「氷菓」二次創作 「甘い日」

 世間がバレンタインデーと騒いでいた2月14日の前日、俺はいつもと変わらず地学講義室にいた。このところ神山も雪の日が多く、節分以来晴れた日は数日しかない。本来ならさっさと家に帰れば良いのだが、生憎、千反田から昨夜電話があったのだ。
「明日、放課後部室にいらしてください」
 次の日ならさしずめチョコレートを渡すのだろうと思うだろうが、そもそも千反田の家では親しい者には盆暮れの挨拶をしないとのことだから、バレンタインもやらないそうだ。だから親しい俺には当然、そんなものは無いので別な要件だと思っていた。
 伊原は既に用意したのだろう。明日渡すと、言っていたし、昼休みに廊下ですれ違った伊原が
「今日明日は部室には顔を出さないから」
 そう言っていたのを思い出した。まあ、好きにすれば良いと思い文庫を読むのを再開する。そして、暫く経った時だった。不意に教室の入り口が開かれた。
「ああ、折木さん。居てくれて良かったです」
 息をはぁはぁさせて肩を揺らしている。階段を駆け上がって来たのだと思った。
「お前が来てくれと昨日電話で言っただろう」
「それはそうですが、授業が終わって時間が経ってしまったので、帰ってしまわれたと思っていたのです」
 やっと息が治まって来たようだった。
「それで何の用なんだ」
 千反田は俺の言葉を待っていたかのように語りだした。
「実は折木さんにお願いがあるのです」
「お願い?」
「はい、実はチョコレートを食べて欲しいのです」
「おいチョコは明日だろう?」
「いえ、そのわたしのでは無いのです」
「お前のではない? 何だそれは」
 千反田は少し困ったような顔をしている。本人は判ったつもりで話してるのだろうが、いきなり聴かされた俺は要領を得ない。
「すまんが最初から話してくれないか」
「すいません。実はわたしの友達が明日、好きな人に告白してチョコを送るつもりなのです。チョコは出来上がったのですが、二種類作り、どちらを送れば良いか判断出来なくなってしまったのです。だから第三者に試食してもらって欲しいのです。それを折木さんにお願いが出来ないかと」
 何のことはない。要はチョコを試食してどちらが美味しいか判断すれば良いだけのことだ。
「丁度小腹も空いて来たところだ。美味しいチョコにありつけるなら嬉しいな」
「ありがとうございます。助かります」 
 そう言って千反田は鞄の中から小さなピンク色の包を取り出した。そしてそれを広げると、ハート型のチョコが二つ現れた。
「説明は後で致しますので、まずは一口食べてみてください」
 見た限りでは片方は普通のミルクチョコレートに見える。もう片方は少し黒くなっておりビターチョコかと思わせた。大きさはどちらもほぼ同じで横が五センチぐらいで縦も同じぐらいに思えた。
 ミルクチョコと思われる方を折って口に入れる。真剣な眼差しで居る千反田を見たら、割らないでそのままカジッた方が良いかと思った。
「ん、甘いな」
 チョコだから甘いのは当たり前なのだが、俺にしてみれば、かなり甘さを感じたのだった。
「少し甘すぎないか?」
 俺の言葉を聴いて千反田は
「やはり甘いですよね。良かった。わたしも、そう思ったのです」
「送る相手はかなりの甘党なのか?」
 俺の言ったことがおかしかったのか、千反田が笑っている
「折木さん、『甘党』とはお酒を呑めない方で甘いものがお好きな方の事です。特に甘い嗜好の方の事ではありません」
 そうなのか、そう言われてみればそうかも知れない
「さいですか」
「もう片方もお願いします」
 千反田に言われるまでもなく口に入れた。今度はそのままカジる形となった。
 こちらのチョコは色からして少し苦味があると思ったが、こちらも甘かった。それに何かを砕いて入れてあった。
「千反田。こちらには何が入っているんだ。さしずめピーナッツでも砕いていれたのか?」
 口の中でゴロゴロする食感を楽しみながら尋ねた。
「ピーカンナッツです。正式にはペカンナッツと呼びます。脂肪分の多いナッツですね」
「そうか、それはチョコに入れるものなのか?」
「はい、最近ではペカンナッツそのものにチョコをコーチングしたものの多く出ています」
 俺はよく知らないが流行りなのだろう。試食してみて悪くないと思った。甘さはこちらも相当甘いがナッツがそれを中和させていると思った。
「こちらの方が俺は好きだな。さっきのは俺には甘すぎると感じたな。大体の男なら同じことを思うのではないかな」
 素直な感想を言った。すると千反田は
「そうですか、わたしは甘さは丁度良いと思ったのですが、やはり折木さんに試食して貰って良かったと思いました。きっと友達も喜ぶと思います」
「残りはどうする?」
 二つのハート型のチョコは片方は俺がカジッてしまったが、もう片方は手で割ったので千反田が食べても構わない。
「友達にはペカンナッツの方を勧めます。残りは折木さんが食べてください。実はわたしも持っているのです」
 千反田はそう言うと自分の鞄から緑色の包を出した。そしてそれを広げると、数あるチョコから一つを摘んで
「こちらはハート型ではありません。だから折木さんに食べて貰うのはそちらを出したのです」
 俺はもしかしたら今千反田が広げた方が俺用で、最初に広げた方が千反田に対して用意されたものだった気がした。千反田は俺の隣に座ると先ほどのピーカンナッツが入って俺がカジッたものを摘んで自分の口に入れた。そして恥ずかしそうに
「折木さんは気がつかれていたかも知れませんんが、本当はこちらが私が貰った方なのです」
 やはりそうだった。だがならば何故ハート型なのだろうか? 
「わたしが頼んでハート形にして貰ったのです。そしてそれを折木さんに食べて欲しかったのです」
 俺はここまで聴いて、もしかしたらチョコを作る時に千反田も手伝ったのではないかと思った。
「一緒に作ったのだろう?」
 俺の考えに千反田は頬を少し赤くして
「はい、その通りです。お手伝いをしました。その時、わたしに考えが浮かびました。バレンタインの日は失礼しますが、それ以外の日ならこのチョコを折木さんに食べて貰うのは良いのではないかと言う考えでした」
 何のことはない。俺は千反田に上手く載せられたのだ。だがこれも悪くないと思った。正直言って昨年少しは期待したのも事実なのだ。
「俺の口のついた方を食べたがそれは意識してなのか?」
「もちろんです。摩耶花さんは福部さんに口移しでチョコを食べさせてあげると言っていました」
 しかし伊原も伊原だ。他人にそんな事を言うなんて。それとも女子は平気でそんな事を語り合うのだろうか?
「羨ましく思ったのか?」
「少し・・・・・・でも学校では出来ないからとも言っていました」
「当たり前だ学校でそんな事をしてはならない」
「でも……」
「でも?」
「こうすることは駄目ではありません」
 千反田はそう言うと
「折木さん。あ〜んしてください」
 そう言って自分用のチョコから一つを摘んで持ち上げた。そしてだらしない俺の口にそれをそっと入れた。
 甘い! このチョコは今日食べたチョコの中でも一番甘く感じた。そして千反田は、嬉しそうな表情をして大胆なことを口にした。
「明日は、折木さんのお家で口移しで食べさせてあげますからね」
 それを聴いて少しは悪くないと思うのだった。


