今日から、かなり前ですが書いていた三次創作の話を連載していきます。
 これは「氷菓」の二次創作を元に私が勝手に世界観を広げ、
奉太郎と千反田さんの子供の世代の話を書きました。
 設定としては、これ以前に書いていた二次創作の延長の設定になっています。
 奉太郎は自分で農業関係の会社を起こし、千反田家の農家と両立をしている。
 二人は一時離れた時があったが二十六歳の時に結婚している。
 等の過去設定がたまに顔を出します。
 そして、かなり出来が良くないとは思います。それでも一読して戴けるなら……
「17年目のバレンタイン」

 神山は二月に入っても沢山の雪が降ります。先週は週のうち五日も雪が降りました。今年は特に多い様な気がします。幸い今週に入ってからは晴天続きで、穏やかな日が続いています。春もそう遠く無いのかも知れません。
 私と夫が結婚してからもう十七年経ちました。早いものです。この前菖蒲の花が咲く田圃の中で近所の皆さんにご挨拶したばかりだと思っていました。
 私達の間には二人の子が恵まれました。上の子は長女で、名を「めぐみ」と言います。神山高校の1年生でかっての私達と同じ「古典部」に所属しています。
 外見は夫に云わせると、『あの頃のお前と瓜二つ』だそうです。でも私に云わせると、私はあの子がするような仕草はしませんでした。それは、物事を考える時に前髪を触り、遠くの方を見るような目つきをするのです。
そう、誰かさんにそっくりなのです。血は争えないですね。
 下の子は夫から名前を貰い「信太郎」(のぶたろう)と付けました。『人に信頼される人物になって欲しい』と言う理由です。この子は外見はあの頃の夫に良く似ていますが、目つきはあの頃の夫程悪くありません。
とても純粋な子で人を疑うと云う事を知りません。そして好奇心が強く、「僕気になるんだよな~」と云うのが口癖で、その言葉を口にしながら、夫や周りの方に聞いています。それに一番答えるのが、姉の「めぐみ」です。何時も面倒臭そうにしながらその疑問に答えてあげています。
 信太郎は私と同じ印字中学へ通って今は二年生です。やはり神山高校への進学を希望しています。あの子の成績なら何の問題も無いでしよう。中学では何時も成績はトップですから。

 今日は十三日の日曜です。夫は先週降った雪の処理をしています。この季節は農作業はハウス以外はあまりありません。夫はこの時期は会社の仕事が中心ですが、それも今はそれ程忙しく無い模様です。
「ああ、やっと片付いたよ。もう降って欲しく無いな。これだけでひと仕事だからな」
「ご苦労様です。お茶が入りましたよ」
「ああ、有難う」
 そう言って夫は美味しそうにお茶を飲みます。
「処で、めぐみは今日は帰ってくるのか?」
「そう聞いてますけど。泊まるなら摩耶花さんから電話があるでしょう」
「それもそうだな」
 めぐみは金曜の夜から、摩耶花さんの家にチョコレートの作り方を習いに行っているのです。摩耶花さんの娘さんの沙也加さんには、幼い頃から懐いていて、姉の様に慕っています。
 彼女は市内の大学に通っていますが、母親に似てお菓子作りが得意なのです。やや小柄ながら、可愛い容姿と相まって、とても男の子から人気がありましたが、どうやら良い人が出来たみたいですが、父親の里志さんは「未だ、嫁には行かせない」と話してるそうです。
 それにしても、あの子がチョコレートを作るなんて初めてだと思います。どういう風の吹き回し、と思いましたが、どうやら気になる人が出来た様ですね。どういう子か私も楽しみです。

 夕方になりめぐみが帰ってきました。
「只今帰りました。」
「おかえりなさい。いいのは出来た?」
「はい、お母様、それはもう素敵なのが出来ました」
「そう、それはよかったわ」
「摩耶花おばさまも沙也加さんも、凄いのです。チョコレートで本物そっくりの絵を書くんですよ。今回も大分手伝って貰いました」
「沙也加さんも作ったの?」
「はい、とても凄いのを作りました。私のはあそこまで凄くは無いですが、心は籠もっています。」
「貴方のそのチョコを上げる相手の方はどういう方?」
「はい、そうですね・・・何事にも一生懸命にするのですが、要領が悪いと言うか、無駄なエネルギー消費が激しい人で、いつも損ばかりしています。」
「でも、そう云う事を気にしない心の大らかな人です。私が付いてあげないと何時も大変な思いをするから、私は彼のお手伝いを良くするのです」
「そう、貴方はそんな彼が気になるのね?」
「気になる、と言うか、私がついてないと、どうしようも無い人ですから……」
「それに、私意外にチョコレートをくれる子もきっと居ないと思いますから……」

