今日から暫くの間「氷菓二次創作」を載せることに致しました。
沢山書いた中から多少ともマシな作品をチョイス致します。
出来の悪いのはお許しを……

「氷菓」とは米澤穂信先生の作品で、「古典部シリーズ」として幾つか作品化されています。
アニメにもなりまして一躍人気が高まりました。

何事にも積極的に関わろうとしない「省エネ主義」を信条とする神山高校1年生の折木奉太郎と、「豪農」千反田家の一人娘であり、好奇心の塊の千反田えるの二人を中心として、奉太郎の親友の福部里志やその彼女の伊原摩耶花の四人が古典部のメンバーとして繰り広げる日常の推理の学園小説です。

でも、「氷菓」クラスタの方々は奉太郎とえるの関係を進めて色々と書いています。かくいう私もその一人です。
と言う訳で、これから暫くはあり得ない展開のお話が連載されます。
二次創作は……という方は暫く訪問なされない事をおすすめ致します(^^) すいません……

という訳で、「それでも良い」と言う方は「続きを読む」をクリックして下さい。
「夢の中へ」

これは落語「夢の酒」をモチーフにして書いた作品です。


 俺は所用で神山の市内を歩いていた……
 用足しも終わり家に帰ろうと旧市街地の上町あたりを歩いて家に帰るところだった。朝の天気予報では午後からにわか雨があると予報が出ていて、その通り段々雲行きが怪しくなって来た。
 雨が降る前に雨宿り先を見つけるか、さもなくばタクシーに乗るしか無いと思っていると、ポツリ、ポツリと雨粒が顔に当たって来た。
「不味いな」
 せめて雨を一時的でも凌ぐ所があればと探していると、幸い古い町並みの一件が軒を大きく張り出していて、雨宿りには好都合だった。
「少し雨を凌がして貰おう」
 自分に言い聞かせながら、軒先に飛び込んだ。その瞬間だった、バケツをひっくり返した様な雨がザーット降り出したのだ。
「助かったな」
 そんな思いで雨の空を見ていたら、俺の後ろから声を掛けられた。
「もし、そこで雨宿りをなさってる方」
「ああ、すいません、無断で軒をお借りさせて戴いています」
「それは良いのですが、そのままでは雨が激しいので衣服が濡れて仕舞います。どうか中でお休みください」
「はあ、ありがとうございます。でもすぐ止むと思いますので」
 そう言って断ろうとしたのだが、その中の人は
「どうぞ、ご遠慮なさらずに……」
 繰り返し言うので俺も甘える事にしたのだ。

「おじゃまします」
 中に入って見ると、歴史的な外観とは違い、中は洒落た作りで洋間になっていて、中には応接セットが置いてあった。
「どうぞ、そちらへ」
 そう言われて俺はソファーに座り込んだ。案内してくれた人を見ると、声を掛けてくれた時はもっと年上かと思ったが、こうして見ると俺と同じ位の年の女性だった。
「お久しぶりです折木さん、いいえ今は千反田さんですねえ」
 この人は俺の事を知っていた。しかも、半年前に結婚した事も知っている。
「どこかでお会いしましたっけ?」
 俺が聞くと、彼女は笑って
「やはりお忘れなんですね。仕方ありませんわね。折木さんは千反田さん一筋でしたから」
 その言い方は、俺とえるのなれそめまで知っている様な口振りだ。
「お分かりにならないのも無理はありませんわね。折木さんにとっては、ほんの少しの出会いでしたからね」
駄目だ、未だ思い出せない。
「私は天文部にいた中山です」
 中山……確かメガネを掛けていたはずだが……
「メガネですか、今日はコンタクトですよ、ふふ」
 天文部の中山なんて、あのチョコレート事件の時にちらっと見ただけだし、顔をじっくりと見た事も今日が初めてだ。
「今日、ここでお目に掛かったのも何かの縁です。お茶なんて言わないで、今日は蒸し暑いので冷たい物でもどうですか?」
 そう言って彼女は奥に行ったかと思うと、銀盆に冷たそうな滴を垂らしたビール瓶とコップを乗せてやってきた。そして俺にコップを持たせると
「さっどうぞ」
そう言ってビールを注いでくれた。もうここまで来たらこのグラスを空けるしか無いな。そう思ってグラスを口に付けると……

