「16年目の再会」

 相変わらず二次創作です。少し長いです。

 二年も二学期に入ると、そろそろ進路相談等と言う事が問題になって来る。最初の三者面談が行われるのもこの頃だ。俺の家からは姉貴が親父の代わりに参加してくれた。そこで俺は「経営学部に進みたい」と一応希望を出しておいた。これは実は千反田には内緒である。千反田はきっと農学部と言ったに違いないと思う。
 その千反田だが、このところ何だか様子がおかしい。部活にも出て来るのだが、何となく元気が無いと言うか、心ここにあらずと言う感じなのだ。
 今日も本を読む間に表を何気なく見つめていて、読書に集中していない事は明らかだった。俺は、地学講義室に二人だけなのを利用して直接千反田に訊いてみた。
「なあ、千反田、何か心配事でもあるのか? この前から様子が普段のお前らしく無いのだが……」
 窓の外を眺めて何か想っている千反田は俺の言葉に
「はい、わたし、何かおかしかったですか?」
 そう俺に問うて来たのだ。
「ああ、全くもって何時ものお前らしく無い」
 そう俺が言うと千反田は明らかな作り笑いを見せて
「そうですか……やはり折木さんの目は誤魔化せませんね」
 そう言って俺の方に向き直った。
「実は、1週間前の事なのですが、下駄箱にこのような手紙が入っていました」
 そう言って千反田は鞄の中から白い封筒を取り出した。そして中の手紙を取り出して俺に見せてくれた。それは……

「私の大事な人を取らないでください!」

 白い便箋の中央にそれだけが書かれてあった。力を込めて書いたのだろう、裏側にも跡がついていた。
「千反田、この文面に心当たりがあるのか?」
 俺は自分の心が騒ぎ出すのを抑えながら千反田に訊いてみた。
「いいえ、全くありません。私が親しい男子と言えば、福部さんと……折木さんです」
 里志の事を言ってから、やや間があり頬を僅かに赤くして俺の名を口にした。
「里志には伊原がいるし、伊原がこんな文面を書くとは思われん」
 最もらしい事を言うと千反田も
「それはそうです。お二人の仲には誰も入れません」
 そうだろうと思う、俺も同じ意見だ。
「あの、折木さんは、誰かいらっしゃるのですか?」
 いきなり千反田が飛躍した質問をする。何時もの悪い癖だ。
「千反田、俺はクラスの女子とはたまに話すが、それだって事務的な事が多い。私的な事を話すのは千反田、お前とが一番多い」
 勘違いされると後々面倒なのでこの際ハッキリと言っておく。

「人違いだな……」
「そうでしょうか?」
「そうだろう! それ以外で何があるというのだ?」
「交際とか以外では考えられませんか?」
 千反田が逆に俺に質問をする。
「具体的にはどういう事だ?」
 俺は千反田が何を思っているのか知りたかった。
「そうですね、勉強かなにかでわたしが誰かに教えて貰っていて、それを勘違いされたとか」
「その様な事があったのか?」
「いいえ、ありません」
「じゃ、やはり人違いだ。だがどこで、どのようにして人違いされたかが問題だ」
「そうですね、でもそれだけじゃ無いのです」
 千反田は更にもう一つの白い封筒を出して俺に手渡した。
「昨日、やはり下駄箱に入っていた手紙です」
 俺は封筒の中を確認して取り出して広げた

「泥棒猫! いつまで彼を取るつもりなの!」

 やはり白い便箋の真ん中に大きくそう書かれてあった。
「全く心当たりが無いのです……だから……」
 千反田が何時もと違っていたのは、この事だったのだ。全く心当たりの無い事なのに、言いがかりとも言える手紙が下駄箱に届く。普通ならそれだけで、気持ちがおかしくなってしまう。俺は千反田の意外と芯が強い一面を改めて見た思いだった。

