すいません。ネタがなくなったので、また二次創作です。
「初雪」
立冬が過ぎるとすぐに本格的な冬がやって来ます。神山の今年の雪の具合はどうでしょうか?
以前の神山は冬の間にはろくな作業が出来ませんでした。元々がお米作り中心でしたので、お米の刈り入れが済んで、脱穀や藁の作業が終わってしまうと仕事らしい仕事がありませんでした。
そんな現状を憂いた祖父が、秋大根を大量に作って、雪が降る前に収穫し、地下に埋めて置き、春まで毎週何回か掘り起こして出荷するということを考えました。今ではハウスの他に殆んどの農家でそれをやっています。
もちろん、千反田家が元ですので、当然やっています。一口に言いますが一旦堀起こしてさらに埋め直すというのは結構な重労働です。お米の時のように他の農 家の方が手伝ってくれるという訳には行きません。毎年アルバイトの方にお願いしてるのですが、今年はインフルエンザの大流行で人出が足らなくなってしまい ました。
わたしが古典部でも憂いた表情をしていたのでしょう。折木さんが
「千反田、どうした? 何か心配事でもあったのか? 俺で役に立つなら言ってくれ」
折木さんは本当に優しい方です。でも今までろくに農作業の経験がない折木さんにはとても頼む訳には行きません。そんなことを思っていたのが顔に出ていたのでしょうか
「千反田。お前の困ってることは、俺には荷が重いことなのか? もし、そうでなければ、いいや例えそうであっても構わないから俺に言ってくれ」
初冬の柔らかな日差しが地学講義室に降り注いでいます。暖かい日差しを背中に受けて折木さんはわたしに迫ります。
ありがたいです。本当に心から嬉しいのですが、折木さんに慣れないことをさせて万が一のことがあったならと思ってしまいます。
「折木さん。実は農作業のことなのです。大根を一旦掘り出して、再び地中に埋める作業なのです。慣れないととても重労働です。折木さんをそんなことには頼めません」
わたしは本当のことを言って折木さんに納得して貰うつもりでした。でも折木さんは
「千反田。いくら大変な作業だって、俺は今までもお前の家の作業を色々手伝って来たじゃないか。今回も大変かも知れないが、初心者の俺がやるんだ。そう凄いことは出来やしない。でもお前が困ってるなら俺は何か手伝ってお前の心の負担を軽くしてやりたいんだ」
折木さんの言葉はわたしの心に響きました。そうでした。そんなことで遠慮していたら今度は折木さんのお顔が曇るでしょう。それは、わたしにはとても辛いことなのでした。そんなことも忘れていました。
「ありがとうございます。では本当にお願いしてもよろしいですか?」
「ああ、大丈夫だ。お前を手伝いたいんだ」
こうして、折木さんが、わたしの家の作業を手伝って戴けることになりました。
土曜日の朝早く、まだ薄暗いうちに折木さんが我が家にお見えになりました。父が真っ先に出て折木さんに色々と説明をします。正直、わたしは少し面白くあり ません。どうしてかと言うと、それは折木さんは我が家の作業を手伝う為にいらしたのですが、そもそもわたしが頼んだのです。真っ先に折木さんに会う権利ぐ らいはわたしに有ると思うのです。それを父に奪われてしまいました。つまらないことだと思いますが少しだけ妙なジェラシーを感じてしまいます。
折木さんは父からひと通りの説明を受けると裏の作業場に行き、作業服に長靴という出で立ちに着替えました。そして、わたしの姿を見つけると
「なんだ、そこにいたのか。実はさっきから目で探してたんだ。正直、お前の顔を見て安心したよ。これで一生懸命作業に没頭出来る」
何とも嬉しい言葉です。
「折木さん。お昼は一緒に戴きましょう」
わたしは胸がいっぱいになって、それだけしか言えませんでした。
「ああ、それを楽しみに頑張るよ」
折木さんはそれだけを言い残して畑に出て行きました。
夏の間は外や田圃で食べるのも楽しかったですが、もう陣出はかなり寒くなってきました。外で食事をするのは厳しい状況です。
そこで、作業場の屋根のある所に簡易的に椅子とテーブルを拵えて、そこに作業している皆さんに食事をして貰うのです。
寒い外から帰って来るので、熱いお茶や、味噌汁などを用意します。その他はおにぎりや赤蕪の漬け物。、野菜の煮物、それに折木さんが好きな鶏の唐揚げも用意します。
陣出の空はグレーの厚い雲で覆われています。本当にもうすぐ雪が落ちて来そうです。せめて今日いっぱい、いいえ、皆さんが作業を終えるまで持って欲しいと願わずには居られません。
そんなことを思っていたら、お昼になり畑から折木さんの他父やアルバイトの方々が上がって来ました。これからはわたしと母の出番です。皆さんに熱いお茶とお味噌汁を配って行きます。最後は折木さんです。大事な人は最後なのです。それは、その隣にわたしが座るからです。
折木さんは、料理に手をつけず、わたしを待っていてくれました。
「一緒に食べようって約束したからな」
折木さんは朝のわたしの言ったことを覚えていてくれたのです。こんな喜びがありましょうや。わたしは心から幸せを感じます。
