「氷菓」二次創作 奉太郎と弓を射る千反田さん

 それは、あの事件の記憶も冷めやらぬ頃だった。これは記録として残しておきたいと思いここに記す。但し、他の誰でもない自分の為に。

 高二の夏休みも八月に入っていた。二週間も経った今では、あの雨の中を迎えに行ったのさえ本当だったのか怪しいものに感じていた。
 その日は特に暑く、家でクーラーの申し子と成り果てていた。こんな時学生はありがたい。姉貴などは社会人なので気ままな暮らしは出来ない。それは仕方ないだろう。但し貧乏な高校生にはお金は無い。
 朝から高校野球の中継が掛かっていて、何とも無くそれを視界の隅に留めていた。他に新聞を読むでも無く、小説を読む気力も残ってはいなかった。何気なしに電話の方を見たら、俺の視線に気がついたのか突然鳴り出した。徐に受話器を手に取る。
「はい折木ですが」
「ああ、折木さんですか、良かったです」
 電話の主は千反田だった。思ったより元気そうだった。あいつの身に何が起きたのかは判らないが、その声を耳にしただけでこちらの気持ちが和らいだ。
「どうした。また何かあったのか?」
「いいえ、先日は本当にお世話になりました。心より感謝しています」
「そうか。それは何よりだ」
「本当なんですよ!」
「別に嘘とは言っていない。それに何の用で電話をしたのだ?」
「ああそうでした。忘れるところでした」
「忘れるほど軽い事なのか?」
「まあそうですね。それほど重大ではありません」
「じゃ切るぞ!」
「ああ待ってください。今日はお暇ですか?」
「今日か? 家でゴロゴロする用事がある」
「大事な御用ですか?」
「そうでもないが休養は大事だ」
「そうですね。でも少しお出かけして見ようとは思いませんか?」
「どこにだ?」
「市のスポーツセンターです。そこの弓道場です」
「弓道場? お前弓道なんかやるのか?」
「前から少しやっていましたよ。趣味にもならないぐらいですが」
 千反田の言葉を耳にして、ある思いが浮かんだ
「もしかして『神山令嬢倶楽部』か?」
「そうです。今日は『神山令嬢倶楽部』の有志が集まり、市のスポーツセンターの弓道場で弓を射るのです」
 そこまで言って千反田の思惑が読めて来た。要するにコイツは自分の弓を射る姿を俺に見せたいのだと思った。
「お前、人に見せるほど上手な腕前なのか?」
「そうですね。入須さん程ではありませんが、倶楽部の中ではそこそこだと思います」
 頭の中で千反田が弓道着に身を包み弓を射る姿を想像してみる。案外見ものかも知れないと思った。
「何時からだ?」
「午後の二時からです。会場は二時間抑えてありますが、事実上一時間もやれば良い方だと思います。来て頂けますか?」
 正直、夏の勝っ盛りに炎天下を移動するのは辛いと思ったが、千反田の弓道着姿を見たくて返事をしてしまった。
「判った。市のスポーツセンターの弓道場だな?」
「はいそうです」
「午後二時からなんだな?」
「はい。お待ちしています」
 千反田の期待を込めた声を耳に残して受話器を置いて時を確認すると午前十一時を少し過ぎた頃だった。昼飯を済ませてもたっぷりと時間はあった。

 炎天下の中、自転車を走らせる。スポーツセンター迄は二十分もあれば着くはずだった。自転車置き場に自転車を置いて「弓道場」と書かれた案内板を頼りに進む。時間を確認すると一時四十五分になろうとしていた。余裕だと思った。
 長い廊下を歩いて行くと突き当りが「弓道場」らしかった。入り口のドアを開けると手前が観覧出来るようになっており、その奥が弓を射る場所でその先が開けていて、かなり遠くの突き当りに的が等間隔に並んでいた。あそこの中心に弓を射るのだろう。的は全部で七つあった。つまり七人が同時に射ることが出来るという訳だ。弓道場は壁も床も木目で出来ていて木の香が心地よかった。
「あ、折木さん。もう来てくれたのですね」
 その声に振り向くと千反田を初め、大勢の女性が姿を表した。その中に入須先輩の姿もあった。
「おや折木くんじゃないか。久しぶりだな。君も弓道に興味があるとは思わなかったよ……ああ、そうか千反田がらみか。ならちゃんと見て行った方が良い。君の想い人は素晴らしい腕だからな」
「入須さんそんな事を言っては……」
「半分は本当。もう半分は冗談だ」
 入須先輩はそう言ったが、想い人というのは少なくても当たってはいる。
 千反田を初め、女性陣は白い上着にレザーの胸あてをして黒の袴をしている。袴の帯はそれぞれが好みの色を使っているみたいだ。白い足袋が眩しい。
 各人が矢筒や弓を取り出して準備をしていく。準備の出来た者から射るみたいだ。試合では無いので各人が徐に射るみたいだ。
 千反田も準備が出来たみたいだ。長い髪を頭の後ろで纏めてあり、普段では見られない姿と相まって中々の見ものだった。
「折木さん。私の弓道着姿いかがですか?」
 嬉しそうに言うその声は明るかった
「ああ良く似合っているよ。旧家なんだからやっていても当然なのかもな」
「そう言って頂けると嬉しいです。それでは射りますから見ていてくださいね」
 千反田はそう言って弓と矢を持って射る場所に移動した。俺は千反田の姿が良く見える位地に移動した。
 千反田は右手で矢を掴むと弓の弦に当てて思い切り強く弓を引いた。そして狙いを定める。千反田の視線が真剣なのが分かる。
 恐らく己の呼吸と感覚を調整しているのだろう。精神を集中しているのが分かる。そして、それがピークになった瞬間、矢が放たれた。
 矢は真っ直ぐ飛んで的の中央に突き刺さった。見事なものだと思った。
「千反田、中々良いぞ!」
 入須先輩が声を掛ける。俺も
「見事だったな」
 そう言って褒めた。千反田は少し嬉しそうな表情をしただけだった。恐らく集中力を切らしたく無いのだろう。続けて二本目を射ると今度も的の中央に突き刺さった。千反田の集中力は素直に凄いと思った。
 真剣な眼差しで的を睨んでる千反田の表情も中々良いものだと思った。凛とした格好良さとでも言うのだろうか。
 結局最初は五本射って三本が的の中央に当たり、二本が僅かに逸れたのだった。その後は他の者と交代となった
 俺の所に千反田がやって来て二人で並んで観る事にする。
入須先輩は五本全部が中央に当たった。
「やはり入須先輩は凄いです」
 千反田はそう言ったが、俺にとっては千反田の凛とした姿や表情の方が収穫があった。
「なあ千反田。次の時も声を掛けてくれよな」
 そう言ったら千反田は嬉しそうな表情をして
「もちろんです。折木さんが見に来て下さると、わたしの成績も上がりますから」
 そう言った。その表情を見て本当に来てよかったと思う。もしかしたら千反田が射抜いた的は俺の心だったのかも知れないと思った。


