昨日の続きです。
読みたいと言う奇特な方だけ次に進んで下さい。大したオチではありません。
このシリーズで重要なレギュラーの人物が登場します。

 それでは……
 放送室について見ると、放送委員会の2年生の残りのメンバーが皆揃っていて、僕達の到着を待っていた。
「私が委員長の上山です」
 そう言って自己紹介をしたのは背の高いすらっとした娘で、何処と無く柳瀬さんを思わせる感じがした。代々この様なタイプが委員長になるのだろうか?
 そんな事を思っていると、僕の後ろに柳瀬さんがいるのに気が付き
「委員長!どうしたんですか?」と驚いている。
 いや委員長は貴方でしょうと言いたいのを我慢する。
「上山ちゃん、久しぶり。元気してた?」
 柳瀬さんは上機嫌で挨拶を返す。そんなやり取りを見ていた伊神さんは現委員長の上山さんに
「詳しい経緯を聞かせてくれないかな」
 と言って、僕達は捜査モードに入った。

 基本的には伊神さんが訊いて、上山さんが答える形だった。
「無くなったのは、その原稿だけ、後は何もないのかな?」
 伊神さんがそう訊くと上山さんは
「新入生歓迎式典で読む原稿と、式典の進行表です。一緒にクリアファイルに入れて、このロッカーにしまってあったのです」
 上山さんは狭い放送室にあるロッカーの扉を開けてみせた。
「ここにあったのです」
 そう指し示した先はガランとした空間があるのみだった。

「あら、何か片付いていない?」
 思い出した様に柳瀬さんが見渡しながら言う
「あ、はい先輩が卒業する時に、『出来ればもう少し片付けたかったけど』と仰っていたので、先日委員皆で掃除して片付けたのです。もうじき一年生も入って来るからって……」
「そうなんだ。偉いなぁ~感心感心」
 柳瀬さんは自分の思いを受け止めて貰い嬉しそうだ。

「それで、その原稿を最後に確認したのは何時?」
 伊神さんが確信に近づく様に質問を始めた。
「はい、一昨日です」
 上山さんが委員を代表して質問に答える。
「そこを、もっと詳しく教えて欲しいな」
 伊神さんが上山さんを見つめながら言うと、上山さんはやや頬を赤く染めて
「あ、掃除して帰る時ですから午後四時です」
「その時に、そこのロッカーに仕舞ったのだね。その後は今日までそこを開いていないと言う訳か」
 そこまで聞いていた翠ちゃんが
「じゃあ、その四時から今日までの間に盗まれたんですね」
 いきなりの発言に上山さんは驚きながら
「あなたは?」
「あ、はい、今日入学した天童翠と申します。宜しくお願い致します」
「ああ、新入生……で、伊神先輩とは……」
 そこで、伊神さんは平気な顔で
「ああ、姓は違うけど僕の妹なんだ。宜しくしてやってくれ」
「あ、そうなんですか……」
 あっけに取られた感じだった。
「無くなったと気がついたのは何時?」
 伊神さんは続けて尋ねる
「今日、学校に来てからですから、朝の八時半です」
「その時放送室の鍵は閉まっていた?」
「はい、私が先生から鍵を借りて開けましたから間違いありません」
「すると犯行時刻は一昨日の十六時から今朝の八時三十分までの間と言う事だね」
 そこまで、事実を確認すると、上山さんは思い出した様に
「でも、無くなった原稿は校長先生にもう一度お願いすれば、またプリントアウトしてくれると思うのです。それに進行表は他の生徒も持っていますし、盗まれたのは盗まれたのですが、正直、困ると言う訳では無いのです」
 更に、別の背のやや低い女生徒が
「盗まれたのはそれだけですが、この部屋に誰か知らない者が入って徘徊した事が気持ち悪いのです」
「じゃあ、あんた達、機材がいたずらされて無いか未だ調べて無い訳?」
 元放送委員長の柳瀬さんがここぞとばかりに現役の委員に聴き始める。
「いえ、一応は調べましたが、特には変な事は……」
 先程の委員の娘がそこまで答えると、不意に学校中にチャイムが鳴り出した。
 すると、伊神さんは
「そうか犯人の目的はこれだ!」
 そう目を輝かせて言い切った。どういうこと、伊神さん……

