2014年12月

即興小説  「行って見たい場所」

☆お題:かっこいい湖 必須要素:バラン 制限時間:2時間 使用65分

 子供の頃に見て今でも記憶に残っている映画がある。タイトルも筋も忘れてしまったけど、ひとつだけ覚えていることがあって、それは映画の冒頭のシーンで高原の美しい湖に、早朝、主人公の美少女が朝もやの中を一糸まとわぬ姿になって湖を泳ぐ姿だった。
「なんてカッコイイんだろう! なんて綺麗な人なんだろう! その両方が相まって僕の中では「最高にカッコイイ湖」として記憶されることになった。
 出来れば一度はあそこに行ってみたい。泳がなくても、あの透明な湖の水に触れてみたい……
 その思いは僕の中で段々と強くなり、終いには夢にまで出て来るようになった。せめて、もう一度あの映画を見てみたい……そう思ってレンタルビデオ屋に日 参して、これは! と思う作品を借りて見てみたが、違う作品ばかりだった。あのシーンだけは鮮やかに覚えているのに、その他のシーンや登場人物が思い出せ ないのだ。
 映画好きの友人に訊いて見て、幾つかの同じようなシーンが出て来る映画を教えて貰い借りて来て見たが、やはり違っていた。
「それ、日本の映画だったのか?」
「思い違いじゃないのかい?」
「そんなのはきっとフランス映画だろう」
 色々なことを言われたが、外国映画ではないと思ってた。理由は自分でも定かではないが、湖の周りの景色が日本だった……いや正確には日本のものだと思われた、からだ。

 そんな時だった。いつも見ている動画のリンクを貼ったサイトで見慣れない新しいサイトを発見した。何でも古い日本映画が載っている場所のリンクを貼って紹介しているということだった。
 所謂違法投稿になるのかも知れなかったが、このサイトを見るだけなら大丈夫だろうとそこに飛んでみた。
 すると、そこには僕も知っている過去の名作のリンクが貼ってありそれぞれに映画の短い紹介が書かれていた。
 その一つに僕の全く知らない映画があった。しかもその解説には舞台がある湖だと書かれていた。
「これだ!」
 思わず小さく叫びながら僕はリンクをクリックした……
 それは、僕の長年探していた映画だった。忘れないように、映画の情報をメモしていく。映像では僕の記憶どおりに、主人公が湖で泳ぐ姿が写っていた。そして映画では湖の名前が登場したが、映画の中の架空の湖だということで名前も場所も架空だった。
 これだけでは判らないが、この映画のタイトルを検索して色々と調べれば何処の湖でロケしたのか判ると思った。

 映画を見終わり(勿論違法だと知っていたが、ダウンロードした)その情報を参考にして検索したが、有益な情報はヒットしなかった。
 WiKiにも載っていなかったのでネットでは調べようが無かったのだ。仕方なく僕は図書館に行き、映画の情報が載ってる本を片っ端から探し始めた。そし て、遂にある本でその映画のタイトルを発見した。ロケ地も判った。情報が少なかったのは、公開初日で主人の少女を演じていた女優さんが行方不明になってし まったので上映を撃ち切ってしまったからだ。これでは資料が少ないはずだと思った。更に判ったのは、この映画に関わった人の多くがやはり行方不明になって いると言うことだった。
 色々な情報が判り僕は満足だった。今度の連休にそのロケをした湖に行くことにした。僕の住んでる街から車で高速を使って四時間あれば着くはずだったからだ。以外と近くだと思った。

次の休みに僕は予定通りその湖に行くために前の晩の深夜に自宅を出発した。行くからには朝もやが出ている時刻にそこに行ってみたかった。
 高速を降りて山間の道を進むと暫くして目的の湖が見えて来た。ところが近くに行ってみるとすっかり観光化されてしまっていて、映画の面影は全くなかった。波打ち際には弁当に入っていたバランが数多く捨てられていて、環境破壊が進んでいることを伺わせた。
 がっかりして、夕方まで湖畔のベンチでぼおっとしていた。暗くなって来たから帰ろうと思い車に戻り、出そうとして、帰りは湖の反対側を回って帰ろうと考えて車を走らせた。
 暫く走って、国道に出るはずだったが、車窓には相変わらず湖が見えている。いくら何でも変だとは思ったが、初めての土地で良く判らないから、地図どおりに行けば良いと思った。変だったのは途中からカーナビが位置を表示しなくなった事だった。
 気が付くと前の場所に戻っていた。いつの間にか道を間違えていたみたいだ。再び車を走らせる今度は間違えないように湖を見ながら曲がり角を間違えないようにする。だが、また前の場所に戻って来てしまった。
 おかしい……変なのは戻って来てしまったことだけではなくて、ついさっきまであった店が無くなっていることだった。
 店だけではなくて、周りの景色も変わっていた。僕はおかしいと思いながらも、もう一度湖を回って見た。
 すると、沢山あった観光化された店は一件もなくなり、湖畔のゴミなども無くなっていた。
 僕は頭が変になりそうだったが、そのまま車に乗り朝まで湖畔を回り続けた。 何回も回っただろうか、僕は朝もやの中で車を止めた。それは湖畔で、あの少女が泳いていたからだ。そしてそれを撮影するスタッフの姿もあった。
 僕は遂にこの世で一番行ってみたい場所に行くことが出来たのだった。
 もう、帰らなくても良い……心の底からそう想った。