                      <了>

「氷菓」二次創作 Moment to fell in love(恋におちた瞬間)

 夕日がもう真っ赤に街を照らしていました。何時もの商店街の交差点で折木さんと別れ家に向かって自転車を漕ぎ始めました。
 先ほど感じた胸の高鳴りは、まだ収まりそうにありません。今まででこんな経験は初めてです。どうしたのか自分でも良く判りません。
 折木さんが語った言葉『無神経というか、つまり人の気も知らないでという感じか。多分二度と小木には会わないから、人の気も何もないんだが』が今でも耳の奥に残っています。 
 その言葉を聴いて、わたしは折木さんの本当の優しさを見た気がしました。二度と会う事もない人のことまで気にかけておく……普通はそんなことまで気が回りません。それなのに……。
 普段は『やらなくても良いことはやらない。やらなければならないことは手短に』などと言っている人ですが、わたしは、そんなことを実行してる折木さんの姿は見たことがありません。それよりも、寧ろ常に人の為に行動している方だと感じていました。普段から例のモットーを口にしているのは、本心を知られたくない照れ隠しだと感じていたのです。
 でも本心が判った今、わたしの心は揺れています。常に人に対して先までのことを考えている人なのだと思いました。
 もう日が暮れてしまっています。その中をライトの灯りを頼りに自転車を漕いでいます。ありえないことですが、ここに折木さんが一緒に並んで走っていてくれれば、どんなに素敵だろうかと思ってしまいました。普段はそんなことを一度も思ったことさえ無いのにです。
 折木さんはもう家に着いたでしょうか。明日も古典部に顔を出してくれるでしょうか。もし幸いに二人だけなら、真っ先に美味しいお茶を入れてあげようと思います。そして二人で楽しい会話をしたいと思いました。
 もうすぐ家です。この辺りまで帰って来て、わたしは自分がおかしいことに気が付きました。先程から折木さんのことばかり考えているのです。こんなことは今まで一度もありませんでした。
 頭の中に、いいえ心の中に折木さんが住み着いてしまった感じなのです。それは折木さんは同級生ですし、同じ古典部の仲間でもあります。親しいのは当たり前です。一緒に合宿もして幽霊の謎を調べました。雛のわたしに傘をさしてくれました。その時わたしは判りました。あの頃から折木さんはわたしの心の中に住んでいたのだと。
 つまり、わたしは恋に落ちたのだと自覚しました。これが恋なのですね。人を愛するということなのですね。何を考えても心に想う人が真っ先に浮かび、それを想うと心が苦しくさえなる……。これが恋なのですね。
 でも、でもそれならば恋とは何んて素晴らしいのでしょうか。人を好きになるという幸せをわたしは感じながら家に着きました。
「おかえりなさい」
「ただいま帰りました」
 恐らく母はわたしの状態が普段とは少し違うと言うことに気がついたでしょうか。
 夕食を食べて、お風呂に入って、授業の予習をします。机に向かっていても視線の先に浮かぶのは折木さんの姿なのです。明日も逢いたい。出来れば二人だけで……わたしは何と恥ずかしいことを考えているのでしょうか。でも、でもそれが本心なのです。
 机に向かっていても勉強が全く進まないので寝ることにします。布団を敷いて横になります。暖かい掛け布団を掛けて眠りに就こうと思いますが、やはり心に思い浮かぶのは折木さんのことばかりです。今日の会話は勿論、より以前に交わした会話までもが心の中を巡るのです。

 いつの間にか朝日が差し込んでいました。眠れたのか眠られなかったのか判らないまま朝が来てしまいました。
 何時ものように顔を洗って、学校に行く支度をします。その後朝食を戴いて家を出ます。春らしくなって来たと感じます。でも自分の心は放課後に飛んでいるのです。本当にわたしおかしいです。折木さんの顔を見れば収まるのでしょうか。多分そうなのでしょうね。
 放課後古典部の部室に顔を出すと既に折木さんが何時もの席に座っていました。昨日と同じ文庫本を読んでいます。
「折木さんこんにちは早いですね」
 なるべく嬉しさを出さないように表情に気を使います。すると折木さんは
「千反田。昨日はありがとうな。遅くなってしまったろう。悪かったな」
 そう言ってくれました。早く来たのは昨日わたしが遅くなってしまったことを気に掛けてくれたのだと理解しました。本当に細かい所まで気を配ってくれます。でも、そんなことは良いのです。わたしは
「大丈夫ですよ。遅くなることは良くありましたから。それより昨日は折木さんの隠れた一面を発見致しました」
 そう伝えました。すると
「何だか随分嬉しそうだな。俺の何を発見したんだ」
 そんなことを言います。わたしは
「それは、わたしだけの秘密です。摩耶花さんにも福部さんにも言いません。わたしの心に大事にしまっておきます」
「まあ何だか判らないがそれならそれで良いだろう」
 折木さんは半分呆れて、また本を読み始めました。私はお湯を沸かすとお茶を入れて折木さんの元に持って行きました
「ありがとう。千反田の入れてくれたお茶は本当に美味しいよ」
 この言葉も何回も聴きましたが今日は一層心に残ります。
 わたしはこの二人だけの時間が何時までも続けば良いと考えていました。