 放送委員四人、それに僕、柳瀬さんと翠ちゃんの七人を前にして伊神さんは
「今何時だい?」と皆に訊く。
「ええと、十一時三十五分です」
と各自がつぶやく様に言うと、伊神さんは
「そう、十一時三十五分だ。じゃあ今のチャイムは何時間目のだい?」
 僕はとっさに伊神さんの言いたかった事が判った。
 放送委員の誰かが「それは四時間目の始まりかと……」
 そう言いかけて、自分の言葉に戸惑った。
そう、四月からは夏時間だから四時間目の始まりは十一時四十分のハズだからだ。それに気が付いたので、口ごもったのだ。
 やがて、十一時四十分になりもう一度チャイムが鳴る。
「休み時間が五分て、冬時間……」またもや誰かがつぶやく。
「チャイムのプログラムが変更されてるんだわ」
 柳瀬さんはそれだけを言うと急いで放送委員に確認をさせた。放送室のパソコンの画面を見た放送委員はポツリと
「委員長、柳瀬先輩、夏時間のハズなのに冬時間になっています!」
 呆然とそう叫んだ。

 伊神さんは再び皆を前にして、
「僕の居る頃から市立は高校のくせに、夏時間と冬時間があり、四月~十月が夏時間で十一月~三月が冬時間と言うのは変わって無いようだね」
「はい、それは同じです。冬時間は15分朝の開始が遅いのです」
 委員長が伊神さんを補足するように言う。
「そう、そしてその遅れは時限の間にある休み時間を夏は十分の処を五分にして、時間調整をしているんだね。それで四時限終了迄には夏時間と同じになると言う事だね」
 伊神さんの言葉に皆頷く。

「委員長、このチャイムの管理プログラムはどうなってるの」
 その伊神さんの問に委員長は
「基本的にカレンダー内蔵で自動的に月日を読み取り、夏、冬を自動で切り替えます。その他に手動モードがあり、夏、冬、それにその他(設定)と別れていて、自在に変えられます」
「ふうん、それ見せてくれるかな」
 伊神さんがそう希望すると、委員長は放送室の奥にあるやや古ぼけたパソコンの前に立ち、伊神さん本人を呼び寄せた。僕も後ろから行って確認する。
 そこは黒い画面に上から、オートモード、とマニュアルと分かれていて、マニュアルをクリックすると、今度は、夏時間、冬時間、その他(設定)と分かれていて、果たしてプログラムは冬時間を指していた。
「やっぱり変えられている……いったい誰が……」
 呆然と委員長がつぶやいた。その時だった
「あれ、部長じゃ無いですか!?どうしたのですか?それに翠ちゃんまで」
 陽気な聞き慣れた声が聞こえた。その声は放送室を覗いたらしく
「伊神さんまで……本当にどうしちゃったんですか?」
 声の主は我が親友、ミノこと三野小次郎だった。

「ミノ、どうしたんだお前こそ」
 僕はミノに向かって聞いてみる。それは余りに不自然な感じがしたからだ。
「俺さ、この間委員長に今度の部活説明会で使うので、効果音の入ってるCD借りてさ、返しに来た処さ、そしたら皆居るから驚いちゃって、で何かあったの?」
 ミノは興味深々に僕に訊いてきたので、僕は要点をかいつまんで説明をした。それを聞いたミノは感心したように
「そんなご苦労な事するやつが居るんだ。」
「ご苦労? どうしてそう思うんだい」
 伊神さんが興味深そうにミノに尋ねる。
「だって、チャイムは放送室に慣れてる人間なら簡単に操作出来るし、簡単に元に戻せます。進行表なら、俺も持っています。文化系の部活の人間なら誰でも持っているでしょう?」
「じゃあ、原稿は?」
「それだって校長なら訳をちゃんと話せばもう一度印刷してくれるでしょう」
 それを訊くと伊神さんは、僅かに笑った気がした。