 
  了

今年を振り返って

 今年もあとわずかとなりました。
 いまいち年末とういう感じがしないのですが……

 今年を自分の創作活動と言う面から見てみると、思いの他良い年だったと思います。
 春に、「第9回 星の砂賞」に初めて投稿して、「過ぎ去りし日々の思い出」で審査員特別賞を戴きました。
 11月にはそれが電子書籍化されました。
 更に、秋には「第10回 星の砂賞」でまた審査員特別賞を戴きました。作品「出張料理人 雅也」
 この時は他にも作品を出していたのですが、自分としては一番可能性が低いだろうと思っていた作品でした。
 ですので、受賞出来たのが意外でもありました。
 この二つの作品はジャンルとしては同じ分野の作品だと思っています。その意味では自分の書いた作品が読んで戴いた方からどのように思われているのかが判った気がします。来年はこの幅を少しでも広げられたら良いと思っています。

他には、創作集団「共同幻想ノベルスデザイン」というところからお誘いがありまして、参加させて戴きました。
私の他は錚々たる方々ばかりですので、自分でも何故、誘われたのかは正直判らない部分もあります。
でも、色々な方々と交流して、その中から得るものがあると思いますので無駄にせずに行きたいと思っています。

来年に向けてですが、時代劇を書いてみたいですね。本格的なもので忍者なぞが登場するような奴ですね。
実は少し案は浮かんで来ています。色々と調べないとプロットも組めませんので来年はこれをコツコツとやってみたいです。

いま書いてる作品では、こちらに載せていた「落語シリーズ」を「噺家奇談」としてDノベルスノベルジムに投稿しています。続きも書いていますので、未読な方はぜひ!
 この作品はこれからも続けて行きたいと思っています。
 後は、未完で途中で休筆している「続・出張料理人 俺の名はサブ」をきちんと完結させたいと思っています。

これからも、どうぞ宜しくお願い致します。m(_ _)m

皆様良いお年を……  これからも更新致しますけど(^^)

押しの強い女

 それはいつもの光景とは少し違っていた。僕は毎日同じ時間の電車で通勤する。地元の駅を7時丁度に発車する通勤快速に乗るのだ。
 その日は何が原因かは判らないが時に混んでいて、車内は超満員だった。その為、僕は押されてしっかりと立っていられなかった。つり革で体を支えている状態だったのだ。
『ちょっと体勢が辛いな』
 そう思っていた時だった。電車がカーブに差し掛かった為に車内の人々の体勢が片方に強く押されることになったのだ。その為、僕は後ろから強く押された為に手に持っていたつり革を放してしまった。
『あっ』と思った時は既に遅く、僕は前に立っていた女性の肩から胸の意あたりに触れてしまったのだ。
「ちょっと!」
 振り向きざま、小さく叫んだと思うと、その女性は僕の手を掴むと丁度停車した駅に降ろされてしまった。そしてホームの片隅まで連れていかれ
「まさか、痴漢じゃ無いわよね?」
 そう言って僕を睨みつけた
「まさか、電車が揺れたのでバランスを崩してしまって、たまたま……」
「揺れを利用してわざと触ったんじゃ無いでしょうね?」
「そんなことする訳がない」
「どうだか……あんた名刺持ってるんでしょ。出しなさいよ。出したら警察には黙っててあげるから」
 理不尽だとは思ったが、時間は迫って来るので名刺一枚でこの場を逃れられるなら易いと思った。僕は名刺入れから一枚名刺を出すと彼女に渡した。
「田中一郎ねえ。へえ~、マーケテイング関係の仕事してるんだ。見かけによらないわね」
 それだけを言うと僕に背を向けながら
「何かあったら連絡するからね」
 そう言って改札口に行ってしまった。僕は狐につつまれたような感じを持ちながらも、次の電車に乗り会社に急いだ。