                              <了>

「氷菓」二次創作 「春遠からじ」

 最近は姉貴が家によく居るようになった。もう就職は百日紅書店に決まり、大学へもそれれほど行かなくても良くなったらしい。だが卒論があるらしく大抵は自分の部屋でパソコンを叩いている。俺が普段から掃除や炊事をやってることに変わりはない。大体一人前も二人前もそこに親父が加わって三人前でも手間はそれほど変わらない。
 そんな一月の最終週だった。家の電話が突然鳴り出した。まあ電話というものは大抵突然鳴り出すものだが……。
「はい折木ですが」
「ああよかった。家に居てくれたのですね」
 声の感じで千反田だとは判ったが、相変わらずだと思った。
「千反田か?」
「あ、はい、えるです。すいません。いま、お時間ありますか?」
「ああ大丈夫だが」
「良かったです。いきなりで申し訳ないのですが、実は二月の三日の土曜日は何かご用事がありますか?」
 二月三日と言えば次の土曜日だ。確か特別な用事は無かったはずだった。
「特別な用事は無いが、何か用か?」
 思えば度々このような電話を受けた覚えがあった。
「実は二月三日は節分ですのでわたしの地元の水梨神社でも豆まきをするのですが、困ったことが起こったのです」
「困ったこと?」
「はい、手伝いの男の方が数名インフルエンザに掛かりまして、当日手伝えなくなったのです。そこで心当たりのある者があちこち頼んでいるのですが、何しろ急なことで中々手伝って戴ける方が見つからないのです。そこで重重々失礼だとは思ったのですが、折木さんに頼めないかとお電話したのです」
 要は男手が欲しいということなのだろう。千反田との付き合いが長くなるにつれ、あいつの物の言い方にも慣れて来た所だと感じた。
「前の雛の時と同じようなものか?」
 俺は昨年の四月の初めに水梨神社で行われる「生き雛まつり」を千反田に頼まれて手伝った。仕事の内容は雛に扮した千反田に後ろから傘を差す役目だった。千反田が言うには何でも傘持ちの衣装の大きさが俺に丁度良かったという事だった。
「そうですね。男集の方には吉田さんや谷本さんそれに花井さんもいらっしゃいます。だから手伝い易いは思うのですが……」
 吉田さんは俺の事を「しっかりしていなさる」と大いに勘違いした人だ。印象が深いから記憶に残っている。花井というのは俺の事を胡散臭く感じた男だ。これも覚えている。谷本というのはその二人に色々と言われていた男だ。なんだちゃんと覚えているじゃないか。
「行っても良いが、俺なんか大して役に立たんぞ。それでもいいのか?」
「お願いします」
 電話の向こうで千反田が頭を下げた気がした。
「奉太郎、引き受けてあげなさいよ。どうせ何も予定なんか無いのでしょう」
 後ろから聞こえて来たのは姉貴の声だった。
「判った。引き受けるよ。だが俺なんか大して役に立たんぞ。もう一度言うが、それでも良いのか?」
「お願いします」
「判った」
「良かったです! 豆を撒くのは十一時と十四時の二回です。出来れば申し訳ありませんが九時までに水梨神社に来て戴けると幸いです」
「九時に水梨神社だな」
「はい。終わればウチで打ち上げがありますので」
 雛の時も終わった後で千反田家の大広間で打ち上げがあった。俺と千反田は縁側であの日、行列のコースが変わった謎を語ったのだった。
「判った」
「それでは宜しくお願いいたします」
 千反田はそう言って電話を切った。
「なんだかんだと言って、えるちゃんから頼りにされているんじゃない」
 姉貴が自分のマグカップにコーヒーを注ぎながらニヤニヤしている。
「これも付き合いだからな」
「ふう~ん」
 姉貴はコーヒーの入ったマグカップを手に自分の部屋に帰って行った。
 俺は自分の部屋のカレンダーの二月三日の所に予定を書き入れた。

