☆お題:かっこいい湖 必須要素:バラン 制限時間:2時間 使用65分
子供の頃に見て今でも記憶に残っている映画がある。タイトルも筋も忘れてしまったけど、ひとつだけ覚えていることがあって、それは映画の冒頭のシーンで高原の美しい湖に、早朝、主人公の美少女が朝もやの中を一糸まとわぬ姿になって湖を泳ぐ姿だった。
「なんてカッコイイんだろう! なんて綺麗な人なんだろう! その両方が相まって僕の中では「最高にカッコイイ湖」として記憶されることになった。
出来れば一度はあそこに行ってみたい。泳がなくても、あの透明な湖の水に触れてみたい……
その思いは僕の中で段々と強くなり、終いには夢にまで出て来るようになった。せめて、もう一度あの映画を見てみたい……そう思ってレンタルビデオ屋に日 参して、これは! と思う作品を借りて見てみたが、違う作品ばかりだった。あのシーンだけは鮮やかに覚えているのに、その他のシーンや登場人物が思い出せ ないのだ。
映画好きの友人に訊いて見て、幾つかの同じようなシーンが出て来る映画を教えて貰い借りて来て見たが、やはり違っていた。
「それ、日本の映画だったのか?」
「思い違いじゃないのかい?」
「そんなのはきっとフランス映画だろう」
色々なことを言われたが、外国映画ではないと思ってた。理由は自分でも定かではないが、湖の周りの景色が日本だった……いや正確には日本のものだと思われた、からだ。
そんな時だった。いつも見ている動画のリンクを貼ったサイトで見慣れない新しいサイトを発見した。何でも古い日本映画が載っている場所のリンクを貼って紹介しているということだった。
所謂違法投稿になるのかも知れなかったが、このサイトを見るだけなら大丈夫だろうとそこに飛んでみた。
すると、そこには僕も知っている過去の名作のリンクが貼ってありそれぞれに映画の短い紹介が書かれていた。
その一つに僕の全く知らない映画があった。しかもその解説には舞台がある湖だと書かれていた。
「これだ!」
思わず小さく叫びながら僕はリンクをクリックした……
それは、僕の長年探していた映画だった。忘れないように、映画の情報をメモしていく。映像では僕の記憶どおりに、主人公が湖で泳ぐ姿が写っていた。そして映画では湖の名前が登場したが、映画の中の架空の湖だということで名前も場所も架空だった。
これだけでは判らないが、この映画のタイトルを検索して色々と調べれば何処の湖でロケしたのか判ると思った。
映画を見終わり(勿論違法だと知っていたが、ダウンロードした)その情報を参考にして検索したが、有益な情報はヒットしなかった。
WiKiにも載っていなかったのでネットでは調べようが無かったのだ。仕方なく僕は図書館に行き、映画の情報が載ってる本を片っ端から探し始めた。そし て、遂にある本でその映画のタイトルを発見した。ロケ地も判った。情報が少なかったのは、公開初日で主人の少女を演じていた女優さんが行方不明になってし まったので上映を撃ち切ってしまったからだ。これでは資料が少ないはずだと思った。更に判ったのは、この映画に関わった人の多くがやはり行方不明になって いると言うことだった。
色々な情報が判り僕は満足だった。今度の連休にそのロケをした湖に行くことにした。僕の住んでる街から車で高速を使って四時間あれば着くはずだったからだ。以外と近くだと思った。
次の休みに僕は予定通りその湖に行くために前の晩の深夜に自宅を出発した。行くからには朝もやが出ている時刻にそこに行ってみたかった。
高速を降りて山間の道を進むと暫くして目的の湖が見えて来た。ところが近くに行ってみるとすっかり観光化されてしまっていて、映画の面影は全くなかった。波打ち際には弁当に入っていたバランが数多く捨てられていて、環境破壊が進んでいることを伺わせた。
がっかりして、夕方まで湖畔のベンチでぼおっとしていた。暗くなって来たから帰ろうと思い車に戻り、出そうとして、帰りは湖の反対側を回って帰ろうと考えて車を走らせた。
暫く走って、国道に出るはずだったが、車窓には相変わらず湖が見えている。いくら何でも変だとは思ったが、初めての土地で良く判らないから、地図どおりに行けば良いと思った。変だったのは途中からカーナビが位置を表示しなくなった事だった。
気が付くと前の場所に戻っていた。いつの間にか道を間違えていたみたいだ。再び車を走らせる今度は間違えないように湖を見ながら曲がり角を間違えないようにする。だが、また前の場所に戻って来てしまった。
おかしい……変なのは戻って来てしまったことだけではなくて、ついさっきまであった店が無くなっていることだった。
店だけではなくて、周りの景色も変わっていた。僕はおかしいと思いながらも、もう一度湖を回って見た。
すると、沢山あった観光化された店は一件もなくなり、湖畔のゴミなども無くなっていた。
僕は頭が変になりそうだったが、そのまま車に乗り朝まで湖畔を回り続けた。 何回も回っただろうか、僕は朝もやの中で車を止めた。それは湖畔で、あの少女が泳いていたからだ。そしてそれを撮影するスタッフの姿もあった。
僕は遂にこの世で一番行ってみたい場所に行くことが出来たのだった。