「うん、いつも千反田の作った料理は美味しいと思うけど、今日はまた格別だな」
何よりの言葉を戴けました。今日はそれだけで、わたしの心の許容量はいっぱいです。
食べ終わり、小一時間の休憩が終わると午後の作業です。休憩の間、わたしは折木さんと楽しいお話をしていましたが、アルバイトの方々が一旦作業場を離れ、わたしと折木さんの二人だけになってしましました。すると折木さんが
「千反田、少しの間横になっても良いか?」
そう言われましたので、わたしは「どうぞ」と言って膝をお貸しします。すると折木さんは
「いや、そんなつもりで言ったのではないのだがな」
そう言って戸惑っていました。わたしは早とちりをして恥ずかしくてまともに折木さんの顔も見ることが出来ません。
「でも、誰も見ていないし、千反田がそう言ってくれるなら……」
折木さんはそう言って頭をわたしの膝の上に置きました。
「千反田の膝枕はとても心地よいよ。時間まで眠ってしまいそうだ」
「宜しかったら、時間になれば起こしますから、お眠りになっていて下さい」
わたしが、そう言うまでもなく、折木さんは軽い寝息を立てていました。きっと慣れない作業で疲れたのだと思います。時間までゆっくりと眠って下さい……
誰もいない作業場でゆっくりとした時間が過ぎて行きました。
その後、午後の作業に折木さんは元気で出て行かれました。
「千反田のお陰で、午後も頑張れそうだよ」
そう言ってくれたのが何よりでした。
午後になり空は益々重くなってきました。午後四時過ぎに作業が終わり、皆さんが帰って来ました。わたしは折木さんを出迎えます。
「お疲れ様でした。大根は皆埋めたのですか?」
「ああ、ちゃんと埋めたよ。雪が降る前で良かったよ」
本当に良かったと思いました。
「今日は本当にありがとうございました! 助かりました」
わたしのお礼に折木さんは
「何の、俺の方こそ心地よい昼寝をさせて貰ったからな。頑張らないとと思ったよ」
わたしは先程の膝枕のことを言われて恥ずかしくなってしまいました。下を向いてると白いものが地面に落ちて消えて行きます。顔を上げると折木さんの肩が少し白くなっています。
「ああ、雪ですね。初雪です!」
わたしの言葉に折木さんも皆さんも空を見上げます。
「間に合ってよかったな千反田」
「はい! とても良かったです」
折木さんがしっかりとわたしの肩を抱いてくれます。
二人の上に雪が白く降り積もって行きました……
もう神山は冬です。
了
「初雪」
立冬が過ぎるとすぐに本格的な冬がやって来ます。神山の今年の雪の具合はどうでしょうか?
以前の神山は冬の間にはろくな作業が出来ませんでした。元々がお米作り中心でしたので、お米の刈り入れが済んで、脱穀や藁の作業が終わってしまうと仕事らしい仕事がありませんでした。
そんな現状を憂いた祖父が、秋大根を大量に作って、雪が降る前に収穫し、地下に埋めて置き、春まで毎週何回か掘り起こして出荷するということを考えました。今ではハウスの他に殆んどの農家でそれをやっています。
もちろん、千反田家が元ですので、当然やっています。一口に言いますが一旦堀起こしてさらに埋め直すというのは結構な重労働です。お米の時のように他の農 家の方が手伝ってくれるという訳には行きません。毎年アルバイトの方にお願いしてるのですが、今年はインフルエンザの大流行で人出が足らなくなってしまい ました。
わたしが古典部でも憂いた表情をしていたのでしょう。折木さんが
「千反田、どうした? 何か心配事でもあったのか? 俺で役に立つなら言ってくれ」
折木さんは本当に優しい方です。でも今までろくに農作業の経験がない折木さんにはとても頼む訳には行きません。そんなことを思っていたのが顔に出ていたのでしょうか
「千反田。お前の困ってることは、俺には荷が重いことなのか? もし、そうでなければ、いいや例えそうであっても構わないから俺に言ってくれ」
初冬の柔らかな日差しが地学講義室に降り注いでいます。暖かい日差しを背中に受けて折木さんはわたしに迫ります。
ありがたいです。本当に心から嬉しいのですが、折木さんに慣れないことをさせて万が一のことがあったならと思ってしまいます。
「折木さん。実は農作業のことなのです。大根を一旦掘り出して、再び地中に埋める作業なのです。慣れないととても重労働です。折木さんをそんなことには頼めません」
わたしは本当のことを言って折木さんに納得して貰うつもりでした。でも折木さんは
「千反田。いくら大変な作業だって、俺は今までもお前の家の作業を色々手伝って来たじゃないか。今回も大変かも知れないが、初心者の俺がやるんだ。そう凄いことは出来やしない。でもお前が困ってるなら俺は何か手伝ってお前の心の負担を軽くしてやりたいんだ」
折木さんの言葉はわたしの心に響きました。そうでした。そんなことで遠慮していたら今度は折木さんのお顔が曇るでしょう。それは、わたしにはとても辛いことなのでした。そんなことも忘れていました。
