立を産んでしまいました。僕は駄目な部長なんです」
 ミノがうなだれて言うとそれまで黙っていた小池美波が
「私と酒井さんは対立なんかしていません。そうよね酒井さん。こんな事も起ってしまったけど、明日の公演には問題無いし、それにヒロインは相手が居ないと 成り立たないんです。ヒロインだけではお芝居は出来ません。だから、私は酒井さんを恨んでなんかいません。遅く部に入った私は同級生の酒井さんを目標に頑 張って来ました。お芝居の上手な酒井さんが居てくれたからこそ私も今まで演劇部に居られたんです」
 そう言って、先ほどから項垂れて泣き崩れている酒井順子の所にそっと近寄った。
「小池さん、本当に私のした事を恨んでいないの?」
 酒井が顔を上げて小池美波に問いかける。
「当たり前でしょう。もう、事件は終わったのよ。これからこの一年、二人で演劇部と三野部長を支えて行きましょう。一緒にやってくれるわよね」
「ありがとう! 許してくれるなら私も力及ばずながら一緒に頑張る!」
 酒井順子と小池美波はそう言って二人で手を握ったのだ。
「酒井くんは一年生の時も僕の『文芸部』にやって来て、シェイクスピアについて色々と訊いて来たからね。あの当時から勉強家だったね。君なら主役は兎も角本当の意味での役者になれると思うな」
 伊神さんが酒井順子の昔の事を話すと柳瀬さんは
「順子、美波、あなた達は対立していては駄目よ。わたしが居なくなったからって市立の演劇部が駄目になった。なんて言われ無いようにしなくちゃ駄目よ」
 そう言って二人の肩に手を置いた。
「はい、頑張ります!」
 二人が声を揃えて返事をする。
「ミノ、あんたは部員からの信頼が強いんだから、頑張りなさい。市立の演劇部長としてね」
 それを聞いてミノの顔が明るくなった。
「はい、柳瀬さんを越える部長になります!」
「あ、それは無理かもね」
 柳瀬さんの言葉に一同がドッと笑った。
「さて、定期公演が終わった翌日は良かったらウチの大学の『五月祭』に来ないかい? 皆を招待するよ。僕が案内するから」
 思わぬ伊神さんの言葉に一同は即、賛成したのだった。

 定期公演は大成功に終わり、演劇部や僕、それに柳瀬さんも胸を撫で下ろしたのだった。帰りの片付けの時だった。ミノが僕を物陰に手招きした。何事かと 思ってその場所に行くと、ミノが二つの衣装を手にしていた。片方はこの公演で小池さんが使った衣装だと直ぐに判った。もう一つ、全く同じ衣装がミノの手に 握られていた。
「正規の方はボロボロになっていたのじゃ……」
 僕の呆気にとられた顔を見たミノは、少しだけ笑って
「実は、葉山と柳瀬さんが見たボロボロになった衣装は昨年の公演のものでよく似た衣装を入れておいたんだ」
「なんだって! それじゃ……最初から衣装は安全だったのかい?」
「ああ、万が一の事を思って俺が変えておいたんだ。伊神さんはそこまで判っていなかっただと思う」
「でも酒井さんは何故それが判らなかったのだろうか?」
 僕の疑問にミノは
「だって、衣装を引き裂くという行為をするのに、明るい場所ですると思うかい? 俺なら部室の明かりは点けないな。勝手知ったる場所だしね、多少暗くても衣装ケースが置いてある場所は判るしさ」
 ミノはそう言って二つの衣装を大事そうに衣装ケースにしまった。
「この事は秘密だからな」
 そうミノが人差し指を口元に持って来た時僕の後ろから伊神さんが
「全く、黙ってあげたのに……」
 そう言って呆れた顔をしてミノを見たのだった。その後ろでは柳瀬さんが笑っている。
「余りOBに心配させないでね。部長!」
「実はやり手の部長さんだったとはね」
 柳瀬さんや伊神さんの言葉にミノは
「必死だったんです。本当は公演までに二人を仲直りさなくてはならないのですが……」
「ま、いいんじゃ無い。雨降って地固まる、って言うからね」
 柳瀬さんの言葉にやっと笑顔になったミノだった。
 その後、柳瀬さんが僕の耳元で
「今回も伊神さんが解決しちゃったから、あの約束は次ね……わたしをいつまでも待たせないでね」
 そう囁いてウインクをしたのだった……
                 