 当日はいい天気で、しかも二月としては暖かい陽気だった。自転車を陣出に向かって走らせる。道の両側には雪が残っていたが、自転車を走らせるには問題がなかった。
 九時少し前に水梨神社に到着した。自転車を車庫にしまい社務所に行く。
「すいませーん」
 声をかけると
「はーい」
 という女性の声が聞こえその声の主が姿を表した
「折木さん。今日は本当にありがとうございます!」
 それは白装束に朱の緋袴を履いて長い髪を後ろに束ねて背中に流した千反田だった。よく見るとうっすらと化粧をしていた。千反田の化粧した姿を見るのは雛以来だった。
 着ているものの用語は後で千反田が説明してくれた。
 白い装束の襟からは「掛襟」と呼ばれる赤い襟が覗いていて、袴は上指糸という帯のような赤い布で締められていた。
「お前、今日は巫女なのか?」
「うふ。手伝いですから今日だけはこの格好です。後で『千早』と呼ばれる上着も着ます」
 千反田の着物姿には多少慣れたがこのような巫女の装束を着ていると又感じが違う
「そうか、良く似合っている」
「そうですか。ありがとうございます! 昨日、かほさんに色々と尋ねたのです」
 千反田の言葉で十文字と初めて会った時の事を思い出した。あの時は圧倒的な巫女パワーに気圧されてしまった。だが今日の千反田にはそれは無い。その代わりにため息が出るような気品というか可愛さが存在していた。
「さ、上がってください。皆さん揃っていると思います」
 千反田に案内されて雛の時の部屋に赴くと、見知った顔が居た。
「お早うございます。折木と申します」
 一応挨拶をすると奥に居た白髪の老人が俺の顔を見てやって来た。
「おおこれは折木さん。わざわざ来て下さりありがとうございます! さあこっちに来てくだされ」
 白髪の老人は吉田さんだった。
「お久しぶりです。お元気そうで何よりです」
「何の、やっと生きてるだけですわい」
 言葉とは裏腹な生き生きとした様子だった。
 お茶を出されたのでありがたく戴く。暖かい日とは言え、寒風の中自転車を走らせると体は冷えるからだ。
 その後、仕事となったのだが、主な用事は重いものを運び、上げ下ろしする事だった。奉納された菰樽や色々な品物を豆を撒く舞台に並べて行く。確かにこれは男手でなければ出来ない。
 それが終わると、今度は「打ち上げ」のために千反田家に酒や飲み物を運び込む。大広間では既に座卓が並べられていて、陣出の地区の女性陣が用意をしていた。後から業者が料理を運び込むのだという。
 神社の社務所では千反田を始め、巫女の姿をした女性が豆を撒く時に使う大きな升に豆を入れていた。あと少しで最初の豆撒が始まる時間だから。奥の客間と思える座敷には既に招待客や歳男女が出番を待っているという。千反田が
「折木さん。折木さんも豆撒の時は会場に居たらどうですか? この升の中にクジが入っていて運が良ければ何か商品が当たるかも知れませんよ」
 そんな事を言うが俺に元来くじ運が無いのは昨年のおみくじで証明済みだ
「いや、それはやめて置こう。でも商品は何があるんだ?」
 俺の疑問に千反田はすらすらと
「まずお米10キロが数本、次に電子レンジ、それから炊飯ジャー、自転車もあります。変わったところではエスプレッソマシンもありますね。それから最初の回で歌手のSさんが豆を撒くのですが、そのサインのチケット付き色紙もありますよ」
「歌手のSって言ったら神山出身の大物歌手じゃないか。良く呼べたな」
「はい、実は印字中学の出なんです。それで同級生が呼んだそうです」
 そうなのか、印字中出身だとは知らなかった。
「だから実は色紙が隠れた人気だそうです」
「色紙って何枚かあるのか?」
「はい十枚書いて戴いたそうです」
 確かにファンなら欲しいだろうと思った。
 時間になったので、案内役の巫女を先頭に五名の裃をつけた男女が控室から出て来た。俺は最初気が付かなかったが、案内の巫女が俺の傍を通る時に小声で
「探偵くん」
 その声で巫女を良く見ると何と沢木口だった。何故彼女がここに居るのだと思っていると一緒に出て来た千反田が
「わたしと同じくお手伝いです。何でも親戚の方が陣出に住んでいて、その方から頼まれたそうです」
 俺がよっぽどおかしか顔をしていたのだろう、千反田が笑っている。それに受験はどうしたのだろう
「沢木口先輩はAO入試で何処かの大学に決まってるそうですよ。入学式までに学力を考査する為に提出する問題集が大変だと言っていました」
「お前、沢木口とも知り合いなのか?」
「だって映画の時に知り合いになったじゃありませんか」
 そうか千反田の感覚だとあれで知り合いになるのかと思った。最後に歌手のSが前を通って舞台に出て行った。その途端、舞台の方から物凄い歓声が沸き起こった。Sの神山での人気は凄まじいものがある。俺も舞台の袖から隠れて豆撒きの様子を見学することにした。
「鬼は外、福はうち」
「鬼は外、福はうち」
 それぞれが升に手を入れて豆を掴んで大勢の人々の中に投げ入れる。よく見ると、その中に白い紙粒が混じっていた。
「白いのはくじなんです。あの中に当たりがあるんです」
 俺の横に立っていた千反田が教えてくれる
「あれ全部が当たりでは無いのか」
「はいハズレもあります。だから当たった方は本当に福を呼ぶのです」
 なるほど聞いてみなければ判らないことだと思った。
「次の回にもSの色紙はあるのか?」
「はい五枚ずつですね」
「詳しいんだな」
「はいくじは作りませんでしたが、豆の中に混ぜましたから」
「そうか、そんな手伝いをやっていたのか」
「それと、当たった景品の交換作業ですね」
 そうか確かに当たった景品を巫女さんから受け取れば有り難みも湧くと言うものだと思った。
 豆撒が終わると景品の交換となる。千反田は会場の隅にある場所に移動した。豆を撒いた男女は控室に戻って行った。会場は未だざわめいていた。
「折木君、我々も昼食にしよう」
 村井さんから声を掛けられたので有難く後を着いて行く。社務所の打ち合わせをしていた部屋には弁当が並べられたていた。
 部屋には巫女姿の手伝いの者もやって来ていたがその中に千反田の姿はなかった。するとそんな俺が物欲しげな顔をしていたのか沢木口が来て
「探偵くん。えるちゃんはもうすぐ来るから安心だよ」
「あ、いや、その……」
「何言ってるの。目が探していたでしょ」
 完全にバレバレだった。事実、食べ始めると直ぐに千反田ともう一人の景品の交換の巫女さんが部屋に入って来た。それを見た沢木口が千反田に俺の隣に座るように促した。
「隣、失礼しますね」
 半分笑いながら千反田が俺の隣に座って来た。この部屋に居るのは手伝いの者だけで、招待客や豆撒をした者は別の部屋で食事をしているそうだ。その内、Sも別の部屋なのだろう。
「折木さん、鮭が美味しいですね。食べさせてあげましょうか?」
 なんてことを言うのだと驚いていると
「冗談です。二人だけなら兎も角、ここでは皆さんが見ていますからね」
 冗談だと判りホットとするが、それにしても正月の入れ替わり以来、千反田が積極的になってる気がする。
「でも少しおかしな事があったのです」
 弁当を食べながら千反田がボソッと呟いた
「おかしな事?」
「はい、歌手のSさんの色紙なんですが実は来月の神山でのコンサートのチケットが付いているのです。当たりくじは五枚のはずなのに六人の方が当たりくじを持って来られたのです。幸い色紙は多めに書いて戴きましたし、チケットも多めに戴いたので事なきを得たのですが、確かに五枚しか当たりを入れていないのに何故一枚多かったでしょうか? わたし気になります!」
「間違えて多く入れたんじゃないのか」
「そんな事はありません。わたしは確かに色紙のくじは五枚しか入れませんでした」
「そのくじお前持っているか?」
「あ、もっています。景品を交換した後で確認作業をして要らなくなったので捨てようと思っていました」
 千反田はそう言って千早の袖から数枚の紙切れを出した。一片が幅が二センチ、長さが五センチほどの紙切れで色紙という景品の名が黒く書かれていて、神社の判が押してあった。
「ほら六枚あります」
 俺はそれを見比べて事実を推測した。だがそれをここで語るのは良くない。この部屋にくじを一枚多く偽造して紛れ込ませた犯人がいるからだ。
「千反田、あとで真相を言う。だから今は何事も無かったように振る舞ってくれ」
「判りました。さすがですね。もう真実が判ったのですか!」
「大体だけどな。これから裏を取るから、打ち上げの時に真実を話せると思う。確かに言えることは、六枚のくじの内一枚は偽造だ。よく見れば判る」
 俺に言われて千反田は六枚のくじを見つめていたがやがて表情が変わった。
「では、後で……」
 その後千反田はくじをしまって、弁当を食べ続けたし、俺も他愛ない話をして弁当を平らげた。