 それきり、あの朝の事は忘れていたが、ある日の夕方、珍しく定時で帰れると思って帰り支度をしていると、僕のデスクの電話が鳴り出した。仕事の電話でなければ良いなと思い受話器を取ると
「もしもし、田中さんお願いしたいのですが……」
 そう告げて来た。大抵の者は自分の事を言うものだが、言わなかった。
「田中は私ですが、どちら様でしょうか?」
 訝しい気持ちを抱いた僕に電話の主は
「この前の朝、痴漢された者だけど」
 そんなことを言って僕を慌てさせた。
「痴漢じゃないよ。あれは……」
「そんなことどうでも良いでしょう。でも、そう言わないとあなた私の事判らないでしょう」
 確かにそうだ。僕は彼女の名前も何も知らないのだから。
「今日会えないかな? 用事があるんだけど。変な用事じゃないから……」
 結局、彼女がこの前降りた駅の前にある喫茶店で会うことになった。

 やや古めのカウベルがついたドアを開けると、奥に彼女は座っていた。思えば良く顔を覚えていたと自分でも思った。
「待たせたね」
「それはしょうがないわ。私の方が近いんだから。不公平になるからこれ渡しておくわ」
 出された名刺を見ると、この駅がある市の職員だった。つまり地方公務員と言う訳だ。〇〇市市民課施設係、としてあった。名前は青木緑。何だか変な名前だと感じた。これで着ているものが赤と黄色だったら信号だと思った。
「市民課施設係のお役人さんが僕に何の用なの?」
 ウエイトレスにブレンドを頼むと持って来てくれた水を飲みながら僕は彼女に問うた。
「実はね。相談に乗って欲しいのよ。相談と言うか知恵を貸して欲しいの。あなた、マーケテイングの会社ならこう言うことは詳しいと思ったの。相談に乗ってくれたら、この前の痴漢、誰にも言わないであげるから」
 痴漢はやっていないが、触ってしまったのは事実だ。触れたと言ったが本当はかなりのところまで触ってしまっていたのだ。それをやっていないとは言いがたい。僕はとりあえず、その『相談』を訊いてみることにした。
「役に立つかどうかは判らないけど、言ってみてくれないか。訊いてから考えるよ」
 僕の言葉に彼女は話始めた。
「実はね、市のある施設の利用者が減ってるのよ。監査委員会ってところがあって、そこが『利用者が少ない施設は維持が税金の無駄遣いだから、廃止するか、大幅に予算を減らした方が良い』って答申を出したの。この監査委員会には誰も逆らえないのよ。そこで、利用者が増える知恵を貸して欲しいの」
「その施設って何なの?」
「うん、貸し集会所と言うか、舞台があって、畳敷きの施設で、多目的に使用出来る施設だったんだけど、最近は利用者が減って来てね。前は老人会の集会やお誕生会の宴会とかに利用されていたんだけど、老人会も数が減って来ていてね」
 そんな話なら僕も聞いたことがある。一時数多く出来た老人会だが、後から入る者が居なくてかなりの数は廃止になってるそうなのだ。
「じゃあ、その利用者を増やせば良い訳?」
「そうなの……協力してよ」
「随分強引だね。押しが強いと言うか……」
 僕は口ではそう言っていたが、協力する気になっていた。僕の今までの人間関係で役所の職員と言うのは居なかったからだ。
「仕方ないね。痴漢にされちゃ堪らないからね」
「ありがとう! 押してみるものね」

 その後、役所の予算内で出来る事を色々と提案した。尤も効果があったのが、twitterで流されている「市のニュース」だった。これのフォロワーさんが意外と多かったのだ。ここに、この施設の利用案内を流して貰ったのだ。すると、リ・ツートされて、ある日本舞踊の会や色々な踊りの会の知る事となった。利用するのは市民でなくとも可能なので、それが口コミで広がって行った。安く借りられ、交通の便も良い施設だからだ。