「奉太郎さん 奉太郎さん、起きてくださいな」
「う~ん、まだビール呑んでいないから、もう少し……」
「奉太郎さん、お風邪を引きますよ。寝るのなら奥で寝ましょうね」
「う~ん、いやだから、ビールが……」
「ビールがどうしたのですか? 飲みたいのですか?」
えるの声が段々ハッキリ聞こえて来ると俺は夢から醒めた。
「ああ、夢だったのか……惜しかったな……」
「何が惜しかったのですか?」
えるが眩しい様な笑顔で俺を迎えてくれる。
「何かビールがどうしたとか、仰っていましたけど、ビールお飲みになります?」
「いいや別に呑みたい訳じゃあ無いんだ。ただな夢の中でな、呑まされそうになっただけだよ」
 俺が単にそれだけを言うと、えるの目つきが変わった。
「奉太郎さん。わたしは結婚以来、良い妻であろうと常に一生懸命やって来た積りです」
「なのに、なのに、ビールが飲みたくて夢にまで見る程だったのですね」
「いや、そうじゃなくて、つまり夢でな、雨が振って来て軒先で雨宿りしていたらな、そこの家の人が出て来てくれて、濡れるから中に入りなさい。って言われて中に入ったのさ」
「それだけですか?」
「ああ、それだけだけど、その人が神高の時の天文部の中山でな、それでじゃあ。ビールでもってなったのさ……それだけだよ」
 最初黙って聞いていたえるは、次第に怒りだした。頬を膨らまし、目を据えている。
 これは駄目だ。良くない兆候だ。そう思っていると。

「奉太郎さん!わたし悔しいです」
「は? どういう事だ?」
「だって、だって、私がこんなに奉太郎さんの事をお慕い申しているのに、夢とは言え、中山さんなんかが出て来るなんて……しかも昔あの人は摩耶花さんのチョコレートを盗んだ人では無いですか」
「そんな人にわたしが奉太郎さんの中で負けるなんて、自分が許せないのです!」
 えるは、あの時みたいな顔で泣き出してしまった。
「いや、悪い、みんな俺が悪い!すまん、この通りだ」
 俺は、えるの前で両手を着いて誤った。
「くすん、いいのです。奉太郎さんが、そこまで謝って戴けるなら、わたしは嬉しいです」
 そうか、治まったか良かった。と思っていたら
「じゃあ、もう一度夢の中に入り、中山さんにお断りを入れて来て下さい」
 なに?夢の中にもう一度入れだと……
「そんな事出来る訳無いじゃあ無いか!」
「いいえ、出来ます!」
「わたし、かほさんに聞きました。荒楠神社の神様にお願いすると、先ほどの夢の続きを見られるのです」
「まさか……」
「本当です!教えますからやって下さい」
「分かったよ。やればいいんだろ」
俺はここで変に抵抗して、えるの機嫌を悪化させるより、上辺だけでも信用した方が得策だと思ったのだ。
「いいですか、私に続いてくださいね」
「あれくすさま、あれくすさま、願わくば、先ほどの夢をもう一度お願いします。」
「これを三回唱えて拝んでから寝るのです。さあやって下さい」
 俺は言われた通りに、まず布団に寝てから、先ほどの呪文を三回唱えて目を瞑った……なんと、程なく眠りに入った様だ……

 気がつくと、先ほどの家の前に立っていた。すると、奥から中山が出て来て
「あら、折木さん。先ほどはどちらに行ってしまわれてのですか?」
「さあ、もう一度仕切り直しと行きましょう」
「いいや、今回は断りに来たんだ」
「まあ、奥様が怖いのですね……仕方ありませんね。でもこのまま直ぐに帰したら私の女が廃りますわ」
「せめて、お茶かコーヒーでも飲んで帰って下さいな。それなら良いでしょう?」
「ああ、コーヒーなら問題は無いでしょう」
「それは良かった。折木さんコーヒーはお好みは?」
「じゃあ、お言葉に甘えて、出来れば酸味の強いキリマンジェロかモカを」
「まあ通でいらっしゃるのね。じゃあ今熱いお湯を沸かしますから、少し待っていてくださいね。それともアイスコーヒーにしますか?」
「それなら直ぐに出せますが……」
「いいや、少しなら待ちますよ」
「そうですか、じゃあホンの少しの間ですからお待ち下さいね」
 そう言って中山は奥に消えた。コーヒーの豆の良い香りがこちらにまで漂って来た。
 もうすぐだ。コーヒー好きの俺としては正直ビールよりこちらの方が良い。彼女が奥から銀盆に乗せてコーヒーを持って来ようとした時だった。

「奉太郎さん、奉太郎さん。どうしました? ちゃんとお断りの言葉を言ってくれましたか?」
 そう言うえるの声で目が覚めてしまった。
「起こしたのか?」
「ええ、どうなったか気になりまして。駄目だったですか?」

「いいや、起こされるならアイスコーヒーでも良かった!」