[newpage]
 午後からの豆撒も無事に終了して会場の撤去や色々な力仕事をして打ち上げの時刻となった。歌手のSは仕事の為、打ち上げに参加せずに神山を旅立った。
 「雛」の時と同じように酒が振る舞われ宴会が盛り上がっていた。俺は暖房と会場の熱気にあてられて縁側に出て涼んでいた。そこに着替えて普段着となった千反田がやって来た。瞳を怪しく輝かせている。
「折木さん。先程の真相なんですが、わたし知りたくてウズウズしていました」
 縁側で俺の隣に座ると紫色の瞳を輝かせた。
「先程見た時、わたし見直して判りました。一枚だけ確かに違っていました」
「今、持っているか?」
「はいここに」
 千反田はそう言ってポケットから数枚の紙切れを取り出して二人の前に並べた。
 並んだ紙切れは一見全く同じように見えるがよく見ると一枚だけ若干用様子が違っていた。
「折木さん。この一枚だけ違います。何故でしょうか?」
「千反田、他のはパソコンのプリンターで『色紙』と印字してありそこに神社の印を押してある。だから赤い部分は朱肉だ。だが、この一枚だけは朱肉ではない。何故か、それはこの一枚だけがコピーしたものだからだ。犯人は元の当たりくじをカラーコピーしたんだ。それを同じ大きさに切りそろえて当たりくじに混ぜた。お前混ぜた後豆撒きまで監視していたか?」
 俺の質問に千反田は首を横に振り
「いいえ、まさかそんな事があるとは思ってもいなかったですから」
「当然だろうな。いわば氏子同士の身内だけみたいな環境でそんな事をするものは居ない。だから、棚に置いておいた時に誰かの升に紛れ込ませたのだろう」
「折木さん。一体誰がそんな事をしたのでしょう」
「千反田。ここからは俺の推測になるが、先程の事だ、皆が集まっていた時に氏子の役員の中に子供がSのファンだと言う者がいた。花井さんだったかな、『色紙当たれば良いね』とある者に言っていたよ」
「では、その方が?」
「多分な。色紙やチケットが多く用意されていた事を知っていた者。セットされた升にこっそりと偽造くじを紛れ込ませる事が出来る人物。その者こそが犯人だ」
 千反田は俺の考えを最後まで聴いて
「どうしても欲しかったのですね」
そう言って悲しい顔をした。
「わたしは誰のファンではありませんから、どうしてもチケットや色紙が欲しいと言う気持ちは判りかねます」
「俺もそこまでは判らんよ。でもこれは今日、豆撒を楽しみに集まった一般の人には言えない事だな。あくまでも氏子の中だけにしておいた方が良い。お前はどう思う」
 千反田は庭の梅の木を眺めていた。春の遅い神山だが早咲きらしく目の前の梅は赤い花開かせていた。
「そうですね。言えないですね……」
 そこまで言って千反田はハッとした顔をして
「折木さん……それって今までもあったことなんですね。言えないことって……」
 俺は千反田の肩を抱き寄せると
「ああ、今までもお前に黙っていたことがあるのは事実だ。だか決して隠していた訳ではない。それだけは判ってくれ」
 千反田は俺の肩に身を任せて
「はい。今になって色々と理解出来ました。折木さんの考えがわたしの事を想ってのことだったのですね」
 もしかしたらこんな事実は千反田は知らないままの方が良かったのかも知れない。でも何時かは判ってしまうことだった。
「がっかりしたか?」
「いいえ、大丈夫です。わたしひとつ大人になりました」
 千反田は俺の方に向き直してニッコリと微笑んだ。
「ああ、ほらまたイチャついている!」
 その声に驚いて振り向くと沢木口だった。
「ねえ、探偵くん。わたしの巫女姿見てくれたでしょう? どうだった」
 沢木口は千反田とは反対側の隣に座り俺の肩を抱くように取り巻いた。それを見て千反田が笑っている。俺はこの場をどうやって逃れるか考えていた。



                         <了>

氷菓二次創作「新年の珍事」

 千反田にとっては、伯父の関谷純がインドで僧侶になっている可能性があると言う事は、恐らく生死は判らなくとも、行方不明後の行方が少しでも判ったのは自分の今後の進路を決める上で何かを変えた可能性があると俺は考えていた。
 だが、そんな事が問題にならないほど大変な事が俺と千反田の上に起こったのだった。

 歳明けの日、その日は明け方から枕や布団の感じが何時もと違っていたのだが、眠かったのでそのまま寝ていた。
 と、不意に枕元の目覚ましが鳴り出した。音源の方に手をやって目覚ましのスイッチを 切ろうとしたが、目覚ましの手触りが違っていた。
『はて、いつもは目覚ましは窓際に置いてあるはずだが、何故今日に限って枕元にあるのだろうか? それに目覚ましそのものの形も違った感じだ』
 そんな事を思いながら目を開けると天井が見えた。朝起きて天井が見えるのは当たり前の事だ。よっぽど寝相が悪くなければ、それが見えるのが普通だった。
 だが、それは見慣れた天井ではなかった。俺の部屋の天井はボードで白いクロスが貼ってある。細かい文様はあるが一見無地に見えるもののはずだった。だが俺が今見てるのは純日本間で使われる木の板がはめ込まれた天井だった。良く旅館に泊まるとこんな天井にお目にかかる。だが俺は旅行に行った記憶は無かった。
 静かに自分の周りを見渡して見る。左右は襖となっており、足下と頭の方は壁となっていた。足下の方には机と椅子があり、その横には制服が掛けられていた。見慣れた制服だったが、俺のでは無かった。それは神山高校のそれで、しかも女子の制服だった。どうやら俺は人様の家寝てしまったらしい。でも昨夜、俺は自分の部屋で寝たはずなのだが……。
 部屋の外で人の声がした。何を言っているのかは聞き取れなかったが、姉貴やオヤジの声ではない事は確かだった。