「氷菓」二次創作 「こぶしの理由」

 四月になり今年も千反田は「生雛祭り」で雛の役をやった。恐らく人生で最後の雛の役だそうだ。
 俺は今年は見物させて貰った。本来の傘持ち役の子が今年は参加した。堂々としていて昨年の俺よりも大役を無難にこなしていた。俺は祭りを手伝った訳でもないので、その夕方の慰労会には呼ばれなかった。ひとこと千反田と言葉を交わしたかったが、千反田の忙しさでは、それも無理なので里志や伊原と一緒に自転車で帰って来た。そうしたら家に着いた途端電話が鳴り出した。
「はい折木ですが」
「千反田です。折木さん帰ってしまうなんて酷いじゃありませんか」
 電話の主は千反田本人だった。その声は明らかに怒りを含んでいるのが明らかだった。
「いや、すまん。お前が忙しいと思ってな」
 そんな言い訳を言う
「酷いです! 終わったら折木さんと昨年のように二人でお話がしたかったのです」
 話と言っても昨年みたく変わった事があった訳ではなく、ここの所は春休みなので逢ってはいないが、その前は部室で毎日色々な話をしたのだ。こっちのネタは尽きている。だがそんな事は口には出せないので一応取り繕う
「すまん。お前がそんな事を考えているなんで思わなかったんだ」
 そう言ったら千反田の怒りは少しは収まったようだった。だが次の一言が俺の想像の範疇を越えていた。
「では、これからお邪魔しても宜しいですか?」
「は? すまん。もう一度言ってくれ」
「未だ陽が高いですからこれから折木さんのお宅にお邪魔しても宜しいですか?」
 千反田がそんな事を言い出すなんて全く考えていなかった。特に今は春休みだ。時間なら明日も明後日もある。
「今からか?」
「駄目でしょうか」
 ここで断れば、やっと機嫌が直りかけている千反田の心情を悪くする。それだけは避けたいと考えた。
「来ても良いが帰りは暗くなるぞ」
「大丈夫です。バスは遅くまでありますから」
 市民文化会館と陣出を結ぶバスは、かって俺も乗った。休日だと一時間に一本運行している。このバスが陣出の人々の生命線という事もあり、神山郊外としては少し遅くまで運行しているのだ。自転車を選択しなかったのは雪解けで道がぬかるんでいる箇所があるからだろうと想像した。
 幸いというか、何と言うか今日は家には俺一人だけだった。姉貴は仕事で海外出張中だし、親父も帰りは遅くなると言っていた。
「そうか来るなら構わないが」
「では伺わせて戴きます。色々とお話がしたいのです」
 電話の向こうの千反田は少し興奮してる感じだった。
「でもお前は用事は無いのか? 慰労会に出なくて良いのか」
「以前から出ていませんでしたから。未成年ですからお酒は呑めませんから出ていないのです。慰労会が始まるまで未だ時間もありますし。それに今からなら次のバスに間に合います」
「そうか、なら待っているよ」
 そう言って受話器を置いた。時計を見ると三時を少し回った頃だった。千反田が言うには例年だと行列は午後一時から三十分行われるのだが、今年は時間が早まって十二時からだった。だから例年だと午後の四時頃にならないと開放されないのだが、今年は今の時間で既に千反田は役から開放されていたのだった。
「やっぱり待っていてやれば良かったかな」
 そう思い直したが後の祭りだった。