 事件は意外な展開を見せた。俺と千反田が部室で話してから二日後に伊原が
「ねえ、ちーちゃん、ちーちゃんTwitterやってるの?」
 そういきなり訊いて来たのだ。
Twitterは俺も知ってはいるが、携帯を持っておらず、ネットもたまにしかしない俺はやっていない。千反田も多分そうだと思う。
「Twitterですか? 一応入須さんから進められてアカウントは取りましたが、殆んどやっていません。携帯やスマホが無いと無理みたいですね」
 千反田はそう伊原に告げたが、それを訊いていた里志が
「じゃあ、このアカウントは千反田さんじゃ無いんだね。僕のフォロワーさんなんだけど」
 里志がそう言ってスマホの画面を見せてくれた。そこには……

 える@eru
 神山高にいます。
 趣味は料理、好奇心旺盛な女子です。

 そう書かれてあった。それを見た時の千反田の驚きはちょっと見ものだった。
「これはわたしではありません!」
 千反田は里志に自分のアカウントを検索して貰った。

 L@eru_titanda
 よろしくお願いします

 その画面をみた里志は
「千反田さんらしくて至ってシンプルだね。それにフォロワーさんが1名しかいないね」
「それは入須さんです」
「ツイート数もごくわずかだ。それに比べて先程のニセモノは随分とフォロワーさんがいる様だね。それに……」
 里志が意味ありげに言葉を止める。
「あるフォロワーさんとやけに親しくしてるみたいだよ。それにDM送りました。とか書いてあるから、知られたく無い事はダイレクトメールでやりとりしているんだろうね」
 それまで黙って聞いていた伊原が
「でも、このニセモノ、なんでちーちゃんを語るのかしら? ちーちゃんが可愛いからなりすまして彼氏でも作るつもりかしら」
 伊原の疑問に俺は千反田を見ると千反田も俺を見て頷く。手紙の件を話すと言う事だと理解した。

 俺は、話しだそうとする千反田を手で制して
「実は千反田の下駄箱に「私の大事な人を取らないでください!」とか「泥棒猫! いつまで彼を取るつもりなの!」とか書いた手紙が入っていたんだ」
 俺が千反田の代わりに話すと伊原は
「許せない!ちーちゃんが他の男子に気を移すなんて事がある訳無いじゃ無いの!」
「摩耶花さん……それは……」
 千反田の顔が見る見る赤くなる。里志が割って入って
「まあ、まあ、何故その娘は千反田さんのニセモノになりきっているのだろう?」
 そう言って俺の方を見た。これは何か言えと言う無言の合図だ
「この相手は本当の千反田だと思っているのかな?」
 だとすれば、随分間抜けな話だと思う。千反田の家は旧家の大農家だ。そっち方面の事を言えば直ぐにボロが出るだろうと思う。その事を皆に言うと伊原が
「これを見てる限りは随分上手くやってる感じだけどね」
「話題を学校に限っていれば、判らないと思ったのじゃ無いかしら」
 伊原が里志のスマホの画面を見ながらつぶやく様に言うと千反田が
「何故、わたしを騙るのでしょうか?」
 それを聞いて伊原が
「そんなの決まってるじゃない!ちーちゃんは男子から人気だもの。虎の威を借る狐じゃ無いけど、ちーちゃんと仲良くなれるなら男子としては本望じゃ無いかしら」
「摩耶花さん、それは……」
 千反田が返答に困っていると里志が
「まあ、まあ、恐らくこのTwitterの千反田さんになりすましてる人物が特に親しくしてる相手の傍にいて、二人のやりとりを見る事の出来る人物が千反田さんに抗議の手紙を送ったと思って間違い無いと思うけど、ホータローはどう思う」
 里志が纏めた事に対して俺は
「Twitterを俺は全くやっていないから良くは判らないが、そのフォロワーから推測は出来ないのか?」
 それに対して里志は
「絞り込む事は出来ると思うけど、特定は難しいね」
 そう言って両手を広げた。
「なら、張り込むしか無いな」
 俺の提案に、三人が「ぎょっ」とした顔をした。翌日から俺達は千反田のクラスの下駄箱がある昇降口で放課後交代で張り込みをすることになった。
 最初の日は俺が張り込んだ。放課後、授業が終わるとまっすぐに昇降口に行き、物陰から様子を伺っていが、下校時刻までに千反田の下駄箱に触れるものは居なかった。