 そっと起きあがって見て部屋を詳しく見渡すと、この部屋に見覚えがあった。俺の記憶が正しければここは千反田の部屋だった。畳の上に敷かれた二枚の布団。そして俺に掛かってる毛布と羽毛布団。寝具はかなり良いものだと思った。俺は記憶に無いが千反田の家に泊めて貰ったのだろうか?
 それにしても肝心の千反田は何処にいるのだろうか?
 まあ、幾ら俺の部屋で一緒に抱き合ったからと言って一線を越えていない関係だから、あからさまに一緒に寝るなんて事にはならないだろうが、通常ならこの部屋に千反田が寝て俺が客間に寝るのが筋だと思った。
 そんな事を考えていたら廊下側の襖が開いた。
「える。早く起きなさい。神棚の方にはわたしが若水を上げたから仏壇の方はお願いね」
 千反田の母親だった。これは不味いのでは無いだろうかと思っていると、母親はさっさと行ってしまった。何故だろうか、俺を千反田と間違えたのだろうか……そんな事はない。あるとすれば、あり得ない事だが俺が千反田になってしまったと言う事だと思った。飛び起きて部屋にあった鏡に向かう……そこには驚いた表情をした千反田が立っていた。夢かと思い顔を叩いて見る。間違いない。これは現実だ。俺は意識が千反田の体の中に入ってしまったと言う事だ。大変な事になった。
 今日は確か元旦だ。元旦の千反田家は大変だと昨年千反田も言っていた。夕方まで訪問客に愛想を振りまいて「良い子」を演じていなくてはならない。そこまで考えてトイレに行きたくなった。トイレの場所は覚えている。あの時この家で迷った事が役立つとは思わなかった。
 急いでトイレに行き雉をを打つ。ん? これもそう言うのだろうか。そんなことを考えてしまう。
 済ませて部屋に帰って何か着なければならない。何せ俺はパジャマのままなのだ。千反田の事だから寝るときは寝間でも着てるのかと思っていたが普段はパジャマだったのは意外だった。
 幼い頃から姉貴の着替えを見ていたから千反田の体でも着替えるには迷いは無かった。下着も無事に着る事が出来た。姉貴はブラジャーのフォックは前で停めて後ろに回しているので、俺もその通りにした。それにしてもブラジャーをしていないと胸が揺れて気持ちも収まらないと判った。少し自分で触ってみたが、あの時俺の部屋で触った感触と同じだった。悪くはない! と言うより改めて千反田の胸の大きさを確認出来た。
 そんなことより千反田の母親が言っていた用事を済ませねばならない。台所に行くと恐らく仏壇に供える湯飲み茶碗の様なものが置いてあった。これに水を汲んで仏間に持って行く。
 急いでいたら注意された
「える。どうしたのですか。寝坊したからと言ってそんなに乱暴な歩き方はいけませんよ」
 俺としてみれば普通だったのだが千反田はこんな歩き方はしないのだろう。
 用が済むと急いで俺の家に電話を掛ける。恐らく俺と千反田の中身が入れ替わっているのなら、向こうでも戸惑っていると思ったからだ。電話をすると直ぐに千反田が出た。正確には体は俺だが中身が千反田と言う事だ。
「もしもし、折木ですが」
「俺だ」
「あ、折木さん。良かった……じゃなくて、もしかして、わたしの体になってしまっているのですか?」
「ああそうだ。驚いたよ。今、仏壇に水を上げた所だ。とりあえずこの後はどうなるんだ?」
「ええと、まず家族揃ってお雑煮を食べます。その後着替えてお客様の相手をします。もっともこれは、笑顔で会釈して相づちをしていれば良いです」
「そうか、良い子をしてればいいな」
「はい、そうです」
「着替えるって俺は着物を自分では着れないぞ」
「ああ、そうですね。では着付けを祖母に頼んで下さい。祖母は感が良いから何か言われるかも知れませんが、味方になってくれると思います。そして夕方には荒楠神社に挨拶に向かいますから、そこでお逢いしましょう」
「判った。昨年と一緒だな。とりあえずボロを出さないように頑張るよ」
「お願いします。ところで、わたしは何をすれば良いのでしょうか?」
「そうだな。ヤドカリの生態模倣かな」
「え?」
「つまり、オヤジも姉貴も居ないはずだから、好きにしていれば良い。適当に時間を潰してくれ。それから待ち合わせの時間は昨年と同じ頃で良いのか?」
「多分大丈夫だと思います。それから……」
「どうした?」
「先ほどトイレに行ったのですが、立ってするのが初めてだったので自信が無いので結局座ってしました。それとトイレを済ませたら大きさが……すみません」
「あ、そうか、何でも良いよ。上手くやってくれ。俺の方は特に問題はない。姉貴を見て育ったからな。それじゃ夕方にな。何かあればまた連絡する」
「お願いします」
 千反田にはそう言ってはみたが俺だって今日一日千反田えるを演じる自信なぞ無い。そんな事を考えていたら台所から呼ばれた
「える、朝のお雑煮よ」
「はーい。今行きます!」
 そう返事をして行くと。鉄吾さんと母親。それのお婆さんが座っていた。
「あけましておめでとうございます」
 俺がそう挨拶をすると三人が揃って
「あけましておめでとうございます」
 挨拶を返してくれた。千反田のお婆さんは前に一度だけ見た事があるが俺を見ると不思議そうな表情をした。もしかしたら気がついているのかも知れない。
 母親が雑煮をよそってくれたので、有り難く頂戴する。食卓にはお決まりのおせちが並んでいたが俺は雑煮以外は口にしなかった。
「わたしが片づけます」
 多分千反田なら、そんな事を言うのではないかと考えた。
「お昼はお客様もお見えになるから客間ですからね。える、着替える前に手伝ってね」
「判りました」
 何をするのかは判らないが、とりあえずそんな返事をする。元に戻るまでバレてはならない。