 四時近くになって家のインターフォンが鳴った。出て見ると千反田だった。本当に直ぐのバスに乗ったのだと思った。
「よく来たな。どうぞ」
 千反田を招き入れる。
「すいません。押しかけたみたいで」
 そう言った千反田からは怒りの感情は伺えなかった。何時もの千反田だった。
 リビングに招き入れて座らせる
「紅茶でいいか?」
「あ、はい」
 台所で電気ポットから湯をティーポットに注ぐ。そしてそのまま千反田にカップと一緒に出した。
「少し経つと飲み頃になると思う」
「ありがとうございます」
 千反田はティーポットからカップに紅茶を注ぎながら
「実は来る時のバスの中で気になることがあったのです」
 そう言って徐に顔を上げて俺の方を見つめた。その瞳は明らかに輝いていた。仕方ないと覚悟をする。休みの間は極力頭を働かせたくはなかったのだが仕方ない。
「どうしたんだ」
 俺の言葉に千反田は嬉しそうな表情をして
「実はバスでここまで来る時に、あるご老人に席を譲ったのですが、やんわりと断られてしまいました。その理由がわたしには判らないのです」
 そう言って千反田は紅茶に口を着けた。
「ああ、美味しいです。供恵さんが選んだ銘柄ですよね。素晴らしいです」
 確かに姉貴が買ったものだが、姉貴が買った紅茶の銘柄はこれだけでは無い。色々と買ったのだ。その中から千反田が好みそうな銘柄を選んだのは俺なのだが、それは口にしなかった。
「どんな状況だったんだ?」
 俺の質問に千反田はなるべく俺に判るように話だした。
「陣出から市民文化会館に向かうバスは、折木さんも利用されたことがあるのでお判りだと思いますが、一部山道を走りますが殆どは平坦な道を走っています」
 俺はその言葉に昨年の夏のことを思い出していた。決して良い思い出とは言えないが、あの事があり今の俺と千反田がある。それも事実なのだ。
「南陣出の停留所からご老人が乗ってこられたのです。バスは『生き雛祭り』を見た人々が乗っていて、何時もとは違って結構混んでいました。わたしは始発という事もあり座れたので、そのご老人に席を譲ったのですが、断られてしまいました」
「何と言われたんだ」
「はい、『ありがとう。でも事情があり席には座りたくないんだよ。』と仰ったのです」
「事情があると言ったんだな。その事情を探りたいという訳か」
「はい、そうなのです」
「バスで席に座る。車内は結構混んでいたんだな」
「はい、かなり混んでいまして、立っている方も大勢いました。満員に近かったと思います」
「そうか、ところでバスの席は進行方向に向かって前向きだったか」
「ああ、そういえば何時もはそうなのですが、今日は『生き雛祭り』が行われるので、大勢の方が乗れる進行方向に向かって横向きで、反対側の席と向かい合うタイプの車両でした」
「そうか、それでも満員に近かったのだな」
「そうです」
「じゃあ、例えば座ってしまうと反対側の車窓の景色は見られない訳だな」
「はい。わたしも座っていましたから、人が前に立っていたので反対側の景色は見られませんでした」
 それを聴いて俺はある考えが浮かんだ。姉貴の部屋に行き神山市の地図を持って来た。それを千反田の前で広げる。
「バスのルートを指で示してくれ」
 千反田は訳が判らないという表情をしていたが
「ここが陣出の停留所ですから」
 ゆっくりと千反田が地図の上で人差し指を動かして行く。南陣出を過ぎて暫く行ったところで
「そこだ。そこに理由がある」
 俺はそう言い切った。その言葉に千反田は
「ここは停留所ではありませんが」
 そう言って困惑していた。
 神山市の東北部にある陣出から市民文化会館に向かうバスの路線は地図の上では右上から左下に下がって行く形になっている。南陣出を過ぎて暫くしたあたりに「野麦のこぶし」と書かれた印があった。地図の上ではバス路線の上の方に書かれている。
「お前はもしかして進行方向左側に座っていたんじゃ無いのか?」
「あ、はい運転席とは反対側に座っていました」
「その席に座ってしまうと、この『野麦のこぶし』は見ることが出来ない。もしかすると、その人は『野麦のこぶし』が見たかったんだろう。丁度今は満開だろう」
「そう言えば市役所のこぶしも満開でした」
『野麦のこぶし』とは、樹齢三百年にも及ぶこぶしの大樹で、幹が八メートルもあると言う市の記念物に指定されている。その昔、長野県岡谷の製糸工場に向かう女工たちが雪解けのこの道を通って通ったそうだ。その歴史から名付けられたのだ。神山ではちょっとした名所になっている。
「これは俺の想像だが、そのご老人は、どうしてもこぶしの満開の様子が見たかったのだと思う。バスが空いていれば反対側に座っても見られるが、今日みたく観光客でいっぱいなら、立って窓の方を見ていなければ見る事が出来ないからな」
 俺の想像を聞いた千反田は
「そう言えばそのご老人は反対側に向かって立っていました」
「もしかしたら、その昔の紡績の女工さんと何か関係があるのかも知れないし、あのこぶしに特別な思い出があるのかも知れない。こぶしはバス停からだとかなり歩くだろう。でもバスからなら簡単に見られる」
「そうでしたか、わたしも毎年見ているのでウッカリ忘れていました。でもあのご老人は、あのこぶしにどの様な思い出があるのでしょうね」
 俺の言葉に千反田が遠い目をした。
「折木さんとわたしなら、さしずめ、あの狂い咲きの枝垂れ櫻ですね」
 千反田は嬉しそうな顔をした。
「今年はコースが例年どおりなので、あそこは通りませんでしたが、恐らく咲いてないでしょうね。昨年はまさに奇跡だったのかも知れません。狂い咲きの桜と折木さんが傘持ちをしてくれたことと言い」
 千反田は思い出に浸っていた。このままでは何か言われるかも知れないと考えて
「ところで、それとは別に何か話があったのだろう?」
 そう言って千反田を現実の世界に引き戻した
「ああ、そうでした。父が『今年は折木くんは来たのかい? 姿が見えないので皆心配していたんだよ。そして、お前との仲はどうなっているのか』と訊かれたのです。ですから、その……」
「その?」
「もう意地悪です! 父にはちゃんと説明しました。ここに来る許可も貰いました」
 そうか、高校を卒業するまで一年を切ったのだと思った。それまでの間どのような事があるのかと思うのだった。そんな事を考えていたら千反田が
「折木さん。今夜は泊まって行っても良いですか? 父の許可も貰っています」
 いきなり、そんな事を言い出した。まさか鉄吾さんの許可とは……。
「お前、泊まるって……」
 正直、今夜この家で二人だけになったら、何も起きないという保証はしない。いや多分出来ないだろう
「ふふふ、嘘です。今夜は最終バスで帰ります。それまでは二人だけです。本当は二人だけになりたかったのです」
 そう言って千反田は俺の懐に飛び込んで来た。抱きしめると千反田の甘い香りに包まれた。その香に迷いそうだった。