                          この項 <了>

共幻文庫第8回短編コンテスト落選作  八月の雨(改稿作)

本日審査結果が発表された共幻文庫第8回短編コンテスト落選作です。
「つまらない!」と酷評されてしまいました!(笑  そこで審査のアドバイスを参考にして自分なりに改稿してみました。
でも、今回の事で自分の書きたかった事が判って来ました。少し袋小路に入っていた感じだったのですが、進路が見えた気がします。続きを読む

にわか高校生探偵団の事件簿シリーズ(葉山君シリーズ)二次創作  定期公演に潜む闇 2

 どうやら他の衣装にイタズラはされてはいない様だった。
「じゃあヒロインの娘を妬んでイタズラしたのですかね」
 翠ちゃんが早速推理を開始する。
「でも実際は衣装係の娘が被害を受けたのだから、そう一概には言えない気がするけどな」
 僕は先ほどから考えていた事を口にした。すると柳瀬さんが
「そうよね。衣装にイタズラされて実際に被害を受けるのは衣装係だものね」
 そう言いながらイタズラされたヒロインの衣装を手に取った。それを見て柳瀬さんの表情が若干変わったのを僕は見逃さなかった。僕はミノに合図をして、物陰に来て貰った。
「どうした葉山、何か気がついたのか?」
 ミノは部長として責任を感じている筈なのだろうが明るく振る舞っている。
「衣装って一着しか無いのかい? 予備とかあるとか……」
「うん、確かにあるけど、それは今日は持って来て無いよ」
「どうして?」
「だって、あくまで予備だから、何かあった場合明日持って来る事になっているんだ」
「と、言う事は予備は学校にあるのかい?」
「ああ、部室に保管してあるよ」
 僕はそれを聞いて、ある種の危機感を感じた。恐らく柳瀬さんもそれを感じたのだろう。表情が変わったのはその為だと思った。
「ゆーくん、学校に戻って確かめないと」
 やはり僕の考えと柳瀬さんの考えは同じだと思った。
「タッくん。悪いけど車のキー貸してくれる? 市立に戻りたいのよ。確かめたい事があるから、それが終わったら直ぐに帰って来るから」
 柳瀬さんは市立からこの市民ホールに来る時に乗って来た車の持ち主からキーを借り受けると
「行くわよ!」
 僕の腕を掴んで走りだした。
「柳瀬さん免許持っていたのですか?」
「先週取ったの! だから大丈夫よ!」
 何が大丈夫なのだろう……まさか、免許取って最初の運転?
「大丈夫よ。わたし運転上手いから」
 柳瀬さんは僕の不安を見越していたのだった。
 地下の駐車場に降りて車に乗り込むと柳瀬さんはエンジンを掛けてゆっくりと走り出した。確かに思ったより運転が上手だった。
「実はね、教習所に通ってる間にもパパに乗って貰って深夜に練習していたのよ。だから随分運転はしてるのよ。これ秘密だからね。ゆーくんだから言ったのよ」
 そんな秘密を打ち明けられても僕には一向に関係ないと思うのだが、どうやら柳瀬さんは僕と運命を一緒にしたいと思っているようだ。