「あんたの、見張り方が悪くて相手に気づかれたんじゃ無いの?」
 伊原が無情な事を俺に言う。そりゃあ、俺が言い出しっぺだが、ちゃんと隠れていたし、第一あそこで長時間待っているのは正直辛い。自分で言い出した事でなければとっくに辞めていた。
「大丈夫でしたよ。折木さん、わたしが帰る時でもわたし判りませんでしたから」
 千反田が擁護と思えない庇いかたをする。
「いいわ、今日はわたしが残るから」
 伊原が威勢良くそう宣言した。
 結果だけ言えば、伊原の努力も報われ無かった。犯人は現れ無かったのだ。
「よし、じゃあいよいよ真打の登場かな」
 里志がそう言って張り込んだのが、三日目だった。俺と伊原と千反田は下校時刻まで部室で待機していた。何時何時、犯人が見つかるか判らないからだ。

 今日も駄目かとあきらめかけていた処、地学講義室の扉が開かれた。三人とも一斉に扉の方向を見る。そこには小柄な一年女子を従えて里志が立っていた。
「犯人を捕まえたよ」
 一斉に立ち上がり入り口付近に集まる。
「ごめんなさい!すいません!私の変な思いこみで千反田先輩を始め古典部の先輩方にご迷惑をお掛けして 何と言ってよいやら言葉も見つかりません」
 その女性徒はそう言って深々と頭を下げた。
 その一年生を座らせ事情を訊いた。
「私は印地中学出身の後藤さやかと言います1年B組です。実は私と中学時代から交際していた田中くんが、twitterで仲良くなった娘と最近凄く親しくしていて、しかも名前を見るとeruとしてあったので、私はてっきり千反田先輩だとばかり思ってしまったのです」
 後藤と名乗った生徒は殊勝な顔で畏まっている。
「ああ、あなた後藤さんちのさやかちゃん!」
 千反田が誰だか判った声を出した。
「はい、父がいつもお世話になっています」
「とんでもない、後藤さんのお父様にはウチも大変お世話になっているのですよ」
 いつの間にか陣出の町内会、みたいになって来た。
「千反田先輩は印地中では後輩の我々のあこがれなんです。綺麗で聡明でおしとやかで、それはそれはとても人気があるのです。だから誤解したのもちゃんと訳があるのです。千反田先輩が田中くんと親しくしてれば私なんか忘れ去られてしまうと思ったのです」
 後藤さやかという1年生はそう言って事情を話した。
「ふううん、さすが4大名家のお嬢様だね。地元じゃ知らない人はいないんだね」
 里志が茶化した様に言うと千反田は
「そんなことはありません。たまたまです……はい」
 そう言って小さくなった。
「じゃあ、その@eruと名乗ってる娘は誰だか判らないのね?」
 伊原が問題を戻す。
「はい、誰だかは……」
 後藤がそう言って考え込むので俺は
「その田中に直接訊いてみたら良いだろう。どうして訊かないんだ?」
 そう後藤に尋ねると彼女は
「訊きました。でもハッキリ答えてくれないんです。お前には関係無いとか、お前を裏切る様な事はしていない、とか言うばかりで……」
 そう言って項垂れると伊原が
「そうなのよね。男って秘密主義が多くてさ、女は何時もそれに振り回されるのよ」
 里志を横目で見ながらいい放つ。
「いいわ!力になってあげる。この古典部にはこんな時でしか役に立たない人間が居るから、安心して!」
 伊原はそう言って俺の背中を押した。
「何だ?俺の事か?何で俺が……」
 そう言いかけると千反田も
「わたしからもお願い致します。どうか後輩のちからになってあげてください」
 頭を下げながらそう言われては断れ無かった。
「ああ、判った!どれだけ役に立つか知らんが、協力させて貰うよ」
 そう言って後藤を安心させた。こうして俺達、いや俺は千反田の後輩のちからになる事になったのだ。