 結局、手伝ったのは客間で昼食を食べる用意だった。座布団を並べたり、箸を置いたりする作業だった。確か「生き雛祭り」の時は業者が入っていたはずだったが、正月はそうも行かないのだろう。
 手伝いが終わると祖母の部屋に赴いた。
「あのう……」
 俺が話をする前に
「あんた。えるでは無いでしょう。多分えるが好きな折木君じゃないのかしら」
 判っていた! 正体がバレていた。
「判っていたのですね」
「台所で逢った時から判っていたよ」
「自分でも判らないのです。急いで折木の家に電話したら、俺の体に入ったえるが出ました」
「やはり……昔から、たまにこの家にはそんな事もあったそうだからね。直ぐに元に戻るから安心しなさい」
 その言葉は俺を安心させてくれた
「着物を着たいのでしょう?」
「はい。夕方にえると逢うのですが、それまではえるを演じていなくてはなりませんので」
「じゃあ、着付けてあげましょう。着物はえるの部屋にあるから」
 お婆さんはそう言って一緒に付いて来てくれて、着物や帯を選んでくれた。
「えるは若いから地味な色が似合うのよね。若いうちしか着られない色や柄ってあるから」
 結局、葡萄色に赤い牡丹の柄の入った着物に濃い緑色の帯を選んでくれた。羽織は昨年と同じものになった。
「髪も拵えてあげましょうね」
 お婆さんは鏡の前に俺を座らせると、千反田の居長い髪を櫛で解いてアップにしてくれた。そこに珊瑚の飾りのついた簪を刺してくれた。
「よく似合うわ」
 確かに鏡の向こうには美しい千反田が居る。葡萄色の地に赤い牡丹の花が咲いている着物を着た千反田が立っていた。素直に美しいと思った。でもこれは俺の今の姿なのだ。何か変な感じがした。俺が俺に恋いしてる。敢えて言うならそんな感じだった。
 来客中はこれほど時間が経つのが遅いと思った事は無かった。困ったのはずっと正座をしていなくてはならない事だった。そこで足がしびれるとトイレに通った。その他は千反田が言っていたように本当にニコニコしているだけだったからだ。だが陽が暮れるとそれも終わった。俺は鉄吾さんから預かったお酒を風呂敷に包んで貰って、呼んで貰ったタクシーに乗り込んだ。
「荒楠神社までお願いします」
「かしこまりました」
 運転手さんがそう言って静かに車は走り出した。
 走り出して少し落ち着いたので色々と考える余裕が生まれた。千反田は朝のトイレの事を言っていたが、やはりする時に俺のものを触ったのだろうな。俺もトイレで用を済ませた後はトイレットペーパーを挟んでいたとは言え、間接的には千反田のあそこを触った事になる。考えるとお互いにかなり恥ずかしい事をしていたのだ。
 タクシーが到着すると俺の姿をした千反田が石段の下で凍えながら待っていた。そして俺の姿を見つけると顔の表情が明るくなった。
「折木さん!」
 姿形は俺なのだが、言葉や仕草が千反田なので何かおかしい。
「とりあえず、家の用事を済ませてしまおう」
「そうですね。それわたしが持ちましょうか」
「そうか、そうだな、外見的にはそれが普通か」
「そうですよ。ほら持っても軽く感じます」
 石段を登って行く。俺は千反田のお酒を持っていない方の腕に自分の腕を絡める。俺の姿をした千反田が照れている。なにかおかしい。
「今日の着物はお婆さんの見立てですか? よく似合っていますよ」
 千反田は嬉しそうに笑っている。
「ああそうだ。すっかり見抜かれてしまっていたよ。だから正直に話したんだ」
「お婆さんは感が鋭いですからね」
 百段を越す石段を登りきり社務所に行き、十文字に挨拶をする。
「新年、明けましておめでとうございます。これは父鉄吾からのお使いでございます。どうぞお納め下さい」
 昨年、傍で二人のやりとりを見ていたからすんなり言葉が出た。
「ありがたく受け取らせて戴きます。どうぞよしなにお伝え下さい」
「える。何だか今日は何時もと感じが違うわね。さては折木くんと何かあったのかな?」
 十文字は恐らく勘違いして、にやにやしている。俺はどう返事をして良いやら判らずに千反田の方を見ると、千反田は半分笑いながら首を左右に振っている。
「ま、いいか。二人は運命の人なんだからね。お参りしたら、寄ってね。今年は暖かい物を出すから」
 十文字にお礼を行って本殿にお参りに向かう。
「かほさんは何か感じていましたね」
「ああ、危なかったな。本当の事を言っても良いが、色々と突っ込まれると困るからな」
「そうですね。特に元に戻った後に色々と訊かれると困ります」
 本殿に参拝した後で
「ついでですから稲荷社にも行きましょう」
 千反田の提案で更に上を目指した。稲荷社では
『早く、体と心が元に戻りますように』
 そんな事をお願いした。そして降りる時だった。千反田と手を繋いで階段を降りていたら、この前降った雪が残っていて、俺の草履がその上に乗って滑ってしまったのだ。その結果、二人でもんどり打って転がってしまった。
「いたたた。千反田大丈夫か?」
「大丈夫です。折木さんは怪我ありませんか?」
「俺は大丈夫」
 そう言って己の体を見ると、首から下にはトレンチコートを着ていた。
「戻った! 千反田戻ったんだ!」
 俺の言葉に千反田も己の姿を見ると
「本当です! 戻りました!」
「着物は?」
「何ともありません」
「それは良かった!」
「折木さん!
「俺たち……」
 参拝客でごった返すのにも関わらず二人で抱き合って喜んだのだった。後で十文字に
「やっぱり。何かおかしいと思ったのよね。でもあのままだったら面白くなったかも知れないわね」
 そんな事を言われてしまった。
 この事があり俺と千反田の仲は一層親密になったのだった。