「ありがとうございます。では本当にお願いしてもよろしいですか?」
「ああ、大丈夫だ。お前を手伝いたいんだ」
こうして、折木さんが、わたしの家の作業を手伝って戴けることになりました。
土曜日の朝早く、まだ薄暗いうちに折木さんが我が家にお見えになりました。父が真っ先に出て折木さんに色々と説明をします。正直、わたしは少し面白くあり ません。どうしてかと言うと、それは折木さんは我が家の作業を手伝う為にいらしたのですが、そもそもわたしが頼んだのです。真っ先に折木さんに会う権利ぐ らいはわたしに有ると思うのです。それを父に奪われてしまいました。つまらないことだと思いますが少しだけ妙なジェラシーを感じてしまいます。
折木さんは父からひと通りの説明を受けると裏の作業場に行き、作業服に長靴という出で立ちに着替えました。そして、わたしの姿を見つけると
「なんだ、そこにいたのか。実はさっきから目で探してたんだ。正直、お前の顔を見て安心したよ。これで一生懸命作業に没頭出来る」
何とも嬉しい言葉です。
「折木さん。お昼は一緒に戴きましょう」
わたしは胸がいっぱいになって、それだけしか言えませんでした。
「ああ、それを楽しみに頑張るよ」
折木さんはそれだけを言い残して畑に出て行きました。
夏の間は外や田圃で食べるのも楽しかったですが、もう陣出はかなり寒くなってきました。外で食事をするのは厳しい状況です。
そこで、作業場の屋根のある所に簡易的に椅子とテーブルを拵えて、そこに作業している皆さんに食事をして貰うのです。
寒い外から帰って来るので、熱いお茶や、味噌汁などを用意します。その他はおにぎりや赤蕪の漬け物。、野菜の煮物、それに折木さんが好きな鶏の唐揚げも用意します。
陣出の空はグレーの厚い雲で覆われています。本当にもうすぐ雪が落ちて来そうです。せめて今日いっぱい、いいえ、皆さんが作業を終えるまで持って欲しいと願わずには居られません。
そんなことを思っていたら、お昼になり畑から折木さんの他父やアルバイトの方々が上がって来ました。これからはわたしと母の出番です。皆さんに熱いお茶とお味噌汁を配って行きます。最後は折木さんです。大事な人は最後なのです。それは、その隣にわたしが座るからです。
折木さんは、料理に手をつけず、わたしを待っていてくれました。
「一緒に食べようって約束したからな」
折木さんは朝のわたしの言ったことを覚えていてくれたのです。こんな喜びがありましょうや。わたしは心から幸せを感じます。
「うん、いつも千反田の作った料理は美味しいと思うけど、今日はまた格別だな」
何よりの言葉を戴けました。今日はそれだけで、わたしの心の許容量はいっぱいです。
食べ終わり、小一時間の休憩が終わると午後の作業です。休憩の間、わたしは折木さんと楽しいお話をしていましたが、アルバイトの方々が一旦作業場を離れ、わたしと折木さんの二人だけになってしましました。すると折木さんが
「千反田、少しの間横になっても良いか?」
そう言われましたので、わたしは「どうぞ」と言って膝をお貸しします。すると折木さんは
「いや、そんなつもりで言ったのではないのだがな」
そう言って戸惑っていました。わたしは早とちりをして恥ずかしくてまともに折木さんの顔も見ることが出来ません。
「でも、誰も見ていないし、千反田がそう言ってくれるなら……」
折木さんはそう言って頭をわたしの膝の上に置きました。
「千反田の膝枕はとても心地よいよ。時間まで眠ってしまいそうだ」
「宜しかったら、時間になれば起こしますから、お眠りになっていて下さい」
わたしが、そう言うまでもなく、折木さんは軽い寝息を立てていました。きっと慣れない作業で疲れたのだと思います。時間までゆっくりと眠って下さい……
誰もいない作業場でゆっくりとした時間が過ぎて行きました。
その後、午後の作業に折木さんは元気で出て行かれました。
「千反田のお陰で、午後も頑張れそうだよ」
そう言ってくれたのが何よりでした。
午後になり空は益々重くなってきました。午後四時過ぎに作業が終わり、皆さんが帰って来ました。わたしは折木さんを出迎えます。
「お疲れ様でした。大根は皆埋めたのですか?」
「ああ、ちゃんと埋めたよ。雪が降る前で良かったよ」
本当に良かったと思いました。
「今日は本当にありがとうございました! 助かりました」
わたしのお礼に折木さんは
「何の、俺の方こそ心地よい昼寝をさせて貰ったからな。頑張らないとと思ったよ」
わたしは先程の膝枕のことを言われて恥ずかしくなってしまいました。下を向いてると白いものが地面に落ちて消えて行きます。顔を上げると折木さんの肩が少し白くなっています。
「ああ、雪ですね。初雪です!」
わたしの言葉に折木さんも皆さんも空を見上げます。
「間に合ってよかったな千反田」
「はい! とても良かったです」
折木さんがしっかりとわたしの肩を抱いてくれます。
二人の上に雪が白く降り積もって行きました……
もう神山は冬です。
了