「お陰で廃止は免れたわ。予算も減らさなくて済みそう。恩にきるわ」
 僕達はこの前の喫茶店で逢っていた。彼女がカフェオレ、僕がモカを飲んでいる、それは、この前彼女が
「ここはモカが美味しいのよ」
 と言ったからだ。確かにそれは事実だった。
「上手く行ったお礼じゃ無いけど、青木さんは交際してる人いるの?」
「え、いきなり……全く大人しいと思ったら意外に押しが強いのね。大学の頃は付き合ってる人いたけど、今はいないわよ」
 僅かに笑みを浮かべながらカップを口に着ける。その目が笑ってる。
「じゃあ、僕と付き合ってくれないかな?」
「全く、私達知り合って日も浅いのに……」
「期間は関係ないんじゃない……どう?」
「強引ねえ……いいわ、私が断って、また痴漢でもされたら寝覚めが悪いから」
 そう言った目は全く真実を語っていない目だった。
「あの時ね。私の好みのタイプじゃ無かったら、すぐに突き出していた所だったの!」
 やっぱり、僕も最初から予感めいたものがあった気がしたのさ……

  了

即興小説  「忘れられた者たち」

 「忘れられた者たち」
☆お題:今度の傑作 必須要素:一発ギャグ 制限時間:1時間 使用41分

 売れない……
 全く売れなくなってしまった。
 俺は作家を生業として生きている人間だ。かってはベストセラーを幾つも書いて来た。書く傍から売れた時代もあったのだが、段々売上落ちて来て、とうとう全盛期の十分の一になってしまった。編集者は頭を抱え半狂乱になっている。俺だって何処かへ消えてしまいたいくらいだ。
「先生、次こそは傑作をお願いしますね」
 そんな事、編集者に言われなくても判ってるつもりだ。毎夜遅くまでPCの前に座り必死にキーを叩くが、ありきたりの文章や物語しか浮かんで来ない。

 今夜も考えあぐねていたら、部屋の隅に見慣れない男が立っていた。
「あんた誰? どうやってここに入ったんだ」
 俺の言葉が聞こえたようで、男は
「大分苦しんでいるみたいだな。良ければ俺が助けてやろうか?」
 そんなことを言うが信用出来ない。大体格好からして胡散臭そうな格好だ。
「信用出来ないと思ったな……まあいい。確かにいきなり現れて『助けてやろうか』なんて言っても信用しないだろう」
 男は懐から何かを出して俺の目の前に出して見せた。それは一冊の本だった。
「何だこれ?」
「良く表題を読め。何と書いてある」
 男に言われて表紙を見ると
『一発ギャグを有効に使う方法』と書いてあった。なんだ?
「その中には、古今東西の一発ギャグが納められている。その中の文言で文章を作ってみろ。内容なんて無くても人々は気に入って本を買ってくれるだろうさ。騙されたと思ってやってみな。お前の才能ならそれぐらいは出来るだろう」
 男は、そう言うと、すーつと姿を消してしまった。何だったのだろうか? 俺は藁をも掴む思いだったので、その本を開いて見た。
 すると、本当に世界で流行した一発ギャグが満載だった。一発ギャグというのは、その言葉だけなら面白くないのだが、あるシチュエーションになると極端に面白くなるものだ。だから、そのギャグだけを読んでも面白くも何ともなかった。
 俺は、その本を開きながら、本に書かれているギャクを繋ぎ合わせて文章を書いてみた。例えば
「がちょ~んと言ったら龍角散」
「ダメよダメダメ、STAF細胞はあります! 200回以上成功しています!」
「集団的自衛権はありのままで」
 とか書いてみたのだ。全く筋も何もあったもんじゃないが、ところが何故か編集者も気に入り、出版されてしまった。
 すると何とこれがいきなり30万部のベストセラーになって増刷につぐ増刷で最終的には200万部を売り上げてたのだ。
 
 これで俺の作家生命は保たれた。
 そんなある日、家でくつろいでいると、あの男が現れた。
「よう、どうだい、上手く行ったろう」
「ああ、お陰で、助かったよ。でもあんた誰なんだい?」
「俺か? 俺は今まで一時だけ持て囃されて直ぐに捨てられた一発ギャグの霊の集合体だ。流行らなくなったとは言え一時は世間を席巻したんだ。それらが組み合わされば、このぐらいの力を出せるのよ。それをあんたに証明して欲しかったんだ。お陰で多くの一発ギャグが喜んでいるよ。それからもうこれは要らないだろう」
 男は俺の手から、あの本を取ると霧のように消えてしまった。