もう、帰らなくても良い……心の底からそう想った。
了
子供の頃に見て今でも記憶に残っている映画がある。タイトルも筋も忘れてしまったけど、ひとつだけ覚えていることがあって、それは映画の冒頭のシーンで高原の美しい湖に、早朝、主人公の美少女が朝もやの中を一糸まとわぬ姿になって湖を泳ぐ姿だった。
「なんてカッコイイんだろう! なんて綺麗な人なんだろう! その両方が相まって僕の中では「最高にカッコイイ湖」として記憶されることになった。
出来れば一度はあそこに行ってみたい。泳がなくても、あの透明な湖の水に触れてみたい……
その思いは僕の中で段々と強くなり、終いには夢にまで出て来るようになった。せめて、もう一度あの映画を見てみたい……そう思ってレンタルビデオ屋に日 参して、これは! と思う作品を借りて見てみたが、違う作品ばかりだった。あのシーンだけは鮮やかに覚えているのに、その他のシーンや登場人物が思い出せ ないのだ。
映画好きの友人に訊いて見て、幾つかの同じようなシーンが出て来る映画を教えて貰い借りて来て見たが、やはり違っていた。
「それ、日本の映画だったのか?」
「思い違いじゃないのかい?」
「そんなのはきっとフランス映画だろう」
色々なことを言われたが、外国映画ではないと思ってた。理由は自分でも定かではないが、湖の周りの景色が日本だった……いや正確には日本のものだと思われた、からだ。
そんな時だった。いつも見ている動画のリンクを貼ったサイトで見慣れない新しいサイトを発見した。何でも古い日本映画が載っている場所のリンクを貼って紹介しているということだった。
所謂違法投稿になるのかも知れなかったが、このサイトを見るだけなら大丈夫だろうとそこに飛んでみた。
すると、そこには僕も知っている過去の名作のリンクが貼ってありそれぞれに映画の短い紹介が書かれていた。
その一つに僕の全く知らない映画があった。しかもその解説には舞台がある湖だと書かれていた。
「これだ!」
思わず小さく叫びながら僕はリンクをクリックした……
それは、僕の長年探していた映画だった。忘れないように、映画の情報をメモしていく。映像では僕の記憶どおりに、主人公が湖で泳ぐ姿が写っていた。そして映画では湖の名前が登場したが、映画の中の架空の湖だということで名前も場所も架空だった。
これだけでは判らないが、この映画のタイトルを検索して色々と調べれば何処の湖でロケしたのか判ると思った。
映画を見終わり(勿論違法だと知っていたが、ダウンロードした)その情報を参考にして検索したが、有益な情報はヒットしなかった。
WiKiにも載っていなかったのでネットでは調べようが無かったのだ。仕方なく僕は図書館に行き、映画の情報が載ってる本を片っ端から探し始めた。そし て、遂にある本でその映画のタイトルを発見した。ロケ地も判った。情報が少なかったのは、公開初日で主人の少女を演じていた女優さんが行方不明になってし まったので上映を撃ち切ってしまったからだ。これでは資料が少ないはずだと思った。更に判ったのは、この映画に関わった人の多くがやはり行方不明になって いると言うことだった。
色々な情報が判り僕は満足だった。今度の連休にそのロケをした湖に行くことにした。僕の住んでる街から車で高速を使って四時間あれば着くはずだったからだ。以外と近くだと思った。
次の休みに僕は予定通りその湖に行くために前の晩の深夜に自宅を出発した。行くからには朝もやが出ている時刻にそこに行ってみたかった。
高速を降りて山間の道を進むと暫くして目的の湖が見えて来た。ところが近くに行ってみるとすっかり観光化されてしまっていて、映画の面影は全くなかった。波打ち際には弁当に入っていたバランが数多く捨てられていて、環境破壊が進んでいることを伺わせた。
がっかりして、夕方まで湖畔のベンチでぼおっとしていた。暗くなって来たから帰ろうと思い車に戻り、出そうとして、帰りは湖の反対側を回って帰ろうと考えて車を走らせた。
暫く走って、国道に出るはずだったが、車窓には相変わらず湖が見えている。いくら何でも変だとは思ったが、初めての土地で良く判らないから、地図どおりに行けば良いと思った。変だったのは途中からカーナビが位置を表示しなくなった事だった。
気が付くと前の場所に戻っていた。いつの間にか道を間違えていたみたいだ。再び車を走らせる今度は間違えないように湖を見ながら曲がり角を間違えないようにする。だが、また前の場所に戻って来てしまった。
おかしい……変なのは戻って来てしまったことだけではなくて、ついさっきまであった店が無くなっていることだった。
店だけではなくて、周りの景色も変わっていた。僕はおかしいと思いながらも、もう一度湖を回って見た。
すると、沢山あった観光化された店は一件もなくなり、湖畔のゴミなども無くなっていた。
僕は頭が変になりそうだったが、そのまま車に乗り朝まで湖畔を回り続けた。 何回も回っただろうか、僕は朝もやの中で車を止めた。それは湖畔で、あの少女が泳いていたからだ。そしてそれを撮影するスタッフの姿もあった。
僕は遂にこの世で一番行ってみたい場所に行くことが出来たのだった。
もう、帰らなくても良い……心の底からそう想った。
了