 その日、俺は千反田を家まで送って行くことになった。その後藤の彼氏だという田中という高校1年生に会いたかったからだ。
「すまんな、付きあわせて」
 二人で自転車を押しながら坂道を登る。
「そんな、わたしの方こそ、わたしの後輩の問題に付きあわせてしまって、心苦しいです」
「そんな事は気にしなくていい……ところで、三者面談だが、どうした?」
 恐らく千反田の事だから農学部と言うだろうと思っていた。
「はい、迷いましたが、国立の農学部と希望を言いました」
 やはりそうだったのかと、ある意味安心をした。
「そうか……やはり家を継ぐのか……」
 俺は千反田の顔を見ない様に前を向いて呟いた。
「折木さんは、どうされました?」
 やはりそう訊いて来るのだと思ったが、果たして言ってもいいのだろうか、との思いがよぎる。何故ならそれは、俺の千反田に対する決意の表明だからだ。
「俺は……経営学部に行く事にした。できれば農業経営を勉強したい」
 そう言って千反田の顔を見ると、千反田は大きな瞳を更にいっぱいにして
「それって……あの……いいのですか?」
 やっとの想いだったのだろう、それだけが口をついて出て来た。
「許してくれるか? お前の為に、そして自分の為に経営を勉強することを……」
 見開かれた目がたちまち潤んでくるのが俺にも判った。
「折木さん……許すも許さぬも……何時決意なされたんですか?」
 ハンカチをズボンのポケットから出して千反田の手に握らせる。
「わたし……もう何も言えません……幸せ過ぎて……」
 坂をやっとの思いで押して登り切ると遠くに千反田邸と陣出一帯が見渡せる。このまま行けば俺は将来この地で暮らす事になるのだろうか?そう思って眺める景色は何時もとは違って見えた。



 それから一週間後、わたし達古典部に折木さんから招集がかかりました。
「ねえ、ふくちゃん、折木が招集するなんて『氷菓』の謎を解く時以来だよね」
 摩耶花さんが福部さんにそう尋ねます。
「そうだね。前代未聞と言いたいけど二回目だね」
 そう言って摩耶花さんの方を見ます。
「ねえ、ちーちゃんは折木から何も訊いていないの?」
 摩耶花さんは今度はわたしに尋ねました。実はわたしも良くは知らないのです。あの日は折木さんを田中さんに紹介しただけで、わたしはあんな事があったので、気持ちが落ち着かず、失礼したのです。それから折木さんは色々と調べていたみたいです。部活もこの一週間はあまり参加しませんでした。
 地学講義室の扉が開かれて、折木さんが現れました。
「みんな揃ってるな、早速始めよう」
 そう言って扉の影から後藤さんを招き入れました。
「適当な場所に座ってくれ」
 そう言って座らせた後、扉を閉めました。
「まず、後藤が交際している田中くんだが、結果だけ言うと彼には後藤が心配するような事実は全く無いと言える」
「じゃあ、田中くんはどうして私には何も説明してくれなかったのですか」
 窓際に座っていた後藤さんが問い正します。
「最もな質問だ。この世には、大事な人だから、大切に想っていればこそ、秘密にしておきた事がある」
 折木さんはそう言って私達一人ひとりの顔を眺めます。
「今から16年前、ある家庭で男の子が生まれた。だが、運悪くその子の親は彼が1歳になるかならないうちに病で亡くなってしまった。親が居なくなってしまったのを不憫に思った親戚がその子を引き取って、養子とした。だが、この男の子には姉がいた。その親戚は二人も養うのは無理なので、姉の方の引き取り手を探した。
 結果として、彼女の母方の親戚が引き受ける事になった。彼は、それを知らずに今まで育って来た」
「お姉さんはその時幾つだったの?」
 摩耶花さんが折木さんに尋ねます。
「当時、七才だった。だから彼女には記憶がある。しかしこの一家は引っ越してしまいその地方を離れてしまった」
「それからどうしたんですか?」
 後藤さんが続きを促します。
「男の子は元気に育ち、中学生となって進学の問題とぶつかった。彼が通っていたのは印地中学だ。印地中の生徒が多く進学するのは西高だ。成績の良かった彼はそこへ進学した。当時から交際していた彼女とは離れてしまったが、家が近所だから問題はなかった。そうだったね?」
 折木さんが後藤さんに問い正します。
「はい、そうです」
 後藤さんの返事を訊いて折木さんは続けます。
「だが、高校進学の時に彼は自分の戸籍を初めて見た。そこには実子では無く養子という事が書かれていた。勿論彼は今まで育ててくれた両親に感謝をしたし、今の自分の境遇に満足もしていた。両親は彼に当時の事を詳しく話して彼も納得、感謝した。だが、行き別れになった姉と、ひと目会って見たかった。それだけが彼の望みだった」
「それでどうなったの?」
 摩耶花さんも続きが気になるようです。折木さんは、わたしが入れたお茶を一口飲むと