                                               <了>

氷菓二次創作 「ベナレスに死す」 後編

 俺は更に千反田から情報を仕入れる。
「なあ千反田。そのベナレスと言う街について他に何か知っていることはあるか? あれば教えてくれ」
 俺の頼みに千反田は澱み無く答えた
「そうですね。ベナレスは首都デリーから南東に約820km、東部最大の都市コルカタから北西に約700kmの場所に位置し、両都市を結ぶ幹線鉄道のほぼ中間地点に位置します。ウッタル・プラデーシュ州にあり」
「いやもっと具体的な事なんだが」
「そうですか、ウッタル・プラデーシュ州は北でネパールと国境を接しています。殆どがガンジス川の流域の平原ですね」
 要するにインドでも北に位置すると言う事だけは理解出来た。
「伯父がバングラデシュから入国したという事はインド国内をかなり移動したのだと思います」
 インドに魅せられた人物は結構居て、大きく分けると二通りになるという。片方は「二度と行くものか」と思う人間と魅せられて何回も行く人間に分かれると言う。恐らく関谷純は後者だったのだろう。
「ベナレスには多くの人々が死を待つだけに滞在すると姉貴の手帳に書いてあった。関谷純はベナレスに死にに行ったのだろうか?」
 俺の疑問に千反田は
「関谷家が葬儀をしたのは法律的な側面もあったと思います。親族は心の中では生きていると思っているはずです。それは、わたしも同じです」
 それが親族の偽りのない気持ちだろう。そう考えた時だった玄関が開き姉貴が帰って来た。
「あら、えるちゃんじゃない。今日はお家デート?」
 姉貴は一人で気楽な雰囲気を醸し出していた。
「なあ姉貴に尋ねたい事があるんだ」
 俺の言い方が普段とは違っていたので、さすがに姉貴も何かあると感づいた様だった。
「ちょっと待って着替えて来るから」
 そう言って自分の部屋に消えた。
「訊きたい事ってなぁに」
 着替えてリビングに出て来た姉貴に俺は
「昨年の春から夏にかけて、旅行に行っていたろう? 確かインドのベナレスから手紙をくれた」
 姉貴は俺の言葉に敏感に反応した。
「ああ、確かに手紙を出したわね。それが何かしたの?」
「姉貴は何故ベナレスに行ったのかい」
「そう……あんたは変な所の感が良いから、判ったのかな?」
 含み笑いをした姉貴はソファーに座ると、千反田と俺にも座るように促した。
「まさか、あんたとえるちゃんがこんな関係になるなんて、あの時は全く思っていなかったからね。少しうかつだったかな? 訊きたい事は関谷純の事でしょう?」
 やはり姉貴は知っている。それもかなり深い所までの事情を知ってると思った。
「奉太郎。最初にあんたの考えを聞かせてくれない。それから真実を話すわ」
 姉貴の目は完全に真剣な時のもので、この目をした時の姉貴は俺の想像を上回る。俺は小さく深呼吸をすると頭の中で整理していた事を語り出した。
「まず、姉貴がかって『神山令嬢倶楽部』の会員だった事。そこから俺はインドに旅行に行く姉貴に関谷家の誰かからコンタクトがあった。その内容はインドに行くならベナレスに寄って欲しい。恐らく旅費もある程度は負担してくれたのだろうと思う。その内容はベナレスで行方不明になった関谷純に関するものだった。滞在していたホテルの部屋からパスポートが残されていたという。ならば関谷純は未だインド国内に居る可能性がある。当地でその足取りを確かめて欲しいとかそのたぐいだったと俺は思った」
 ここまでは千反田にも語った内容だ。
「そして姉貴はそれを了解した。古典部員としても関谷純の行方は興味のある事だからだ。それは俺も色々と推理したので理解出来る」
 そこまで言うと姉貴は
「まあ、遠からず。と言う事ね。引き受けたのは何よりわたしがベナレスに行ってみたかったからよ。それが第一。関谷純の事はえるちゃんには悪いけど、ついでかな」
「いえ。とんでもないです。それは当然だと思います」
 俺は次を話しだした。
「そして実際にベナレスで関谷純の足取りを追った。それについては苦労したのか簡単に判ったのかは俺には判断出来ないが、兎にある程度は判った。それは奇跡に近いものだったかも知れないが……その結果は」
「折木さん。伯父の行方が当時判ったのですか?」
 千反田が驚きの声を上げる。
「ああ、俺はそう考えた。そして恐らく姉貴は関谷純とコンタクトを取る事に成功した」
「まさか……伯父が生きていたのですか!」
「千反田。これは俺の推理だ。事実ではない。恐らく関谷純はヒンドゥー教の僧侶になっていたのでは無いかな。だからもう一生日本に帰る意志は無かった。それを姉貴に伝え、関谷家にも伝えて欲しいと語ったのは無いかと言うのが俺の推理だ。どうだい姉貴、間違っていたかな?」
 俺の言葉を最後まで聞いた姉貴はおもむろに
「まあ、大凡は合っていたわ。じゃあ、あんたの足らない事を補足しようか。まず、わたしが関谷家から頼まれたのは事実だけど、偶然だったのよ。当時行方不明から七年が過ぎようとしていて関谷家では関谷純の処遇に困っていたのよ。それを見かねて鉄吾さんが仲に入ってわたしに相談が来たのよ。わたしの名は『神山令嬢倶楽部』でも有名だったからね」
「父が絡んでいたのですか! 全く知りませんでした」
「えるちゃん。皆、悪気があって隠していた訳じゃないのよ。あなたが伯父の関谷純に懐いていたから変な情報は知らせたくなかったのよ。その頃はウチの奉太郎と仲良くなるなんて思わなかったからねえ」
 俺は姉貴に先を言うように促す。
「費用はある程度は出してくれたわ。本当は要らなかったけど、向こうがどうしてもと言うので有難く受け取ったの。そしてベナレスに行った。最初は全く手掛かりも無かった。そこで日本人として探す事にしたの。そうしたらベナレスに日本人のヒンドゥー教の僧侶が居ると言う情報を見つけたの。でも、そこからが大変だった。なんせベナレスはヒンドゥー教の聖地だから寺院の数も半端ないぐらいにあるのよ。だから、何処の寺院かを特定するのは本当に苦労したわ。日数もかかった。だから東ヨーロッパに行くのが遅れたのよ。そこで色々なトラブルにも巻き込まれたわ」
「そこで見つかったのですか?」
 千反田が真剣な表情で尋ねる。姉貴は千反田の入れてくれたお茶を一口飲むと
「結果だけ言えば見つけたわ。その過程は省略するけど、ある寺院に日本人の僧侶がいる事を突き止めたの。もしその人物が関谷純では無かったら諦めるつもりだったわ。それぐらい大変だったのよ」
「それで伯父と会えたのですか?」
「まず、会えた事は事実だわ。寺院に尋ねて行き、合ったのよ。、わたしが神山高校の古典部出身だという事を最初に言ってこちらを信用して貰ったわ。そして関谷家から頼まれた事も告げたのよ」
「そうしたら伯父は何と言ったのでしょうか?」
 もう俺の話す余地は無かった。千反田がその代わりになっている。
「あなたの伯父の関谷純はね、『自分は長い事考えた結果、ここベナレスに来て人生を終える決意をしました。もう日本に帰るつもりはありません。多くの人々と同じようにここで最高の死を迎えようと思っています。だから自分の死期が来るまで他の方のお手伝いをしようと考えたのです。わたしは高校で人生を変えられました。ならば最後だけは自分できめようと思います。日本に帰ったらこうお伝え下さい。関谷純はここベナレスでヒンドゥー教徒として最後を迎えます。もう探さないでください。それがわたしの意志です。関谷純はベナレスに死す。とお伝え下さい」
「伯父は生きていたのですね。そしてそんなメッセージを伝えたのですね。だから関谷の家では葬儀をしたのですね」
 千反田が思い詰めた表情で語ると姉貴は
「でもね。こうも言っていたわ『わたしは、最高の死を迎える事が出来るのです。悲しむ事なんて必要ありません』とね」
 関谷純がヒンドゥー教の僧侶になった可能性もあるとは思っていたが、それ自体が目的だったとは意外だった。
 姉貴は最後に
「帰っても暫くは関谷家と千反田鉄吾さん夫婦以外には言わない事。それが条件だったわ。だから、えるちゃんにも本当の事を言う訳にはいかなかったのよ」
「伯父は未だ生きているのでしょうか?」
「それは判らない。何せ、インド各地から、年間100万人を超える巡礼者や参拝客が来るらしいいし、死を待つ人々は解脱の館という施設で死を待つのよ。無論そこにも僧侶が居るわ。関谷純はそこの僧侶なのかも知れなかった。あるいは、インド各地から多い日は百体近い遺体が金銀のあでやかな布にくるまれ運び込まれるそうだから、それに祈りを捧げる僧侶の可能性もあったわ。兎に角、今はもう判らないと言う事なの」
 姉貴は語り終わると千反田に
「もし今でも生きていても彼は既に関谷純では無いのよ。ヒンドゥー教の一僧侶になってしまったと言う事なんだと思う」
 そう言って優しい目をした。千反田は暫く目を瞑っていたが
「伯父は日本に居る間常に考えていたのですね。それを幼いわたしは知りませんでした」
 姉貴は千反田の頭を優しく撫でると自分の部屋に戻って行った。千反田は少し放心した様な感じだった。
 だが、何と言う偶然だろうか。俺と千反田の仲が良く無ければ。この事実は千反田に知られる事は無かったのだろう。そう考えると俺と千反田の仲は関谷純のお陰とも言えると思うのだった。
 そしてこう考えた……千反田の伯父の関谷純はインドベナレスで亡くなったのだと……。
「千反田」
 静かに呼ぶと千反田は俺の胸に飛び込んで来た。そっと抱きしめる。このショックは暫く収まらないだろう。それまで俺が千反田を支えてやらねばならない。
「折木さん。しっかりと抱きしめてください。わたしの心が何処にも行かない様に」
 俺はその言葉を心に言い聞かせるのだった。