 それから伊神さんは委員長に
「最後に鍵を掛けたのは君で、一昨日の十六時と言ってたね。もしかしたら、その時誰か
一緒じゃ無かったかい?」
 そう訊かれて、委員長はハッと思い出した様に
「そうでした、その時三野先輩が効果音のCDを貸して欲しいと尋ねてきたんです」
「やはりね」
 伊神さんは短く、それだけをつぶやくと
「その時の状況を詳しく聞かせてくれないかい」
 委員長は思い出す様に考えてから
「あの時、鍵を掛けて帰ろうとした時に三野先輩が効果音のCDを部活説明会で使うから、音源をコピーさせて欲しいって借りにきたんです」
「私は、放送室に置いてあると思っていたのですが、自分の鞄に入れて家に持って帰っていたのを思い出し、鞄から出して無いので、教室まで戻ったのです。そして放送室で待っていて貰った三野先輩に渡したのです」
「それから鍵を掛けて帰った訳だね」
「はい、それから帰りました」
「その時、今回盗まれたクリアファイルやチャイムの設定を調べたかい?」
「いいえ、調べませんでした。その直前に確認したばかりでしたから」
「そうかい、じゃあ犯人は簡単だよ。三野君、君が悪戯の犯人だよ。そうだね」
 そう云われて、ミノは、バツが悪そうに頭を書きながら
「はやり伊神さんに掛かると簡単にバレてしまいますね」
「ミノ、あんたはなんでこんなくだらない悪戯をしたの?」
 柳瀬さんがかなりの怒りの表情で尋ねる。在校時は本当に後輩のミノを可愛がっていたので、一層頭に来るのかも知れない。
「いや、ほんの冗談のつもりだったんですよ。現にこうしてクリアファイルも返しに来た処で、今回の事は自分がやったって言いに来たんですよ。そしたら伊神さんや部長まで居るから……」
「葉山くんや翠が居るのは驚かなかったんだね」
「それはそうです、だって今回の事は翠ちゃんを楽しませる為にやった事ですから」
「ええ!わたしの為ですか?なんでですか?」
 余りの事に翠ちゃんは驚きを隠せない。
「翠ちゃんはミステリーとか事件とか好きだったじゃ無い、だから、入学式で罪の無い不思議な事件が起きれば葉山と一緒に事件解決を楽しむと思ってさ」
「そんな事を考えてくれていたのですか……」
「だから、今頃はもう楽しんだ頃だろうと、自白しにやって来たら、二人だけじゃなく、部長や伊神さんまで居るとは思わなかったんだ」
「それで調子が狂ったのかい?」
 そう伊神さんに云われるとミノは正直に
「そうです。でも簡単に判ってしまいましたね」
「うん、君は最初に犯人しか知らない事を話していたからね」
「え、俺そんな事言いました?」
「ああ、校長の原稿が印刷物だと知っていた事さ。それは僕達だって委員長から聞く前は知らなかったからね」
「そうカズヲの事だから手書きだと思っていたものね」
 柳瀬さんがうなずきながら言い返す。
「そうでしたか、実はあれも、チャイムもあの時、上山くんが教室にCDを取りに帰って一人になったので、ふと思いついたのです。それまでは別の事をやろうと思っていました」
 ミノは全てを打ち明け、クリアファイルを返しチャイムの設定も直したので、軽く怒られるだけで済んだ。

 そして帰り道、僕とミノは一緒に帰っている。
 柳瀬さんは放送委員らが柳瀬さんの話を聞きたくて引き止めていたので、残りの僕らは帰る事にしたのだ。
 伊神さんと翠ちゃんも一緒に帰って行った。きっと伊神さんの家で今頃は楽しく団欒をしているだろう。
 僕は、ミノにお礼を言った。
「ミノ、ありがとうな、僕と柳瀬さんの事をかばってくれて」
「なんだ、知っていたのか……黙ってようと思っていたのにな……」
「あの日、途中まで聞いていたのだろう?」
「ああ、偶然だけどな……」