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「氷菓」二次創作 「節分の当たりくじ」

 今年の節分は日曜日だ。世間のカレンダーだとそうなっている。神山のあちこの寺社では豆まきを行うそうだ。だが俺は今まで一度もこの行事に参加したことがない。と言うより興味が湧かなかったと言った方が正解だと思う。
 だが今年は様子が違っていた。それは1月の終わりも迫っていたある日だった。放課後の地学講義室で俺は読書に勤しんでいた。この日は朝から天気が良く、お日様が照っていた。その慈はここにも訪れていて、暖房も必要ないぐらい暖かった。実際は神山の冬は寒い。暖かくなるのは4月になってからなのだが、室内でお日様を浴びる事が出来る所はかなり暖かく感じたのだった。だから俺は用も無いのにここに来て読書をしていたのだった。そうしたら頭の上の方から声が聞こえた。
「折木さん。今度の日曜はご用事がありますか?」
 顔を上げると千反田だった。
「今度の日曜というと3日か?」
「はいそうです」
「特に何も無いが……」
「そうですか。ならばわたしの地元の水梨神社にいらっしゃいませんか」
「水梨神社? 何かあるのか」
「3日は節分で神社で豆を撒きます。撒く豆の中に当たりくじが入っていて、当たれば景品が貰えるのです」
「景品かぁ。それも運次第なんだろう」
 正直、余り気が進まなかった.
「お前が豆を撒くなら別だがな」
 軽い冗談のつもりで言ったら
「わたしは撒きませんがお巫女さんの格好をしてお手伝いをします」
 そんなことを言うではないか。正直、千反田の巫女姿ならひと目みて見たかった。いつぞやの伊原の時とは違う。
「おいで願えませんか? 正直、折木さんにわたしの巫女姿を見て貰えるのも最後かも知れません」
 確かに来年は無理だろう。そう思ったら是が非でも見ておきたくなった。
「いや行こう。何時からだ?」
「撒く時間は12時からです」
「お前はその時に手伝うのか?」
「はいそうです」
「手伝いとは何をするんだ?」
「そうですね。豆を撒く片に三宝に載せた豆の入った升を手渡す事と撒いた後の景品の交換です」
 そうか、ならば当たりを手に入れられれば千反田に景品と交換して貰えるのかと思った。
「判った。その時間には必ず行くよ」
 そう約束をした。千反田は喜んで帰って行った。
 家に帰って姉貴に話をしたら
「当日は車で神社まで送って行ってあげるわよ。夜になるけど神社なら迎えに行ってあげる」
 そんなことを言われた。正直助かった。冬の道を自転車で陣出まで行くのは辛いものがあった。雪道を自転車では走りたく無かった。姉貴にどんな考えがあるのかは判らないが素直に従った。

 当日は良い天気で数日前の雪が道々に残っていたが車なら何も問題なかった。
「じゃあ、迎えは6時ごろで良い?」
「ああそれで良いよ。助かる」
 そう言って助手席のドアを閉めると姉貴は静かに車を走らせて去って行った。時計を確認すると11時半を少し回った頃だった。神社の石段を登って境内に入る。生雛祭りの時のように賑わってはいないが、それでも地元の人らしき人が十名以上境内に居た。皆豆まき目当てなのだろう。
 先に参拝をしておく。無信心論者だがやはりこういう時は、神様に色々とお願いをしたくなってしまうのは、日本人だからだろうか。
 社務所の方を見ると数名の赤白の巫女の格好をした女性が働いていた。その中に千反田が居るのかと思い凝視してしまう。そうしたら後ろから声を掛けられた
「折木さんいらしてくれたのですね」
 振り返ると巫女の格好をして千反田が立っていた。白衣(しらぎぬ)に緋袴(ひばかま)姿で髪は後ろで水引で結ってあり、どこをどう見ても完璧な巫女姿だった。伊原とは違い髪は本物だ。
「おう……」
 正直少しの間、見とれてしまった。
「よ良く似合う。さまになってる」
 俺の言葉をどう受け取ったのか千反田は
「そう言って戴けて誘った甲斐がありました」
 そう言って嬉しそうだった。正月の着物姿は、もしかしたら毎年拝めるかも知れないが、恐らく巫女の姿はこれが最後かも知れなかった。そう思うと来て良かったと思った。
「もうすぐ豆まきの時間ですから頑張って当たりくじを取ってくださいね」
 千反田はそんなことを言って社務所に消えて行った。やがて時間となった。境内はどこから湧いたのだろうかと思う程に人で溢れていて、立錐の余地も無いほどだった。その中に何とか紛れ込んだ。
 境内の奥に設えてある一段高くなっている渡り廊下に、数名の豆撒きの歳男や歳女が立ってそれぞれの巫女から升を受け取っていた。千反田もその一人に手渡して、やがて時間となり豆撒きが始まった
「鬼は外! 福は内!」
「鬼は外! 福は内!」
 そう言いながら升に入った豆を撒く。豆は紙のお捻りに入っていて、その中に当たりくじも入っているそうだ。俺も手を出して取ろうとするが、他の人が凄まじく、押されて中々手を出した所に豆が飛んで来ない。
「あ〜」
 とか
「わぁ〜」
 とか歓声が沸き起こるのだが俺はとうとう豆を掴む事は出来なかった。
 豆撒きが終わると今度は社務所で景品の交換が行われる。それを眺めていた。景品は色々あり、自転車からお米10キロまであった。お米は地元のものだろうと思った。
 何せ姉貴が迎えに来るまで何もすることが無いのだ。6時までは未だかなり時間がある。結局景品の交換を最後まで眺めていた。
「それでは当たりくじ全部の景品の交換が終わりましたので、これを持って水梨神社の節分の行事を終わらせて戴きます」
 そんな放送を聞き流していたら、声を掛けられた
「折木さん」
 横を見ると千反田だった。未だ巫女の姿をしている。
「本物の巫女さんはこれから奉納の神楽を舞うのですが、臨時の巫女はこれ迄です。だからこれを特別に折木さんに差し上げます」
 そう言って千反田は俺の手のひらに一つの紙包を置いた。
「これは? まさか当たりくじを抜いていたのか?」
 俺の疑問に千反田は首を振り
「まさか、違いますよ。開いて見てください。わたしから折木さんにだけ特別の当たりくじです」
「開いて見ると、そこには恐らく千反田が筆で書いたであろう文字が黒々と墨で書かれてあった。
「思い切って書きました。受け取って戴けますか?」
 顔を上げると千反田の顔が真っ赤だった。かなりの決意だったのだろう
「ああ、喜んで」
 そう返事をすると千反田は
「嬉しいです!」
 そう言って泣きそうな顔になったので、両腕で力強く抱き締めた。
 午後の日が二人を照らしていた。
 何が書いてあったのか……それは、その後、色々な事がありながらも二人が夫婦になったことで想像して欲しい。俺はこの時ハッキリと意識したのだから……。