「もし事故っても二人一緒だから構わないわよね。新聞なんかにも『高校生と大学生コンビ』とか書かれるでしょう」
 そんな事を言って僕を横目で見ていた。柳瀬さん、それは良いですけど前を向いて下さい!
 車は表に出ると捕まらないギリギリの速度で車を走らせて市立に乗り付けた。降りると急いで演劇部の部室に向かう。
 もどかしく鍵を開けると衣装をしまっている棚に向かう。僕には何が何処にしまってあるのか一向に判らないが柳瀬さんは迷わずにやや大きめの衣装ケースを指差して
「ゆーくん、それを卸して欲しいの」
 言われた衣装ケースを卸すと柳瀬さんが蓋を開けた。そして中の衣装を調べると、それは無残にもビリビリに引き裂かれていた。
「犯人の目的はこっちだったのですね」
「酷い! これなら補修が出来ないわ。替えが無い状況を作り出してから、さっきの犯行を行ったのね。明日気がついたなら間に合わない所だった」
 柳瀬さんの顔色が変わって来た。そして僕に
「演劇部のOBとして許せない! ゆーくんわたしに協力してね! 一緒に犯人を捕まえましょう」
 そう言って僕の手を掴んで潤んだ瞳で僕を見つめて来た。そんなに見つめられたら僕は……僕は柳瀬さんの背中に両腕を回すとしっかりと抱きしめた。
「嬉しいわ……やっぱりゆーくんはわたしなのね……こんな場面があるなら誰かスマホで写真を撮ってくれないかしらね。それをあの娘に見せつけてあげたのにね」
 気が付くと目の前の柳瀬さんは僅かに笑って嬉しそうな表情をしていた。先ほどの潤んだ瞳は演技だったのかしら?
 そう思っていたらいきなり口を塞がれて濃厚で柔らかいものが僕の口の中に入って来てかき回して抜けて行った。
「今のは手付みたいなもの。事件が解決したら、わたしの全てをゆーくんに捧げるからね」
 柳瀬さんはそう言って僕の事を抱き締めてくれた。これって他の人が見たら完全にラブシーンではないだろうか?
「今回は出来れば伊神さんは呼びたくないわね。わたし達二人で解決しましょうね」
 柳瀬さんはそう言って僕の腕を掴んで停めてあった車に乗り込んだ。市民ホールに帰る道すがら
「でも、犯人の目的がイマイチ判りませんね」
 僕が柳瀬さんに疑問を言うと
「どう言う事? 目的は公演の妨害でしょう?」
 そう言って反論して来た。そこで僕は運転をしている柳瀬さんに分かり易く説明をした。
「だって演劇部に詳しい者なら今回の公演に、僕や柳瀬さんが手伝いに来ると言う事は判っていたはずです。それなのにこれまでの犯行は直ぐにバレるものばかりです。本来の妨害の工作の本命は別にある気がするんですよ」
「確かにわたし達なら直ぐに気がつく事ばかりね……じゃあこれから何か起きるのかしら?」
 それも否定出来ないし、もう仕込まれてしるのかも知れない。
「柳瀬さん……犯人の目的が僕と柳瀬さんを市民ホールから遠ざけるのが目的だったら?」
 僕の言葉を聴いた柳瀬さんの顔色が再び変わり
「ゆーくん、少し飛ばすからしっかり掴まっていてね」
 そう言ってアクセルを強く踏み出して車の速度を上げたのだった。