 あの日、それはほんの何週間か前のことだった……
 僕は柳瀬さんに自分の気持ちを伝え様と、人気の無い所に柳瀬さんを呼び出した。
「なあに、葉山くん。わたしに告白?」
 柳瀬さんは陽気にあくまでも茶目っ気たっぷりに言っていた。
「そうかも知れません。高校最後のこの日に自分の気持ちを聞いて貰いたかったのかも知れません」
 僕は用意していた言葉をやっとの思いで伝えたのだ。
「そうか……そんな大事な事ならここじゃ不味いよ。あそこ行こう。この時間なら誰も居ないから」
 そう言って柳瀬さんは僕を放送室に連れ込んだ。ドアを閉めると外の世界の声も聞こえないし、こちらの声も聞こえ無い。
「さあ、、これで大丈夫だよ。この世界に二人だけだよ」
 そう柳瀬さんは言って、僕を抱き締める。突然の事に僕のほうが驚き
「柳瀬さん、どうしたのですか?」そう訊かずにはおられなかった。そして、驚きの告白が始まった。
「わたしね、何時も冗談めかしていたけど、ずっと葉山くん、いいや、ゆーくんの事が好きだったの。始めてあった時からもう心に決めていたの」
「でもね、正面切って言うのが恥ずかしくてね。いえなかった……」
「だから、何時も冗談みたいに言って誤魔化していたんだ」
「何時か、不意に抱き締めてくれた事があったね。あの時本当に心臓が止まると思ったの。それから去年の花火大会で手を繋いでくれた事も嬉しかった。何時までも繋いだ手が愛おしかった……だから、今日はわたしから告白しようと思っていたの。そしたら……」
 僕は更に強く柳瀬さんを抱き締める手に力がはいる。。
「去年の『市立三怪』の時、用務員さんが花子さんのまね事をした事があったじゃ無いですか」
「うん、覚えてる……」
「あの時、真相は……」
「知ってるよ……知ってるんだ。でも答えられないよね。だから知らない振りをしたんだ」
「そうだったんですか……僕は用務員さんにハッキリ言いました。柳瀬さんが好きだって……今も気持ちは変わりません。僕はあなたが好きです」
 そう言って、心よりその愛しい人を抱きしめると、腕の中の人もそれに答えてくれた。
「嬉しい……本当よ本当に嬉しいの……だから、お互い時間を置きましょう」
「時間ですか?」
「そう、半年くらいたっても気持ちが変わらなければ、正式にお付き合いしましょう」
「半年もですか……それまでは?」
「決ってるじゃん、愛妾よ……」
 そう言って笑っていたのだ……僕は全てをミノに話した。ミノは最後の方は聞かずに帰ったそうだ。
「でも、何処で訊いていたんだ?」僕がそう尋ねるとミノは笑って
「隣の放送準備室だよ」
「ああ、それは迂闊だった。何していたんだい?」
「だから、例のCDを探していたんだよ。そしたらお前と部長がいきなり入って来てさ……」
「そうか……」
 僕は何だか可笑しくなって来た。
「じゃあ、ミノの今回の悪戯の目的の半分は……」
「そう、翠ちゃんの目線をこちらに向ける為さ」
「そうか、ありがとうな、ミノ」
「いいえお前らが上手く行くなら、俺は汚れ役でも構わないさ」
「ふふん、半分は翠ちゃんにいい所見せたかったのだろう?」
「それはそうさ、当たり前だろう。三野小次郎は転んでも只では起きないのさ」
 それを聞いて、二人で大笑いしていると、不意に後ろから抱きつかれた。振り返ると柳瀬さんだった。
「部長!放送委員会はどうしたんですか?」
「ああ、話しきれないから、今度日にちを決めてゆっくりとね。それより何?楽しそうな事話してるの。私にも教えて」
「いや、男同士の話ですから以下に部長と言えどもこれは……」
「あ、そう、じゃあ帰りにチョコレートサンデー奢りなさい」
「今日は平日ですからサンデーは駄目です」
「じゃあプリン・ア・ラ・モードで我慢してあげる。そしてゆーくんにはココア奢ってあげて」
「ちょ、ゆーくん、って、それ……」
「いいのいずれは夫婦になるんだから」
 三人でキャッキャ言いながら午後の春の陽を浴びながら僕達はパーラーに急いでいた。
 柳瀬さん何処まで本気なのかなぁ~
 僕は今の処それだけが気がかりだった。


 了