                              <了>

氷菓二次創作 「ベナレスに死す」 前編

  思いがけない事と言うのはあるもので、この事が俺と千反田の関係に影響を与えるとは当初は思ってもいなかった。
 年末も控えた十二月のある日、学校はとうに冬休みに入っていて、俺は惰眠を貪っていた。普段から早く起きて高校に通っているのだ。休みの時ぐらいは寝かせて欲しかった。だが、それを許してくれるほど我が家の主は優しくなかった。
「奉太郎。ここにゴミ袋出しておくから、あんたもゴミがあったらこの袋の中に入れておきなさいよ。わたしは、ちょっと出かけてくるからね」
 未だ十時だというのに起こされてしまったのだ。あくびをしながら階下に降りると、やけに大きなゴミ袋が居間に鎮座していた。
 中を除くと恐らく姉貴の部屋の要らない書類らしきものが大量に捨てられていた。俺は普段から余りこのたぐいは溜め込まない主義だが、ゴミなら多少あった。ゴミ袋ごと持って部屋に戻る。
 部屋の中で要らないものを袋に投げ捨てていたら、当たりどころが悪かったのか、姉貴のゴミの一部が袋から出てしまった。その中にB5サイズの能率手帳があった。我が姉貴はどんな事を書くだろうかと思いそれを捲ってみたのだが、どうやら昨年俺が高校入試の頃に海外に行った記録と言うかメモらしかった。あの旅行は確かアジアから中東を経て東ヨーロッパまで横断したのだった。確かインドのベナレスから手紙が来た。俺を古典部に入れさせる手紙だった。
 偶然と言うか捲った所が丁度ベナレスについて書かれた所だった。手帳にはベナレスに入った日時が書かれていた。そのページに気になる文言を見つけた。
『ベナレス市内で見つかれば良いが、見つからない時は領事館に相談』あるいは
『ここはヒンドゥー教最大の聖地なのでそちらも調べる事』
 等と書かれてあった。この文言が本当だとすると姉貴はベナレスに誰かを探しに行った事になる。
 インドと聴いて一番に思い出させるのは千反田の伯父の関谷純だ。千反田の言う事ではインドで行方不明になったと言う。まさか……。
 いや単なる偶然だろう。インドは広い。姉貴の用事と関谷純が行方不明になった国がたまたま一致しただけだと考えた。
 俺は先を捲った。そこには
『ガンジス河の南北約6kmに渡って伸びる河岸のガート(階段状の防波堤)で身を清め、市内の寺院に参拝すると言う。このガートも、500kmの間に、大小合わせて70以上もありるそうだ。その何処かで身を清めたのだろうか?』
 姉貴は明らかに誰かの行方を探しに行ったのだと判る書き込みだった。次のページには
『インド各地から多い日は100体近い遺体が金銀のあでやかな布にくるまれ、この地に運び込まれて来る。あるいは、インド中からこの地に集まり、ひたすら死を待つ人々も居る彼らは彼らはムクティ・バワン(解脱の館)という施設で死を待つそうだ。そこに記録があるのだろうか』
 もう間違い無かった。誰かを姉貴は探しに。あるいは足跡を探して行ったのだと思った。その事を鑑みても俺は関谷純の事が気になっていた。千反田は単にインドで行方不明になっていたと言っていたがもう少し詳しい事情は知らないのだろうか? 
 例えばもし関谷純が行方不明になった場所がベナレスなら、姉貴は何故それを知ったのか? またどうして行方を探す様な行動を取ったのだろうか?
 時計を見ると未だ十一時前だった。千反田に電話をしてみる事にした。年末で忙しいだろうが、少しでも事情を訊きたかった。
 千反田の家に電話をしてみると千反田本人が出た
「はい千反田です。あら折木さん。どうしたのですか? 昨日も逢ったのに」
 そうなのだ。ここの所毎日のように千反田と逢っている。逢うこと自体が嬉しくて仕方ない。一線は未だ越えていないが、時間の問題かも知れない。
「千反田。実は尋ねたい事があるんだ」
「はい。どんな事でしょうか?」
「いや電話では不味い事だ。お前の伯父の関谷純に関する事だ」
「伯父の事ですか……」
「ああ」
 電話の向こうの千反田は明らかに動揺していた。
「今日は逢えないかな?」
 俺の頼みに少し間があってから
「お昼に市内に出かける用があります。その後で良ければ時間がありますが」
「それでいい。俺もそれまでにお前に尋ねる要点を整理しておく」
「折木さんがそこまで言う伯父に関する事って何だか不安です」
「詳しくは逢ってから話すが、関谷純が行方不明になった場所は判っているのか?」
「はいバラナシです」
「バラナシ……」
「英語だとベナレスですね」
「なんだって!」
「もう時間なので続きは後で……多分お家にお邪魔出来ると思います」
 千反田はそう言って電話を切った。
 関谷純が行方不明になった場所がベナレスなら、姉貴はやはり関谷純の足跡を探してその場に行ったのだろう。他には考え難い。でも何故、姉貴はそんな事まで知っていたのだろうか? 
 そこまで考えて俺はある事が頭に浮かんだ。それは「神山令嬢倶楽部」の事だ。神山の名家旧家の令嬢だけが入会を許される秘密倶楽部。当然千反田も入会していた。本来なら我が折木家はその資格が無いが姉貴の場合は何かの繋がりで入っていたのでは無いだろうか? もしそうならあそこに入っていれば色々な情報を得る事は出来るはずだった。この前の時はまさか折木家には縁の無い話なので全く考えていなかったのだ。
 千反田を待つ間にポイントを押さえておく。ます、ベナレスで本当に行方不明になったのか? 次にその詳細。さらに「神山令嬢倶楽部」の事だ。
 それらがどう繋がって行くのか、それを考えていた。
 
 昼を過ぎた頃に家のチャイムが鳴った。出て見ると千反田だった。オフホワイトのコートを着ていた。
「こんにちは折木さん。昨日も逢ったのに今日も逢えるなんて嬉しいです。折木さんお一人ですか?」
「ああ、姉貴は出かけている。それでとんでもない事をかんえたんだ。ま、上がってくれ」
「それじゃお邪魔させて戴きます」
「今日は何で出て来たんだ? バスか?」
「はいバスです。今日はバスで帰ります。雪も降っていませんし」
 先日の事を言っているのだろう。あの日から俺と千反田の関係はかなり縮まった。千反田の気持ちも良く判ったし。俺の気持ちも理解してくれたと思った。
 上がってコートを脱ぐとリブニットのタートルネックのセーターを着ていた。
「この前の折木さんの丹前と同じ葡萄色です」
 体に密着したそれは千反田の体の線を露わにしていた。まあ千反田の胸に関してはそのボリュームも既に判ってはいるのだが、やはり制服姿を見慣れた目には眩しい。
「よく似合ってる」
「嬉しいです」
 その笑顔を見るならこれぐらいは言わないといけない。
 リビングに通して座らせ。この前と同じダージリンを入れて出す。
「ありがとうございます! 表は寒かったので温かい飲み物が嬉しいです」
 千反田はそう言って口を付ける。
「美味しいです」
「それは良かった。ところで実は、姉貴が俺達が高校に入る頃にベナレスに行っているんだ」
 俺の言葉に千反田は驚きの顔をして
「それは本当ですか! 供恵さんは何故あんな所まで行ったのでしょうか?」
「それを考えていたんだ。その為の情報をお前から訊きたい」
「はい折木さんの為なら何でもお話します」
 千反田は笑顔で紅茶を飲んでいる。その姿に見惚れながら
「関谷純は本当にベナレスで行方不明になったのか?」
「わたしが知る限りでは領事館からそのように連絡があったそうです」
「でも最初は確かマレーシアに向けて旅立ったと聞いているが」
 俺は千反田の向かい側に座って続きを訊く
「わたしが関谷の家から聴いた限りではマレーシアからタイに渡り、そこからバングラデシュを経由してインドに渡ったどうです」
「どうしてそこまで判ったのだ」
「伯父が滞在していたホテルの部屋にパスポートが残されていたそうです。そこから足取りが判ったそうです」
「そうか、では失踪するまでは連絡があったのか?」
「それは殆ど無かったそうです。たまに手紙が来るぐらいで、それも『これから何処何処んに行く』程度だったそうです」
 関谷純の足取りに関してはそれで判った。残りは
「もう一つ訊きたいのだが、ウチの姉貴は『神山令嬢倶楽部』と関わりがあったのか?」
 多分、あったのだろうとは思っていたが千反田の答えは俺の想像を上回っていた
「供恵さんは会員だったそうです。この前伺いました。何でも入須家の推薦で入ったそうです。『神山令嬢倶楽部』では強力な会員の推薦があれば例外的に家柄に関係なく入会出来るのです。供恵さんはそれは素晴らしい活躍をなされたそうです」
 多分そんな事だと思った。
「じゃあ、もしかして関谷家も会員なのじゃないか」
「はい関谷家も旧家ですから」
 やはりそうだ。姉貴と関谷家とは「神山令嬢倶楽部」を通じて旧知の間柄だったのだ
「折木さんそれはどのような意味なのですか? わたし気になります!」
 千反田の瞳の色が変わった。
「俺の想像だが、姉貴は関谷純の足跡を調べる事を関谷家から直接頼まれたのではないかと言う事さ」
「まさか……ではもしかして伯父が生きてる事もあるとか?」
「全く無いと言う事ではないと言う程度だがな……僅かだが可能性が考えられる」
 そうなのだ。全ては姉貴に問い正す事が大事だと思うのだった。
 
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