 なんだか、昔の誰かを見ている様です、男女は逆ですが、そこへ自分の部屋で勉強か本でも読んでいた信太郎がやって来ました。
「ああ、姉さんお帰りなさい。良いチョコ出来た?」
「出来たわ。凄いわよ」
「そう、それは良かったね」
 そう言ってニコニコしています。この子は大変女の子に人気があるのですが、本人は恋愛に興味が無いらしく
「僕は未だ、中学二年生だよ。恋愛なんて高校行ってからの話でしょう」
 なんて言ってます。去年のバレンタインも沢山のチョコレートを貰って帰ってきましたが、
「食べきれないから、勿体無い」
 と言って、作業をする方のお茶請けに食べて貰っていました。
「食べ物を粗末には出来ませんから」
 と言って妙に納得していました。

 私の作業しているのを不思議に思っためぐみが訪ねてきます。
「ねえ、ところでお母様はお父様にはどのくらいチョコレートを上げたのですか」
 私は困って仕舞いました。だって、未だに一枚もあげて無いのですから……
「お母さんね、実はお父様にはあげた事無いのよ」
「ええ!本当ですか?信じられません。だって二人は恋愛結婚で、それは大恋愛だったと摩耶花おばさまから聞いています」
「でもね、当時、千反田にはね。『本当に親しい方にはお中元やお歳暮を送らない』と言う風習があってね。バレンタインのチョコもこれに該当するとお母さんは思ってしまったの」
「だからお父さんには、あげなかったのよ」
「ふう~ん。そうだったのですか」
「でもね、お父さんからは戴いたわ」
「本当ですか!さすがお父様!」
「どういうのだったのですか?」
「う~ん、それは二人の秘密」
「なぁ~んだ。残念!」
 親子で他愛ない会話をしています。私は先日からの縫い物を進めています。
「お母様、先日から何を縫ってらっしゃるのですか?」
「気になりますか?」
 すると傍で聞いていた下の子が
「僕、気になります!」
 と言ってやってきました。すると、何を縫っているのか判っためぐみが、前髪を触りながら
「信ちゃん、お母さまは、明日の為に縫ってるのよ」
 そう言って耳元で何か言っています。それを聞いた信太郎も、顔を明るくして笑顔になりました。
 そんなやり取りをしていて、やっと出来ました。明日に間に合って良かったです。

 今日は十四日の月曜です。子供二人は学校へ行きました。夫も、
「今日は会社に顔を出して、一件得意先に寄ってから帰って来る。遅くは成らないと思う」
 そう言って出て行きました。
 夕方になり信太郎が紙袋一杯のチョコレートを持って帰って来ました。
「今年も皆さんに食べて貰います」
 そう言って自分の部屋に片付けています。
 その次はめぐみが笑顔で帰って来ました。
「上手く行きました?」
「はい!貰ってくれました。今度連れてきますね」
 真っ赤になりながら、嬉しそうに云うめぐみはやはり女の子でした。
「楽しみにしていますね」
 私も笑顔で答えます。
 そして、夫が帰ってきました。
「おかえりなさい。あなた。お疲れ様です」
「ああ、有難う、今日はあまりお疲れないがな」
 そう言って何時も着ている古い綿入れ半纏を着ようとするので、私は
「あなた、もうそれは、止しにしましょう。もう二十五年位になりますでしょう」
「いや、でもこれはお前が・・・」
 そうです、夫は私が高校の時に縫ってあげた綿入れ半纏を直し直し未だに着ていたのです。流石にもうかなりくたびれています。千反田家の柱たる人が家でくつろぎの時に着るものとしては相応しくありません。私は、昨日出来上がっていたものを夫の肩に掛けてあげました。
「これは……お前、何時の間に」
「今日は何の日か知ってます。あなた」
「何の日って……今日はバレンタインで……そうか!」
「有難う! この日にプレゼントを貰ったのは初めてだな」
 そう言って、夫は新しい半纏で私を包み込んでくれます。そう云う事もあるかと、少し大きめに縫っていたのです。私達はそのまま暫く抱き合っていました。

「お父様お帰り……」
 出迎えに出ようとした信太郎の口をめぐみがふさぎ、口に指をあてています。
「邪魔しちゃ駄目だよ」
 二人は何処かへ行って仕舞いました。
 気がつくと、めぐみの「お父様へ♡」と書かれたチョコレートが置いてありました。
「見られてしまったな」
「いいじゃ無いですか、喧嘩した訳じゃありませんから」
「うん」
「でも今度めぐみは良い人を連れてくるらしいですよ」
「そうか、どんな奴か楽しみだな」
「あら、そう簡単に言い切れるのですか?」
「そりゃ俺は、娘よりお前が大事だ」
「まあ、有難う御座います」
「あいつだって、親より大切な人が見つからなければ」
「そうですね。何時かは旅立ちますからね」
「ああ、俺達は何時までも此処に残る、大地に根を生やした様にな……」
 その後は父と母を交えて楽しい夕食です。親子三代一緒の食事は楽しいものです。新しい半纏を家族の皆からからかわれて、夫は少し嬉しそうでした。その横顔を見ながら、私は未だに夫への恋心があるのに気が付きました。

 やはり素敵な方です・・・奉太郎さんは

    了