                                                  <了>

紹介された彼女は羞恥プレーが大好きだった

 自慢じゃないが今まで女性にモテた事がない。正確に書くと中学生の頃に告白されたことがあるのだが、当時の俺はガキで恋愛のイロハも良く知らずにその告白を本気にしなかった。当然、その子は傷つきそれ以来口も聞いてくれなくなった。その報いでは無いだろうが、それから他の子に告白しても、さっぱりだ。こちらから告白しても
「悪いけど何とも思ってないから」
 と言われる事が殆どだった。この『何とも思っていない』と言うのは一番キツい。「友達で」よりも残酷でつまり「お前なんか人間と思ってないよ」という意味に等しいのだ。
 だから結婚年齢に達しても恋人などはおらず、気ままな独身暮らしだ。それでも今年の誕生日で三十一になる。面倒くさいのでこのまま独り身でも良かろうかと思い始めていた頃のことだった。親友の嫁さんから電話が掛かって来たのだ。正直、数回逢って話をしただけだし、それも親友を通さずにだから少し驚いた。スワ不倫の誘いかと思ったが全く違っていた。
「彬(あきら)くんさあ、結婚する気ある?」
「は、そりゃ当然でしょう。ありますよ」
「実はさ、紹介したい子がいるんだけど、ちょっと変わってるのよね」
「変わってる? 頭が二つあるとか、手が三本とか?」
「まさか。それじゃ奇形じゃない。そんなのなら、とっくにテレビで売れてるよ」
「そうか。じゃ顔が酷いとか」
「顔はコンテストで優勝するような、特別な美人という訳じゃないけど、十人並み以上かな。結構モテたみたいよ」
「へえ~。じゃあ何が変わってるんですか?」
「正直に言うと性癖が変わってるのよね」
「性癖? SとかMとか」
「S,Mで別けるならMかな」
「うん? どういうこと」
「まあ、その辺は逢えば判るから。逢ってみる?」
「歳は?」
「二十九歳にこの前なったばかり」
「三十前にして焦ってるんだな」
「焦ってるというより本当の自分をさらけ出せないので疲れちゃったという感じかな」
 彼女の話では肝心な事を言ってくれないので判らなかったが逢っても損はないだろうと勝手に決めて逢うことにした。日時を打ち合わせて電話を切った。この次の日曜日に親友の家で逢うことなった。