 俺は、あれから程々の売上を保っている。それは、あの本をコピーしておいたのだ。それで、あの時みたいに一気に一発ギャグを使わずに少しずつ文章に潜り込ませているのだ。だからその力でそこそこに売れているのだ。
 俺だって、無名の頃から苦労して新人賞を貰って生き延びて来たんだ。ヘマはしない。それに一発ギャグ達だって俺が使ってやった方が喜ぶと言うものさ……じぇじぇじぇ~


 了

即興小説  「嫉妬は蜜の味」

「嫉妬は蜜の味」

☆お題「燃えるような嫉妬」 制限時間二時間 使用三〇分

 嫉妬って、誰にでもある感情で、それも男女間だけではないのは古今東西の共通だと知られている。有名なのはモーツアルトの才能に嫉妬したサリエリが有名だ。
 実は私もある人に嫉妬している。それは同人誌を作っている友人。とても才能があって、絵も文章も上手い。私なんか、どちらも下手で嫌になってしまうが、天は彼女に二物を与えたのだと思う。いいえ、可愛い容姿も含めたら幾つもの才能を手にしていると認めざるを得ない。
 今は、年末の冬コミに向けて製作している真っ最中だけど、彼女はイラスト入りの小説をもう二本も書いて来た。対する私は未だ一本も出来はしない。この差はいったいドコから来るのかしら? 嫌になってしまう。
  同人誌は他にも参加者がいるのだけど、彼女と私以外は十把一絡げ。問題にもなりはしない。レベルが違うと言うのかな。才能が違うと言うかそんな感じ。私か ら言わせれば、同人誌に載せるレベルじゃないのよね。枯れ木も山の賑わいと言うから載せてあげているのよ。同人誌だったちゃんとお金を貰うのだから、本当 はいい加減なものは載せたく無いのよ。判る?
 それでも、私も一本は何とか完成した。彼女に見せると
「わあ! 凄いですねえ! 私が思いもつかなかったことだらけです」
 そんなお世辞を言ってくれた。そう、お世辞だと言うのは判る。だって彼女が書いた二本の作品は、私が一生かかっても思いつかないお話で、しかもイラストが超カワイイ。これが嫉妬せずにおられようか……私の中でそれは段々と燃えたぎっていた。
  本当に才能がある人は周りに無頓着で、天真爛漫だったりする。それもムカつくのよね。そんなことまで嫉妬してしまう私がおかしいのかしら? いいえそんな ことは無いわね。私がおかしいなんてことはありはしない。同じ目標を目指していて、どうしてこんなに差がついたのかしら? 私の方が最初は先を走っていた のに、いつの間にか簡単に追い越されてしまった。
 あまりにも才能の差があると人は嫉妬しか生まれないものだと経験したわ。

 で も、そんな彼女でもスランプはあるもので、他のメンバーが書く予定だった作品が急遽書けなくなってしまったの。その子の家に不幸があって、書いてる場合で は無くなってしまったのね。そこで急遽、彼女がもう一本書くことになったのだけど、中々出来て来ない。締め切りが迫るが、どうも書けないで困ってるみたい だった。
 そうなると、現金なもので、彼女が可愛そうになって来る。思わず
「出来なかったら私が代わりに書こうか?」
 なんて心にもないことを口にしてしまった。皆の注目を浴びてしまい
「是非、お願いします!」
 と頼まれてしまった。仕方がないので頼まれてしまう。今回は気楽なものだ。なんたって自分のではなく人の代わりだからだ。スイスイと書けてしまった。もしかしたら、本来の自分の作品より良い出来かも知れない。読んで貰ったメンバーの評判も中々良かった。
 結局、それが採用されて、印刷され製本された。そして冬コミに並んだのだ。売れ行きは上々でほぼ完売となった。実は残りが僅かだか、某サイトで通販もすることになっていた。
 そっちは幾つも注文が来ないだろうと踏んでいたら、冬コミで買った人の評判が良くてこちらも完売してしまった。どうやら私がやっけで書いたあの作品が評価されているみたいだ。
 あれから、彼女を含めメンバーの視線から燃えるような嫉妬を感じるのは気のせいだろうか……

  了
タグクラウド
ギャラリー
  • 夜の調理室 1 入学
  • 蛍が舞う
  • 氷の音
  • カラスよお前は……
  • テケツのjジョニー 1
  • 浮世絵美人よ永遠に 第二十一話  未来へ (終)
  • 浮世絵美人よ永遠に 第二十話  吉原格子之先図
  • 浮世絵美人よ永遠に 第十九話  広重の得たもの
  • 浮世絵美人よ永遠に 第十八話  広重、江戸の空を舞う