娘の帰省

 元旦の夕方、娘が久しぶりに帰って来た。もう家を離れてから暫く経つ。大学へ進学する時に出たから幾年経つのか……
「明けましておめでとうございます!」
「おめでとう」
 挨拶を交わすだけでも、まともになったのかも知れない。地元でも余り出来の良くない子が通う高校に通い、大学なんぞは無理だと思っていたら、AO入試と やらで面接と作文だけで三流大学に入学してしまった。俺は高卒、妻も地元の短大を出ただけなのにこれも時世だろうかと考えた。
 幼い頃は俺に懐いていたが歳を経るに従って母親と会話する事が多くなった、嫌われている訳ではないが、積極的には話したくないようだ。この日も夕食になるまで俺とは口を利かなかった。
 元日の夕食は「すき焼き」と決まっている。何故、わざわざ元日に「すき焼き」を食べるのか判らないが何時の間にか決まっていた。妻の実家から持ち込んだのかと思っていたら
「わたしの家は三ヶ日は『四ッ足』は食べないのよ。嫁に来て初めてお正月に牛肉食べたのだから」
 そう言われたのを思い出した。では何処から来たのかと考えて思い出した。確か娘が小学校の頃に当時文通していた相手が正月に遊びに来て一泊していくとなった時に、「何が好きか訊け」と言ったのだった。その答えが「すき焼き」だったのだ。
 その年は確か元旦から「すき焼き」にしたのだった。不意な事から色々な事が変わるものだと思った。今では三人揃う事など普段はありはしないので、この正月の「すき焼き」は結構重要な行事となっている。
 鍋を囲みながら妻が娘に
「ちゃんと食べているの?」
 そう訊くと娘は煮えた牛肉を溶き卵に絡めながら
「食べているよ。朝だけはちゃんと食べる」
「昼や夜は?」
 と妻
「昼は簡単に済ませる時もあるし、夕食は残業次第。遅くなると消化のいいものだけにする。翌朝残るからね。もうそんなに若くないしね」
 そう聴いて、歳を尋ねると
「嫌だ、娘の歳も忘れたの?」
「いや数えるより訊いた方が早いからさ」
「今年誕生日が来ると二十八よ。三十は目前」
「三十前に嫁に行くと言う気はあるのか?」
「まあ、一応はあるわよ。でもこれは縁だからね。一人じゃ出来ないしね」
 この会話が今年初めて我が娘と話した会話だから情けない。
「葱とか白菜も食べなくちゃ駄目よ」
 妻が娘の小鉢に強制的に、煮えて醤油の色に染まった白菜や葱を入れて行く。俺自身は徳利からぐい呑みに酒を継ぎ足すと娘が
「お酒呑むの遅くなったね。前はもっとドンドン呑んでいたよね」
 娘にも判るほど、酒に弱くなったのかと思った。
「もう、量より味だからな」
「じゃあ、いい酒呑まないと」
 知った事を言うので
「お前、酒は呑めるのか?」
 正直、娘と酒なぞ呑んだ事など一度もなかった。
「はい、課では『うわばみ』と呼ばれています。そりゃ、二人の家のおじいちゃんも酒呑みなんだから、遺伝的にアルコールを分解する酵素を沢山持っているのよ」
 そう言ってきたので、妻が二つぐい呑みを出して来た。
「お前もか?」
「はい、酒呑みの娘ですからね」
 妻がたまに呑む事は知っていたが普段は全く呑んではいないと思った。
「知らなかったのはお父さんだけだからね。お母さんとわたしは大学の頃から一緒に呑んでいたよ」
 全く知らなかった。ふたりとも困った奴だ。それならもっと早くから一緒に酒を呑めたのだ。仕方ないので、隠しておいた特別の吟醸酒を出して来た。それを見た娘が
「これ今プレミアムが付いて高いんだよ。凄く美味しくてさぁ。どうしてお父さんが持っているの?」
 驚く娘に少し得意になって
「そりゃ俺は違いの判る男だからな」
 そう言うと二人が笑い出した。それでも笑って震える手でぐい呑みを突き出すので、吟醸酒を注いでやると、口からお迎えをした。こいつ本当に呑兵衛だと思った。こんな所だけしっかりと遺伝するのだと改めて実感した。そんな俺の気持ちを測ったかのように妻が
「半分はわたしの遺伝ですからね」
 妙な自慢をした。
「ああ~美味しい! やっぱりこれ最高ね。これを呑めただけでも帰って来て良かったわ」
「何だ、帰るつもり無かったのか?」
「いや、そう言う訳では無いけどさ」
 後で判った事だが、交際していた相手からプロポーズされて悩んでいたらしい。妻によると今回の帰省で己の気持ちに決着が着いたそうだ。
「次は、紹介したい人が居るから連れてくるね」
 娘はそう言って俺の手にあった吟醸酒の瓶を奪って自分で注いで呑みだした。
「全部呑んでもいいけど、俺より呑み過ぎるなよ」
 その忠告に三人とも笑ったのだった。


                          <了>
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