 親友の家は結構な旧家で家もそれなりの構えをしており、小さい頃なぞは沢山ある部屋で隠れん坊をしたものだ。築数十年は経っているので数年おきにあちこち修繕しながら住んでいるのだと言う。建て売り住宅で育った俺には羨ましいぐらい大きな家だった。
 親友は学校の成績も良く国立大から一流の商社に就職した。三流の会社勤めの俺とは正反対だ。おまけに先日電話をくれた嫁さんも結構な美人で明るくて人付き合いも良い。唯一の欠点が胸が無いことぐらいだろうか。尤も親友はそこには興味は無いらしい。昔からバレンタインデーになると女の子から抱えきれないほどのチョコを貰っていたアイツが選んだ嫁さんだから悪いはずが無いのだ。
 しか気になるのはM系統の性癖とは何だろうか? それが気になった。毎晩鞭で叩かないと子作りも儘ならないとは面倒だ。俺は精神的なS気なら多少あるが直接は御免だ。それほどの性癖はない。二十九になるまで結婚出来ず。あるいは相手が現れなかったというのは、かなり変わっているのだと思った。
 実家の近くにある親友の家を訪ねる。門構えは昔と変わっていなかった。懐かしさがこみ上げる。
「おお良く来たな。上がれ」
 親友が上機嫌で出迎えてくれた。後ろには先日の嫁さんも居た。
「この前はどうも。お邪魔しました」
 そう挨拶をして手土産を手渡す
「あら、気にしないでくれれば良かったのに」
 そうは言うが、その言葉は本気にしてはいけない。
「もう来てるわよ。楽しみにしててね」
 果たして楽しみにするような事なのだろうか?
 案内されて沢山ある部屋の何処かに通された。俺は洋間を想像していたのだが何と日本間だった。それも本格的な床の間つきの八畳間だった。「どうぞ」
 嫁さんは俺を床間の前を勧めた。
「俺が床の間ですか」
「当然じゃない。さあ」
 促されて座布団に座る。床の間には何かの日本画の掛け軸が掛かっていた。俺は全く判らないが雪舟を思わせる絵だった。
「すぐ連れて来るからね」
 そう言って嫁さんは消えた。俺は親友に
「なあ、どんな子なんだ」
 そう訪ねると親友は
「俺も良く知らないんだよね。嫁さんが良く知っているんだ」
 そう言って笑っている。こうなったら覚悟を決めるしかないと思った。そんなことを考えていたら奥の襖が開いて嫁さんに連れられて一人の女性が入って来た。そして俺の向かいに座った。
「こちらが山縣彬(やまがたあきら)さん。彬さんこちらが和久井碧(わくいみどり)さん」
 嫁さんがそうお互いを紹介してくれた。
「山縣彬です。宜しくお願いします」
 そう挨拶すると向いの和久井碧と紹介された女性はそっと顔を上げた
「和久井碧です。今日は宜しくお願いします」
 そう挨拶をしてくれた。十人並みと嫁さんは言っていたが冗談じゃない。結構な美人でしかも色白で可愛い。二十九には見えなかった。
『おいおいこれは結構だぞ』
 そうは思ったが同時に嫁さんの言った「性癖」が気になった。これだけの器量良しで今まで貰い手が現れなかったという事はそこに問題があると言う事だ。だから今回は俺がそれを承認出来るか否かという事なのだと考えた。
「山縣さんて背が高いのですね。わたし、背の高い人が好きなんです」
 碧さんはそう言ってニコリとした。その表情も悪くないと思った。
 そうしたら嫁さんと親友が
「じゃあ、残りは二人で話を盛り上げて下さい」
 そう言って嫁さんがコーヒーとケーキのセットを置いて二人で出て行ってしまった。まあ、お見合いには良くあるパターンだから仕方ないが、これでは俺が直接「性癖」を尋ねなければならない。そう考えていたら碧さんが
「あのう、彼女からわたしの事お聞きでしょうか?」
 そう水を向けられたので正直に口にする
「私が聞いたのは何やら『性癖』があるとか無いとかです」
「そうですか、実は……」
 聞いたことをすのまま言った。そうしたら碧さんは信じられない事を行動に移した。
 黒のカーデガンのボタンを一つずつ外すと裾を持って外側に開いたのだ。
 普通ならその下にはブラウスを着ているはずだった。勿論彼女も着ていた。しかし、そのブラウスが問題だった。
 そのブラウスは黒の網目模様でしかも目が粗い。つまり彼女の上半身は丸見えなのだ。といのも彼女はノーブラだからだ。豊かで形の良い乳房がその網目模様を通して丸見えなのだ。
 思わず目が行ってしまう。「性癖」とはこのことだったのか! 俺の視線を感じて碧さんは頬が赤く染まって来ている。明らかに興奮状態にあるのだと判る。しかし本当に素晴らしい乳房だ。これなら人に見せたくなるのも無理は無い等とバカな事を考えていたら
「わたし、こういう趣味があるんです。だから今まで親しくお付き合いさせて戴いた方からも変態扱いされ駄目になってしまったのです。最初は隠していても何れ判ってしまいます。ならば、最初から自分の『性癖』を正直に言った方が良いのではと思ったのです」
 確かに普通の美人だと思っていたら、人前で自分の裸を見せたいという癖があるとは思わないだろう。特に碧さんの外見ではそれを想像させることは難しいと思った。
「碧さんは普段はいつも、そのような格好なんですか?」
 正直、ここが大事だと思った。
「あの勘違いなされるとは思うのですが、わたしは好きな人やお付き合いさせて戴いてる信頼出来る人と一緒にいる時にするのです。それはその方がわたしのみだらな姿を見て興奮してくれたら嬉しいからなんです。わたしも相手の方が興奮してくれれば燃えます」
 そうか,要は「羞恥プレー」をしたいと言う事だと思った。碧さんは自分の恥ずかしい姿を人に身られて燃えるM気がある女性なんだと理解した。ならばこちらも一緒に羞恥プレーを楽しめば良いと考えたのだった。
「あの隣に行っても良いですか。実は碧さんのその豊かな胸を間近で鑑賞したくなりまして」
 こうなったら俺も本心で語ることにした。碧さんは嫌がるかと思ったら
「隣ですか。実は先ほどから山縣さんの視線を感じていまして、遠い向こう側ではなく、もっと近くに来て欲しいと思っていました」
 何と言う僥倖だろうか。早速碧さんの斜め後ろに移動する。この位置からだと碧さんの大きな乳房とその美しい形を堪能出来るからだ。それにしてもピンと上を向いてその存在感を示している乳首の美しさよ。これは男としてはたまらない。正直触りたくなってしまう気持ちが出て来てしまう。
「それにしても本当に美しく豊かな胸ですね。素晴らしいです」
「ありがとうございます。今までの男の方は皆、人目でそんな格好をするなんて等と言われ、怒って帰ってしまう方ばかりでした。山縣さんは違うのですね」
 まあ怒る気持ちも理解出来なくは無いが、俺は根がスケベなのでそっちの方の気持ちが勝ってしまっただけなのだ。
「僕はスケベなだけですよ。それに美人で可愛い碧さんが、そのような格好をされていると言う事実がとても僕を魅了してやりません」
 本音に近い発言だった。もっと正直に言えば触りたい。触ってゆっくりとこの乳房を堪能したかった。まさかそれを碧さんの前で言う訳には行かない。もし将来があるならダイレクトに言う事もあるかとは思うが、果たして碧さんと交際するかどうか今の時限では判らないからだ。
 それにしても碧さんは気持ちが完全に昂揚しているのがハッキリと判る。顔は上気して項から真っ赤だし、上を向いた乳首も益々その存在感を示している。「触れなば落ちなん」という感じにも受ける。
「正直に尋ねます。イヤなら黙っていて下さい。碧さんは僕に見られて興奮なさっています?」
 いつまでもこうやって密室で碧さんの乳房を眺めている訳にも行かない。この先に進まないとならない。どう返事をしてくるか、あるいは黙っているか、見透かされて怒るか。どれかだと思っていたら
「はい、正直に言います。先ほどから体が疼いてしまっています。だからわたしからも山縣さんにお尋ねします」
「はいなんでしょうか?」
「もし、わたしと今後交際するとして、これからも、わたしのこのような趣味にお付き合い願いますか?」
 要するに今後のデートの時に「羞恥プレー」をしてくれるか。と言う事なのだと理解した。
「喜んで! 正直言えば碧さんを僕の好みのいやらしい格好になって貰いたいと思っていました」
「わたしみたいな変態でも良いのですか? 結婚を意識したお付き合いですよ。将来、わたしみたいな変態が妻になっても良いのですか?」
 恐らく、これが碧さんが俺に確かめたかった本音だろう。
「そうですね。夏なら、紐みたいな殆ど隠す場所が無い水着を着て、プールサイドや海岸を一緒に歩いたり、全裸にコートだけを羽織って散歩したり、ノーブラTバッグに少しキツいTシャツにミニスカートだけで街を歩いてみたりしたいです」
 まずは頭に浮かんだ格好を述べてみたら、碧さんはいきなり俺に抱きついて来て
「嬉しいです。そこまで考えてくれていたなんて。それ実は全部一度はやってみたかった事なんです」
「そうですか、ならば趣味が同じなんですね」
 碧さんんは俺に抱きついたままだ。そっと触りたかった胸を手全体覆うように優しく掴む。柔らかくもプリンとした感触が堪らない。こんな感情を抱いたのは何年振りだろうか。
「ああ、とても感じます。正直、わたし我慢出来そうもありません。でもここでは」
 そうだ。ここは親友の家なのだ。ここでこれより先に進んではならない。
「僕、今日はここに車で来ていますから、何処かに行きましょう。そこでたっぷりと続きをしましょう」
 俺の提案に碧さんは嬉しそうに喜びを露わにして
「はい。宜しくお願いします」
 そう言って三つ指を着いたので俺も同じ格好をした。そしてそれが可笑しくて二人で大笑いした。
 碧さんが再び真剣な眼差しで俺を見つめるので、俺は碧さんを抱きしめて柔らかい躰の感触を楽しんでから、その赤い唇に口づけをした。
「これは予約みたいなものです」
「はい、しっかりと受け止めました。それからですが、正直に申し上げますが、恥ずかしながら、わたしアラウンドサーティなのに未だ男の方を知らないのです」
「え、すると処女ですか?」
「はい。気持ち悪いですか? 寸前までは何度か行ったのですが、そこで『変態とは付き合いきれない』と駄目になってしまっていたのです。ですから好きな人と身も心も一緒になるという事は初めてなのです」
 正直、本当に驚いた。俺は処女だとか非処女には全くこだわらないからどうでも良いが、碧さんの性癖は昔の男が仕込んだのだと考えていたからだ。
「昔の彼氏に仕込まれたのでは無いのですか?」
「はい。元々なんです。小さい頃から父と銭湯に良く行きました。母とはあまり入らず。もっぱら父と一緒でした。小さい頃から人に身られると妙な快感を覚えていて、それが成長した感じなんです。だから一人で居る時は、頭の中でい色々なシュチュエーションを考えて楽しんでいたのです」
「あの一人で楽しんでいたと言う事は、一人エッチですか?」
 そう尋ねると碧さんは消え入りそうな声で一言
「はい」
 そう言って俺の胸に顔を埋めてしまった。この時は思わなかったが、碧さんは会話でもこのような攻められると嬉しいそうで、言葉だけでも逝ってしまうらしい。完全なMなんだと理解した。