「一方、姉の方は当時の記憶も残っていて、機会がれば弟と再会したいと常々思っていた。彼女は弟が預けられた家庭が未だ神山に残っている事を知り、何としても神山に来たかった。そこで、彼女は大学で高校の英語の教員免許を取り、何と岐阜県の教員採用試験に合格した。そして、この神山高校に赴任したんだ。そして、この二人はTwitterで知り合ったんだ。
 偶然とは言え、Twitterの位置情報で二人が神山に居る事、色々な事をやりとりしているうちに、お互いが「もしかして」と思う様になった。そしてダイレクトメールでやりとりをするようになる」
「それを私が勘違いしたんですね」
 後藤さんがそう言って納得する。
「その神山高校に赴任した新任の英語の先生って、江沢瑠依子先生なんですか?」
 わたしは思わず訊いて仕舞いました。
「でも江沢だったら何でTwitterの名前が「eru」だったのでしょう?」
 私の疑問に折木さんは
「江沢「え」でe、「るいこ」の「る」でru、続けて「eru」となる」
 納得しました。そう言う意味だったのですね。

「そして、実は今日、田中くんを呼んでいるんだ。入りたまえ」
 折木さんがそう言うと地学準備室とのドアが開かれ背の高い男子が入って来ました。彼は西高という事でしたが、神山高校の制服を着ていました。
「部外者なので、神山高校の制服を着て貰いました」
 後藤さんが田中さんに飛びついて行きます。
「まだ、これで終わりじゃ無いんだ。これからが本当の本番なんだ」
 折木さんがそう言うと今度は地学講義室の扉を開けました。
「先生どうぞ」
 入り口からは江沢先生が入ってきました。
「二人は今日初めて再会します」
 折木さんはそれだけを言いました。十六年ぶりの再会はそれは感動的でした。わたしではそれを上手く表す事は出来ません。ただ、そこにいた皆の目が真っ赤になっていた事だけは事実でした。


 帰り道、今日も折木さんが私を送ってくださいます。
「あの学生服はどうしたのですか」
 それが私の疑問でした。折木さんは笑いながら
「遠垣内先輩に借りたのさ。事情を言ったら、もう使って無いから、気前良く貸してくれたよ」
「そうだったんですか……でも二人、再会出来て良かったですね」
「まあ、実際問題として姉貴なんて、そんなに良い物じゃ無いけどな」
「折木さん!わたしは素敵な姉か弟が欲しかったのです。夢を壊す様な事は言わないでください」
「はは、悪い、だが、いいのか? もしかしたら、俺の姉貴がお前の義姉になるかも知れんのだぞ」
「はい、それは望むところです」
 わたしは笑いながら陣出に続く長い坂道を登りながら自転車を押していました。
 折木さんと二人で……