 その後親友夫婦が入って来て、俺と碧さん二人が上手く行きそうだと判ると祝福してくれた
「良かったね碧! 中々合う人って居ないから上手くやるんだよ」
 嫁さんはそう言ってくれ、親友は
「正直、お前には勿体ないぐらいの美人だから大事にして上手くやれよ」
 そう言ってくれた。二人に礼を言って、庭に止めてあった俺の車に乗る。助手席に座った碧さんに
「走り出したらカーデガンを脱いで上半身をブウス一枚になりましょうよ」
 そう提案する。つまり上半身が丸見えになると言う事だ
「でも。」
「大丈夫ですよ。車の中は暗いから外からは良く見えないんです。でも中から外は良く見えるんです。だから碧さんの美しい姿態も表の連中からは良く見えないんです。でも運転してる僕からは丸見えなんです」
「そうなんですか。新しい事を覚えました。じゃ脱いでみます」
 碧さんはそう言って黒のカーデガンを脱ぎ去った。先ほどは胸しか見えなかったが今度は背中もばっちりと見える、背中も均整が取れて美しかった
「何かスポーツをされていたのですか?」
「はい、学生の頃は器械体操をやってました」
「器械体操ですか。だから均整が取れているのですね」
「でも不純な動機なんです」
 車は街中を抜けて街道に出ていた。この先にシティホテルがあるはずだった。
「不純な動機って?」
「器械体操ってレオタードを着るでしょう。あれって躰の線が露わになるから。それにその頃から結構胸があったので部の仲間からは『ホルスタイン』って呼ばれていました」
 そうかやはりこの人の性癖は極め付きなんだなと思った。
「先ほど胸を触られて、凄く感じました。好きな人に触られるってこんなにも感じるものだと思いました」
 そう言って碧さんは網目のブラウスの上から自分で乳房をもみし抱いている
「そんな嫌らしい事をしても外からは見えませんからね。大胆にもなりますよね。今度は一糸纏わぬ姿になってみますか。そうやって高速を走るプレーもあるそうですよ」
 これは某AVで見たやつだった。それを聴いた碧さんの目が輝いたのは言う間でもない。
 車はホテルに入って行った。この後俺と碧さんは結ばれた。セックスの相性もバッチリで結婚の約束をしたのだった。

 誰だ! 「破れ鍋に綴じ蓋」だと笑ってる奴は……。
               
   
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